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leaf vs key リレー仮想戦記

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0001名無しさん@お腹いっぱい。NGNG
1999年、夏。
 新ブランドkeyの処女作KANONは、空前のヒットを飛ばした。
「ゲームで初めて泣きました」
「最高です。これで泣かないのは人間じゃない」
「友達に布教してます」
 考えられる限りの賛辞の言葉が、オフィシャル掲示板を埋め尽くした。
 一部に否定的な意見はあったものの、それは押し寄せる賞賛の嵐に飲み込まれた。
 しかし、巧みなシナリオと繊細な音楽、美麗なCGが織りなす感動は、
 世に言う「鍵っ子」を生み出すことになる。
 彼らの珍奇な言動は周知のことであり、ここでは触れない。
 詳細は、後世の歴史家が記述する通りである。

 ……ONEに続く成功を、業界人とユーザーは感慨深い目で眺めていた。
「新しい時代の到来だ」
 彼らは、敬意と嫉妬の溶け合った視線を、6人の英雄に向けた。
「次回作の結果次第では、トップが入れ替わる」
 押し寄せる世代交代の波は、緩やかに、しかし確実にエロゲー業界を覆い始めていた。

 かつて、業界にその名を轟かせた二人のクリエーターがいる。
 同級生で知られる蛭田と、EVEやYU−NOを世に送り出した剣乃である。
 洗礼されたシステムとシナリオは、信奉に類する賛辞をもってユーザーに迎えられ、
 エロゲーの歴史にその名を刻んだ。
 しかし、彼らの名声も長くは続かなかった。
 二人を過去の栄光の彼方に葬り去ったのは、ビジュアルノベル三部作の高橋である。
「マルチ萌え〜」という、あまりにも有名なフレーズから分かるように、
 高橋は絶大な支持を得、リーフを一躍トップメーカーに押し上げた。
 その高橋もやがて、罵倒の雨に打たれることになる。
 ToHeartから数年を経てもなお、彼は、新作に手をつける様子を見せないのだ。
 憶測を楽しむように、人々は噂した。
「才能が枯れた」
「いや、単なる怠慢だ」
 真相はどうあれ、いまやトップメーカーとしてのリーフの地位は揺るぎなかった。
 高橋が新作に関わらずとも、支持は衰えず、売上が落ちる気配は見られない。
 彼は信じていた。
 ……リーフ帝国の栄光は永遠だ、と。
0002始動編 1NGNG
1999年、夏。
 冷房の効いたビルの一室で、高橋は頭を抱えていた。
 彼を悩ませるのは、ノストラダムスが残した予言ではない。
「単なる一発屋だ。我がリーフ帝国の敵ではない」
 少なくとも、発売される前はそう思っていた。
 しかし、高橋のもとに届けられた報告は、彼を驚愕させるのに十二分だった。
 keyの処女作であるKANONが、
 同時期に発売された「こみっくパーティ」の売上に肉薄しているというのだ。
 報告書は続ける。
 KANONの評価は、かつて一世を風靡したToHeartに迫る勢いだ、と。
 レポートに視線を走らせる高橋の頬から、徐々に血の気が引けてゆく。
 白い歯は唇を噛み、束ねられた紙を掴む指先は震えている。
 ビジュアルノベル三部作を完成させて以来、
 王者としての振る舞いを片時も忘れることのなかった高橋だが、
 この時ばかりは、迫り来る追走者の足跡に危機感を抱かずにはいられなかった。
 テーブルにレポートを叩きつけると、高橋は内線に手をかけた。

 数分後、高橋の待つ部屋のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します」
 起伏のない高橋の声に促されて入室したのは、同じくリーフの一員である青紫である。
 性別を判別しかねる名前から、ネットでは様々な憶測が飛び交っている。
 なかでも興味深いのが、青紫が現役の女子高生ではないかというものである。
 その真偽は、ここでは触れないでおこう。
「青紫」
 厳かに、高橋は口を開いた。
「KANONの評判は、お前の耳にも届いているな」
 同意を求められた青紫は、高橋のただならぬ表情に肩をすくめた。
「はい、人づてですが、大絶賛だと」
「そうだ。しかも、売上も我らが『こみっくパーティ』に迫る勢いだ」
 返答に窮し、青紫は視線を床に落とす。
 もっとも、高橋は返答など期待してはいなかった。
「このままでは、下手をすれば、トップメーカーの座を奴らに奪われてしまう」
 ……それはあんたが新作を書かないからだ。
 青紫は、日ごろの高橋への不満を吐き出すように、心の中で毒づいた。
「だが、奴らにも不安材料はある」
「それは?」
「鍵っ子だ」
 高橋の口からつぐまれた言葉の意味が分からず、青紫は沈黙をもってその旨を伝えた。
「鍵っ子というのは……まあそうだな、分かりやすく言えば、
 新手のカルトのようなものだ。口で説明するより、実物を見たほうが早いな」
 壁際に置かれたデスクトップパソコンに歩み寄ると、
 高橋は鍵掲示板を開き、青紫を手招きした。
「これが鍵っ子だ」
0003始動編 2NGNG
 青紫の網膜に、尋常ならざる文字が焼きついた。
「ゲームで初めて泣きました」
「最高です。これで泣かないのは人間じゃない」
「友達に布教してます」
 目を丸くしながら、青紫は感想を漏らす。
「信者というのは、時代とジャンルを問わずウザイものですが、こいつらは別格ですね」
 未知との遭遇を果たした青紫の表情を楽しむように、高橋は微笑した。
「こいつらを使ってkeyを壊滅に追い込む」
「どういうことです?」
 青紫の疑問に、高橋は失笑をもって答える。
「分からないか? ネガティブキャンペーンに利用するんだよ。
 keyのファンはこんな奴ばかりだ、と」
 高橋の意図するところを性格に把握し、青紫は頷いてみせた。
「具体的にどうするんですか?」
「簡単なことだ。鍵っ子の愚行を紹介するサイトを開き、笑いものにすればいいのさ」
 たしかに簡単なことではあったが、では誰が、それを実行するというのだろう。
「そのためにお前を呼んだんだ」
 高橋は、首をかしげる青紫を見つめた。
「お前にその実行役を任せる」
「ええ? 私がですか!?」
 不名誉な命令に、青紫は嫌悪の念を隠そうとはしない。
「そうだ。成功すれば、『志保シナリオ』の件は許してやる」
 志保シナリオ――それは、今や青紫の代名詞とも言える言葉だった。
「……分かりました、やればいいんでしょ、やれば」
 肩を落とし、深く溜息を吐く青紫。
「せっかくだから、お前にコードネームを授けてやろう」
 ……いらねえよ、そんなもん。
「そうだな……keyだからポンキッキー、ポンキッキーといえばガチャピン……
 よし、お前のコードネームはガチャピンだ」
 こうして青紫は、keyへのネガティブキャンペーンに身を投じるのであった。

 続く

 ――――――――――――――――――――――――――――――
 誰か続き書いて〜
0004野望編 1NGNG
高橋が陰謀をめぐらせるのと時を同じくして、
 ビジュアルアーツが籍を置くビルの一室では、ささやかなパーティが催されていた。
「KANONの成功を祝して乾杯」
 ビールが注がれたグラスを掲げ、いたるが乾杯の音頭をとった。
 十指に余るグラスが交錯し、軽やか音色が響き渡る。
「YETの奴、今ごろ俺たちを失ったことを後悔してるぜ」
 白く泡立った黄金の液体を軽く胃に流し込み、麻枝は呟いた。
 かつての上司であるYETの悔しがる姿を想像しているのか、
 飲み始めたばかりだというのに、舌の動きは滑らかだ。
 麻枝の隣に立つ折戸が、薄く笑う。
「ああ、あいつは俺たちをなめてたからな。いい気味だ」
「なんとか替わりを見つけて新作を出したみたいだけど、大したことなさそうだね」
 久弥が折戸に追随し、すぐさま話題を転じる。
「それより、二人も知ってると思うけど、
 こみっくパーティの評判は最悪だってね。新旧交代は近いよ」
 ――新旧交代。
 麻枝と折戸の瞳に、細い、しかし強い光が走った。
 彼らが胸の内に秘めていた野望が、現実のものとなろうとしているのだ。
 手にしたグラスに視線を落とし、黄金色の水面の奥に、折戸は苦々しい過去を見た。
「沈む船からネズミはいなくなる、か」
 古巣の没落に、冷笑を禁じえない。
 リーフを見捨てたのは正解だったな――折戸は、自らの選択を賞賛した。
「どうしたの折戸くん、遠くを見る目でビールを眺めて」
 折戸は垂れていた頭を起こし、音源に視線を移す。
 声の主はいたるだった。
 アルコールが脳に回り始めたのか、頬を上気させ、陽気な笑みを浮かべている。
「なんでもないさ」
 明るい調子で、折戸はかぶりを振った。
0005野望編 1NGNG
 いたるはグラスの縁に唇をあて、残っていたビールを飲み干すと、声を細めた。
「ここだけの話だけどさ」
 いたるの神妙な表情は、麻枝たちの注意を引き付けるのに充分だった。
「あくまでも噂なんだけどね、13cmの連中が私たちを警戒してるんだって」
 13cm――keyと同じく、ビジュアルアーツのブランドのひとつである。
「警戒?」
 否定的な意味をもつ単語に、麻枝が顔をしかめた。
「ええ、なんでも、私たちの待遇が気に入らないらしいの」
 それは実力相応の待遇だ。クソゲーを量産する輩が何を言うか。
 折戸はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「そんなのは敗者の嫉妬だよ。僕らが気に留めることじゃない」
 いたるの密告を、久弥は一蹴した。
「いくら天を仰いでも、空からロープが降りてくるわけじゃない。
 リーフを追い越した暁には、奴らも僕らの前にひれ伏せざるをえないさ」
 ……リーフを追い越す。
 誰もが願い、そして挫折した。
 けれど、それはもはや夢物語ではない。
 手を伸ばせば届くところにある。
0006野望編 3NGNG
自らの野望を吐き出すように、麻枝が言葉をつむいだ。
「久弥のいう通りだ。俺がいる限り、keyは安泰だ。大船に乗ったつもりでいろ」
 ……本人は、何気なく言ったつもりかもしれない。
 しかし、彼が自信の程を込めた一言は、誇り高き者たちの自尊心を傷つけた。
 まるで、空気を詰めて膨れ上がった風船を針で刺したように、
 意識の水面下に沈んでいた感情が爆発した。
 折戸が、震える唇を刻む。
「KANONが売れたのは俺のおかげさ。涙の琴線に触れる旋律が感動を呼び起こしたんだ。
 たとえシナリオがつまらなくても、涙を流さずにはいられない。
 それが、音楽という芸術の力なんだ」
 身振り手振りを交えた折戸の演説に、麻枝が敵意を剥き出しにした視線を投げかける。
 久弥が続く。
「違う、音楽じゃないよ。ToHeartがなんでヒットしたのか考えてごらん。
 キャラ萌えでしょ? それさえあればいいんだ。
 その証拠に、キャラクターグッズが売れまくってるじゃないか」
 遠まわしに、久弥は自分の功績を誇った。
 いたるも黙っていられないのか、表情をいくらか柔らかくし、弁舌を振るう。
「なに言ってるの、みんな。ただのエロゲーじゃない、キャラのデザインが全てよ。
 わたしの子供たちの愛くるしい表情が受けたのよ。勘違いしないで」
 遠くから四人の口論を眺めていたみきぽんとしのり〜が呟く。
「業界随一の塗りがキャラデザをカバーしたのよ。あんたこそ勘違いしないで」
 敵意を込めた視線が交錯し、激しい火花を散らす。
 煮えたぎる憎悪が空間に広がり、野望は激しく渦を巻く。
 空気は張り詰め、雷鳴が轟く。
「俺の力でリーフを倒す」
「わたしの力でリーフを倒す」
 それぞれの胸の内に秘められていた野望が、沸点を超え、激しく湧き上がる。
 頂上を極めようと志した者たちの、熱く過酷な争いは、オペラさながらに、こうして開演した。

 続く
0007:第一の間奏に代わる光景NGNG
『Kanon』に登場する一人の少女との出会いが、彼の心に決定的な楔を打ち込
んだ。その少女の名は、沢渡真琴。彼女の正体は、幼少期の主人公と過ごした日々
が忘れられず、人の温もりを求めたがゆえに、人間の姿を取って彼の前へと現れた
妖狐。しかし、憎まれ口を叩き合いながら過ごした楽しい日々は長く続かず、やが
て彼女からは少しずつ人間らしさが失われていく。そんな哀切極まるストーリー展
開に、彼はマウスを固く握り締めながら、ただただ涙を流しつづけた。
 真琴の口癖や立ち居振舞い、それらすべてが彼の心の琴線に切なく触れ、彼は何
かに憑かれたかのように再プレイを繰り返すのだった。それまで彼の心の大部分を
占めていた七瀬留美という少女の存在は、すでに記憶の外へと追いやられていた。
 そして十数度目の出会いのシーン。黄昏の中に佇む真琴の姿を目にしたとき、雷
に打たれたかのような衝撃と共に、彼は確信した。もしもこの世に運命的な何かが
あるとすれば、真琴と自分の邂逅こそがそれにあたるのだと。でなければ、自分の
彼女に対する恐ろしいほどの愛情の強さを説明できないではないか。
 しかしその認識は、同時に彼に激しい焦燥をももたらした。真琴は、あくまでも
『Kanon』というゲームの中の存在なのだ。どんなに彼が真琴のことを想って
も、彼女はいつもモニタの中で微笑むばかりで、決して血の通った存在として、彼
の目の前に現れることはないのだ。彼我を隔てるあまりに強固な壁の存在に、彼は
歯噛みせずにはいられなかった。
 イベントに足を運び傍目も気にせずその名を絶叫したところで、彼の声が真琴に
届くことはない。彼女の絵姿がプリントされた抱き枕も、人肌の質感とは似ても似
つかぬもので、彼の心を満たすには至らなかった。真琴との交わりを想像しながら
自慰に耽っても、彼女の体内に放たれたはずの熱い飛沫は、自分の掌から空しく零
れ落ちるだけなのだ。
 どこにも捌け口を見つけることのできないまま、真琴への想いだけが心中で際限
なく膨らんでいく。いつしか彼は大学へ足を向けることもなくなり、自室で悶々と
した時を過ごすようになっていた。たとえ一瞬でもいい、真琴の体を自らの腕の中
に抱きしめることができれば、自分は悪魔に魂を譲り渡しても後悔しないだろう…
…。零度を下回った水が氷へと姿を変えるように、ゆっくりと、しかし確実に、彼
の中で一つの狂気が形作られていくのだった。(この項終わり、本編に続く)
0008謀略編 1NGNG
野望編3の続き

