トップページleaf
469コメント735KB

葉鍵聖戦

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001名無しさんだもんよNGNG
2000年冬、不意に生まれる、もう一つの世界。

葉鍵キャラがオリジナル設定で大暴れしまくりな日記形式のリレー小説だゴルァ(゚д゚)
書き手も読み手もルール守ってマターリ逝こうぜゴルァ(゚д゚)

1 基本的にsageで。
2 どんな人間がどのキャラを書くのも構わないが、それまでの伏線は重視する方向で。
3 あまりに立て続けのカキコは自粛すべし。
4 これはあくまでの2chのスレッドである。当然書き手に否定的な意見もあるだろうが、
  いちいち反応せず、作品で結果を見せる。
5 他の書き手が納得出来ない展開はしない。
6 新規参入者は、過去ログしっかり読むこと。

では、貴方も葉鍵な聖戦の世界へ……


0419九品仏大志@偽りの召還(8)NGNG
 すべては和樹を止められなかった我輩の罪なのかも知れない。
 こういう事態になることは分かっていたはずだったのに。
 しかし今は我輩の命を懸けてでも止めてみせる。
「先導・九品仏大志! 参る!」
 神と人……普通に考えたら馬鹿げている。
 通用するはずがない。だが我輩はもう知っているのかもしれない。
「踊れ! 水よ!」
 すべてのものを自由自在に操れる力、これが我輩の力だった。
「<水竜の舞>!」
 渦巻きのように水が巻き上がって大蛸を激しく天井にぶつけ上げる。
 思った通りの……いや思った以上の力が働いている。
 そうだ。我輩の力ではここまで出来ない!
 ずっと違和感が拭えなかった。そして確信が持てなかった。
 でも、ここにあるもの、すべては……。
「やったー! 強いじゃん、大志君!」
「違う、早く逃げろ! これは我輩の力ではない!」
「え? だって、『たこの神様』はもう……」
「いいから早く逃げるのだ! 奴はもうここまで来ている!」
「へ? やつって?」
「それは――」
「それは私のことですよ」
「やはりか……」
「ええ。そういうことです」
 水瀬秋子に抱かれた大場詠美を見て我輩はやっと確信が持てた。
「すべては、詠美一人の能力だったということだな!?」
0420偽りの召還@エピローグNGNG
 大志君がそう言ったとき、風景が変わった。
 ここは建物の中だった。様子から見ると、多分学校の体育館みたいだった。
「え……?」
 どうしてだろう? さっきまでの現実が途端に希薄になる。
 そうだ。あたしは秋葉原なんかじゃなくて、ここに呼び出されたはずだった。
「我輩もいつの間にか迷い込んでいたみたいだな。すべては大庭詠美の能力のせいだろう」
 大志君は悔しそうに眉をひそめていた。
「そうです。すべての事象を、自分の思い描いた物語りのように動かしてしまう、そんな力です」
「あさひちゃんを探していた我輩も、どうしてか詠美を探しているという錯覚に陥っていた」
「だからと言って、この子の思い描いた虚空間にも現実という認識がいります」
「現実感がないことは、幻の中に引き込めないということだな?」
「ええ。あくまで嘘は嘘ですから……今ごろ、この子が見てるのは悪夢かも知れませんね」
 邪術士に抱かれながらも、詠美はずっと目を閉じていた。見ようによっては、安らかな寝顔だった。
 そうやって、ずっと夢を見ていたのだろう。大切な人が自分を助けに来てくれる日のことを。
 それなのに、現実は過酷でしかなかった。
「おかしいと思ったのだ! クトゥルー神など召還できるわけがない!」
「そりゃそうですよ。居もしない神をどうやって呼び出すというのですか?」
 いや、千年生きたという邪術士が言っても説得力ないんだけど……。
「さて、お話しはこれくらいにしましょうか?」
「…………」
 その言葉を聞いてあたしの背筋は凍った。
「芳賀玲子よ! さっきの我輩の言葉……覚えているな?」
「う、うん」
「だったら、次の瞬間にはそうするのだ! もう後ろを振り向くな!」
「…………で、でも」
「行けーっ!」
 大志君の叫び声が聞こえた瞬間、あたしは走り出していた。
 結局のところ、邪術士にとってあたしは興味のない存在だったのか……。
 大志君の声が聞こえなくなった後も、あたしを追いかけてこようとはしなかった。
 あたしは、ただ泣くことしか出来なかった。
 でも、泣く資格さえないのことに気づいて、何も出来なかった自分に気づいて、あたしはまた大声で泣いていた。
 誰の為にでもない、自分の為に……。
0421雛山理緒 〜いつでも私は被害者〜NGNG
「宮田さ〜ん。検診の時間ですよ」
 私は引き戸を開け、ベッドの上にいる宮田さんに声を掛けた。
「……あれ?」
 なぜか、ベッドはもぬけの空だった。意識を取り戻し、トイレにでも行ったのだろうか?
 いずれにせよ、ベッドメイキングをしなくてはならない。私はベッドに向かって――
「――動くな」
「ひっ!?」
 急な脅しに、私は背筋を凍らせる。
「騒げば、酷い目に遭わせる事になる。まあ女人にとってロクでもない事だ」
「は、ははははぃい……」
 相手の顔は見えないが、声にすごく迫力がある。とても逆らえる雰囲気では無い。
「質問に答えてもらいたい。まず、ここは何処だ?」
「ほっ、保科さん達が世界の敵と戦う為の隠れ家ですぅ……」
「ほう……世界の敵? そいつは何者だ」
「み、水瀬秋子さんとかいう……」
「秋子だと!?」
「ヒィッ!?」
 私は、急に声を荒げた暴漢に身をちぢこませた。
「邪術士・秋子の事か! 奴は封印されたはずでは無いのか!」
「い、いえ、知りませんよう」
「そうか……時に、今はどの血筋の天皇が世を治めている?」
「し、知りません……」
「知らぬ? そうか、学の無い娘なのだな……」
 何やら勝手に納得している。
「最後に一つ訊く。翼人の噂を聞かなかったか?」
「か、神奈とかいう娘の事ですか……?」
「……有り体に話してもらおう」
 男の声音が変わる。私は、ごくりと生唾を呑み込み、
「た、確かもの……なんとかの丘に……」
「物の怪の丘か?」
「そ、そんな名前だった気もします……」
「そうか、感謝する。では、良い夢を見てくれ」
「え?」
 すとん。
 首筋を打たれ、私は問答無用で気絶していた。
 最後の瞬間――男の顔をちらりと見た。
 それは、宮田さんの顔だった――
0422天野美汐 (1/3)NGNG
暗い闇…有意識と無意識の狭間で、わたしはそれと闘っていた。
闇は別に攻撃を仕掛けてこない。ただ此方にまとわりついて来ようとする。
押しつぶされそうな恐怖を振り払い、何度も攻撃を繰り返すも、まるで煙を相手にしているような手応えの無さ。
切りのない、終わりのない闘い。相手を消滅させたのか、それとも退けただけなのか…
それすらも分からないまま、闇雲に周りに群れる闇へと攻撃を繰り返していた。

どの位経ったのだろうか。不意に辺りの雰囲気が変わる。
漂い続けていた不快感が和らぎ、同時に辺りが明るくなり始めた。
突然上から光が降りてきた。光は闇を切り裂くように一層強く輝く。
そして闇が姿を消すと、光が形を帯び始めた。
人の形…羽の生えた、髪の長い人間へとそれは姿を変える。
…神奈……
何の情報もなかったがわたしは確信した。あれこそ神人、神奈であると…
神奈がゆっくり降りてきた。四対の純白の羽は大きく広げられ、強烈な光を発している。
後光りに包まれた、その美しい容姿。幻想的な光景に、私は暫し見とれてしまった。
ある場所では天使であり、ある場所では神そのものと言い伝えられたであろう、神人。
そして神奈は、羽ばたきもせず静かにわたしの前に降り立った。身長だけならわたしとさほど変わらない。
姿形こそ少女にしか過ぎないが、感じ取れる力は想像を絶した。…こんなものを身体に入れていたのか。
羽から発する光が落ち、たたまれる。彼女はゆっくりと顔を上げ…そしてわたしに話しかけてきた。
0423天野美汐 (2/3)NGNG
「済まぬ、遅れてしもうた。一足遅かったようだの…」
─遅れた?何を言っているの?
「…おお、挨拶を忘れていたな。余は神奈備命、神奈と申す者。おぬしは…美汐であろう。もう一人の」
─いや、それは分かっているが、何故わたしが本物でない事を知っている?
「余が気付いたとき、真のおぬしがおぬしを誑かしている最中であった。急いで伝えに行こうと思ったが」
「どうにも負が邪魔しおっての。結局遅れてしもうた」
「…ふむ。何とも合点がいかん、という顔をしておるな。うむ、まず坐るがよい。このままでは落ち着いて話せぬ」
神奈に促されて、その場に座った。続けて神奈もどっかと胡座をかいて坐る。
「何を呆れ顔で見ておる?まあよい。おぬしが本当のおぬしでないことは分かっておろうな」
頷くわたし。
「負に心を犯されたとき生まれたのが今のおぬしだ。尤も今の余も同じ立場であるが…」
─ではわたしの前にいる貴方も本物ではないということか。本物は…恐らく本当のわたしと同じ状態…
「その通りだ。今から一千年前、真の余は九尾と戦いて呪詛を受けた。その時大部分の記憶を受け継ぎ」
「余は生まれた。しかし余の身体は真の余でしか動かせぬ。真の余は呪詛に完全に囚われ、凍り付いてしまった」
「…余は千年の間、虚空に居続けるしかなかった。千年の間、負に囚われた真の余の陰から、外を垣間見る事しか出来なんだ…」
─つまり新しい人格が生まれても、必ず身体のコントロールが出来るわけではないのね。
─ん、わたしの場合とは少し違う…
「おぬしの場合は、ここのおぬしが身体を動かしていたらしいな。そして、今の真のおぬしは負に囚われている」
─ではあの”わたし”は本物だったのか…だけど負に犯されて…
「けれど真のおぬしは、完全には負に囚われてはおらぬようだ」
─?ということは?
「負のせいで、真のおぬしは正しい判断が付けられなくなっておるだけだ」
─…ウイルスによる症状…か。要はまとじゃないってことね。今のわたしは。
「まあそういうことだ」
─?どうしてウイルスなんて単語を…以前にコントロールとも言ったけど、何故理解しているの?
「千年も生きていれば、それなりに知識が入り込むのでな。まあこれより先、余を生き字引と呼ぶがよい」
0424天野美汐 (3/3)NGNG

