私たち日本人は西欧音楽に魅せられ、小学校の時からそれを教えられて、数々の名曲を演奏するように
なったのですが、間もなく西欧音楽を正しく演奏することがなかなか難しいことを知りました。西欧のドレミ
ファの音階は、私たち日本人が血の中に持っている民族的な音楽のセンスとはかなり異なるもので、和
音も初めてだし、リズム感も私たちが持っているものとはかなり違うものだったのです。

そこで、幼児期のいろいろな感覚が育つ時期から教え込めば、何とかなるのではないかと試みたところ、
それがうまくいきました。その教育を延長して高度な演奏技能を身につけるまでのシステムを作り上げた
のが、現在の日本の音楽教育の姿なのです。ですから日本の音楽教育は楽譜通りに正確に演奏できる
ことを目的にしており、先生方はそれを教えることが音楽教育だと信じています。しかもその成果は、
様々のコンクールを制覇することで高く評価されています。楽譜通りに正確に音が並んだ演奏で十分満
足してしまうという私たち日本人の特質が重なって、現在の音楽教育の目的は正しいという確固たる信念
が築かれてしまっているのです。西欧の人々からどう言われようと自分たちは十分に楽しみ、満足してい
る。だからこの音楽教育は何も変える必要はないと考えられているので、何十年経っても私たち日本人
の演奏はそのままです。ここに改善の難しさがあります。

出典:紙谷一衞「人を魅了する演奏」(角川学芸ブックス)pp.22-23