 季節は移ろい、秋。
 降り注ぐ陽射しは柔らかく、冷ややかな風が軽やかに吹きぬける。
 青空を渡る白い雲を眺めながら、青紫は悩んでいた。
 鍵っ子を利用したネガティブキャンペーンが、実行の段階でつまづいてしまったのだ。
 鍵っ子の言動がいかに奇怪なものであっても、
 鍵掲示板の多重レスや内輪化だけでは、人々の失笑を誘うに過ぎない。
 keyに深い傷を負わせるには、誰もが驚愕する事件が起こる必要がある。
 しかし、いくら強く念じようとも、鍵っ子を電波で支配できるわけではない。
 KANONが発売されて以来、時は、平穏を友としながら緩慢に流れ、現在に至る。
「青紫」
 空を仰いでいた視線を部屋の入り口に向けると、ドアをくぐったばかりの高橋の姿があった。
「どうした、辛気なツラして」
 青紫に歩み寄ると、高橋は側のパイプ椅子に腰を降ろす。
 高橋は、目を伏せる部下の苦悩を察した。
「ネガティブキャンペーン、うまくいってないようだな」
「……すみません」
 頭を小さく縦に振り、青紫は謝辞を述べた。
 しかし高橋は、明るい調子で言ってのける。
「気にするな。俺も、無理難題を押し付けたんじゃないかって、悩んでたところだ」
 計画の遅れを非難されるのではないかと恐れていた青紫は、
 安堵から深く息を吐き、肩の力を抜いた。
「そこでだ、青紫。今日はお前に面白いアイディアを持ってきた」
 会話の意外な展開に、青紫は首をかしげた。
「来月、大阪でデジフェスが開かれるのは知っているな」
 デジフェス――正式名称をデジタルフェスティバルというそれは、
 キャラクターグッズの展示と販売が行われる催しである。
「知ってますが、それがなにか?」
「デジフェスには、keyも参加する。CDとテレカを売るらしい。
 それを目当てに鍵っ子が集まるだろう。これを利用するんだ」
0009謀略編 2NGNG
 高橋は、ゆっくりと計画の全容を語り始めた。
 説明が核心に近づくにつれ、青紫の顔色が青ざめてゆく。
「……本気ですか?」
「当然だ。準備もすでに整えてある。あとはお前が現地に赴き、実行部隊の指揮をとるだけだ」
「しかし……」
 謀略と計略に満ちた構想に、青紫はためらいと恐怖を覚えた。
「卑劣な手段かもしれないが、これが成功すればkeyのイメージは確実に暴落する。
 リーフの栄光のために一肌脱いでくれ、青紫」
 罪の意識と打算が思考回路を駆け巡る。
 ハルマゲドンにも似た天使と悪魔の争いが、言葉では形容しがたい感情を沸き起こす。
 血管を満たす血液が沸騰し、全身が火照る。
 心肺が締め付けられ、動悸が激しくなってゆく。
 薄れゆく意識を現実に引き戻したのは、部屋の出入り口のドアが開閉する音だった。
「どうした、高橋」
 静寂を破ったのは、専務の下川であった。
 高橋の練った計画は、すでに下川の知るところであり、
 雑務を終えたところで、交渉の様子が気になり、こうして現れたというわけだ。
 下川は、青紫が渋っていることを聞かされ、自ら説得に乗り出した。
「やってくれるなら、昇進を約束しよう。新作のシナリオも書かせてやる」
 その言葉は、安い倫理観を吹き飛ばすのに十二分だった。
「……分かりました、やります」
 青紫は、正義よりも下川の庇護を選んだ。
「やってくれるか、さすが俺が見込んだだけのことはある」
 高橋は青紫の手を取り、健闘を祈って激励する。
「頑張れよ、リーフの未来はお前の手にかかってるんだ」
 青紫は高橋と綿密な打ち合わせを重ね、
 運命の日の前日、「実行部隊」の待つデジフェスの会場へ向かった。

 続く
0010名無しさんだよもんNGNG
ふむふむ。
0011流血編 1NGNG
 満天の星をたたえた夜空が白み始めた頃、
 デジフェス会場の付近の駅は、いつになく活気に満ちていた。
 徹夜禁止令を忠実に守る参加者が、朝一番の列車で到着したのだ。
 そのうちの何人かは、鍵っ子と称される者である。
 彼らはKANONに想いをはせながら、会場までの道のりを、肩を並べて歩いた。
 足取りは軽く、胸は期待に満ちている。
 しかし、会場に辿り着いた鍵っ子を迎えたのは、歓喜ではなく、失望と怒りであった。
 朝一番の列車の彼らよりも早く、入り口に向かって列をなす人の群れがあったのだ。
 慌てた鍵っ子たちは、列の最後尾に駆け寄り、事情を問いただした。
 ――徹夜。
 返答は、予期していた、しかし違っていて欲しいと願った通りのものであった。
 鍵っ子は沸き上がる義憤のままに、徹夜組を糾弾する。
「どうしてルールを守れないんだ。近所の人に迷惑がかかるだろ」
「君たちの勝手な行動のせいでデジフェスが中止になったどうするんだ」
 激しい剣幕で責めたてるが、徹夜組は非を認めようとはしない。
 むしろ、徹夜は当然といった態度である。
「君たちの言う通り、徹夜はしちゃいけない。俺たちだって昔はルールを守ってた。
 だけど、他の心無い連中が徹夜をするから、俺たちも仕方なくするんだ。
 文句があるならそいつらに言えよ」
 徹夜組の開き直りに辟易した鍵っ子は、非難の矛先を警備員に向けた。
 しかし、警備員は官僚的な答弁の繰り返しに終始し、事態の収拾を図ろうとはしない。
 これ以上の追求は無意味と判断し、鍵っ子は列の最後尾に渋々と回った。
0012流血編 2NGNG
 地平線の彼方から姿をのぞかせていた太陽が、
 完全にその姿をあらわし、天球上を昇り始めた。
 闇は白い光に塗りつぶされ、世界が音を取り戻す。
 デジフェス会場の周辺は、人の波で埋め尽くされていた。
 事情を知らない通行人が、みけんにしわを寄せながら歩き去ってゆく。
 時刻は午後9時52分。
 開場まで残り時間10分を切っている。
 朝一番の列車で駆けつけ、列の中ほどに並ぶ鍵っ子は、開場を心待ちにしていた。
 徹夜組の横暴に腹を立てていた彼らではあったが、
 マキシシングルは千枚用意されているうえ、一人五枚までと知り、安堵したのだ。
 列の中央とはいえ、この人数ならなんとか入手できそうだったからである。
 時計台の長針が12の位置を指した。
 会場へ至る門が開かれ、歓声と共に参加者がなだれ込む。

「来たよ、みんな。気合を入れて」
 CDとテレカの販売を取り仕切る久弥が、他の売り子を叱咤した。
(人ごみとイベントが嫌いな麻枝は、
 その時、自宅で「ハイパードールりかちゃん」を鑑賞していた……)
 第一陣が、激しく息をつきながら、keyのブースに駆け込んできた。
 CDを限度である五枚まで買い込むと、彼らは、別のブースに移る――かに思われたが、
 その巨体をひるがえし、なんとkeyブースへ連なる列の最後尾に回ったのだ。
 久弥らは、目前に迫る他の購入希望者の対応に追われ、彼らの不正にまでは目が届かない。
 巨体を揺らす男たちは、まんまと二度目の購入に成功し、
 それはCDが売り尽くされるまで繰り返された。
 持参したリュックいっぱいにCDを詰め込み、
 脱兎の勢いで会場から走り去ると、彼らは近くのコンビニに向かって駆け出す。
 そこには、この作戦の指揮者である男が待っていた。
「よくやった」
 青紫は、息を切らす「実行部隊」の労をねぎらう。
「今のうちに休んでおけ、これからが本番なんだ」
 不適な笑みを浮かべ、青紫は会場を見やった……。
0013名無しさんだよもんNGNG
mentai板の移植かー。
これ好きだったんだよ(笑)
0014流血編 3NGNG
「マキシシングルは売り切れました」
 会場の外で入場を待っていた鍵っ子の視界に、
 信じがたいものが飛び込んできたのは、開場から十分ほど経ってからのことである。
 マキシシングルは売り切れた……プラカードには、たしかにそう書かれていた。
 なぜ?
 千枚も用意されてるうえに、一人五枚までという制限があったのではないのか?
 朝一番の列車で到着し、胸を躍らせていた、百人にものぼる鍵っ子は、
 みな一様に頭を抱え、両膝を折る。
 一方、会場の内側では、目前でCDを買い損ねた鍵っ子が、keyのスタッフを取り囲んでいた。
「ですから、すでに売り切れてしまって……」
 興奮さめやらぬファンを逆上させぬよう、久弥は言葉を選びながら諭した。
「再販する予定はあるんですか?」
「いえ、そういう予定はありません」
「そんな、keyさんでしょ? 願えば奇跡は起こるんじゃないですか!?」
「ですから……」
「こんなに沢山の人たちが買えなかったんですよ、keyさんは奇跡を起こすべきです!」
 怒号ともとれる賛同の声が、一斉に沸き起こる。
 拒めば襲われかねないと判断した久弥は、再販を検討すると約束し、会場をあとにした。

 再販の検討を取り付けた鍵っ子は、会場の外で、
 入場さえ出来なかった同志たちと、互いに愚痴をこぼしていた。
 噂によると、徹夜組の一部がCDを買い占めたらしい。
「何様なんだ、あいつらは」
「みんなの楽しみを奪うなんて、絶対に許せない」
 治まらない怒りが、言葉となって交錯する。
 なんのために、わざわざ早起きしたのか。
 今日という日を、何週間も前から楽しみにしていたのに。
 思い起こすたびに、悔しさがこみ上げ、涙がこぼれそうになる。
「KANONのマキシシングル、一枚五千円から」
 悲嘆にくれる鍵っ子たちは、耳を疑った。
 声がした方向に視線を転じると、彼らの怒りは臨界点を超え、爆発した。
 CDを買い占めたと思われる連中が、白昼堂々と転売していたのだ。
 声を荒げながら、鍵っ子は彼らに詰め寄る。
「おい、君たち、もしかして徹夜組じゃないか!?」
 問われた男たちは、怒りをあらわにした鍵っ子を嘲笑するように答える。
「そうだけど、それがなにか?」
 挑発的な態度に、鍵っ子はさらに怒気を強める。
「それじゃあ、CDを買い占めたのも君たちなのか!?」
 一呼吸をおき、徹夜組――青紫の指揮する実行部隊――は、唇に指をあて、軽い笑い声をあげる。
 実行部隊たる彼らは、鍵っ子を出来るだけ挑発するよう、青紫に命じられていたのだ。
「文句ある?」
0015流血編 4NGNG
 その一言が、導火線に火をつけた。
 怒りに顔を歪めた鍵っ子の一人が、実行部隊を拳で殴りつけたのだ。
 他の鍵っ子たちは、一瞬だけ沈黙したが、
 待ってましたとばかりに、実行部隊は反撃に出た。
 殴りつけた鍵っ子は、実行部隊の蹴りをわき腹に食らい、吹き飛ばされた。
 それが、会戦の合図となった。
 理性を失った鍵っ子たちは、一斉に憎むべき敵に踊りかかる。
 遠くからその様子を眺めていた青紫が、側に控えさせていた男たちに出撃を命じた。
「行け! できるだけ騒ぎを大きくしろ!」
「はい! 全ては我らがリーフ帝国の為に!」
 ――実行部隊とは、リーフ・ファンクラブから有志を募った義勇軍であった!
「死ねやぁ! 鍵っ子!」
 振り下ろされた木材が鍵っ子の頭を砕き、血飛沫が踊る。
 木材は真っ二つに割れ、回転しながら宙を舞う。
 鍵っ子は、突然の乱入者に困惑したが、すぐに反撃を開始した。
 重いパンチが怨敵のみぞおちを捕らえ、胃の内容物が撒き散らされる。
 片膝をついたところへ、自慢の巨体を活かしたボディプレス。
 左右の肺を満たしていた空気が、一気に押し出される。
 しかしその鍵っ子も、脳天を直撃したカカト落しに白目をむいた。
 一時は劣勢に立たされた青紫軍だが、すぐに巻き返した。
 互いの背中を合わせ、正面と左右から襲いかかる鍵っ子を、持参した鉄パイプで殴り倒す。
 鈍く低い悲鳴をあげ、鍵っ子は足元に崩れ落ちる。
 生き血が鉄パイプの先からしたたり、アスファルトに赤い海を広げてゆく。
 鍵っ子も、奪い取った鉄パイプで青紫軍を血の海に沈めてゆく。
 血で血を洗うその惨状は、「血の宴」と題するに相応しいものであった。
 誰かが通報したのだろう、響き渡る絶叫に、パトカーのサイレンが重なった。
「ここまでだな」
 もう少し騒ぎを引き伸ばしたいところだが、捕まってしまっては元も子もない。
 引くべきときに引くのが有能たる司令官というもの。
 青紫は、実行部隊のイヤホンに撤退命令を発した。
 指示を受けた青紫軍は後退し、鍵っ子と距離を取り始めた。
 しかし、鍵っ子の動きは俊敏で、すぐにその距離を縮める。
「なにをしてる、早く戻れ」
 青紫は焦った。
 パトカーに先導された機動隊の車両から、物々しく武装した男達が飛び降りたのだ。
「突撃!」
 機動隊長の号令と共に、屈強な男達が、血塗られた争いに割って入った。
 青紫軍は脱出に専念したため、混乱に乗じて全員が逃げ延びた。
 それとは反対に、怒りのやり場を失った鍵っ子は、目の前の機動隊に襲い掛かり、60名を越える逮捕者を出した。
 デジフェス史上最悪の事件と呼ばれる「血の宴」事件は、こうして幕を閉じた。