─……取り敢えず今の状況は理解できたけど、これからどうしよう?
「そうだな。今の真のおぬしでは、余の力は使えぬだろう。まともでないまま九尾の元へ向かっても…」
「いや、向かうかどうかすら分からぬ。何も分からぬまま戦い、大怪我を負ったらと一大事だ。余が死ぬることはないが」
「おぬしは死んでしまう。それでは不憫ゆえ、余が真のお主をしばらく封じておいてやろう。その間におぬしが九尾の元へ向かい」
「余の力を以て九尾を封殺するがよい。急がぬと、真のおぬしが何をするか分からぬぞ」
─ならゆっくり話す暇なんて無かったのでは…それはともかく、親切にどうも有り難う、神奈。
「……会うて幾ばくも無しに、余を呼び捨てるとは不躾な…」
「…ふ…遙か昔にも、この様なやりとりがあったな…」
「…九尾は我が大切な者の眷属。しかし今の真の余では手加減など出来ぬであろう」
「この時が来るのを永く思い悩んでいたが、遂に来るべき時が来たようだ…」
─…神奈…
「辛気くさい顔をするな。余も善神人の端くれ。ここまで強大になった負を見過ごすわけにはいかぬ」
「それに…おぬしと九尾の間柄、余にとっては他人事ではあらぬゆえ」
─?わたしと九尾は単なる敵同士の筈だけど。
「…知らぬか…ならばよい」
「良いか、一つだけ言っておく。負は絶対悪などではない。負もまた、ある意味善なのだ」
─光は闇が在ってこそ、文明の発達は負によるもの…と言いたいわけね。
「まあそういうことだ。それに、負を根絶することなど出来ぬ。この世に知恵の根元たる”記憶”がある限りな」
─分かっているよ。……では本当のわたしと、再び対面といくか。
「さて、行くぞ」
わたしと神奈は同時に立ち上がる。そして神奈が歩き出し、わたしはその後に付いていった…
0425名無しさんだよもんNGNG
きゃあはははははーっ。召還って字が間違ってるよ。
○召喚 ×召還
鬱だよ……。
0426椎名繭@伏龍の憂鬱(1/6)NGNG
 私たちはやっとの想いでものみの丘に辿り着いていた。
 ここまで来るのに色々な事があったけど、今はそれを懐かしむ余裕すらない。
 ここでは気配を完全に希薄にして、私たちの存在を相手に知られないようにしていた。
 そのため里村さんや澪とは一切の連絡が取れなくなるけど、川名さんと出会えたのは幸運だった。
 川名さんなら、澪や里村さんのいる場所を的確に探索できる。と、思っていたんだけど……。
「うーん、やっぱり駄目みたい」
「そうですか……」
 川名さんは視力が回復したせいか、どうも心眼の調子が良くないようだ。
 それと、このものみの丘の異様なまでの瘴気にも原因があるかもしれないけど。
「でも、それは喜ぶべきことだと思いますよ」
「……ごめんね、ふたりとも」
「……怒るよ?」
 川名さんの落ち込みように七瀬さんが優しく諭す。
 まあ、悪くないよね、こういうのも。
「……繭もこういう状況でよく笑えるわね」
「あれ? 笑ってましたか、私?」
「ええ、口を大きく空けてだらしなくね」
「や……やめてくらはいよ……」
 七瀬さんが私の口を手でこじ開けるので呂律が回らない。
 意地悪ですね、ほんとうに。
「それは、そうと……繭ちゃん、あのことなんだけど?」
「はい?」
「えーと、何だか悪い予感がするんだ……」
 私も七瀬さんも、川名さんのその表情に悪ふざけを中断する。
「邪術士$瀬秋子のことですね……」
「うん。その邪術士って人と初音っていう子の戦いを途中まで見てたんだけど……圧倒的だった。
 ヨークって言う船みたいなものが空に浮かんで、雷のようなプラズマが発生したんだけど、
 それすら意に介さずに、そのヨークって言うのを粉々に破壊してた。
 強いよ、あのひと。私たちだけじゃあ、絶対に勝てないよ」
 邪術士・水瀬秋子……多分、この物語を語る上でKEYポイントになる人物……。
「そうですね、話しましょうか……水瀬秋子という人のことを……」
 私は、暫し瞑目してから言葉をつむいだ。
0427椎名繭@伏龍の憂鬱(2/6)NGNG
「私が永遠の世界に行ったことは話しましたね」
 二人とも頷いてくれる。川名さんもすでに知っているみたいだった。
「そこに行った目的は……あることを確かめるためと調べるためだったんです」
「確かめるって言うのは折原がいるかどうかよね?」
「それじゃあ調べるって言うのは何なのかな?」
「記憶の世界……私は前に仮初の永遠のことをそう言いました」
「ええ」
「うーんと、それは初耳だけど続けてくれるかな?」
 はい、と私は頷いて話を続けた。
「初めは永遠≠ニいうものの存在について、先の時代にもその前例がないかどうかを調べていました。
 それは……残念ながら、見つからなかったですけど、色んな時代の色々な背景を見てきました。
 誰もが望んで、誰もが手に入れられなかった永遠の物語を……」
 永遠の世界に保存されていたのは膨大な数の記憶。
星の記憶≠持つというのが翼人なら、永遠に記憶を反芻させるのは……。
「時代の影に少女≠り――
 その姿は千差万別でした。自分がもっとも求めている人の姿を宿してくれます。
 でも、その少女……いえ彼女のことを、私はこう呼ぶことにしました。
永遠の少女≠ンずか……と」
「へ? 瑞佳? 瑞佳って……」
「もしかして長森さんのことなのかな?」
「それについては、今は何も言えることはありません。話を本題に戻しましょう」
 余計なことを喋ったと私は頭を掻いた。
0428椎名繭@伏龍の憂鬱(3/6)NGNG
「その永遠を求めていた人の中に、この名前があったんです」
法術士$瀬秋子。そう、邪術士となる前の彼女のことだった。
「彼女が法術と言う体系を生み出したのも永遠を求めていたからでした」
 その者は限りない才能≠ノ恵まれてこの地に生を受けた。
 でも、どこから来て、何を目指して、高野に寺院を建てたのかは誰も知らなかった。
 しかし、その容貌と、慈悲深い彼女の性格に誰もが慕い、羨んでいた。
 曰く、どんな万病からも救ってくれる。
 曰く、どんな災害からも救ってくれる。
 曰く……。
「彼女は悪鬼と成り果てた……」
「……え?」
 いきなりの話の飛びように呆気に取られる七瀬さん。
 川名さんもぼーっと……じゃなくて、きょとんとしている。
「話の筋を分かり易くするために、少し時代考証について話させていただきますね。
 方術宗家の水瀬秋子さん、その後の時代に八百比丘尼さんの登場です。
 その時代にはエルクゥと呼ばれる異邦人の来襲もありました。
 これについてはあまり触れませんが、武家の次郎衛門さんと高野の柳也さんが
 手を組んでの決闘があったみたいです。つまり、これがエルクゥと高野の因縁ですね。
 時代の背景で、実際の史実には出てきませんが、これらの事件には全て高野が絡んでました。
 分かり易く言うと、これが今の戦いの発端です」
「えーと、九尾はどうなったのかな……?」
「……すみません。話を端折り過ぎました。九尾との戦い八百比丘尼が水瀬秋子を
 封じてからですので、今語ることではないですし、だからと言って……」
「ちょっと待って!」
「はい? 七瀬さんも質問ですか?」
「もっと『簡単』に『分かり易く』お願いしたいんだけど……」
「? そうしてるつもりですけど?」
 七瀬さんは、どうしてか頭を抱えていた。
 本当にどうしてだろう?
0429椎名繭@伏龍の憂鬱(4/6)NGNG
「私たちが重要なことは一つでしょう? 水瀬秋子を倒せるか否かの一つだけ!
 それ以外はパスするわ! 今は歴史の授業を受けてる場合じゃないでしょう?」
「……ふう、分かりました。七瀬さんにでも&ェかるように説明すればいいんですね?」
「すっごく引っかかる言い方だけど、まあ間接にお願いね」
「はい、つまり水瀬秋子は今まで本気を出さなかったではなく、本気を出せなかったのではないかと
 私は推論したわけです。ゴッドハンドとの戦いや、その後の封印、復活するまでの長い時間、
 それからの回りくどいやり方と、永遠を求めての行動……」
「…………」
「それと一番のポイントはこの街です。水瀬秋子ほどの人物が何故におとなしく主婦などに専念していたか」
「……あの、いいかな、繭ちゃん?」
「はい。構いませんよ」
 挙手する川名さんに私は応える。
「秋子さんって本気出したことないって……それ、本当なの?」
「? そう言ったつもりですが?」
「だって今でも充分強いんだけど……」
 川名さんが微妙に肩を震わせて言った。邪術士の力を間近で見たものなら、そう思えるかもしれない。
 しかし、私も見ているのだ。水瀬秋子が邪術師と言われる所以のほどを……。
「そうです。水瀬秋子に勝てるか否かはそれに掛かってるといっても過言ではありません……。
 水瀬秋子の本当の力……邪眼を開眼させる前に討ち滅ぼすしか方法はないでしょう」
0430椎名繭@伏龍の憂鬱(5/6)NGNG
 邪眼……。それは<サードアイ>のことだった。
 他の宗教を紐解いてみても、三つ目というのは神族クラスに値する。
 シヴァという神を例に上げればピンと来る人もいるだろう。
「でも一つだけ言っておきます。水瀬秋子は人間なんです。この地に降り立った天使や、
 物の怪の類の九尾とは違います。本当に人間なんです! ただ圧倒的に強い、ただそれだけなんです!」
「……繭ちゃん」
「本当に……そんな奴に勝てるの?」
「それは……勝てます。私が保証しますよ」
 私は嘘をついた。ただの憶測でしかない。でも参謀役として私が弱気になっては駄目なのだ。
 だけど、二人ともそんな私の嘘なんて見破っているのかも知れない。
 二人ともしっかり頷いてくれるから。私は表向きには冷静を装って話し続けた。
「水瀬秋子は本気を出せません。どうして彼女が千年間もおとなしくしていたのかは、
 そこに理由があるはずです。つまり彼女にとっても千年という歳月は長すぎたんでしょう。
 体の崩壊が始まっているはずです。本気を出したら、その反動で崩れてしまうほど弱っているはずです。
 これは危険な賭けになると思います。彼女が永遠を求めているのは、これしか考えられません。
 永遠の命……そんな幻想を彼女は追い求めてるんです!」
 私は断言していた。いささか興奮していたのかも知れない。
 だけど、これ以外には考えれらないのも、また事実で……。
「どうして……秋子さんはそんなものを求めてるんだろうね?」
「…………!」
「あのね、みさきさん。それは今、繭が言ったような……」
「うん、それは分かってるんだけど……どうしてかな?」
 川名さんは、自分でも分からないよ、と漏らした。
 その言葉に何故か……私は動揺していた。
0431椎名繭@伏龍の憂鬱(6/6)NGNG
「彼女は悪鬼と成り果てた……」
 どうしてそうなったのか私には分からなかった。
 そこだけ霧が掛かったように見えなかった。
 もしかしたら、私は何かを見落としているのかもしれない。
「そこが私も引っかかってるんだよ」
 川名さんはポツリと呟く。
「でもさ、実際に水瀬秋子は私たちにとって脅威なんだよ」
 永遠……。そう、彼女は永遠を求めていた。
 でも、だったら、どうして……。
「だよね。私の考えすぎなのかな?」
 彼女は今まで、何の行動も動かさなかったんだろう?
 浩平さんというファクターがなかったら、どうするつもりだったんだろう?
 分からない……。
「ちょっと夜風にでも浴びてくるよ」
 川名さんはそう言って出かけようとする。
「なに言ってんのよ!? ここは敵地のど真ん中なのよ。散歩なんて出来はしないわよ!」
「あはは、ちょっと留美ちゃん……」
 こそこそ、と川名さんが七瀬さんに耳打ちする。
「あっ、ごめん……そういうことか」
 七瀬さんは頬を染めて、頷いていた。
「じゃあ、行って来るね」
「早く戻ってきなさいよ」
 二人のそんなやり取りにも気づかないまま私は考え込んでいた。
 それを後に私は後悔する。
 しかし、今は水瀬秋子の娘である名雪のことを考えていた。
 彼女の存在が不自然に思えてならなかった。
 もしかしたら、彼女は……。
「あの、七瀬さん……」
「なに?」
「名雪さんって……本当に水瀬秋子の子供なんでしょうか……?」
0432柏木耕一NGNG
 俺と楓ちゃんは、ものみの丘まで出向いて来ていた。
 あの大阪弁の女の子、保科さんと言ったかな。
 彼女には感謝せねばなるまい。
 今まで彼女らを無下に扱っていた俺達を置いて看病してくれたしな。
 気になるのは祐介君の容体だが・・・俺達の闘いを止められる程なのだから、大丈夫だろう。
 そうそう、千鶴姉さんと梓には天野のところへ行ってもらっている。
 事前に楓ちゃんから話しは聞いているから、それを説得のネタに使って欲しいんだが・・・
 それより前にあの二人が暴走しないか心配だ。
 そう考えているうちに、俺達は沢渡真琴のところへ通された。
「・・・来たか」
 俺達より先に、真琴が口を開く。
「鬼達が今更何の用だ?」
 その一言一言が重い。
 その場に居るだけなのに、殺気も闘気も感じないのに凄まじい威圧感がある。
 これが完全復活した沢渡真琴なのか・・・
 だけど楓ちゃんはそれを苦にした風も無く
「沢渡さん。これを見て下さい」
 言うが早いか、楓ちゃんの頭髪の色が突然黄金色へと変化した。
 目にも美しかった黒髪と黒瞳が、鮮やかな輝きを見せる黄金色へと変わってしまったのだ。
「これは元々貴方の力。1000年前に貴方から分け隔てられた、妖狐の力です。
 貴方はこの1000年の間、力を封じられ人間として転生を続けてきました。
 その間封印された貴方の力は、ここものみの丘に留まって貴方を見守り続けて来たのです。
 そして・・・おそらく貴方は覚えていないでしょうが、同じ時代に転生を続けて貴方の側に居た方が居ました。
 貴方の力と同じように、貴方を見守り続けて来たのです。
0433ものみの丘の記憶(前編・Case 沢渡真琴 1/2)NGNG
 ――ばたんっ
 いつも通り、突然襖が開けられる。
「よぉ真琴。やっぱりここに居たか」
「また何か読んでるのか? お前それ好きだな」
「なぁ真琴、今日はお前と遊びに行こうと思って誘いに来たんだが・・・」
「はぁ・・・あいかわらず気付いてないのな」
すぅっ、と息を貯め・・・
「まことぉっ!」
「わぁっ! 何っ!? って、わっ! 祐一っ!」
「お前なぁ、驚くなら一度に驚けよ」
 祐一がわざとらしく大きなため息をつく。
「あぅーっ、何よぅ。驚かす方が悪いのよぅ」
「ところでな真琴、今日は物見に出ようと思うんだが、一緒に行かないか?」
「話そらしてる・・・って、物見?」
 にやり、と祐一は不敵な笑みを浮かべてみせる。
「いまだ妖狐の伝説が残る恐怖の地・・・『物の怪の丘』だ」
 どうやら、それで真琴を怯えさせようっていう魂胆みたい。
 丘まで真琴を連れていって怖がらせて、それをネタに数日は真琴で遊ぼうというちゃちな計画。
「物の怪の・・・丘?」
 だけど真琴は、知らないはずのその名に何故かひかれた。
 何か懐かしい雰囲気を帯びたその名前に。
「何だ、怖がらないのか?」
 心底残念そうに祐一が呟く。
「行きたい。ねぇ祐一、そこ連れてって」
 今度は祐一が驚く番だった。
0434ものみの丘の記憶(前編・Case 沢渡真琴 2/2)NGNG
「寒い。やっぱりやめる」
「まだ3歩しか歩いてないわよぅっ」
 所々に雪が残る厳冬のこの街では、足袋の上から草鞋を履いても冷たさは拭えなかった。
「だってなぁ、真琴が怖がらないんじゃ行っても面白くないだろう」
 真面目な顔で超不真面目な台詞を吐く。
「いいの、真琴が行きたいんだから。ほら早くっ」
 祐一を背中から押して、無理矢理歩かせる。
「はいはい、分かったよ。真琴姫は我侭だからな・・・」
 それでも祐一はやっぱり気が乗らないのか、ゆっくりと歩を進める。
「おーそーいーっ、そんなに遅いと祐一置いてっちゃうわよっ」
「・・・場所知らないのにそんなわけ無いだろ・・・」
 そんないつものやりとりをしながらも、物の怪の丘は徐々に近づいてきていた。
0435ものみの丘の記憶(中編・Case 相沢祐一 1/2)NGNG
「ほら、ここが入り口だ。」
 木々に囲まれたわずかな隙間。
 人一人がやっと通れる程度の大きさ。
 丁寧にも『此処より物の怪の丘。何人も立ち入るべからず』と書かれた立て札がある。
 普通の人間ならまず入ろうとは思わないこの穴に、真琴はすぐさま身体を滑り込ませた。
「おい、真琴っ」
 驚いた俺は一瞬躊躇した後、真琴を追いかけて物の怪の丘へ足を踏み入れた。
 何も言わずに奥へと進んでいく真琴を追いかけて、俺も先へ進む。
 その途中・・・左右からガサガサ音がした。
 俺と真琴が進むスピードにあわせるように、左右の音も移動している。
 俺はその音の正体を盗み見た。
「何だ・・・? 狐?」
 隣で一緒に進む狐を気にしながら、真琴の後を追い掛ける。
 しばらく進むと、唐突に視界が開けた。
「ここは・・・」
 山間の、森が開けて出来た草原。
 そこだけ木々が刈り取られたように無くなっていて、下方に町々が見渡せる。
 その草原の真ん中に、一人の女性が立っていた。
 真琴じゃない。
 真琴は草原の入り口でぼけっと突っ立っていた。
 僅かに微笑んでいるような表情のその女性が、口を開いた。
「真琴様。お久し振りですね」
 は? 真琴様? お久し振り?
 何を言ってるんだ、この人は・・・
0436ものみの丘の記憶(中編・Case 相沢祐一 2/2)NGNG
「誰?」
 真琴が本気で分からない、という顔で尋ねる。
 というか真琴、相変わらず俺以外には愛想悪いのな・・・
「ふ・・・記憶が無いというのは本当のようね。いいわ。自己紹介してあげる。
 私は、真琴様の後を継いで妖狐を統べております。立川郁美と申します」
 以後お見知りおきを、と言ってももう会う事はないでしょうけどね、と立川と名乗った女性は笑った。
「真琴様のお力が封印されてから早300年。七瀬も緒方元気にしていますわ。」
 七瀬? 緒方? 誰の事を言ってるんだ・・・
「なぁ、あんた」
 立川さんの瞳が俺を凝視する。
「真琴の知り合いなのか? こいつの事を知ってるのか?」
「・・・只の人間のあなたが呼び捨てとは、真琴様も地におちたものね」
 また訳の分からない事を。
 そもそも俺の質問に答えてないだろう。
 ふっと、立川さんが眼下の街に目をやる。
「・・・もうすぐ、女性が一人ここにやってくるわ。その人に聞いてみればいいんじゃない?」
 おどけているのか蔑んでいるのか。
「それでは私はこれで。真琴様、失礼致します」
 そう言うと、立川さんは草原の中へと消えていった。
 何なんだ、一体・・・

