小説「ラトックの苦悩」

日曜日の開発室。高山は机の上でオシロスコープを睨んでいた。
先週サポートの神崎から頼まれていたことを調べなければいけない。
「なるほど、ココの電圧の振れで焼けることがあるわけか。」
少々手間取ったが休み中に原因が分かったことで本業の作業に
影響が出ないで済むことにほっとし、神崎へのレポートをメールで
入れ、上がることにした。
「今からなら夕飯に間に合うな」
妻に電話を入れ、家路を急いだ。

月曜日。神崎から感謝のメールが来ていた。これからメーカに
連絡して善後策を協議するとの事。原因が分かれば後は彼の仕事だ。
目下の仕事であるチップのレビューに戻り、このことはすぐに
忘れてしまっていた。

「高山さん、4番にサポートの神崎さんです。」
「はい、高山です。」
「お疲れです。先週見てもらった件なんですが」
「メーカと話が付きましたか?」
「いやそれが拗れて来てまして。ウチの問題じゃないとか」
「え?じゃあ、違う原因が?」
「いえ、あのデータは送ったんです。で、最初はスムーズに
話が通っていたんですけど、途中でなんとかマネージャとか
言う人が出てきて本社は問題が無いと言っているとか何とか」
「はあ。」
「つまり技術屋じゃなくて変な政治屋が出てきて認めないって
言い出したんですよ。しかもデータはアメリカに送ってない
ようだし」
「それじゃ確認のしようが無いでしょう?どうするんです?」
「このままじゃウチの責任にされそうで、社長にも報告した
んですが、公表する方向でまとめに入ってるんです。」
「はあ。で、僕はどうしたらいいんです?」
「で、もう一度調べて原因の確認してもらえないですか?」
「いいですけど、それってお互い手間なだけですよ。向こうの
開発の方と話ができればすぐ確認できると思うんですけど。」
「それは分かっているんですけど、まあ、ね、相手がアレだし
勘弁してくださいよ。ウチの部長からオタクの課へ話し通して
貰いますから、高山さんの負担にならないようにしますから」
「はあ、そんなもんですか。」
技術畑の高山としてはなんとも非効率な気がしたが世の中は
そんなふうに泥臭いものなのだろう。
少し、神崎に同情を感じた。

※これはフィクションです。実在の団体、人物とは関係ありません。