 続く
0016亀裂編 1NGNG
「まいったな……」
 目の前の朝刊を眺めながら、麻枝は呟いた。
 久弥と折戸も、深くため息をつく。
「血の宴」事件を詳細に報じる記事が、全国紙の一面を飾ってしまったのだ。
 朝刊をたたむと、麻枝は久弥に向き直った。
「実際のところはどうだったんだ?」
 デジフェス当日、麻枝は自宅でロリアニメを鑑賞しており、会場の様子はよく知らないでいた。
「それはもう凄かったよ」
 久弥は、大げさな手振りを交えて説明を始めた。
「マキシシングルは十分くらいで売り切れたんだけど、
 買えなかった連中が僕らを取り囲んでさ、目を充血させながら言うんだよ。
『keyさんは奇跡を起こすべきです』って。こりゃヤバイって思ったんで、
 仕方なく再販を検討するって約束しちゃったんだ」
 麻枝は久弥の苦労をしのび、感想を素直に漏らす。
「大変だな、オタク相手の商売というのは」
 違いない、と折戸。
 三人が一斉に失笑したところで、いたるが部屋に入ってきた。
「デジフェスの件なんだけど、調べてみたらとんでもないことが分かったわ」
 いたるは余ったパイプ椅子に腰を下ろすと、独自の情報網による調査の結果を報告した。
「まだ裏はとれてないから確かなことは言えないんだけど、
 CDの買占めにリーフが係わっていたらしいの」
「リーフが?」
 麻枝は目を細め、語気を強めた。
0017亀裂編 2NGNG
「デジフェスの会場で青紫を見たっていう証言があったから、
 その筋から調べてみたら、高橋と下川がどうやら糸を引いていたみたいなの」
「下川め……」
 旧友の顔を脳裏に描き、折戸が軽く舌打ちした。
 麻枝は胸の前で腕を組み、他の三人を見回す。
「もしそれが事実なら、高橋たちには相応の報いを与えてやる必要があるな……」
 折戸がうなずいたが、久弥はかぶりを振った。
「だけどこれは、リーフが焦ってる証拠だよ。許せとは言わないけど、
 リベンジするなら新作でしようよ。完膚なきまでに叩きのめして、
 あいつらに引導を渡してやろう。それが大人ってものさ」
「そうよ、わたし達は新作に力を注ぎましょう」
 麻枝と折戸は互いを見やり、苦笑した。
「お子さま相手にむきになるなんて、俺たちも大人気ないな」
 keyの面々が憎たらしいほど余裕の見せるのは、リーフの没落だけが原因ではない。
 リーフには「アキレス腱」があった。
 高橋たちが再び暴挙に出ることがあれば、その時は「アキレス腱」を切ってやればいい。
 安易な復讐は無用だ。
 それが、彼らの共通認識である。
 そしてその「アキレス腱」は、二ヵ月後に切られることになる……。
0018亀裂編 3NGNG
 遅れて出社したみきぽんとしのり〜を加えた六人で、新作の打ち合わせが始まった。
 最初に決めるのは、企画担当を誰にするかである。
 麻枝と久弥を交互に当てるならば、次回作は麻枝なのだが、
「異議あり」
 久弥が不服を申し立てた。
「タクティクスにいたとき、麻枝はMOONとONEの企画を続けて担当したんだから、
 新作の担当は僕じゃなきゃ不公平だよ。交互にするのは、次々作からでいいじゃないか」
 自分で決まりだ信じていた麻枝は、誰も気付かないほど小さく、口元を歪めた。
 苛立ちを悟られないよう、心を落ち着けながら、麻枝は反論する。
「それはお前がまだ半人前だったからだ。不公平なんかじゃない」
 納得のいかない久弥が反論すると、やはり譲れない麻枝が応酬する。
 二人のやり取りを他人事のように眺めながら、いたると折戸は打算をめぐらせていた。
 ――私のキャラデザを生かすには、久弥が企画を担当したほうが有利だわ。
 久弥は萌え重視だから、彼がメインシナリオを書いたほうが、
 わたしの可愛らしいキャラデザが引き立つわ。
 ――俺の力を誇示するには、麻枝が企画を担当したほうが有利だ。
 なぜなら、久弥が企画に回れば、麻枝が音楽に手を出す余裕が出来る。
 そうなれば、俺の威光が薄れてしまう。
 いたるは久弥を、折戸は麻枝を支持した。
 どちらが企画を担当しても大差のないみきぽんとしのり〜は、
 恨みをかうことを恐れ、あいまいな態度に終始する。
0019亀裂編 4NGNG
 議論は袋小路に入った。
 停滞していた暗雲を振り払ったのは、休憩中に会議室を訪れた社長の一言である。
 彼は、企画担当が決まらないと聞き、子供なみのメンタリティを持つkeyのスタッフに呆れた。
 幼稚な連中を、社長は快く思わないが、KANONの成功で味を占めた彼に、
 罰を下す勇気などあるはずがなかった。
 社長は言う。
「それなら、開発ラインを二本にしないか?
 それで、次回作は麻枝くん、次々作は久弥くん、これならいいだろう」
 麻枝と久弥は視線を交わし、互いの瞳に、野望をたたえた炎が揺らめくのを見た。
 ――キャラ萌えしか脳のないお前に、本物のシナリオがどういうものなのか、教えてやるぜ。
 そしてその暁には、俺こそがリーフを倒した者として崇められるのだ!
 ――不可解なシナリオでユーザーを煙に巻くお前に、この僕が負けるものか。
 キャラ萌えの真髄を見せてやる。マルチを超える、新たなキャラ萌えをな!
 反目する二人は、打倒リーフを誓い、新たな企画に着手するのであった。

 続く
0020追撃編 1NGNG
 デジフェス当日から一週間ほど、鍵掲示板は荒れに荒れた。
 徹夜組を糾弾し、再販を求めるカキコが、決壊したダムの水のごとく流れてゆく。
「keyさんに要望があるなら、メールを送りましょう」
 一部の者はそう注意したが、焼け石に水であった。
 急増する負荷に耐え切れなくなったのか、サーバーもダウンした。
 掲示板が落ち着いてもなお、再販を要求するメールは後を絶たなかった。
 後世の歴史家は、これを、鍵っ子を象徴する事件として記すことになる。
 keyの面々が高橋と下川の暴挙を鼻で笑っていられたのは、
 騒ぎはすぐに沈静化すると踏んでいたからだ。
 しかし、徹夜組への糾弾は、やがて鍵っ子同士の罵倒合戦に代わり、
 核分裂反応さながらに暴動は拡大していったのだ。
 常軌を逸した苦情に対応したのは、サイトの管理を担当する折戸である。
 寝食を惜しんで掲示板に目を光らせ、五分ごとに送られてくる「チェーンメール」を処理した。
 物理的な要因――睡眠や食事の不足――よりも、精神的なものが大きかったのであろう。
 折戸は日を追うごとにやつれてゆき、今にも過労で倒れそうになっていた。
「無理をしないで休め」
 麻枝が休息をとるよう勧めたが、折戸は頑として拒んだ。
「今ここで俺が休んだら、鍵っ子は確実に暴走する。それだけは食い止めるんだ」
 必死の形相でディスプレイを睨み、折戸は暴動の鎮圧に努めた。
0021追撃編 2NGNG
 尋常ならざるカキコが鍵掲示板を飛び交うなか、青紫は、事の次第を高橋と下川に報告していた。
「……というわけで、機動隊に襲い掛かった鍵っ子は逮捕されました」
 報告を聞き終えた二人は、満足そうな笑みをたたえた。
 高橋が賛辞を送る。
「これでkeyが受けたダメージは計り知れないものがある。よくやった」
 青紫は軽く頭を下げ、専務に視線を転じる。
「下川さん、昇進と新作の件ですが……」
「おう、実はもうその用意が出来てる。
 明日付けでお前は開発部の次長に昇進だ。新作のシナリオも書かせてやる」
 次長……なんていい響きだ。
 お荷物と言われて久しいが、それは僕に自由な手腕を振るうだけの権限がなかったからだ。
 次長になれば、いろんな所に口出しできる。
 笑っていられるのも今のうちだ。
 必ず、僕を馬鹿にした奴らを見返してやる。
 ……青紫の涙腺から、感涙が溢れた。
「そんなことで泣くなよ、大げさだな」
 高橋が肩に手をかけると、三人はどっと笑い声を上げた。
 同時に、遠くから下川を呼ぶ声が聞こえた。
「下川さん、お客様です」
「すぐに行く。応接室にお通ししろ」
 そう言って、下川がきびすを返そうとすると、
「誰だ?」
 高橋が首をかしげた。
 下川は口元に笑みを浮かべ、答える。
「key殲滅作戦をより完璧なものにするための協力者さ」
0022追撃編 3NGNG
「お待たせしました」
 リーフの専務は応接室のドアをくぐると、緑茶をすすりながら待っていた男に、深々と頭を下げた。
 軽く握手を交わし、テーブルを挟む形でソファに腰を下ろす。
 下川を訪ねてきた男は、13cmの使者である。
 ビジュアルアーツ内には、特別ともいえるkeyの待遇に不満を抱く者が、少なからず存在する。
 その反keyの筆頭といえるのが13cmである。
「デジフェスの件は見事でした。正直に言いますと、あそこまでうまくいくとは思っていませんでした」
 感謝の眼差しを向けながら、使者は口を開いた。
「私は高橋とプランを立てたに過ぎません。青紫が現場をまとめてくれたおかげです」
 下川は謙虚に応じ、気になっていたことを問いただした。
「それで、keyの反応は?」
「彼らはクレームの対応に追われ、しばらくは新作に着手する余裕などないようです」
「……ふむ」
「webを管理する折戸は過労で倒れる寸前です。
 何かきっかけがあれば、彼をかろうじて繋ぎとめている糸は切れるでしょう」
「そうか……折戸め、いい気味だ……」
 下川は、裏切り者を許さない。
 神聖にして不可侵であるリーフ帝国の厚い恩寵を忘れ、
 目先の利益を求めてkeyの設立に加わるとは。
「信義にそむき、臣民としての道を踏み外した者よ、神罰が下る日は近いぞ」
 下川は執務室に戻ると、電話に手をかけ、「血の宴」事件の功労者たちを呼びつけた。
 デジフェスで痛手を被ったkeyに、さらなる一撃を加えるために……。
0023追撃編 4NGNG
 一時間後、60名ほどの男が大広間に集められた。
 彼らはリーフ・ファンクラブの会員で、リーフのためには命も惜しまないと公言している。
「まずは礼を言おう。デジフェスの件はご苦労だった」
 下川は、ひとりひとりと握手を交わし、臣民を褒め称えた。
 彼ら全員を見渡せる位置まで下がると、下川は勅命を下した。
「昨日の今日で誠に申し訳ないが、君たちに新たな使命を与える」
 下川は、デジフェスの件と並行する形で、もうひとつのプランを練っていた。
 それは、keyを再起不能に追い込み、
 リーフの輝かしい栄光を取り戻すための、用意周到な計画である。
 臣民の前に、ダンボールが並べられた。
「これが何か分かるか?」
 白銀の円盤が、茶色い箱に詰め込まれていた。
 ざわめきが、静かに沸き起こる。
「そう、KANONを焼いたCD−Rだ」
 ざわめきを静めるように、下川はせき払いをする。
「諸君、この戦いは邪教keyに対する正義の戦いである。
 鍵っ子と呼ばれるカルトを生み出し、エロを軽視する風潮を蔓延させたkeyを許してはならない。
 あまつさえ、我らがリーフ帝国に変わって世界を支配しようとさえしている。
 我々は、彼らの横暴に立ち向かい、リーフ帝国の正当な地位を脅かす輩を打倒せねばならない。
 天をも焦がす情熱をもって、戦おうではないか。正義と真理を守るために」
 下川は、腕を水平に伸ばし、人差し指を臣民の群れに向けた。
「諸君に命じる! このCD−Rを友人・知人にばらまき、keyを混乱に陥れるのだ!
 全ては我らがリーフ帝国の永続と栄光のため!
 さあ、恩義と忠誠を知る者たちよ、勇気を奮い立たせ、帝国に仇をなす邪教keyを打ち砕くのだ!」
 リーフ信者は高らかに叫ぶ。
「ジーク・リーフ!」

 続く
0024名無しさんだよもんNGNG
大阪・天満の一角。
似合わないサングラスを掛けた折戸は、いら立ち加減で人を待っていた。
やがて、向こうから足音が聞こえる。
「…人を待たせるとはどういう了見だ。この場でその黄金の指を折ってもいいのだぞ」
不機嫌そうに折戸はつぶやく。
「私にも立場がある。この場を陛下に見られる訳にはいかんのでな」
足音の主は、ひょうひょうとした表情で答える。
中上和英。下川の右腕と言われる男だ。
かつては折戸の戦友でもあり、敵味方に別れた現在でも、その友情は変わらない。
「同じWeb管理者として、俺の苦労も判るだろう」
「何が言いたいのだ?」
「なぜ荒らす。信者を使ってまで」
中上の表情が一瞬、凍る。
「…何が言いたい」
「CD-Rの件だ。だれがやったか、おおよその見当はつく。フン、あの男らしい汚いやり方だ」
「お前は疲れている。人の意見を聞きすぎなのだ。無視する勇気も…」
「中上。お前のように、独善的に何でも削除するような管理は俺にはできない。
あの男に…下川にしいたげられた俺には、無視されることの苦しみが判るから…」
「折戸!」
中上が声を荒らげる。この男にしては珍しいことだ。
「…俺は陛下には逆らえん。お前のような勇気がないから」
絞り出すように、中上はそう言った。うっすらと、目に涙が浮かんでいた。
「すまない、言い過ぎたようだ」
バツが悪そうに折戸は沈黙する。
音のない時間が数刻、流れた。
0025名無しさんだよもんNGNG
「話したくなければ話さなくてもいいが、帝国の実状はどうなのだ」
口を開いたのは折戸の方だった。
「話す必要はない…と言いたいところだが」
「だが?」
意外な反応に折戸は驚く。帝国の重臣が話すとは思っていなかったからだ。
「正直苦しいのだ。ドザ・石川大将軍が帝国を離れたからだ」
「…あの歴戦の男が、帝国を見限った、か…」
「帝国は東部戦線を広げすぎたのだ。何のちゅうちょもなく西の名将を投入した。
もちろん、俺もその例外ではない」
「…」
「鳥の、生波夢、上田、閂…。勇将たちが次々と帝国を見限った。
水無月、河田、原田も、内心はどうだか…」
「…予想以上だな」
「帝国の惨状は予想以上だ。なのに、私には飛び出す勇気がない。それだけのことだ」
「中上…」
「私はお前の勇気がうらやましい。憎いと思ったことさえある。いや、今でも憎いのかもしれない」
「中上、もうそれ以上言うな。お前の気持ちは判っている」
「…すべては、陛下の独善に問題があるのだ。それを止められない私にも」
「それ以上自分を責めるな、中上! お前は…よくやっている」
「…すまない、折戸」
2人の目を、ゆっくりと、涙が伝った。
0026名無しさんだよもんNGNG
「最後に一つだけ言っておく」
「何だ、中上」
「重臣たちの中で、陛下に心酔しているのは、青紫ただ一人だ。
あの高橋さえも…内心は判ったもんじゃない」
「…どういうことだ?」
「伊丹から新大阪に遷都を強行するなど、陛下の独善には多くの重臣が不満を持っている。
場合によっては…高橋すらも、お前たちの側につく可能性があるということだ」
「…本当なのか、あの高橋が」
「あくまでうわさの域を出ないが、な。可能性の問題だ」
「あの男は知っているのか」
「そのせいで最近、高橋と口論が絶えない。陛下も…おろかなことを」
「中上…」
「…まあいい。少なくとも私は、最後の一兵になっても帝国に残る。
今の陛下には問題も多いが、拾ってくれた恩を忘れたわけではない」
「お前も…相変わらず律儀なもんだな」
「…次に会うときは、戦場かもしれんな、折戸」
「ああ、ただ…」
「ただ?」
「…中上。お前と戦うのは嫌だな」
後は無言のまま、2人は別れた。

0027波濤編 1NGNG
大阪市内、某所。

「……いかんな」
デスクに腰掛けた男が、一人呟く。
「どうしました、部長?」
答えたのは、隣で作業をしていた部下。
「いや、キミも知っているだろうが、デジフェスの件」
「Keyさんのコトですか」
「そう。会場外だったからよかったものの、中だったら我々にも被害が……
と、それはともかく、やっぱり黒幕がいたようでね」
「リーフさん、ですね」
「そうゆうこと。『Kanon』の評価が高かったから、焦っているんだろうね。僕としては3−0で『こみパ』だけどね」
「……メガネっ娘の数でですか?」
男は、「ごほん」と咳払いして、話題をそらすように続ける。
「しかし、だ。これだけ派手なコトされると、我々としても黙ってみているわけには行かないねえ。関西の覇権は、リーフさんでも、Keyさんでもなく、我々が握るべきだからね」
「ええ」
「そこで、だ。すまないが、池袋に電話をつなげてくれないかな」所変わって、伊丹・リーフ本社ビル。
殲滅作戦が快調に進んでいるからか、開発室には穏やかな空気が流れている。
「順調だな」
下川が口を開く。
「ああ。このまま行けば、あの目の上のたんこぶは消滅。我々の帝国は安泰だな」
そう語る高橋の表情は明るい。
「うむ。だが、こう言うときこそ気を引き締めねばならんかもな」