 何がどうなってるのか、俺にはサパーリだぜ・・・
0437ものみの丘の記憶(後編・Case 天野美汐 1/2)NGNG
 今日も空は快晴だ。
 こういう日には、丘へ行きたくなる。
 あの人が居た、あの丘へ・・・
 私はゆっくりと丘へ向かう。
 あの人の事を思い出しながら。
 けれど丘の入り口は、いつもとは違っていた。
 誰かが乱暴に分け入った跡がある。
 ・・・これは?
 不思議に思いながらも、丘への入り口をくぐる。
 いつもの道、あの人へと続く道。
 やがて、森の向こう側に空が見えて・・・視界が開けて・・・
 そこには、一組の男女が居た。
 誰も居ないはずのその丘に。
 男の人が私に気付いて振り返る。
 女の子も、それに続いて振り返る。
 この子は・・・
「ちょっと、悪いんだけどさ」
 男の人が、バツが悪そうに私に声をかける。
「はい」
 いつもの返事。
 誰に話し掛けられても、私はいつもこうだ。
「こいつの事、何か知ってないか?」
 そう言って、女の子を指差す。
 女の子は、私をじっと見つめていた。
0438ものみの丘の記憶(後編・Case 天野美汐 2/2)NGNG
 ・・・この子は、あの人と同じ。
 私は女の子に近づく。
「あなた・・・お名前は?」
「・・・真琴」
「そう、真琴と言うの。良い名前ね」
 私はその子の頭をなでてあげる。
「この子は・・・おそらく、妖狐です」
「なっ!?」
 たぶん意図していなかったであろう私の言葉に、男の人が驚愕の声をあげる。
「それは・・・本当・・・なのか?」
「えぇ、間違いありません」
 この子は、あの人と同じ匂いがするから。
 男の人が信じられない、という表情でかぶりを振る。
「今は、力を失っているようです。詳しくは分かりませんが・・・
 そういえば、自己紹介がまだでしたね」
「あ、あぁ」
「私は天野美汐と言います。天野、とでもお呼び下さい」
「俺は、相沢祐一だ」
 では相沢さんで良いですね、と私は尋ねる。
 構わない、と返事。
 それが、私と真琴が初めて出会った日・・・

 ――沢渡真琴、5回目の転生の時の事であった。
0439柏木耕一NGNG
 それがあの・・・天野さんです」
 楓ちゃんのまっすぐな瞳が真琴を見据える。
「ふん・・・そのようなこと、とうに知っていたわ」
 しかし真琴は悠々と・・・自虐的な笑みを浮かべながら言葉を吐き捨てた。
「私が完全復活を果たしたあの日。ここに残っていた我が力も全て取り終えた。
 残っているのは、お前の中に居るそいつだけだ。
 その時に、転生中の私の記憶も全て取り戻した。
 ・・・・・・それでも私は闘うと決めた」
 真琴の目が、すっと細くなる。
「妖狐の歴史は血塗られた争いの歴史。鬼一族や高野の歴史もそうだろう?
 どのような生き物にも戦闘本能は存在する。戦闘本能が存在する限り、戦闘による快楽もまた存在する・・・
 この地に魅入られた者達全てが、今は己の為に闘っている。己の快楽の為にだ。
 お前達もそうだろう? 私と美汐の仲を取りもちたいというのは、お前達が自己満足したいからだ。違うか?
 私もそうだ。私は美汐と闘いたい。あいつなら、美汐が相手ならおそらく私は全力で闘えるだろう・・・
 これ以上私の邪魔をするならお前達も死ぬ事になるぞ。」
 ゾクリとする、まさに背筋も凍るほどの寒気。
 最強の鬼である俺にこれほどの恐怖を与えられるなんて・・・
0440牧村南 ―3年前の心の傷・part1(1/5)―NGNG
 5月29日の事――
 今朝早くに出かけて、用件を済ませた帰り道の事でした。

「……それ、本当の話ですか?」
 清水さんは運転をしながらも、念を押してきました。
「ええ。昨日私のメールボックスを見たら、メールがあったのですが……。
 発信日は5月16日でした。そこに今話したことが書かれていたのですが」
「それが、玲子さんからのメールだったと……」
「彼女は後悔しているようでした。詠美さんを何で止めなかったのだろうって……。
 なんでもっと危険に気付かなかったのだろうって」
 私は助手席の窓の外を流れる景色を眺めながら、玲子さんから来たメールの文面を思
い出しました。いつもみたいに能天気なものではなく、自分の無力さと人を危険に晒し
てしまった後悔でそのメールは満たされていました。
 この事に気付かなかった私もまた情けないとしか言えません。
 いくら公安の依頼でチベットに赴いていたとは言え、彼女たちに気を配っていなかっ
たのは私の落ち度です。それが悔やまれてなりません。
 そして感じました……結局何もできていないと。
 あの1年前の……悲劇以来、結局……結局、誰も救えていないのだと。
 それを思うと、涙が流れてきました。
「……思い出したのですね……あの事件の事を」
「…………」
 清水さんがそっと声をかけて下さったものの、私は何も答えず、ただじっと下を俯い
たまま泣いていました。
0441牧村南 ―3年前の心の傷・part1(2/5)―NGNG
 今から3年前になるでしょうか――
 当時、私は公安の仕事なんかはしていませんでした。
 『こみっくパーティ』――
 ――略して『こみパ』という同人誌の即売会のスタッフをしていました。

 毎月に東京の港で行われる、創作者たちのお祭――
 そこにはいつもいろんな人がきていました。
 初めて同人誌を売る人から、プロの作家さん――そしてなにより漫画を愛する人達が
集い、みんなが楽しんでいた――それは楽園でした。
 そこには、壁際の大手としていつも競り合っていた詠美さんに由宇さん、一方で地道
に努力していた彩さん、コスプレイヤーの人気者だった玲子さんに瑞希さん、そして、
短期間で急に成長してきた和樹さんと大志さん――。
 みんなそれなりに楽しくやっていました。
 私はそんな皆さんに楽しんでもらおうと必死でした。
 ――そして幸せでした。

 でも、そんなお祭りの終わりは突如やってきたのでした――。

 当時、こみパは全国単位で盛り上がっていた、日本最大の同人誌即売会でした。
 だが、一般のマスコミでは規制されかねないきわどい表現に対して、こみパは寛容な
姿勢をとっていたために、政治家や行政の一部の人達はそんな集まりを疎ましく思って
いたようです。
 そして、こみパで大きなトラブルが起こるのをじっと狙っていた節がありました。
 悲しいことに……それが起こってしまったのです――。
0442牧村南 ―3年前の心の傷・part1(3/5)―NGNG
 その日は雨でした――。
 いつも通りに開場になり、拍手が巻き起こりました。
 お盆の『夏こみ』、しかも3日目ということもあって、人の入りも尋常ではありません。
 そして会場にはお約束の通り、大手の同人誌を狙って、たくさん人がなだれ込んでき
ました。問題こそはありましたが、いつもよく見る風景です。
 毎度のように私は列整理に追い回されていました。
 でも、そんな中皆さんは楽しんでいました。そして表情が輝いていました。

 ――事件は開場から30分程経過した時に発生しました。

「うおおおおおおおおおお!!」
 突然、一人の僧らしき男性が、入場者や出店ブースをなぎ倒しながら会場に乱入して
きたのです。
 目は血走っていて、精神は普通じゃないということは一目見ただけでも明らかでした。
 それまで会場を満たしていた活気は、その闖入者のおかげで突如静まり返りました。

「妖狐はどこだぁぁぁぁぁ!! 出てこい!!」
 その男性は周囲を見回しながら、そう叫んでいました。
 私も含めスタッフの全員がその男性を止めようとしましたが、逆に投げ飛ばされてし
まいました。全く敵わなかったのです。

 その男性は会場内を徹底的に荒らしながら、ターゲット(と言っている)妖狐を血眼
になって探していました。会場にいた参加者らは手が出せず、ただじっと見守ることし
かできませんでした。
 そして、その男性が玲子さんのサークル『チーム一喝』の前で立ち止まり、そこにい
た夢路まゆさんが目に入った時でした――悲劇が起こったのは。