どたどたどた。
開発室に一人のスタッフが駆け込んで来る。
「どうした。そんなに慌てて」
「た、大変です。と、東京から、『彼女』がこちらに向かっていると、連絡が……」

開発室に、戦慄が走る。
0028波濤編 2NGNG
JR新大阪駅、新幹線ホーム。
下川をはじめ、リーフ主要スタッフがそこに終結していた。

新幹線のドアが開く。
グリーン車の中から出てきたのは、二人の男を従えた、女性だった。
女性は居並ぶリーフスタッフを睥睨し、口を開く。
「やっほ〜♪ したぼくのみんな、でむかえごくろ〜☆
そ〜れにしても、やっぱこれくらいいないとね。『クイーン』としては☆」

賢明なる読者諸氏ならお分かりであろうが、彼女はみつみ美里。
同人界の『クイーン』にして、リーフ東京開発室の原画家である。
彼女が引きつれているのは、同じくリーフ東京スタッフの甘露樹、鷲見努。

再び、リーフ本社ビル。
専用の社用車を降りた一行は、専務執務室に迎えられた。

「ふふ〜ん。ちょーすばらしいアイデア思いついたから、やってもらおうと思って♪ このみつみちゃんさま自ら来てあげたんだから、ありがたく思いなさいよ」
そう言ってみつみが差し出したのは、
『こみっくパーティー きかく書』
と書かれた一通のレポートだった。
「え、あのー、こみっくパーティーはもう既に発売されましたが……」
「んーなことは分かってるわよ。まあ、ちょっと読んでみて☆」
下川がページをめくると、そこには
『しゅし:同人誌そくばい会「こみっくパーティー」をほんとーに開さいする→したぼくたち大よろこび』
と大書されていた。

0029波濤編 3NGNG
その後には、即売会の詳細として「ゲームで出てきたサークルをはじめ、ごーかゲスト♪」などと景気のよい言葉が並ぶ。
鳩が豆鉄砲食らったような顔をして固まる下川。
「どお?いいアイデアでしょ?」
「み、みつみ先生、これは……」
「いいでしょ?」
下川の頭に浮かんだのは、先日のデジフェス。
ここに書かれている規模の即売会ともなれば、相当の混乱が予想される。
それだけでも二の足を踏むのに加えて、この機をついてKeyが復讐作戦を打ってこないとも限らない。他の大手だって黙っては居るまい。
「ちょっと、無理では……」
絞り出すように声を紡ぐ。
「やだ」
にべもなく言いきる、みつみ。
「しかし……」
「やだやだやだやだ! やってくんなきゃやだ!」
「か、勘弁してください〜。こんな企画通したら、どんな危険なことになるか……」
「……じゃ、いい」
「分かっていただけましたか」
ほっと胸をなでおろす下川。
「……高田馬場に、帰る」
「待ってくださいみつみ様!! それだけは、どうかご勘弁を…!」
冗談じゃない。
彼女が抜けたら、原画もグラフィッカーも全部抜けるだろう。そうなれば、東京開発室が再建できないのは明白である。
それに、せっかく引き離したF&Cに、塩を送ってやるわけにもいかない。
「分かりました! 即売会でもなんでも、開きます!」
「よしよし。そーこなくっちゃ。じゃ、後のこまかいことはよろしく〜♪
甘露クン、CHARMクン!」
「はい」
後で控えていた男が答える。
「せっかく大阪来たんだし、プリンパフェ食べにいくわよ〜♪ つれてってあげるから感謝しなさい」
そういうと、みつみは部屋を出ていった。
残された二人−甘露と鷲見は苦笑いして顔を見合わせる。

「甘露君。先行っといてくれないか」
「ああ」
甘露が退出すると、鷲見は下川に近づき、一言告げた。

「南森町に、気をつけて下さい」


(波濤編、終了。次編に続く)
0030名無しさんだよもんNGNG
「そうですか…アリスが池袋にそんな入れ知恵を…」
東京・練馬の某事務所。その男は、眼鏡の下で眼光を鋭く光らせた。
「アリスにリーフ…。いつまでも…東は西の植民地ではないのですよ」
穏やかな言葉の中にも、鋭さが見え隠れする。
「DESIRE、EVE、YU-NO…。
エロゲーの泣きの元祖が、彼らには誰なのか判っていないようですね」
男の名は菅野ひろゆき。アーベルの社長も務めるこの世界の重鎮だ。
彼を神とあがめるクリエーターは多いが、エルフの蛭田と対立したこともあり、
現在(3月当時)は、表立った活動を控えている。
「高田馬場を骨抜きにした彼らもさることながら、
東のテリトリーにアリスさんが割り込んでくるのなら、こちらにも考えがあります」
「考え…とは、何ですか、社長」
傍らにいた菅野の寵臣、田島直がいぶかしげに聞く。
「天満と連絡を取り合いなさい。敵の敵は味方というではありませんか」
「天満…まさか彼らに」
「彼らはある意味、私の忠実な教え子です。困った時には助けると、そう伝えておきなさい」
「…はい」
「それと」
「…まだ何か?」
「私の西の友人、イシカワに連絡を取りなさい。少しは助けになるでしょう」
「仰せの通りに」
「…ところで田島、探偵紳士の進み具合はどうですか」
「順調です、すべて。前のようなことはありません」
「古巣のような致命的なバグを出すとは…私のプログラムの腕も鈍ったようですね」
「社長も…相変わらずきついことを」
「社長はやめなさい。あなたも社長でしょう、田島」
「…ですね。昔の癖が抜けないものですから」
「後は…任せましたよ。あれには二の矢、三の矢もありますから」
「はい、判りました」

「萌えは…ミントで取りあえずマスターしました。
私もまだ若い。彼らには、負けませんよ」
田島が去った社長室で、菅野は一人つぶやいた。

◎注:この作品はフィクションです。
   菅野氏とイシカワ氏は無関係…のはずです。
0031名無しさんだよもんNGNG
インターローグ(追撃1−2編)
必死にサイト管理に励む折戸。そんな彼に優しい声が掛けられる。
「大丈夫ですか折戸さん?あとはボクが見ておきますよ」
その言葉とともに缶コーヒーが一本、折戸の横に置かれた。
「ああ、悪いな」
その言葉に、笑みを返した青年の名は、戸越まごめ。
折戸がよろよろと立ちあがり部屋を出た時、鳥越の唇が少しだけ、歪んだ。
「あ、…」
その場で戸越に声を掛けようとしたみきぽんが一瞬戸惑いを浮かべる。
その時の戸越の横顔が浮かべていた暗さ、冷ややかさ、人間の悪意を嘲笑うかにも
見える笑みを見、一瞬言葉に詰ったのだ。
(何?ただの戸越君じゃない…)
いずれ戸越はKeyの強権派として、折戸とはまた違う自らの信念に基づいた
権勢を振るうこととなる。
だがその血、戸越まごめの冷たい血脈が開花するまでには、
まだいくぶんの時が必要であった。
0032激発編 1NGNG
「血の宴」事件から二週間、騒動は、収束しつつあるように見えた。
 折戸の体調もいくらか良くなり、ようやく新作の製作に着手できるところまできていた。
 しかし、新たな火種がくすぶり始めていることを、keyの面々は知るよしもない。
 季節は移ろい、冬。
 林立するビルの合間を縫うように吹き抜けていた秋風が木枯しに変わり、
 吐く息は白い粒子となって雲散する。
 人々が背中を丸めながら街を行き交うある日、ビジュアルアーツが凶報に揺れた。
 KANONを焼いた万単位のCD−Rが、
 何者かの手によって無料配布されているというのだ。
 犯人の正体は、すぐに察しがついた。
 心当たりはただひとつ。
「リーフめ!」
 怒りに身を任せ、麻枝が机を叩いた。
「まさかこんな汚いまねをするなんて、僕らはリーフを過大評価してたみたいだね」
 こみ上げる義憤を抑えながら、久弥が呟く。
「落ちるところまで落ちたわね、下川くんも」
 いたるが、哀れみに満ちた溜息をつく。
 大阪市東天満のビルの一室。
 信じがたい惨事に、誰もが、
 葬列を見送る遺族のように、その表情に影を落としていた。
 皆が皆、視線を伏せ、怒りのはけ口をさぐるように沈黙を守っている。
 時折つむぎ出される言葉も、途切れ途切れであとが続かない。
 壁にかけられた時計の、時を刻む針の音だけが、
 彼らの鼓膜を静かに打っている。
 一方、keyの副代表である折戸は、社長室で今後の対応を協議していた。
 警察の捜査が終わるまで、いたずらに騒ぎを大きくしないことが確認されると、
 折戸は、麻枝らの待つ部屋に戻った。
0033激発編 2NGNG
 折戸は、協議の結果を簡単に説明すると、休むまもなくパソコンと向き合う。
 再び荒れるであろう掲示板の沈静化に努めるためだ。
「働きすぎよ、折戸くん。顔色が悪いわ、少しは休まないと」
 身を削って働く折戸を見かね、いたるが休息をとるよう勧める。
 麻枝と久弥も、ディスプレイを見つめる折戸に歩み寄り、
 限度をわきまえない同僚をたしなめる。
 webの管理人として鍵っ子をなだめ、
 副代表として社長と協議を重ねる折戸の体力は、確かに限界に近づいていた。
 連日連夜の激務に、頬は血の気を失い、瞳に宿っていた生気の灯火は弱々しく揺れている。
 額には冷たい汗をにじませ、キーボードを打つ指は小さく震えている。
 いつ倒れたも不思議でないほどに蓄積された過労は、誰の目にも痛々しく映る。
 しかし折戸は、責任感か、それとも下川への対抗心か、
 いたるの手を無言で払いのけた。
「言って聴くような奴だったら、
 トップを取ろうなんていう大それた考えは抱かないだろうよ」
 いつだったか、折戸の勤勉ぶりを見て、麻枝がそう評したことがある。
 虚ろな視線でディスプレイを見つめる折戸の姿は、
 その評価を揺るぎないものとするのに十二分だった。
 視界の中心で、人の影が崩れ落ちた。
「折戸!」
 最初に声をあげたのは、最も近い位置にいた久弥だった。
 片膝をつき、床に伏せる折戸の肩を抱き上げる。
 呼吸は荒く、全身を巡る血管は青白く変色している。
 にじみ出た汗が滝のように流れ、床に染みを広げてゆく。
「折戸、大丈夫か?」
 麻枝が、悲痛な叫びで友を案じた。
 しかし、折戸は答えない。
 薄れゆく意識のなかで、折戸が最後に聞いたのは、
 友の声ではなく、救急車のけたたましいサイレンだった……。
0034激発編 3NGNG
 白一色に染め上げられた病室で、
 同僚に見守られながら、折戸は静かに寝息を立てていた。
 医師の診断によれば、症状は単なる過労だが、
 心肺機能に多大な負荷がかけられており、
 今しばらくは予断を許さない状況だという。
 命に別状はないだろうが、後遺症が残るかもしれないと、
 医師は去り際、そう語った。
「折戸……くそっ、何でこんなことに……」
 倒れた友にかぶせられたシーツを強く握り締めながら、
 麻枝は無念を言葉にした。
 いたると久弥も、口にこそしなかったものの、
 同じ想いであることは確かだった。
 折戸の回復を祈りながら病室をあとにした三人は、
 廊下に並べられた長椅子に腰を下ろした。
 沈黙と静寂が、交互に彼らを包み込む。
 息苦しさに耐えかね、口を開こうにも、ふさわしい言葉が見つからない。
 麻枝が、鈍く呟く。
「……戦争だ」
「え?」
 突然の独白をよく聞き取れなかったいたるが、
 伏せた顔を覗き込むように聞き返した。
「戦争だ……絶対に許さん……」
「麻枝くん?」
 憎悪に身を焦がす麻枝の静かな怒気に押されるように、
 いたるは目を見開き、のけぞる。
「いたる、久弥……こいつは弔い合戦だ。奴らにも同じ目をあわせてやる……
 笑っていられるのも今のうちだ……待ってろ、リーフめ!」

 続く
0035名無しさんだよもんNGNG
「それは本当なのですか?」
折戸倒れる、の知らせを、中上は退社した石川真也からの電話で知った。
「昔からの悪い癖だ。真面目すぎるんだ。雫の時からあいつはそうだった」
石川の声は明らかに不機嫌だ。
「…判りました。心に留めておきます」
「まぁ、会社じゃそこまでしか話せないだろうからな。見舞いには行くのか?」
「…考えて…おきます」
「声が疲れているぞ。自分の心には素直になれ。でないと…」
「でないと?」
「あそこまで強権的な削除ができるほど強いわけでもないだろ?
無理をするな。…次はお前の番になるぞ」
言い終わると、石川は電話を切った。

大阪・北区の病室には、面会謝絶の札が掛かっていた。
「…一体どういうことだ」
予想以上に病状が悪いのか? そんな不吉な予感が中上の頭をよぎった。
通り掛かった医師に、中上は聞く。
折戸の病状はどうなのか、と。
「身内の方ですか?」
「弟です」
とっさにそんな嘘が口を突いて出た。
「そうですか…ではこちらに」
医師は中上を個室に案内した。
0036名無しさんだよもんNGNG
「…命に別状はありません。単なる過労です。ただ…」
「ただ?」
「しばらく無理はできません。…聞けばお兄さんはソフトハウスにお勤めだとか」
「はい」
「ああいう仕事は時間が不規則ですしねぇ。
いっそのこと、仕事を変えてしまってはいかがでしょうか?」
医師の言葉には、明らかに侮蔑の意が込められていた。
中上は、込み上げる怒りを抑えながら言った。
「…それは、兄の本望ではないでしょう」
同時に自分の本望でもない。そう言いたかった。
「まぁ、しばらくは無理はできませんね。呼吸器系統に後遺症が残りそうですから」
「…そうですか」
持っていた小さな包みに目を落とし、中上は自分の無力さを呪った。

「あの」
「なんですか?」
「これを…兄に」
円筒形の小さな包み。紺色の風呂敷に包まれている。
「お見舞いの品ですか。一体これは…」
「開けないでください!」
思わず中上は声を張り上げた。
「君!」
「…そのままで…兄に…手渡して…ください」
「…ここは病院だよ。判っているのかね」
「はい」
「…判りました。お兄さんにはちゃんと渡しておきます」
「…ありがとうございます」

包みの中身は、500枚パックのCD-R、株式会社アクアプラス名義の領収書。
そして、たった一枚の手紙。
『証拠はここにある。
俺にはこれしかできない。
すまない。
          中上』
0037名無しさんだよもんNGNG
インターローグ〜間奏〜