「ぐぉぉぉぉ!! 貴様が妖狐かぁぁぁぁ!!」
 その男性はまゆさんを血走った目で睨み付けて恫喝すると、手にしていた杖を振り上
げました。
 それを……一気にまゆさんの腹部に突き立てたのでした……。
 一瞬の事でした。
0443牧村南 ―3年前の心の傷・part1(4/5)―NGNG
「きゃああああああああ!!」
 会場内には悲鳴が上がりました。
 逃げ惑う人々。飛び交う悲鳴。
 会場は一気に大混乱に陥りました。

 その男性は悠然とまゆさんの腹部に突き立てた杖を抜くと、さらに会場内を荒らしま
わりました。
「妖狐はどこだぁぁぁぁ!!」
 狂った声をあげながら、ただ獲物を探しまわっていました。

「まゆ、しっかりして!!」
 一方、玲子さんは既にぐったりしたまゆさんを抱きかかえながら、必死に呼びかけて
いました。私も必死に応急手当をするものの、まゆさんは絶望的なのは誰の目から見て
も明らかでした。

「きゃあああああ!!」
 会場の違うホールから更に悲鳴があがりました。一体、何がまた……。
「南さん、あなたは早く行って!! こっちの方は大丈夫だから!!」
 玲子さんは真剣な瞳で私を見ました。
「分かりました。救急車はすぐに来ると思いますから……頼みます!!」
 私はその場を離れようと、立ち上がったその時――

 パーン!! パ、パーン!!
 乾いた破裂音が3回ほど会場内に響き渡りました――。

 音のしたホールに入って目に入ったのは――

 床で突っ伏しているその男性と――

 怯えてうずくまっていた瑞希さんと――

 そして――その横で男性に銃を向けていた和樹さんでした――。
0444牧村南 ―3年前の心の傷・part1(5/5)―NGNG
「……結局、その僧侶が瑞希さんを殺そうとしたのを止めようと、和樹さんが銃を発砲
したわけですね」
「はい……。後で聞いた話ですと、その僧侶は高野の僧で、何でも……」
「負の意識に精神がやられてイッてしまった方だと……そういう事ですね」
 清水さんは間髪入れずに、私が話そうとしていた事を口にしました。
「何で分かるんですか……?」
「高野の僧の中にはごく希ではありますが、負の意識に侵されて自我を見失う者がいます。
大抵は即刻仕留めるのですが……。
 なつきの記憶が確かなら、そいつはあまりにも攻撃的すぎて高野から破門になった人間
だと思います。ただ、その凶報を聞きつけた時には高野の僧らも必死に探索していた様だ
ったのですが……いや、罪を棚に上げているようなものの言い方で申し訳ないです」
「いえ、済んでしまったことは仕方ありません。
 それに……私は……何もできなかったのですから……」
 悔しかったです。
 無力です……参加者を危険から守れなかったどころか、一人の参加者の命を落とさせること
になってしまったのですから。
 悔しさが込み上げてきて、涙は更に流れつづけました。
 だが、違った感情が急速に心の底から湧きあがってくるのが感じられました。

「むしろ……腹が立ったのは、その後の国の対応でした……」
 国――この言葉を思い出しただけで、本当に苛立ってきました。声が震えているのが自分
でもよくわかります。

「……和樹さんを……警察は殺人容疑で逮捕したのですね」

 清水さんのその言葉に私は、ただ小さく頷きました。
 未舗装の道を走る車はガタガタと小刻みに相変わらず揺れていました。
0445某一書き手NGNG
こみパの一部の面子の過去を記してみましたが――
>>440にミスがありました。
(下から6行目)誤:1年前 正:3年前 です。
 本当にスマソ……。雨津出汁濃……。
0446スフィー 〜私は間違ってないもん〜NGNG
「何やねん、このゴミ箱は」
「ちょっと覗き込んでごらん」
「…………?」
 智子が、訝しげにゴミ箱(ホントは違うけど)を覗き込む。
「ケンカキック!」
 あたしは、躊躇なく智子の背中を蹴り飛ばした。
「のわっ!?」
 まともに体勢を崩し、ゴミ箱(じゃないけど)に頭を突っ込む智子。
『おわわわわわわ! 吸い込まれる〜〜〜!?』
 足をばたつかせるが、智子はどんどんゴミ箱……型転送装置に吸い込まれてゆく。
「……必ず帰ってくるのよ! ちなみに過去に於いて達成者はゼロ!」
 涙を堪え見送るあたし。
『……って、私はどこに行くんや!!』
「過去の強者たち! あるいは鬼! あるいは電波使い! あるいは魔女!
 そして、極めつけは天使に九尾! そんな顔ぶれが次々と貴女を襲うわ!」
『はなっから話通しとけやぁぁぁぁぁぁ……』
 完全に、智子の姿が消える。
「…………」
 ちょっと早まったかなー、とか思ったりする。
「必ず乗り越えるのよ、智子……」
 天井を見上げキメてみたが、やっぱり不安は消えなかった。
「ま……これくらいできなきゃ秋子は倒せないけどね」
 それは、真実だった。
0447千堂和樹NGNG
俺は、ぞくりとして立ち止まった。
「瑞希……?」
ココロ、とやらが見せてくれる、一人の女の映像。
 大量の妖狐を引き連れ、剣呑な気を発しながら歩いている女。
 ぴっちりとしたジャンプスーツを着込み、仮面で顔を隠している。しかし、その全身に染みついた匂い――雰囲気は、間違いなく瑞希のものだった。
 周囲の景色から見るに、ものみの丘のどこかを進んでいる。
「おい! これはどこの映像だ!?」
『高度はここより数百メートル上方、位置は登山ルートCの中腹よりやや上です』
「予想進路と、どうすれば最短時間で接触できるかを教えてくれ!」
『麓を一直線に目指しています。こちらも一度麓まで下り、登山ルートCを直接登ってゆくのがいいでしょう』
「分かった!」
 俺は、疲労しきった身体に喝を入れて駆けだした。
0448高瀬瑞希NGNG
 先刻――いや、数日前から妙な違和感が消えない。
 私は沢渡様麾下の兵の一人であり、ツインテールでない身ながら彼女の側近たる幸福を得た、忠実な沢渡様の僕(しもべ)。私の幸福はあの方の幸せであり、それ以外には有り得ない。死ぬ事が任務なら、喜んで死ぬ。それが至福――。
 だが、異な感情が心に巣くっている。それは今の自分への疑問という、最も厄介なモノ。
 心の奥底で、見えない何かを求めている。それは、沢渡様の寵愛では無い。
 それよりも心地良く、暖かで、安らぎをくれる人――
「……ちっ!」
 私は、自分への怒りで舌打ちした。沢渡様以上の存在など、それを考えてしまっただけでも腹立たしい。何という不敬。恥ずべき裏切りだ。
 沢渡様の居城とすら言えるこの場所――ものみの丘に唾を吐くわけにいかず、私は苛立たしい感情を抱えたまま進軍を続ける。
『よう、少女。ご機嫌ななめのようじゃないか』
「!?」
 私は、驚愕で足を止めた。どこかから、声が聞こえた。
 軽薄な、しかし強烈な存在感を持つ声。この声は――
「銀狼……か!? 貴様、殉死した筈では――」
『随分と低く評価されてたみたいだなぁ。俺はあの程度じゃ死なないよ。わが可愛い妹も……ね』
「なぜ、生きていながら沢渡様の前に姿を現さなかった! 戦況は激変しているのだぞ!」
『まあ、負ったダメージは浅くなくてね。無様な怪我人が増えても嬉しくないだろうから、今まで場外で休ませてもらってたのさ』
「……ふん。言い訳だけは達者だな。まあいい。理奈も生きているのだろう? 貴様等も保科一派殲滅に協力しろ」
『当然、参加させてもらおう。ただ――』
0449銀狼・緒方英二NGNG
「瑞希ちゃん。君は一つ厄介事を片付けなきゃならんぜ」
『厄介事……だと?』
 俺は口の端をくっくっと歪め、言った。我ながらつまらない演出が好きだな。
「近頃、妙な不快感を感じてはいないか?」
『――!? 貴様、なぜ!』
「他人の心理を操るのが俺たち兄妹唯一のつまらない芸でね。まあ、感情の機微には人一倍敏感って事さ。原因も、目星がついている」
『教えろ! 原因は何だ!』
「言ってもどうせ納得しないさ。それよりも、自分で確かめ、解決するんだな。君の行く手に、それは間もなく立ちふさがる」
『愚弄されるのは好かん。はっきりと教えろ――』
「じゃあな、恋する少女。狐ちゃん達は借りとくぜ」
 俺は、妖狐の群れに暗示をかけた。妖狐達は興奮し、瑞希を追い越してどんどん駆けていく。
『待て、貴様何をした! 今すぐ術を解除しろ――』
 俺はそれを無視し、保科達のアジトへ向かった。
0450千堂和樹NGNG
駆ける事数十分――
 俺は、ついに仮面の少女と相対した。
「……瑞希。瑞希だろう?」
 俺はそう言いながら、歩み寄った。
 様々な感情が噴出してくる。喜び、驚き――だいたいそんな感情。
「なあ、探したんだぜ――おい、聞いてるか?」
 俺は、無反応な瑞希になおも歩み寄る。なぜ、答えてくれないんだ?
「瑞希、疲れてるんだな? よし分かった。休めるトコ知ってるからそこ行こうぜ」
 俺は、瑞希の両肩を掴んだ。
「……触れるな。下郎」
「え?」
「薄汚い人間ごときが、触れるなと言っている!」
 バシン!
「ぐわっ!?」
 俺は信じがたい膂力ではじき飛ばされ、寝転がった。
「私は今、虫の居所が悪い。貴様は保科の一味だろう? 鴉も喰らわん程に凄惨な死体へ変えてくれるわ」
「み、瑞希……」
「気安く名を呼ぶな!」
 瑞希が、怒号と共に右手を一閃させた。目に見えるほど極大の真空波が迫る。
 俺はそれを転がって回避し、反射的にペンを取りだした。空に、巨大な網を描く。
「瑞希、頼むから話を聞いてくれ!」
「耳障りだ!」
 俺が瑞希を取り押さえようと放ったネットは、いとも簡単に焼き尽くされた。
「まずは、その汚らわしい声を二度と出せんようにしてくれる!」
 瑞希が、猛烈な勢いで突進してくる。俺は反応すらできず、硬直した。
 瑞希の細い腕が俺の喉を掴み、一気に身体を持ち上げる。
「ぐ……が……」
「爆!」
 まるで、金属のドアに鉄球がぶつかったかのような大轟音。
 俺は吹き飛んだ。爆心地となった喉は焼けこげ、文字通り灼けつく痛みにのたうち回る。
「……! …………! ……!」
「ふん、もはや呼吸もできまい」
 そんな瑞希の声が、やけに遠く聞こえた――
0451高瀬瑞希NGNG
圧倒的優位に立ちながら、なぜか私は焦っていた。
 早くこの男を殺さなくては――! こいつは、私に害を為す!
(違う! 殺しちゃダメ! 和樹を殺さないで!)
「うるさい、うるさいんだよ!」
 私は真空波を乱打した。それは転げ回る男をデタラメに切り刻み、周囲を赤く染めた。
(確かに沢渡は行き場を失くした貴女――いや、私を救ってくれた。でも、目の前のあの人は!)
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」
 私は咆吼した。ビリビリと空気が震え、激しく揺れる視界に世界が回転する。
(ほら、思い出して! 造られた貴女に温もりをくれたあの人を)
「うぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 私は仮面を剥がし、足下に叩きつけた。木っ端微塵に砕け散ったそれを踏みにじり、烈情のままに叫んだ。
「私は沢渡様のしもべ! それ以外の何者でも無い!!」
 気がつくと、両手に大きな力を充満させていた。これを放てば、あの男を殺せる――!
「死ねぇぇぇ!!」
 狙いなどつける余裕は無かったが、巨大な真空波はまっすぐに男へ向かっていた。
 もう終わりだ! これで何もかも! 死んでしまえ!
 しかし――

 ……ぱぁん。

 真空波が、何の前触れもなく弾け飛ぶ。
 ……そして同時に、私の意識は消えた。
0452高瀬瑞希NGNG
夢を見ていると思った。
 瑞希が俺を殺そうとしている。俺が瑞希に殺される。
 夢としか思えなかった。だから、俺は目の前の光景も夢としか思えなかった。
 カードマスターピーチ。アニメの中のキャラの格好をした女の子が、真空波をかき消したのだ。

『……かずきさん』
 その女の子の顔が見えた瞬間、俺は硬直した。
『瑞希さんと幸せになって下さい……私はそれが一番だと思ったから身を引』

(……あさひちゃん!)
 声にならない声で、俺は絶叫した。
 しかし俺が叫んだ時には、もうあさひちゃんの姿は無かった。
(守ってくれたのか……あさひちゃんが……)
 しかし俺は、すぐに現実へ引き戻された
「……!?」
 瑞希が、頭を抱えて苦しんでいるのに気づいたからだ。
(瑞希ッ!)
 体内の酸素が尽き、足が思うように動かない。だが俺は、必死に這いずった。
「……ぁ……。かずきぃ…………かず……き……」
 瑞希は、うわごとのように俺の名を呼んでいる。
(俺はここにいるぞ! 瑞希、瑞希!)
 俺は、瑞希の身体を掻き抱いた。震えるその身体を、必死に押さえる。
「かずき……かずき……」

「……にゃあ〜。もはやそうなっては使い物になりませんね。千紗悲しいです」

(……!?)
 俺は、突然の声に振り向いた。
0453塚本千紗NGNG
全く計算外でした。
 真琴への瑞希の忠誠は、並では無かったですが……
 ま、こうなった以上処理するしかないですね。残念です。
「死んで下さいです〜。それ〜!」
 乱打。乱打。乱打。めった打ちです。
 和樹とかいう人だろうが瑞希さんだろうがお構いなしです。私は両手両足を赤く染めながら二人をボロゾーキンにしました。
 そうそう。和樹さんが瑞希さんをかばおうとするので、とっても殴り辛かったですよ。
「……う……ぁ……かずきぃ……」
「うるさいです〜」
 呻く瑞希の土手っ腹に、さらにつま先を叩き込んでやりました。
 男の方は死んだのか、完全におとなしくなりました。瑞希は血ヘドを吐いて痙攣してます。可哀相に、きっと内蔵は折れたアバラで無茶苦茶な事になってるですね。
「それじゃ、ここで一緒に土さんの養分になって下さいです。さよならです」
 私はやっと満足し、その場を後にしました。
0454 NGNG
 二人の男女が倒れていた。
 男の方は、まるで女をかばうように覆い被さって倒れていた。女の方は、焦点の合わない目つきで男を見つめている。
 女は、思い出していた。過ぎ去りし日々を。
 そして、男の頭をなぜる。男は死んでいるように見えたが、その行為に反応したように口元に笑みを浮かべた。
 女の目元に、涙が浮かぶ。
 折れた腕で、男を抱きしめる。温もりを失いつつあるその身体に、温度を分けるように。
 風が吹いた。血に濡れていない髪の一房が流れる。
 女が、両手で男の顔を押さえた。その口元に、自分の唇を近づける。

 そっと、唇が触れ合った。

 女の顔が、穏やかな笑みを称えた、至福の表情へと変わる。
 そして、永遠にその表情は動かなくなった。

 誰も、その光景を知らない。
0455名無しさんだもんよNGNG
452は和樹です……スンマセン……
連続スミマセン……
鬱です……
0456長谷部彩 ―the background of their fight(前編−1)―NGNG
ものみの丘の中腹――
 心のすれ違いにより生じた激闘――。
 妖狐らはそんな彼らの心を弄んだ挙げ句に、彼らを処分した――

 ――30分後の事――。

 ……なんで、なんで……。
 何のために……あの人を……和樹さんを貴女に譲ったと思うのですか!!

 私は懸命に山の中腹を目指していました。
 危険な行為だと分かっていました。
 現に妖狐どもが近づいてきました。
 手にしていたイングラムM10で蹴散らしながら、真っ直ぐ中腹を目指していました。
 目に涙を浮かべながら――。

 ――ものみの丘に車が近づいた時、妙な予感がしました。
 車のFMラジオから流れていた、人の話し声。
 ものみの丘に仕掛けられた盗聴機から流れてきた、男女の死闘の様子――。

 それは――瑞希さんと――和樹さんの声――

 ――なんで……なんで……争わなければならないのですか!!

 耳にすると同時に私はリアンさんに車をものみの丘にやるように命じていました。
 今から考えれば、あまりにも愚かしい行為だと思えるのだが――
 それでも――放っておけません――。

 ――でないと……瑞希さんの不幸に終止符が打てないし――
 ……私がここまでやって来た意味がないから――

 やがて、目の前に二人の男女が倒れているのが目には入って来ました。
 私は足の動きを更に早めました――。
0457長谷部彩 ―the background of their fight(前編−2)―NGNG
 ……!!
 私は足を止めました。

 目の前に倒れているジャンプスーツの女性と――
 そんな彼女をかばうようにして倒れている男性――

 私は近くに駆け寄りました。
 しかし、二人の体はぴくりとも動きませんでした。

 まさか――。
 悪い予感がしました――。

 直後、私は和樹さんの手首と瑞希さんの手首を触っていました――

 ――!!

 ……まだ……生きている――。
 二人とも――微かだが脈はあった。
 だが――
 意識は全くなく、何度もゆさぶったり頬を叩いたりしても目を覚ます気配はないです。
 その上、全身の骨が折られている上に、出血も激しい状態です。
 まだ、油断はできないようです――。

 その時でした――。

「にゃあ、お馬鹿さんがやってきたですよ〜」
 頭上から声がしたので見上げると、そこには金色のツインテールの姿が見えました。
 そいつは嘲笑を浮かべながら私の方を見下ろしていました――。
 私は同時に、手にしていたサブマシンガンのトリガーに手をかけましたが――
0458長谷部彩 ―the background of their fight(前編−3)―NGNG
 ――しまった……。
 弾切れでした。
 徹底した準備もせず、衝動的に動いてしまった事に後悔しました。
 もちろん武器の持ち合わせもありません――すべて車の中に置いてきてしまったから――。

「あなたも千紗が殺してあげますですよ〜」
 そのツインテール――千紗という少女は両手に青白い炎を浮かべると、
そのまま放ってきました。
 私は死を――覚悟しました――。

 ――和樹さん、瑞希さん……ごめんなさ……。

「にゃあ、まだいたですか!!」
 千紗が驚いたような声を上げて――私の背後をみていました。

「彩さん、逝くのはまだ早いですよ!!」
 背後からした声に私も思わず振り向いていました。
 そこには――青色の髪の眼鏡をかけた少女――リアンさんが立っていました。

「にゃあ、狐火が消えてしまったですぅ!!」
 千紗の放った炎は私の数メートル手前で消滅してしまいました。目を凝らすと、
何か黄色い幕のようなものが掛かっています。
「バリアを張っておきました。狐火くらいでしたら防げる筈です。
 しかし、魔術の類を一切信じない貴女が、狐火を見ただけで死を覚悟するなんて、
らしくありませね」
「……最後の言葉は余計です……。とにかくここから立ち去りましょう……」
「そうですね」
 私は撤収の提案すると同時に和樹さんの体を肩にかついで走っていました。
リアンさんも瑞希さんの体を担ぎながら後を追ってきます。
「にゃあ!! 逃げるつもりですよ〜!! みんな追っかけてくださいです〜!!」
 千紗の声と共に周囲から妖狐たちがわらわらと集まってきました。
 集団になって私たちを追っかけてきます。

 そして――逃げている内に行き着いたのは――崖でした――。
0459リアン ―the background of their fight(前編−4)―NGNG
 ――くそったれ!!
 俺は目の前の現実――遥か下の方にある崖下の風景に地団太を踏んでいた。
 反対方向には千紗とかいうツインテールと、それに引き連れられた無数の妖狐――。
 しかも、俺も彩も怪我人をしょっているときたものだから、飛行魔法も使えねぇ。
 ……追いつめられちまったか……?