麻枝、久弥、いたる、みきぽん、しのり〜。皆が折戸の病院に集っていた頃、
ただ一人の若者が、keyのスタッフルームで残務整理に励んでいた。
彼の名は戸越まごめ。若いが才気に溢れた野心ある青年である。
彼は繊細な指でキーを軽く叩く。画面が切り替わり、keyみんなの掲示板が現れた。
軽やかなブラインドタッチが次々と表示を替えていく。彼の細い目がさらに狭まった。
「ゴミどもが…。こんなゴミ屑を甘やかすなど、愚かすぎるよ折戸。
奴の二の舞は踏まん…。ゴミには誰が支配者なのか教えこむ
必要がある…」
彼はジャケットの懐から携帯を取り出すと、電話をかける。
「俺だ。ああ、以前言った件だがな。頼むぞ。思いっきりやってくれ、」
「安心しろ、警告メールとかはいかねえよ、何しろ俺が…管理者なのだから」
電源を切った携帯を懐にいれながら、彼は無表情でPCに向かう。
だがモニタに映る戸越の影、その口元は僅かに歪んでいた。
0038名無しさんだよもんNGNG
「どうした? 落ち着きがないぞ」
 高橋に声をかけられて、初めて下川は自分が部屋の中をせわしなく歩き回っていることに気がついた。
「上に立つ者はもっと、構えていればいい。それでは下が不安になるぞ」
「だが… あれは無茶だ。成功するはずがない」
 その返答を聞いて高橋の顔が歪む。
 主語が省略されていたが、何を云わんか理解したのだ。
「外様風情が」
 吐き捨てるように呟く。
 彼は全く持って新参の連中を信用していなかったのだ。
 そして、ただ付いてきただけの烏合の衆(ファン)も。
 だが感情をそれ以上露にしようとせず、下川の耳にそっと吹き込む。
「大丈夫だ。自信を持て。俺たちは負けない」
「本当か!?」
「ああ、俺が今まで負けたことがあったか?」
 後年、述懐される所、『奴の智謀は尽きぬ泉のようだな』と評された高橋の言葉である。下川がいつもの傲慢な表情を取り戻すのに時間はかからなかった。
「それでこそ『下川』だ。取材が入っているのだろう。時間だ」
「ああ、そうだな…」
 退出しようとした下川は扉に手をかけ、振り向きざまに言った。
「高橋、リーフはカイゼルになれると思うか?」
「俺達以外の誰にそれが適えられようか」
 それは95年、阪神大震災で壊滅したリーフ本社でのやりとりの再現だった。
 あのときはただの夢物語だと思っていた。
 だが、それはもう手の届くところに来ている。
 燃え上がる野望は身を焦がさんばかりに。
 あふれる自信は自分をも流しかねない勢いで。

 その日の下川のインタビューは世間に波紋を投げかけることになる。
0039粛清編 1NGNG

 順調とは言えないものの、折戸は確実に快方に向かっていた。
「面会謝絶」の札が下げられた病室のベッドで、
 意識を取り戻した折戸は、首をかしげながら小さな包みを見つめていた。
 目が覚めたとき、「弟さんからのお見舞いの品だよ」と、医師に手渡されたものだ。
 折戸に弟はいない。
 間違いではないかと何度か問いただしたが、
 確かに折戸に宛てられたものだという。
 誰が何の目的で存在しない弟をかたり、この包みを医師に託したのか。
 いくら思案しようとも、中身を確かめない限りは推測の域を出ない。
 恐る恐る梱包をとくと、折戸の目の前に現れたのは、
 500枚パックのCD−Rとアクアプラス名義の領収書、それに一通の手紙である。
 脳裏に、よく見知った男の顔がひらめいた。
 慌てて手に取った手紙は、彼の直感を裏付けるものだった。
「中上……」
 短い文章を読み終えた折戸は、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「ありがとう」
 危険をかえりみない友に、折戸は胸を熱くし、感謝の言葉を漏らした。
 その手紙が彼の形見になることを、この時、折戸は知るよしもなかった……。
0040粛清編 2NGNG
 退院した折戸は、東天満のビルの一室にkeyの面々を集めた。
「みんな、これを見て欲しい」
 そう言って折戸がカバンから取り出したのは、
 積み重ねられた白銀の円盤と領収書である。
「これは?」
 当然の疑問を口にしたのは久弥だった。
 軽くせき払いをした折戸は、
 その場に集まった全員に視線を順に送ると、神妙な面持ちで説明を始めた。
 白銀の円盤はKANONを焼いたCD−Rであること、
 領収書は焼いた際に発行されたアクアプラス名義のものであること、
 そしてこれを持ち出して来てくれたのは中上であること。
 にわかには信じがたい様子らしく、一同は無言で互いの顔を見やる。
 直後、麻枝が沈黙を破った。
「これなら確実にリーフを追い込める。だがその前に、本物かどうか確かめないとな」
 折戸がうなずいた。
 KANONが焼かれているというのは、
 中上の手紙に書かれていただけで、折戸自信もまだ確かめていなかった。
 積み重ねられたCD−Rを一枚だけ抜き取り、ログインを済ませた端末に挿入する。
 ……次の瞬間、折戸たちの表情が凍りついた。
 色鮮やかなモザイクがディスプレイいっぱいに広がり、HDDがけたたましく鳴り始めたのだ。
「これは!?」
 絶叫が交錯した。
「まさか、ウィルス!?」
 異常を察知した折戸が懸命にキーボードを叩いたが、事態はすでに手遅れだった。
 HDDの内容は全て消去され、ディスプレイは鮮血を連想させる深紅で塗りつぶされた。
「……どういうことだ?」
 理解を越えた惨劇に、折戸は視線を虚ろにしながら、キーボードに置いた指を震わせている。
 中上がウィルスを含ませていたのか?
 いや、そんなはずはない。
 あいつが下川たちに協力するはずがない。
 ならばいったい……?
0041粛清編 3NGNG
 同時刻、リーフに出勤した中上を迎えたのは、鋭い眼光で彼を睨みつける高橋だった。
「中上、下川が執務室で待ってるぞ」
 高橋の射抜くような視線に、中上は思わず目を伏せ、冷や汗をにじませた。
 形をとどめない不安が胸を満たしてゆくのを、中上は確かに感じた。
 そしてそれは的中した。
「俺の言いたい事は分かってるはずだ」
「なんのことかな」
 下川の尋問に、中上はできる限り平静を装って答えた。
 下川の表情は、憤怒とも嘲笑ともとれる微妙なもので、
 彼の心を読むことを困難にしている。
「倉庫にしまっておいた例のCD−Rが、領収書と共になくなった。
 お前が持ち出したことは分かってる。素直に吐け」
 CD−Rの持ち出しは完璧だった。
 誰にも気付かれてはいない。
 かまをかけようとしているだけだ。
 中上は自分にそう言い聞かせ、下川を睨み返した。
「なんのことだがサッパリ。最近の専務のお考えは理解に苦しみますな」
「お前が折戸と会っていたことも調べがついてる」
 ……これもはったりだ。
 落ち着け、下川のペースに乗せられるな。
 滑り落ちる冷や汗を背中に感じながら、中上は、乱れそうになる呼吸を必死に整えた。
「そんなに俺を裏切り者扱いしたいのか? リーフのために身を削って働いてきたこの俺を」
「……あのCD−Rにはウィルスしか入ってないぞ」
「!?」
 中上は、突きつけられた衝撃を隠しきれなかった。
「こうなるだろうと思ってな、あらかじめ中身をすり替えておいたのだ。
 今ごろkeyは大騒ぎだろうな」
 驚愕に打ち震える中上をあざ笑うように、下川は口元の両端を吊り上げた。
「残念だよ、中上。お前の才能は買っていたのにな。こんな形でお別れになるとは」
 下川は、ゆったりとした動きで、黒光りする物体をスーツのポケットから取り出す。
 それは、中上の見間違いでなければ、日本で一般人が手にできるものではなかった。
0042粛清編 4NGNG

「その様子だと、本物を見るのは初めてだな。
 これはベレッタと言ってな、あるルートから手に入れた代物だ。
 せいぜい苦しまないように祈るんだな」
 下川はセーフティを解除すると、スライドを引き、薬室に弾丸を送り込んだ。
 消音器を備えた銃の断面を中上に向け、グリップを握る右手に左手を添える。
「あばよ、中上」
 陳腐な別れの言葉を告げると、下川は人差し指に力を込め、トリガーを絞った。
 乾いた音が、執務室に響き渡った。
 鮮血が宙に踊り、床に敷き詰められた絨毯を赤く染め上げる。
 中上が、鈍い絶叫を上げながら前のめりに倒れた。
 胸部に開いた小さな穴から、生き血が滝のように溢れ出し、
 中上の意識を奪い去ってゆく。
 意識と現実を繋いでいた五感が、徐々に失われてゆく。
 指先が冷たい。
 心臓の脈動が弱々しい。
 見えていたものが見えなくなり、聴こえていたものが聴こえない。
 深遠なる闇の底で、死神が薄く笑いながら手をこまねいている。
 ……これが、死という感覚なのか?
 すまない、折戸。
 最後の最後で足を引っ張ってしまって。
 償いにもならないだろうが、
 下川の野郎が早く逝っちまうよう、閻魔様に直訴してみるつもりだ。
 もし、生まれ変わって出会う機会があったら、好きなだけ俺を殴ってくれ。
 本当にすまない。
 だけど、これだけは信じてくれ。
 俺は、誰よりもお前のことが好きだった。
 情熱を燃えたぎらせた瞳、何者にも屈しない勇気、
 成功に向けた日々の努力、そのどれもが俺を魅了してやまなかった。
 できることなら、もう一度、お前と仕事をしたかった。
 すまない、折戸……。

 続く
0043名無しさんだよもんNGNG
このへんまでは、わりと面白かったよなー
0044名無しさんだよもんNGNG
激震編は〜?
あれが好きなんだよもー(笑)
0045激震編 1NGNG
 1999年12月。
 年の瀬を迎え、人々は来るべき新たな年に想いをはせていた。
 それはリーフとて例外ではなく、策謀をめぐらせていた下川も、
 今月ばかりは忘年会の準備に余念がなく、いつになく胸を弾ませている。
 しかし、彼は知らない。
 地殻変動にも似た衝撃が、まもなくエロゲー業界を揺るがすことを。

 始まりは、リーフに届けられた一通のメールだった。
 内容は、痕の盗作を糾弾し、web上での謝罪を求めるもので、
 同じようなメールは過去に何度かあった。
 その都度、下川は黙殺を支持し、告発を受け、
 紙面で取り上げようとした、良識のある出版社にも圧力を掛け、
 盗作の事実を闇に葬ってきた。
 1999年末に届けられたそのメールも、やはり黙殺され、
 web管理者のため息と仕事をひとつだけ増やしたに過ぎない。
 しかしその後も、前例を破るように、
 盗作を糾弾するメールは次々と届けられ、
 衰えるどころか、日に日にその数を増してゆく。
 一般のサイトにも、リーフを非難し、真相の解明を求める声が上がり始めた。
 波紋はとどめなく広がり、信者の集会場である公式掲示板にも盗作の文字が踊る。
 震源は、容易に特定できた。
 匿名掲示板として悪名を轟かす2ちゃんねるである。
 98版が発売された当時と違い、今はインターネット全盛期である。
 くすぶっていた残り火は、
 至尊の冠を戴くリーフを焼き尽くさんばかりに燃え上がったのだ!
「どうする、下川?」
 執務室のデスクでほお杖をつく下川の顔を覗き込むように、高橋が問いただした。
 ここまで騒ぎが大きくなったからには、黙殺では済まされない。
 それゆえに、消火の方法を誤れば、
 リーフの存亡に関わる大火となるかもしれないのだ。
 閉じていたまぶたをゆっくり開くと、下川は豊かな黒い髪をかきあげ、
 やや覇気を欠く瞳で床を見つめながら呟く。
「仕方ない、徹底抗戦だ」
 下川は青紫を呼びつけると、
 ひとつのアイディアを授け、自分のケツは自分で拭くよう命じた。
0046激震編 2NGNG
 同時刻、東天満のビルの一角では、ほくそ笑む男女の姿があった。
「今ごろリーフは大慌てだ。いい気味だな」
 指先を唇に当てながら薄く笑ったのは麻枝である。
 彼の右手には、一冊の小説が収められている。
「しかも、謝罪するどころか、シカトを決め込んでやがる。
 自分の評判が落ちるだけなのにな」
 星新一のショートシナリオ集をめくりながら、麻枝は吹きだしそうになるのをこらえている。
 いたると久弥も、下川の慌てふためく姿を想像し、苦笑する。
 パソコンのモニターと向き合いながら、折戸が同僚をたたえる。
「それにしても、絶妙のタイミングだ。麻枝の戦術眼には恐れ入る。
 コミパがこけた上に、同人からの撤退を宣言し、
 リーフの評判が落ちてきたところで今回の盗作騒動。完璧じゃないか」
 麻枝は、当然だと言わんばかりに口元を緩める。
 下川や高橋は知るよしもないが、
 2ちゃんねるで盗作騒動を起こしたのは、他ならぬ麻枝である。
 テレホタイムを見計らい、リーフに反感を抱く厨房をけしかけたのだ。
 デジフェス以来、常にリーフに遅れをとってきたkeyが、
 初めて先手を打つことに成功した瞬間であった。
 2ちゃんねるに目を光らせていた折戸が、顔をしかめる。
 信者と思われるドキュンが、リーフを擁護し始めたのだ。
「確かに盗作だ。だけど、著作権の侵害は親告罪だ。
 著作権者が訴えない限りは問題ない。外野が文句を言うのはおかしい」
 折戸は向き直り、麻枝と視線を交錯させる。
「どうする? こんな馬鹿がいるが、放っておくわけにもいくまい」
 信者というのは、常に自分に都合の良い部分を拡大解釈する傾向がある。
 作者が訴えなければ問題なし、などと言わせておけば、それを信じ込む恐れがある。
 麻枝は視線を斜め上に向け、なにやら思案を巡らせ始めた。
 数秒後、視線を水平に戻し、瞳に光をひらめかせる。
「そうだな、よし、イシカワ」
 麻枝の指先には、一人の青年の姿があった。
 名をイシカワタカシと言い、
 ライターとしての実力を認められ、keyに加わった男である。
「なんですか?」
 先輩に名指しされ、イシカワが恐る恐る問いただした。
「なあに、簡単なことだ。俺の言う通りにやればいい」
0047激震編 3NGNG
 盗作が発覚してから7度目のテレホタイムを迎えた2ちゃんねる。
 盗作ネタは衰えることを知らず、原爆を思わせる熱とエネルギーを収斂させている。
 善良な2ちゃんねらーを今夜も辟易させているのは、キチガイ信者の妄言である。
「確かに盗作だ。だけど、著作権の侵害は親告罪だ。
 著作権者が訴えない限りは問題ない。外野が文句を言うのはおかしい」
 壊れたテープレコーダのように、また呪文のように繰り返されるその言葉は、
 尋常ならざるものを感じさせ、住人を恐怖に陥れている。
 ネタや煽りだとしても、猿のようにコピペを繰り返すその姿勢は、
 やはり嫌悪と恐怖の対象でしかない。
 そんなキチガイ信者に強烈な一撃が加えられたのは、
 テレホタイムに入ってから2時間ほど経ってからのことである。
「僕にはIPが見えます。ここでリーフを擁護してるのはリーフの社員です」
 キチガイ信者はひるまなかった。表向きには。
「ハァ? IP馬鹿氏ね!」
 内心で動揺しながら、キチガイ信者――を装っていた社員は、懸命に煽り返した。
 IPなんて見えるはずがない、ハッタリだ。
 自分にそう言い聞かせながら、高鳴る心臓の鼓動を抑えるように、胸に手を当てた。
 過剰ともいえる反応ぶりに、煽った男は確信した。
 こいつは間違いなくリーフの社員だ、と。
 煽った男の名はイシカワタカシ。
 麻枝の特命を受け、盗作騒動に参戦したのだ。
0048激震編 4NGNG
「盗作リーフ最低!」
「高橋は責任とって辞任しろ!」
「リーフが訴えられてるらしい」
 自作自演を交えながら、イシカワはリーフの社員を煽る。
 それに対する社員の反応も素早い。
「盗作って言う奴は全員アンチ!」
 イシカワは一呼吸おいたが、弾劾の手を緩めようとはしない。
「青紫氏ね!」
 その一言に、社員は特に敏感に反応した。
「青紫は悪くない! これはパロディだ!」
 猛烈な反撃を見せる社員は、まいた種は自分で刈り取るよう命じられた青紫であった。
 糾弾の雨に打たれながらも、
 なんとか自分の名誉――本人はあると信じている――を回復しようと、
 不眠不休で消火活動にあたっているのだ。
「いい加減にしないと名誉毀損で訴えられるぞ!」
「盗人猛々しいとはこのことだ。社員氏ね!」
 イシカワと青紫の煽りの応酬は熾烈を極めた。
 コピペが乱舞し、罵倒の嵐が吹き荒れる。
 レスは秒刻みの速さで、頭に上る血は分刻みで沸騰する。
 白目が充血し、キーボードを打つ指が震える。
 吹きだされた肺活量いっぱいの鼻息は白く、ディスプレイを曇らせる。
 汗はにじみ出た瞬間に気化し、体温を一瞬だけ下げる。
 午前7時55分。
 数時間にわたる熱戦は、テレホタイムの終了と共に幕を閉じようとしている。
 カキコした本人も予想しえなかったことではあるが、
 イシカワの捨て台詞が、青紫の心を激しく切り刻んだ。
「青紫にライターとしてのプライドはあるのか!?」
 ……プライド?
 その言葉が意味するところと、その言葉に込めた想いが、青紫の胸を締め付けた。
 プライド。
 最後に口にしたのは、はたしていつのことだったか。
 淡い思い出と、それに付随する感傷が、青紫の心の空白を埋めてゆく。
「プライド……」

 午前9時半。
 出勤したばかりの下川は、あわただしく行き交う社員の姿に目を細めた。
 高橋が息を弾ませながら、おぼつかない足取りで専務の側に駆け寄ってくる。
「どうした、何があったんだ」
「あの馬鹿がこんなものを……」
 肩で息をしながら高橋が手渡しのは、一通の書置きだった。
「しばらく旅に出ます。探さないで下さい」
 複雑に絡み合う心情を込めた手紙の署名は、青紫のものだった……。
0049旅情編 1NGNG
 東京発盛岡行き、やまびこ112号。
 日本列島を南北に貫く東北新幹線。
 一通の書置きを残してリーフを飛び出した青紫は、
 四角い窓の向こうに広がる風景に想いをはせていた。
 晴れ上がった空の青と、降り積もった雪の白が、
 鮮やかなコントラストをなして視界に飛び込んでくる。
 いつか見た、記憶の底に眠る情景。
 無邪気に雪路を駆け回り、天を覆う分厚い雲を仰ぐ少年の姿。
 コタツで身体を丸めながらミカンを頬張り、
 くだらないテレビ番組を眺める家族の笑顔。
 もう何年も会っていない。
「頑張ってね、くじけちゃダメよ」
 不意に、大切な人の言葉が脳裏によみがえる。
 暖かく、慈愛に満ちた声が、涙腺を刺激し、涙がこぼれそうになる。
 抱きしめて欲しい。
 なぐさめて欲しい。
 何度そう思ったことか。
 しかし、自戒が足かせとなり、彼の脚を故郷から遠のけてきた。
 錦を着て帰ってくると誓ったあの日。
 涙と笑顔の入り混じった表情が忘れられない。
 車内アナウンスが、まもなく終点に到着する旨を伝える。
 雪化粧をした盛岡の街並みは、5年前と変わらぬ姿で青紫を迎えた。
0050旅情編 2NGNG
 青紫は駅の構内でタクシーに乗り込むと、
 岩手の外れに位置する街の名前を告げた。
 久しぶりにつむぎ出されたその言葉は、青紫に言い知れぬ懐古の念を呼び起こす。
 とうとうここまで来てしまった。
 理由を話したら、さぞかし落胆することだろう。
 自慢の息子が、卑劣な行為に対する弾劾から逃れるために帰って来たのだから。
 一時間ほど走ったところで、周囲の風景から、無機質なビルの群像が消え、
 地平線の彼方まで広がる白銀の田畑がとって代わった。
 行き違う車の数は極端に減り、辺りは寂しさを増すばかりだ。
 どこまでも青かった空が、厚く広い灰色の雲に覆われた。
 純白の粒子が、ゆらゆらと舞い降りる。
 多彩な幾何学模様を描く結晶を脳裏に浮かべながら、
 青紫は天使の乱舞を見つめた。
 愚劣な逃亡者である自分と対比せずにはいられない。
 処女雪のまぶしい白が、暗い情念がよどむ瞳の網膜に焼きく。
 後部座席に腰を掛けていた青紫の身体が、前のめりになった。
 目的地に到着したのだ。
 夏目漱石の肖像が描かれた紙幣を六枚渡し、
 青紫は、アスファルトに降り積もった雪を踏みしめた。
 眼前に広がるのは、青紫が愛情を注がれながら育まれた、彼の生家である。
0051旅情編 3NGNG
 針葉樹の門構えと、2メートル半はあろうかという、敷地をぐるりと囲う塀。
 木枯しが吹きつけるその門の奥には、
 青紫が会うことを渇望してやまなかった人がいる。
 旅立ちの日。
 青紫は胸を張りながら、母に誓った。
「かあちゃん、俺、成功するまでは絶対に帰らない。
 十年かかっても、二十年かかっても、必ず成功してみせる。
 だから、かあちゃんも、その時まで待っててくれ」
 母は、無言のまま青紫を抱きしめ、息子の決意に応えた。
 しかし今、その誓いは、五年も経たずして破られようとしている。
 荒波に揉まれ、心身とも衰弱の極みにある青年は、
 唇を震わせながら呼び鈴に手を伸ばす。
 人差し指の先がボタンに触れる直前、懐かしい声が塀越しに聴こえ、
 薄れていた青紫の意識を覚醒させた。
「それでね、息子が言ったの。俺は成功するまで帰らないって。
 涙が出そうだったけど、なんとかこらえて抱きしめたの。
 つらいけど、親が笑顔で送り出さなきゃ、心配で仕事なんて手につかないでしょ。
 息子は今ごろ、必死にかんばってるはずよ。
 そしていつか、満面の笑みで戻ってきてくれるわ」
 涙腺のバルブが決壊した。
 蓄積されていた涙が、熱い雫となってあふれ出し、頬を伝う。
 足下の雪が熱で溶け、舞い落ちる粒子に埋められてゆく。
「かあちゃん、俺、疲れたよ……」
 青紫は独語すると、きびすを返し、あてもなく歩き出した。
0052名無しさんだよもんNGNG
宇陀児の章〜狂気と天才の狭間にて〜

leaf、その巨大な斜陽の帝国の一室にて、椅子に掛けた一人の男が宙を睨んでいた。
口は半開き、その唇の先からは涎が溢れ、目は円く虚ろに魚類を思わす
不気味な眼光を放つ。その姿はまさに「狂人」以外の何物でも無い。
だが、かの男、彼こそがleafで高橋に匹敵する才を持つといわれる、
シナリオライター「原田宇陀児」その人であった。
宇陀児の手が持ちあがり、キーボードの上に置かれる。
そのまま宇陀児の指がキーをまるでピアノの演奏でもするかのような
流暢かつ滑らかな動きを見せ始める。
だが相変わらず、宇陀児の目は宙を泳いだままだ。
原田宇陀児…彼のトランス状態における自動筆記こそが、その
悪夢的、または芸術なる狂気とも評されるシナリオを産み出しているのだ。
0053名無しさんだよもんNGNG
宇陀児の章〜狂気と天才の狭間にて〜

宇陀児の指はかろやかに動き続ける。まるで永遠に続く、
メビウスラインのように。
だが突如その指が止まった。
「青紫が逃げたってよ」
「当然だな、あんな屑野郎」
外から聞こえた人声に宇陀児の身体が突如硬直する。
その腕が突然、空に伸ばされ、醜く引きつるように歪む。
片足がまるで棒にでもなったように硬直し、もう片方の足が
引き攣りを起こす。
その口は大きく開けられ、口内に見える赤い咽頭を震わす叫び声が漏れた。
「シェー!!」
部屋の外にいたスタッフが叫び声を聞き、慌てて入ってくる。
「ちっ、宇陀児さんがまた発作を起こしたぞ!」
「俺、高橋さんを呼んでくるよ!」
宇陀児は自らの中に心の病、精神分裂病と、
それに付随する病、緊張病、躁鬱病を抱えており、
ときおり発作を起こすことがあった。
0054名無しさんだよもんNGNG
宇陀児の章〜狂気と天才の狭間にて〜

取り急ぎ部屋に掛けつけた高橋は緊張病の発作を起こした宇陀児を
抱き起こすと、懐から取り出したアンプルを手際よく注射する。
虚ろだった宇陀児の目に僅かに光が灯る。
高橋は宇陀児に語りかける。

「大丈夫か?」

だがその言葉に対する返答は高橋の予想もだにしなかった言葉だった。
「…タカハシ…ミナツキ…ボクハウラギリモノヲユルサナイヨ…リイフハボクノ
アカイアカイチトトモニアル…ククククク…アカイ…アカイ…アカイ…」

宇陀児は注射…強力な鎮痛剤であるノタリンの効果でまたすぐに気を失った。
高橋は青ざめた顔で呆然と立ち尽くしていた。
(馬鹿な…こいつが…こいつが俺達のleaf退社&独立計画」のことを知るはずが無い…
偶然だ、偶然に決まっている。狂人は時折、普通の人間では考えられないような
脅威的な勘の良さを見せるというではないか。だいたいこいつがここにいられるのも
俺が精神病院に幽閉されていたこいつの文才を見こんで拾ってやったからだ。
こいつが、宇陀児が俺を裏切る訳はない。ないとも…)
だが高橋の理性の声とは裏腹に、本能が危険を告げていた…
宇陀児にこれ以上関わってはいけないと…