「にゃあ、後ろは崖、前は3000匹の妖狐ですよ〜」
 千紗がニヤニヤしながら俺達に迫ってくる。
 2対3001――勝てる争いじゃねぇ。
 となれば――手段は一つ――。

「彩さん」
 俺は小声で彩の耳元に囁いた。
「……何でしょうか……」
「これを肩にしょって下さい」
 私は腰にぶら提げていた小型のリユックサック状の袋を彩に手渡した。
「……なるほど……分かりました……」
 彩は担いでいた男を一旦下に降ろすと、その袋を背負う。
 俺も「それ」を身に付けると、女の体を再度担ぐ。
「にゃあ……何をしてるですか〜?」
 千紗は俺達が何をしているのか理解できないようだ。
唖然とただ俺達のしていることを見守っている。
「……準備は終わりました……。でも、大丈夫ですか……」
 彩は男の体を担ぎ出した。準備は終わったようだ。
「まあ、一か八かの博打ですけどね」
 俺がそう彩に囁いた所で、千紗が苛立った様子で叫んできた。
「にゃあ!! さっきから何をこそこそしてるですか!! とっととあきらめなさいです!!」

「……おめえは馬鹿か? 誰があきらめるって言ったよ?」
 俺は挑発を浴びせてやった。
「じゃあ、どうするですかぁ?」
 千紗はさらに嫌みな笑みを俺達に向けてくる。

「こうするんだよ」
0460塚本千紗 ―the background of their fight(前編−5)―NGNG
 にゃあ〜!!
 信じられないです〜!!
 あの人達。こうするなんて言って、崖から飛び降りてしまったです〜!!
 本当の馬鹿ですよ〜!!
 千紗、何をしていいか分からなくなってしまったですよ。

「じゃあ、ばいば〜い」
 え……? どいうことですか?
 あの人達の声がするです。
 千紗は思わず崖の下を覗き込んでしまったです。

 にゃあ〜〜〜〜〜〜〜!!
 しまったです〜〜〜〜〜!!

 崖の下の方には黄色と赤の布が広がっていたですよ!!
 パラシュートですぅ〜!!
 千紗、甘すぎたです〜〜〜〜!!

「刑務所の脱獄よりマシだぜ〜!! じゃあね〜」
「……では……さよなら、さよなら……」

 にゃあ、今は亡き淀○×治さんの真似をしてトンズラかましていったですぅ!!
 あの人達、平気で地面に降りてさっさとパラシュートを片づけてるです。
 しかも、最後には私にアカンベーをして手まで振ってたですよ!!
 千紗、悔しいですぅ!!

 千紗は後ろの妖狐たちに向かって叫んだですよ。

 あなたたち、何をしてるですか!!
 とっととおいかけていってくださいです!!
 ああ、崖から飛び降りないでくださいです!! あなたたちも馬鹿ですか!!
 死んじゃったです……本当、馬鹿です!!
 とっとと追っかけてくださいです!!
 早くしてくださいです!!
 にゃあ、どうしたらいいですか〜。お兄さん(また混乱)。
0461リアン ―the background of their fight(前編−6)―NGNG
「……なんとか逃げ切れたのはいいのですが……」
 彩は車の外で不安げにものみの丘を眺めていた。
 妖狐らがざわめいているのだろう。ぐずぐずしていたら追いつかれてしまう。
 俺達は麓に止めていた白のブルーバードに辿り着いくや否や、車内やトランク、
エンジンルームの安全を確かめた。
 何も取られていないな……トランクにつんだ「あれ」もな。