0055狂気編 1NGNG
「分かったぞ」
 部下に青紫の行方を調査させていた下川が叫んだ。
「どこだ?」
 眠気まなこを擦りながら、高橋が視線を専務に転じた。
 彼はここ数日、青紫の行きそうな場所に網を張り、
 睡魔と闘いながら、雑多な報告を整理していたのだ。
 携帯電話を握り締めながら、下川が唇を噛む。
「岩手……青紫の実家だ」
「そうか、俺は飛行機を手配する。お前は実家に連絡して、青紫の所在を確かめてくれ」
 下川は社員名簿をめくり、青紫の実家の番号をダイヤルする。
 彼の母と思われる女性が電話口に出た。
 事情を説明したが、青紫は帰ってきていない、
 それどころか、連絡ひとつよこしていないという。
 期待を裏切られ、苛立ち気味に電話を切ると、高橋が駆け寄ってくる。
「タクシーを呼んだ。空港に急ぐぞ」
 下川が財布の中身を確かめ、高橋と共にエレベーターに向かうと、
 弱々しい声が彼らの足を止めた。
「マテ……ボクモイク……」
 聞き慣れた響きに、二人は戦慄を覚えた。
「ボクハウラギリモノヲユルサナイ……ゼッタイニ……」
 精神病院に強制送還されたはずの宇陀児が、
 刃のような光を瞳に揺らめかせながら、狂気に満ちた視線で二人を射抜いた。
0056狂気編 2NGNG
 下川はつばを飲み込み、懸命に声帯を震わす。
「宇陀児、おまえ、どうして?」
「イッタダロウ……ウラギリモノハユルサナイト……アオムラサキヲ……」
 宇陀児はそこまで言ったところで白目をむき、全身をけいれんさせた。
 続いて口から白い泡を吹き、無秩序なステップを踏み始めた。
 頭と手足は不規則な軌跡を描き、豊かな髪が激しく乱舞する。
「オレハテンサイ……ソウ……テンサイダ……
 リーフハオレノモノ……リーフヘノウラギリハオレヘノウラギリ……」
 これは精神分裂病に特有な症状だなと、高橋は思った。
 自我が肥大化し、現実と妄想の区別がつかない。
 アイデンティティが混乱し、過度の被害妄想に捕らわれる。
 強迫観念、離人症、果ては解離性障害……。
 この男とは、早いうちに手を切らなければいけない
 ――もっとも、精神病院に隔離されていた宇陀児を解放したのは、当の高橋なのだが。
 しかし、ここで逆らってしまえば、どんな奇行に走るか分からない。
 宇陀児の周囲には、凶器となりうるものが散乱している。
 デスク上に無造作に置かれたナイフ、給湯室のまな板に投げ捨てられたままの包丁。
 昔から言うではないか、キチガイに刃物、と。
 宇陀児を第二のネオ麦茶にしてはならない。
 下川に視線を送ると、彼もそう考えたらしく、黙ってうなずいた。
 下川と高橋は仕方なく、よだれを滝のように流し、
 恍惚を極めたかのような表情を浮かべる宇陀児に肩を貸すと、
 タクシーに乗り込み、空港に向かった。
0057胎動編 1NGNG
 高度一万メートルの上空。
 見下ろせば、日本アルプスの峰が、
 白い雲を突き抜けてその端麗な顔をのぞかせている。
 地上と同じ気圧が保たれた機内では、窓際の席に、下川ら3人が座していた。
 不眠不休で調査にあたってきた下川と高橋は、
 少しでも休息を取りたいところなのだが、
 ところかまわず現れる宇陀児の性癖が、2人の睡眠欲をそいでいる。
 ざわめきと交錯する視線。
 フライト・アテンダントや他の乗客の蔑視の視線を独占しているのは、
 宇陀児が愛撫する森川由綺の1/8フィギュアである。
 宇陀児は、瞳をうるませながら呟く。
「ユキ……オネガイダ……オレヲミステナイデクレ……」
 涙腺からあふれた涙が、滝となって降り注がれる。
「オレハオマエガイナイトダメナンダ……ヒトリニシナイデクレ……」
 粘性に富んだ鼻水と唾液が、あごを伝ってしたたり落ちる。
「ナニガイケナカッタンダ……オシエテクレ……」
 宇陀児は小さな奇声を発し、前方の座席の背もたれに額を打ち始めた。
 彼の意識の中では、等身大の森川由綺が宇陀児を拒んでいるのだろう。
 瞳を濁らせる宇陀児の脳裏に、別の女性の姿が浮かび上がった。
0058胎動編 2NGNG
「ソウダ……リナ……ユキヲセットクシテクレ……オマエナラデキル……」
 震える手をカバンに伸ばし、緒方理奈のフィギュアを取り出す。
「イッショウノオネガイダ……タノム……」
 左手に森川由綺を、右手に緒方理奈を乗せながら泣きわめく宇陀児を、
 下川と高橋はため息まじりに見つめている。
 完璧な人間などこの世にはいないのだなと、高橋は改めて考え込む。
 特定の分野に天賦とも言える才能をもつ者は、
 他の部分、特に性癖に異常が見られる傾向がある。
 民族統一を成し遂げた偉大な皇帝、
 斬新な手法と奇怪な表現で輝かしい業績を残した画家、
 品のない言葉を連呼する作曲家……。
 どうやら、精神病院に隔離されていた宇陀児も例外ではないらしい。
 もっとも、それが妄想の範疇にとどまっている限りは構わないのだが。
 機内アナウンスが流れ、シートベルトの着用を促すランプが点灯した。
 フライト・アテンダントが、通路を歩きながらシートベルト着用の有無を見てまわる。
 機体が傾き、身体に加わる重力が微妙に変化した。
 午後3時58分。
 下川たちは、青紫がいるであろう岩手の地を踏んだ。
0059名無しさんだよもんNGNG
なんだか、殺意の波動に目覚めたリュウ
みたいだなー>宇陀児
0060胎動編 3NGNG
 午後5時07分。
 降りしきる雪のなか、青紫はあてもなく歩き続けていた。
 苦悩を母に打ち明けるつもりで帰郷した青紫だが、
 その思いは叶わず、彼は今、絶望という名の崖に立たされている。
 頭に積もった粉雪を振り払うこともなく、
 ただふらふらとさまようその姿は、夢遊病者の徘徊を連想させる。
 人とすれ違うたびに向けられる好奇の視線。
 侮蔑の意に満ちたささやき。
 しかし、薄弱した青紫の意識野でそれをとらえることは困難であった。
 とらえたとしても、意に介さなかったであろう。
 青紫の視界の隅に、見覚えのある公園が映し出された。
 悪友と、親に黙って秘密基地を作ったり、
 泣きじゃくりながら喧嘩を繰り返した、思い出の公園。
 彼らは今、どこで何をしているのだろう。
 不器用ながらも真面目に仕事をこなし、
 一人前の社会人として認められつつあるのだろう。
 そして家庭を築き、ささやかな幸福を楽しんでいるに違いない。
 吐き出した息は白く、白銀の世界に溶け込んでゆく。
 青紫は凍える脚にムチを打ち、公園の敷地に歩を進める。
 色とりどりの建造物は雪に埋もれ、
 記憶の底に沈んだ情景と重ねることは出来ない。
 ブランコに歩み寄ると、積った雪を払い、横木に腰を下ろした。
 長すぎる脚で大地を蹴り、鎖を前後に揺らす。
 鼓膜を打つ無機質な金属音は、聴覚に残響する音声と共鳴し、
 セピア色の日々を回想させる。
 天を仰ぐと、幾重もの灰色の雲が、重厚な量感をもって視界に飛び込んでくる。
 今夜は吹雪になりそうだ。
 手足の指先や頬は凍りつき、感覚を失い始めた。
0061胎動編 4NGNG
「このまま死ねたら……」
 その言葉が意味するところを悟り、青紫はかぶりを振る。
 しかし、いくら負の思考を振り払おうとも、
 帰る場所が無いという事実までは否定できない。
 生き延びて、その先に何があるというのだろう。
 もしかしたら、何も無いのかもしれない。
 ……不意に、意識が薄らいだ。
 気温は零下であるのに、身体の芯はなぜか温かい。
 眠りの神であるヒュノプスが、甘くささやきかける。
 まぶたが重い。
 あごも満足に動かせない。
 視界に、薄暗い幕が下ろされた。
「俺は、死ぬのか……?」
 不吉な予感――限りなく確信に近い予感が、
 弱々しい炎となって意識野を焼き尽くそうとしている。
 全身から力が抜け、前のめりに倒れようとした瞬間、
 暴風が、意識野を占める炎を吹き消した。
「青紫!」
 懐かしい怒号が、風前の灯火であった青紫を覚醒させた。
0062胎動編 5NGNG
 声の音源に向き直ると、一台のタクシーと、
 そこから飛び出してくる人の影が見えた。
「青紫、探しだぞ」
 白い息を弾ませながら、下川と高橋が駆け寄ってきた。
 突然の出来事に、青紫は、目をまるくして二人の姿を凝視する。
「こんなところでなにやってるんだ、凍え死ぬぞ」
 下川は怒鳴り散らしながら、厚手のジャンパーを青紫の肩にかけた。
「二人とも、どうして?」
「決まってるだろ、おまえを連れ戻しに来たんだ」
 青紫の素朴な問いに、高橋が明確に答えた。
 意外だった。
 足を引っ張ってばかりの自分のもとへ、遠路はるばるやって来るとは。
 下川と高橋の暖かい一面を見た青紫は、
 二人に対する評価を少しだけ修正した。
 ゆったりとした間隔で聴こえてくる足音に、青紫は眉をしかめる。
 もう一人いる。
 下川と高橋の合間から顔をのぞかせると、
 狂人と変質者の汚名を着せられた男が、
 口元の両端を吊り上げながらこちらを見つめていた。
「ミツケタゾ……アオムラサキ……」
0063雪見編 1NGNG
 降り積もった雪に身体を沈める高橋たちを、
 下川は満足げに見下ろしていた。
 リーフの専務は、あるシナリオを脳裏に描き出している。
 精神病院から脱走した宇陀児が、
 長い旅路の果てに高橋と青紫を襲い、自らも倒れる。
 吹きつける雪に体温を奪われ、純白のベールに包まれながら、
 誰にも知られることなく、3人は息を引き取る。
 高橋と宇陀児は手元に残しておきたかったが、この際はやむをえまい。
 リーフに必要なのは、従順な飼い犬であって、自我をもった狼ではない。
 頭と肩に積った粉雪を払うと、下川は薄く笑い、公園をあとにした。
 残された高橋たちを覆う、真紅と純白のコントラストをなす雪は、
 返り血を浴びた白装束を想わせる。
 鮮血は白銀の世界にまぶしく映え、
 新雪は人々のため息を溶かし込むほど深い。
 吹きぬける風は、命の灯火を吹き消す死神の息吹さながらに冷たい。
 白く染め上げられた無音の世界に、冥界への門が開かれつつあった。
 しかし高橋は、残された気力と体力をしぼり出すように、
 両足を震わせながら立ち上がった。
0064雪見編 2NGNG
 焦点の定まらない視線を辺りに泳がせる。
 下川の歪んだ笑顔は見あたらない。
 すぐに死ぬだろうと考え、姿を消したのだろう。
 宇陀児もうつ伏せになったままで、起き上がる気配はない。
 高橋はそばに倒れる青紫を認め、
 片膝をつくと、抱き起こし、頬を平手で打つ。
「青紫、しっかりしろ」
 懸命に叫び、冥府の門をくぐろうとしてる友の痛覚と聴覚に訴える。
 皮膚は互いに凍りついており、
 頬を打つたびに、結晶化した雪が悲鳴をあげる。
 青紫が、赤味を失った唇を震わせながら、かすかにまぶたを開いた。
「やっと気がついたか、早く起きろ」
 高橋の吐いた安堵のため息は、白く流れ、雪原を滑る氷河を思わせた。
 上半身をゆっくりと起こした青紫に、高橋が手を差し伸べる。
「さあ、帰ろう。帰るといっても、もうリーフには戻れないがな」
 青紫は答えず、無言でうつむいた。
「どうした、早くしないと、本当に凍え死ぬぞ」
 青紫は、暗い光をたたえた瞳で戦友を見上げると、
 すぐに視線を落とし、呟く。
0065雪見編 3NGNG
「高橋さん、僕、もうこの業界でやっていく自信がありません」
「盗作のことか、それだったら、おまえが気に病むことじゃない。
 あれは確かに盗作で、それを見抜けなかった俺にも責任はある。
 だが、著作権の侵害は親告罪なんだ。権利者が訴えなければ問題はないんだ」
 柔らかい視線で、高橋は自分の手を取るよう促す。
「俺と一緒にやり直そう、俺はおまえの本気を知っている。
 痕を製作していた当時、アクアは倒産寸前だった。
 一刻も早くマスターアップしなければならなかった。
 そんな中で、お前はアクアのことを考え、誘惑に負けてしまった。
 ただそれだけのことだ」
 熱のこもった説得は続く。
「じつはだな、これは下川も知らないことなんだが、
 俺と水無月は独立を考えてる。時期は、来年の夏をめどにしてる。
 どうだ、お前も参加しないか? きっと楽しいぞ。
 口うるさい下川もいない、気の触れた宇陀児もいない。
 存分に実力を発揮できるはずだ」
 精気を失った瞳に、涙の粒が浮かび上がった。
「高橋さん、どうして僕がリーフに入社したか、知ってますか?」
「どうしたんだ、急に」
0066雪見編 4NGNG
 こぶしを握り締めた青紫は、凍りついた頬を紅潮させながら、
 胸のうちに秘めた思いを吐き出し始めた。
「僕が高橋さんのことを知ったのは、雫をプレイしてからです。衝撃を受けました。
 とにかくエロければ売れたあの当時、端麗な文章と緻密な構成力は、
 まさしく新たな時代の幕開けを告げるものでした。
 そんな高橋さんに憧れ、僕はリーフに入社したんです」
 青紫の独白は止まらない。
「そして痕で、僕は高橋さんからおまけシナリオを任せれました。
 入社したばかりの僕に、おまけとはいえ任せてくれるなんて、
 本当に嬉しかったです。ぜひとも期待に応えなくちゃって思い、一生懸命頑張りました。
 だけど、一向に納得のいくシナリオは出来ませんでした。
 締め切りも近づき、どうしようかと焦りだしました」
 視界に踊る粉雪の密度が増した。
「できれば知りたくなかった。だけど、僕は知ってしまったんです。
 締め切り直前の夜、パソコン通信のフォーラムで、
 雫のパクリが暴露されていたことを……」
 雫のライターが、ゆっくりとまぶたを下ろした。
0067雪見編 5NGNG
「ショックだった。憧れの高橋さんが大槻ケンヂをパクっていたなんて。
 それも、一部を流用したんじゃなくて、肝心なところを丸まる……」
 あふれた涙は、熱湯の滝となって積った雪を溶かしてゆく。
「僕だって開発者のはしくれだ。成功して有名になりたい。
 みんなに誉めて欲しい。だけど、肝心のシナリオは全くうまくいかない。
 パソコン通信のフォーラムを見終わると、星新一のショートシナリオ集が目に留まった。
 悪魔に誘われるように、ぱらぱらとページをめくると、
 ちょうどよさそうな短編が目に止まった。
 まるごとパクったって、エロゲーオタクには分かりっこない、そう考えた」
 青紫が叫ぶ。
「高橋さんはパクリで有名になった。僕だって、有名になりたかったんだ!」
 積年の想いを吐き出し終えた青紫は、生れ落ちたばかりの乳児のように泣き出した。
 高橋は絶句し、悲しみに打ち震える青年を凝視する。
 こぼれ落ちる涙をぬぐいながら、青紫は声を絞り出す。
0068雪見編 6NGNG

「だけど、それは違った。
 ライターとしてのプライドを捨ててまで有名になるなんて、絶対に間違ってる。
 僕は2ちゃんねるで煽られて、初めてそのことに気付いたんだ。
 僕はもう、過去を振り返らずに生きることは出来ない。だから……」
 凄惨な心情の吐露は、明らかに高橋への非難を含んでいた。
 しかし、暗に非難された当人は、反論するどころか、
 青紫から視線を静かにそらし、うつむく。
 そして視線を戻すと、寒さを忘れて震える青紫の前に片膝をついた。
「すまない、お前がそんなに辛い思いをしていたなんて、少しも気付かなかった。
 今さら言っても仕方のないことだが、頼るあてもなく伊丹に出てきたお前に、
 もう少し気を配ってやれれば……本当にすまない」
 天を覆う灰色の雲が、いっそう厚みを増した。
 風に揺られながら舞い降りる処女雪が、二人を隔てていた溝を埋めてゆく。
 雲の切れ目から、一筋の月明かりが射し込んだ。
 純白の妖精が、光と風のワルツを奏で、
 白銀の世界を包む穏やかな歌声が、凍りついたわだかまりを溶かしてゆく。
 視線を合わせ、無言で立ち上がろうとする高橋と青紫を戦慄させたのは、
 白銀の世界を黒く塗りつぶさんばかりに暗い、狂気に満ちた響きだった。
「くだらない……本当にくだらない喜劇だ……」
 乾いた血を舐めとりながら、宇陀児が静かに立ち上がった。
0069名無しさんだよもんNGNG
西暦1999年、初秋、大阪某所

『全く、どうなってるんだ!!』
ガン!
静かなビルの一室に突如激しい物音が木霊した。
「どうしたのTADA君、今日は珍しく荒れているじゃない」
『ああ、とりか』
TADAと呼ばれる男は、ため息と共に傍に寄ってきた「とり」と呼ばれる
女性の名を呼んだ。
『どうしたの?』
再度、とりはTADAに問い掛けた。
『最近、この業界は誤った道を進んでいると思わないか?』
「誤った道?」
『最近の体たらくぶりと言ったらどうだ、感動するだ泣けるだと言って
すっかりエロがおろそかになっちまってる。』
TADAは憤りと共にその言葉を吐き出した。
『まるで、牛丼の牛抜きだ。全く味気が無い。これでは何のためのエロか?
何のための18禁か?』
「その風潮の原因はやっぱり・・」
『Key!・・・、そしてLeafだ。』
TADAが苦々しい口調でとりの言葉を継いで言った。
『去年から、兆しは見え始めていた。だが、決定的となったのはこのあいだ出た
KANONだ。そこから業界は狂っちまった。』
「ええ、それは私も感じていたわ。たしかに最近、安易な感動作、安っぽいシナリオ
つまらないノベル・・・おそまつなゲ−ムが増え始めている。」
『そして、府抜けちまった音楽もだ!』
突然有らぬところから声がした。
「誰?」

つづく・・・
0070名無しさんだよもんNGNG
「誰?」
とりが、その声の主に声をかけた。
『おっと、悪い悪い、盗み訊きをしていた訳じゃないが、何とはなしに話し声が
聞こえていたのでな。』
「なんだ、Shadeか」
『なんだとは、随分とご挨拶だな。』
つっけんどんなやり取りではあるが2人の仲は別に悪くはない。
『ふむ、そうか、やはりお前もそう感じているか』
『ええ、部長。俺も最近の音楽のワンパターン化、感動一直線な路線には辟易と
していたところです。』
Shadeは、わずかに口を歪めてそう言った。
『魅せてこその音楽、燃えてこその音楽、楽しませてこその音楽、
CD-DAだけが能じゃない、効果音までもが一緒になってゲームを突き動かす。
それが音楽だ。』
淡々としゃべってはいるが、その声には熱意がこもっていた。

『音楽は、涙を流すための道具じゃない。変に芸術家を気取る奴等を俺は認めない』
「Shade・・・あんたそこまでまで思っていたなんて」
とりが、やや驚いた顔で言った。
『既に音楽家としてのプライドを賭けた戦いは始まっているんだ。俺は奴等には
絶対に負けたくない。』
TADAが野望を秘めた顔つきに変わった。
『フッ、Shadeよ、俺はこれからエロゲ界の秩序を守るべく、戦争をしかける
つもりだ。勿論、戦うからには天下は俺達の物にさせてもらうがな。
その為にはまず…』
『ええ、次の作品では面白い仕掛けを作ってますよ。』
Shadeも不敵な笑みを浮かべた。
『おい、スパイ斉藤、おにぎりくんと、ちょも山、織音、
ふみゃを呼べ。』
スパイ斉藤と呼ばれる人物が音も無く現れ、
「はい、分かりました」
そして、影も無く立ち去った。
『それと、まずは目先の事か。とりよ、例の「姫ゲー」の方はどうなっている。』

つづく・・・
0071北海道激震編・序章NGNG
 北の大地は、熱く燃えていた。

 冬ともなれば、吐く息が凍り、バナナで釘すら打てると言われる極寒の地、北海道。
この厳しい自然環境故か、それとも、雄大な大地故か、この大地に生きる人々は、熱い。 クラーク博士の例を見るまでもなく、この地は常に日本という国の最先端を行くもの達が集う。
 そこが、北海道である。


 その北海道・札幌市。都市の中心街にあるさして大きくないオフィスに、その男はいた。

 でかい、男だった。
 巌のような肩は、見上げるほどの位置にそびえ立ち、
 濃紺の羽織から突き出た腕は、子供の胴回りほどもあろう。
 特大の下駄は、まな板ほどの大きさ、
 わずかに吊り上がった太い唇は大人でも一呑みにできそうだ。
 腕も、足も、顔も、体も、人間そのものまでもがでかい。そんな、男だった。

『――このような次第でして。ええ、是非とも社長の御助力を……』
 その、大きな手の中にある黒電話の受話器。そこから聞こえてくる声は、間違いなくアボガドパワーズのクリエイター、大槻涼樹のものである。僅かにうわずった声は、先程の高橋、青紫との出会いの興奮が覚めやらぬ証拠か。
『これも、天佑と言うものなのでしょうか。我々の立ち上げたクリエーターユニット、リューノス。Leafの内紛。偶然と言うにはあまりにも都合のいい出会い。そして、あなたの存在…………。シンクロニティの存在を信じたくもなりますよ』
 感慨深げに大槻は言う。これが、運命と言う物であるのなら、それに殉じるのも悪くない。そう言っているかのようだった。
『それでは、私は取材の続きがありますので、この辺で。……いい返事を期待しております』
 慇懃に礼をし、大槻は電話を切った。電話を受けた姿勢のまま、彼はしばし佇んでいたが、おもむろに黒電話を回す。
『はい、アボガドパワーズですが……』
「ワシがオーサリングヘヴン社長! 日高真一である!!」

――――矢は、放たれたのである。
0072名無しさんだよもんNGNG
『それと、まずは目先の事か。とりよ、例の「姫ゲー」の方はどうなっている。』
とりが、やや間を置き、答える。
「正直、かんばしくないわね。」
『どうした、もうマスターアップは目前だぞ。それに我等の野望、その最初の一歩
として、ここでコケるのは、絶対に避けねばならん。』
TADAは少し語調を荒げて言った。
「例の法律、有るでしょ。あれよ。」
『児ポ禁法の事か?』
隣にいたShadeが答えた。
「ええ、あれのおかげで、どうやらソフ倫の規制が強まっちゃって、ダークロウズが
引っかかりそうなのよ。」
『馬鹿げている』
Shadeが声を立てた。

「ええ、馬鹿げている。でもお上には逆らえないわ。」
『引っかかりそうなのはユリーシャの事か?』
TADAは問題が有りそうなキャラの名を口にした。
「彼女の見た目が幼すぎるんだってさ、なんじゃそりゃって感じだね。」
丁度そのとき、先ほどTADAが召集したメンバーが到着した。
『と、言う事だ。おにぎりくんよ。ユリーシャの胸を大きくして書きなおせ。』
『と、言う事って?え、え、書きなおすって、マ、マジすか?』
おにぎりくんはいきなりの事にかなり戸惑っている様子だ。
『マジだ。冗談でそんな事は言わない』
TADAは、はっきりと、言い放った。
『畜生、俺は、ロリロリとしたユリーシャが好きなのに、なんてこった。』
おにぎりくんは嘆いた。
『俺も同じ絵描きとして気持ち、わかるっす。』
斜め右後ろに立っていたちょも山が「ポン」と肩をたたいて同情した。

『コホン…』
TADAが咳ばらいをひとつして言う。
『まあ、兎も角だ。皆に集まってもらったのは他でもない。これから我等が、
この世界の天下を取るに当たって、するべき事を言う。』
集まった一同は、神妙とした顔つきとなった。
『まず、差し当たっての敵はKeyとLeafだ。この二つの勢力をまず、同士討ち
させる。』
『同士討ちですか』
織音がつぶやいた。
『そうだ、同士討ちだ。なにも正面から戦うだけが戦いではない。
相手が弱ったところを一気に叩き潰してこそが王者。すなわち支配者だ。
中途半端に攻撃したとしても、あいての心までは支配できないからな』
TADAは拳を握り締めながら、そう力説した。
「ふっ、これからは、群雄割拠の時代よ。いかに、こちらの体力を残したまま
戦い抜くかが、この戦争の勝敗の分かれ目になってくる。」
アリス・ブルーと言う新境地を開拓中のふみゃが、口元に
笑みを浮かべながら言った。

『俺も、折戸や中上、I’veなどと言った腑抜けた音楽の元凶を断たなくて
はならない。だが、折戸とI’veが手を組んでいる今、誰も手がつけられない
ぐらいに強力だ。奴等を黙らせるには相当の力が必要だ。
しかし、今の俺には、悔しいが、それだけの力は無い』
傍から見ても悔しそうだとわかる顔で、Shadeは言った。

『そこでだ、ふみゃ、今しがたおまえを呼んだのには、理由がある。
今度、大阪でデジフェスが開かれるのは、知っているな。』
「ええ、知ってますが、それが何か?」

つづく・・・
0073幕間・大阪編 1NGNG
「そろそろ、手打たへん?」
「嫌よ! 今更、頭下げられるわけないじゃない!」

大阪市内某所、某ファミレス。
一組の男女が、何やら議論をしている。

女は、樋上いたる。
男は、YET11ことタクティクスの吉沢務。
かつての、同僚である。

「やけどな、関西のメーカー同士で争ってたって、何も生み出さへんで。
それは、わしらにとっても、ユーザーにとっても、ええことちゃうやろ」
「……それは、分かってる。でも、私たちの受けた苦しみは?
あの事件でつぶされた面子は?未だに復帰できない折戸君は?
ウィルスに蝕まれた私たちの作品は?
それを、誰が償ってくれるの?」
そう言って唇をかむ樋上。

テーブルの上のコーヒーは既に空になっていた。
長い時間が経った後、吉沢が席を立つ。
「まあ、すぐに分かってくれとは言わん。でも、わしはあきらめんよ。
今日は呼び出してすまんかった。ここは払っとくわ」
0074幕間・大阪編 2NGNG
大阪・中津。
ネクストン本社。
「ふー。ただいま」
「あ、どうでした?」
帰社した吉澤に対応したのは、原画家の娘太丸。

「あかんね。むこうも意地になっとるわ」
「そうですか。あきませんか……」
「リーフさんのほうも、色よい返事もらえんかったしね……」
「……厳しいですね」
沈黙。

ふと、社長室の方から、低く唸るような声が聞こえる。
「樋上いたるーーー。七代祟ってーー、許すまじーー」ガツン
「折戸伸治ーー。七代祟ってーー、許すまじーー」ガツン
「麻枝准ーー。七代祟ってーー、許すまじーー」ガツン
「久弥直樹ーー。七代祟ってーー、許すまじーー」ガツン




「今日も社長、やってますね」
「ああ、もう丑三つ時やね。そろそろ開発に戻らんと」
ふと、時計を見ると、午前2時半。
「はい。しかし、関西に、いえ、この業界に平和が戻るんは、いつなんでしょうね」
口を開く娘太丸。
吉澤は、悲しげな顔をして返した。
「もしかして、争う定めなんかも知れんな……。でもな、あきらめんよ。わしらのためにも、ユーザーのためにも……」

+++++++++

Tactics陣営が関西弁なのは何となく。かつてピュアガールのメーカーコラムに載っていたコミぱトーク(確か3月号か4月号)のせいです。
0075名無しさんだよもんNGNG
通して読むと、かなり読み応えあるなコレ(笑)
0076名無しさんだよもんNGNG
こんな感じので葉鍵板のコテハン編誰か作ってくれないかなぁ(藁
0077名無しさんだよもんNGNG
ヤバイ、続きが凄く気になる。
0078名無しさんだよもんNGNG
誰か続きを書けあげ
0079仮想戦記スレの1NGNG
新作の構想はあるんだけど、鍵限定だからここには書かない。
うまくまとまりそうなんで、完成したら自分のサイトにアップします。
0080名無しさんだよもんNGNG
>>79
どこよ!!!
0081仮想戦記スレの1NGNG
>>80
http://park.dentaro.net/takabe/
ここです。
0082名無しさんだよもんNGNG
ちゃん様レイプも転載キボ〜ン♪
0083名無しさんだよもんNGNG
ちゃんさまレイプは一番出来が悪かった上に旧仮想戦記スレを
撃沈した元凶だからやめれ。
0084名無しさんだよもんNGNG
>>83
詳記!スレを潰しちゃったわけ?
0085名無しさんだよもんNGNG
そのとおりです。
さすがにあれは引いたよ…。
0086名無しさんだよもんNGNG
これね。
http://www15.tok2.com/home/kouhei/view.cgi?key=964619112&st=416
そういうのが嫌いな人は見ない方がいいよ。
0087名無しさんだよもんNGNG
みたことない。
つぶれたのはある意味出来が良すぎたってことでなくて?>霊斧
008887NGNG
>>86
あ、俺が書いてる間に…スマソ。
…これは…うーん…そういうことね、納得。
0089名無しさんだよもんNGNG
殿様は
はげ
0090名無しさんだよもんNGNG
鍵葉の住人は中途半端にけっぺきだからこまる。
0091名無しさんだよもんNGNG
とはいえある程度自粛しないと
自分の首を絞めちゃうね。

たしかにケッペキ君もいたけどなあ、あの時は。
0092名無しさんだよもんNGNG
1999年、夏。
 新ブランドkeyの処女作KANONは、空前のヒットを飛ばしたんじゃ。
「ゲームで初めて泣きました」
「最高じゃ。これで泣かんなぁ人間じゃない」
「友達に布教してます」
 考えられる限りの賛辞の言葉が、オフィシャル掲示板を埋め尽くしたんじゃ。
 一部に否定的な意見はあったもんの、そりゃぁ押し寄せる賞賛の嵐に飲み込まれた。
 ほぃじゃが、巧みなシナリオと繊細な音楽、美麗なCGが織りなす感動は、
 世にゆう「鍵っ子」を生み出すことになる。
 あんなぁらの珍奇な言動は周知のことじゃし、ここじゃぁ触れん。
 詳細は、後世の歴史家が記述する通りじゃ。

 ……ONEに続く成功を、業界人とユーザーは感慨深い目で眺めとったんじゃ。
「新しい時代の到来じゃ」
 あんなぁらぁ、敬意と嫉妬の溶けおぉた視線を、6人の英雄に向けた。
「次回作の結果次第じゃぁ、トップが入れ替わる」
 押し寄せる世代交代の波は、緩やかに、ほぃじゃがきしゃっとエロゲー業界を覆い始めとったんじゃ。

 かつて、業界にその名を轟かせた二人のクリエーターがいる。
 同級生で知られる蛭田と、EVEやYU−NOを世に送り出した剣乃じゃ。
 洗礼されたシステムとシナリオは、信奉に類する賛辞をもってユーザーに迎えられ、
 エロゲーの歴史にその名を刻んじゃ。
 ほぃじゃが、あんなぁらの名声もなごぉは続かなかったんじゃ。
 二人を過去の栄光のあんなぁ方に葬り去ったなぁ、ビジュアルノベル三部作の高橋じゃ。
「マルチ萌え〜」っちゅう、あまりにも有名なフレーズから分かるように、
 高橋は絶大な支持を得、リーフを一躍トップメーカーに押し上げた。
 その高橋もやがて、罵倒の雨に打たれることになる。
 ToHeartから数年を経てもなお、あんなぁは、新作に手をつける様子を見せんのんじゃ。
 憶測を楽しむように、人々は噂したんじゃ。
「才能が枯れた」
「いや、単なる怠慢じゃ」
 真相はどうあれ、いまやトップメーカーとしてのリーフの地位は揺るぎなかったんじゃ。
 高橋が新作に関わらずとも、支持は衰えず、売上が落ちる気配は見らりゃぁせん。
 あんなぁは信じとったんじゃ。
 ……リーフ帝国の栄光は永遠じゃ、と。
0093名無しさんだよもんNGNG
この仮想小説の青紫が高橋に泣きつくくだりって、あ、だから「喜劇」なのか。
0094名無しさんだよもんNGNG
続ききぼーん
あげ
0095名無しさんだよもんNGNG
大阪編のあとはーーー?
0096名無しさんだよもんNGNG
新仮想戦記から転載する必要があるな。
誰かやってくれ。俺はやらん。
0097仮想戦記の1NGNG
鋭意製作中です>>79-81
0098名無しさんだよもんNGNG
がんばってくりー
0099名無しさんだよもんNGNG
高橋が主犯で、青紫が実行犯という
史実にはもとづいていないような・・・
0100仮想戦記の1NGNG
ただ今、第一話を書いてます。
今日か明日にはアップできそうです。
0101仮想戦記の1NGNG
鍵英雄列伝の第一話が完成しました。
鍵限定なんで、こちらにアップしておきます。
http://park.dentaro.net/takabe/
0102名無しさんだよもん@そうだ有明行こうNGNG
読みました。まだ冒頭ですが、これからの展開期待してます。 >1さま

そういや、「誰彼の葉鍵編」も久弥vs麻枝になりそうな感じですね。
鍵葉両方に関わるネタを書きたいところですが、今構想中のはちゃんさまネタとか鍵葉以外のメーカーの動向とかばかり…
0103名無しさんだよもんNGNG
葉っぱよりは時代は鍵ということか…
0104名無しさんだよもんNGNG
Eログを見よ、だもんなー
まあ立ち読みくらいはしてやる。
けど買わない。
0105名無しさんだよもんNGNG
age
0106名無しさんだよもんNGNG
          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧η∧   <   ダマレコゾウ!
  (@`@`・Д・)     \__________
 ミ__ノ


0107名無しさんだよもんNGNG
続ききぼーーーん
0108名無しさんだよもんNGNG
まだすか?
0109仮想戦記の1NGNG
年末なんで、レポートやらテストやらが怒涛のように押し寄せてきてます。
週末には第二話をアップできそうですが、その次も一週間くらいかかるかもしれません。
ただ、来週を乗り切れば後は暇なんで、早く書けそうです。
0110名無しさんだよもんNGNG
>>102
>鍵葉以外のメーカーの動向とか
個人的にその辺のやつきぼんぬ
0111名無しさんだよもんNGNG
祝!続編あげ
0112名無しさんだよもんNGNG
>>111
気が早いな、おい。
0113名無しさんだよもんNGNG
スマソ。ファンなんだよ1の。
0114名無しさんだよもんNGNG
すまん
昔のが読めないのって俺だけ?
0115名無しさんだよもんNGNG
>>114
http://nanasei7.tripod.co.jp/
に行けば過去ログのは読めると思う。
0116114NGNG
>>115
さんきゅ
これでちゃん様レイプが読める
0117名無しさんだよもんNGNG
こっちの戦記SSは終わったの?
0118仮想戦記の1NGNG
http://park.dentaro.net/takabe/
第二話が完成しました。
0119名無しさんだよもんNGNG
そういえば上のサイトの過去ログ置き場ってちゃんと機能してるの?
繋がらなかった気が
0120名無しさんだよもんNGNG
403まで下がっていたのでage
0121あぼんNGNG
あぼん
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