 そして、助手席に女(彩が言うに、こいつは瑞希っていう名前らしい)を乗せて、
その後に運転席に乗り込みエンジンをかける。
 エンスト……なんてことはなく、順調にエンジンの唸りがあがる。
 彩も後部座席に担いでいた男(こいつは和樹っていうらしい)を押し込むと、彼女も
即車に乗り込む。そして、足元においていた彼女の鞄をごそごそまさぐっていた。
「行きますよ」
「……ええ……」
 俺は即、車を発進させた。
 ものみの丘があっという間に遠ざかっていく――と思いきや、さっきの妖狐の群れが
追いかけて来るじゃねぇか。まったく、手間が掛かりやがる……。
「……厄介なことになりましたね……」
 彩は他人事みたいな言葉を吐きながらも、手にはAK−7を手にしていた。
 ――ちゃっかりしてんぜ。
「とにかく、スピードだしますけど、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です……。でも、さっきの脱出にはびっくりしました……。
 ……さすが、脱獄王と言われるだけあります……」
「あなたこそ余計なこと言わないでください」
「……ごめんなさい……」
 彩はそう言いながら、何時の間にか開けた窓から身を乗り出して、狐どもに向けて銃弾
を浴びせていた。俺はそれ以上何も言わず、アクセルを吹かしていた。
0462国崎往人NGNG
(尋常じゃあねえぞあの力は!)
 美汐の力を見て俺は思った。これも神奈の力の影響なのか?
 ズタズタに引き裂かれた妖弧の山が一丁あがりってやつだ。
「んじゃあ、今度は追撃戦と行こうか」
「ん? あ、ああ……」
 返事に一瞬戸惑ったのは美汐の雰囲気のせいだった。
 そこに居るのは確かに美汐の筈なのに……。
(違和感……?)
 それを考える前にあいつは現れた。
「ふん! さすがは天野だな……まあ、それくらいやってもらわないと、俺もやりがいがねえか……」
「……? あんた誰?」
「よく言うぜ。北川潤って名前に覚えがないとは言わせねーぞ!」
「……知らない」
 素で言い返す美汐に、北川と名乗った男は薄ら笑いを浮かべて見せた。
 その間に俺は美凪とみちるに目で合図を送ったおく。
「…………」
 美凪は無言で頷き、みちるは『あっかんべー』で返してくれたが、俺が言いたいことは伝わったはずだろう。
 天野が何を言おうが目の前にいる敵は巨大な妖気に包まれている。
 それも、あの鬼一族の長男・柏木耕一ともタメを張れるくらいにだ。
「まあ、いいや」
 そう歩み寄る北川と名乗るもの。
「天野がここで死ぬのは変わりないんだからな……」
 肩を落として、『やれやれ』と手でゼスチャーを作る。
 その直後に、風が駆け抜けた。
「きゃあ!」
「なに!?」
 信じられなかった。北川は何もしてはいなかった。ただ、抑えていた妖気を開放しただけだったのだから。
 目の前にいるもの、紅いオーラに包まれて、静かに宣言する。
「ハイパーモードってやつさ。明鏡止水の心……何事にも動じない強固な魂……」
 そして、自信に溢れた瞳……。
「沢渡真琴に貰った力だよ」
 1対4のはずだったのに、俺はまったく勝てる気がしなかった。
0463名倉友里NGNG
「ふっ、あそこが奴らの拠点か……」
「そうみたいね……」
 二人の妖弧が薄ら笑いを浮かべてる。銀狼が言うには瑞希は逝ってしまったらしい。
 まあ、私たち姉妹にはどちらでもいいことだった。
 この妖弧の大群が言うことを聞くのは、上位のツインテールだけだったから。
「お姉ちゃん……」
「なに?」
「もうすぐ永遠が手に入るんだね」
「そうよ……」
 私は優しく微笑んだ。そうだ。永遠こそ私たち姉妹の求めるもの。
 だからこそ水瀬秋子に従う。永遠を手に入れるために……。
『…………』
 一匹の白色の妖弧が緒方兄妹の前に跪く。どうやら準備は整ったようだ。
 白色の妖弧は中位の眷属。今までの雑魚とは一味も二味も違う強力な妖弧だった。
 それが五千。今、やつらの拠点を取り囲んでいる。
 銀狼が口を大きく開けて奴らに叱咤した。
「真琴様の復活はなされた! 今こそ我ら一族の時代! それを阻む愚か者をこの地にねじ伏せろ!
 敵はそこにあり――全軍突撃ガンパレード・マーチ! 最後の一匹にになるまで真琴様の為に命を懸けろ!
 敵と闘って死ね! 持っている全ての妖力を駆使しろ! これは聖戦である!」
 銀狼が言い終えると、街中から次々に鬨の声が上がる。
 街中に響く『コーン! コーン!』という狐の雄叫びは異常なまでに耳に付いた。
「突撃!」
 その声が引き金となって妖弧は一挙に動き出す。
「俺たちも行くぞ!」
「分かってるわ!」
 緒方兄妹も狂喜の面(おもて)で、ある一点を目指していく。
 ここから見ても、その光景は圧巻だった。妖弧五千は雪崩の如く突き進む。
「妖弧か……最後には奴らも……」
 そう苦笑を浮かべて、私は由依に告げた。
「私たちも行くわよ」
「うん!」
 私たちの目的は真琴ではなく、秋子からの直接の命令だった。
 すなわち、それ――
「この混乱に乗じての保科智子の暗殺か……意外と簡単に終わりそうだな……」
 私の呟きに、由依は笑顔で頷いていた。
0464月宮あゆNGNG
「ふーん。里村さんって人を探してるんだ?」
『そうなの。でもどこにいるのか分からないの』
 ボクたちは鯛焼きを頬張りながら雪の街を歩いていた。
 在り触れたはずの商店街の様子も、今ではシャッターの閉まった店が陳列するだけだった。
 悲しみさえ沸き起こらない、寂しい光景だった。
「そうなんだ。どうしようか?」
『あのね、早く見つけないと繭ちゃんに怒られるの』
 その繭ちゃんって子が怖いのか、また目に涙を浮かべる。
 うぐぅ、なんだか人事じゃないように思えてきたよ。
「そっか。だったら……」
 そこに『どどどどどどどどーんっ!!』といった轟音が耳を貫いた。
 雪崩だろうか、ものみの丘から白いものが街を突き抜けていく。
「危ないよ」
 ボクは咄嗟に光の翼を開いて、澪ちゃんを抱いて上昇する。
 ほんの僅かな時間の差で、商店街は白く蠢くものに覆い尽くされていた。
「こ、これって!?」
『あれは妖弧なの』
 上空からは地上の様子が手にとるように分かった。
 白い妖弧の一段が街中を物凄い数と勢いで駆け抜けていくところだった。
『なにか変なの』
「え?」
『胸騒ぎがするの』
 澪ちゃんは肩を震わせていた。
 だから、ボクは……。
0465椎名繭(1/2)NGNG
 水瀬名雪……。彼女の存在が希薄に思えてならなかった。
 あの邪術士の娘。そう、それが引っ掛かる……。
 どうしてだろう? こんなにも違和感を感じるなんて……。
 千年生きてきたという水瀬秋子と、その境界線上にあるこの街……。
 物の怪の丘のある、この地に彼女が根を下ろしたのが偶然だったとは考えにくい。
 だったら、あるいは……。
「あの、七瀬さん……」
「なに?」
「名雪さんって……本当に水瀬秋子の子供なんでしょうか……?」
「え、どういう意味?」
「それは……」
 話そうとしたときに川名さんがいないことに気づく。
「あれ? 川名さんはどうしたんですか?」
「ああ、あのね……」
 七瀬さんが私に耳打ちする。なんでも生理現象がどうのこうのって……。
「トイレのことですか? だったら、そう言ってください」
「あのね、乙女はそんなはしたないこと口にはしないものよ。それに……」
 もごもごと口ごもる。
「どうしたんですか?」
「もういいわ。繭はお子様だからいいかもしれないけど……鬱だわ」
 ああ、ここは山の中だから、自分も催したとき、どうしたらいいかってことですか……。
 呑気ですね……。次の瞬間には命を無くしてるかもしれない状況なのに。
 でも、だからこそ、七瀬さんたちといて良かったとも思えます。それって意地悪でしょうか?
 だけど……。
 私はある可能性に思い至って激しい自己嫌悪に陥ってしまった。
0466椎名繭(2/2)NGNG
「探しに行きましょう!」
「え? ど、どうしたの血相変えて?」
「しくじりました」
「だから何が? 何なの? どうなったって言うのよ!?」
「白状します。私の結界は……存在を希薄にして気配を消す能力のことですけど、欠陥があるんです」
「え?」
「せいぜい一人。多くても二人。とてもじゃありませんが三人なんて大人数はカバーできません」
「それって、ここに私たちがいるのがバレバレってこと?」
「半分はそうです。でも、私は細工をして、見つからないように、カモフラージュをしていたつもりでした」
 そうなのだ。だからこそ二人には要らぬ心配を掛けないよう話さなかったのだ。
 その場から動かないこと。限定結界。範囲は狭まるが効力は格段に上がるはずだった。
「でも、それを見破れるほどの人物がいた。一人は川名さん自身の心眼と……」
「もう一つは?」
 私は息を飲んで応えた。
「……水瀬秋子の邪眼です。それしかないでしょう」
「うそ……。だって、みさきさんはトイレに行きたいって出て行っただけなのよ」
「……言ったはずですよ。永遠の存在に気づいているものなら、もうお腹が空くこともないし、
 食事をとる必要もないってことを知っています。もちろん、生理現象だって起こりません」
「じゃあ……」
「川名さんは気づいていました。だから……」
「急ぐわよ、繭!」
「はい」
 私は悔しくて舌打ちしてしまう。
 お願いです川名さん、早まらないでくださいよ……。
0467スフィー 〜滅亡の前哨戦〜NGNG
「さて」
 俺は、後ろ手にポインターを持って、意味ありげにボードの前を往復した。
「大変です。強い妖狐が来ます。しかも五千匹。しかも実は生きていたという緒方兄妹付き。逃げるのは今からでは不可能。さて、迎え撃つしか手は無い」
 バシバシと、ボードを叩く。
「私は、パンピー君達と怪我人の皆様方を護るため結界を張ります。よって、私は戦力外です。以上を踏まえた上で、行動しやすいようにチームを二つに分けます」
 マジックペンで、どんどんボードに名前を書く。
「まず、表に出て侵攻を止めるAチーム。これは乱戦が得意な方がいいですねー。
 聖、サラ、雅史、岡田、佳乃、由宇、真紀子。以上のメンバーという事で。
 ここは、聖。あんたが指揮して」
「あいわかった」
 聖が、繋がったばかりの腕でOKサインを出す。
「そして、二箇所ある出入り口を封鎖するBチーム。電波が決め手だよ?
 祐介、香奈子、瑞穂で正面出口。はるか、なつみで裏口。だけど、窓もあるし、何より建物を破壊される可能性大だから、あまり通路封鎖にこだわらなくてOK。敵の攪乱に専念してね」
 祐介らが頷く。
「いい? 個体数の差をいかに詰めるかがポイントになるよ。こちらの数を減らさず、敵を屠る。これに尽きるはず。そして――」
 俺は、祐介をポインターで差す。
「緒方兄妹には精神操作の術がある。これを無効にできるのは最強の電波使いの祐介のみ。
 奴等が出てきたら、何としてもアンタが叩く。いいね」
「……うん。わかった」
「よぉし。じゃあ、全員用意しな!」
0468スフィー 〜滅亡の前哨戦〜NGNG
(……問題は)
 俺は、封印結界の魔法を行使するための呪文をそらんじながら考えていた。
(二匹のネズミだ。あのおちこぼれの不可視ヤローども。智子は手が出せないし、どうするか……あのゴミ箱を壊されれば終わりだしな)
 印を切る。
(待てよ……そうか。なら、奴等も……智子がいる異次元空間に送りこんじゃえ。それなら智子も戦える)
 最後の集中。魔力を周囲に散りばめ、結界を形作る柱を生み出す。
(……けっこう乱暴な手だけど、さしもの俺もこの魔法を維持してる間は手が出せないしな。智子なら、何とか片付けてくれるはず)
外から、鬨の声が聞こえる。始まったようだ……
「絶対不可侵領域、形成!」
 俺は、魔力を床に叩きつけた。
 音も無く波紋が広がり、薄い膜のような力場が柱を基点に張られる。
「さてと……」
 俺は、縮んだ身体からずり落ちる服を押さえ、座り込んだ。
「頼むぜ、皆さん方」
0469リアン ―the background of fight(中編−1)―NGNG
「……なんとか……追手を巻いたみたいですね……」
 彩が背後をうかがいながらほっと胸をなで下ろしていた。
「でも、まだ油断はできません、くっ!!」
 俺は咄嗟に急ブレーキを踏んだ。

 キィィィィ!!

 車輪が悲鳴を上げていた。
 スピードは多少落ちるものの、路面が凍結しているために車はやや斜めになったまま、
なおも進み――ていうか滑りつづけていた。
「くそったれ!!」
 俺は下手にハンドルを動かさずに、ブレーキを懸命に踏みつづけていた。

 キィィィ……。

 やがて……悲鳴を落としながら……車は止まった……。
 運よく――俺にブレーキを踏ませた原因のほんのわずかな手前で止まった。

「……何があったのですか……!?」
 急ブレーキの衝撃で彩が額に手を当てながら、俺の方を睨み付けてくる。
 声にもわずかながら怒気が含まれていた。
 どうやら、前の座席に頭をぶつけてしまったらしい。
 そんな彩の膝の上には和樹が倒れ込んでいた。
 瑞希も危うくダッシュボードに頭をぶつけそうになったものの、シートベルトを付けてい
たために、損傷は免れたといった様子だ。
 そーいや、怪我人がいたことをすっかり失念しちまってたな……。だが……。

「あれを見て下さい」
 俺は目の前の「原因」――二つの人影を指差した。
 行く手を遮るかのように、この「原因」が横切ろうとしたのが目に入ってしまっての事だ。
「……よく気付きましたね……でも、こんなところで交通安全もへったくれもないです……」
 彩はため息を吐きながら、目の前の二人――青い髪の女を背負った、すみれ色の髪の女を
じっと見詰めていた。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています