日本のオーケストラが上手になって、「もう技術的には世界一だよ」という内外の評価を受けていた
ので、早速レコードを作りました。西欧のレコードよりも確かできれいな演奏、アンサンブルもばっち
り、録音技術も世界一。西欧のレコードと比べても遜色ないと思われるレコードが出来たので、世界
の名盤と並べて売り出しました。

ところがなぜか売れ行きはさっぱり良くないのです。これを買わない日本人は目が無いのではない
か、ひとつ世界のマーケットで売ってもらおうと、イギリスの親会社、EMIへ売り込みに行ったところ、
相手はその録音を聴いて言いました。「うん、大変見事なレコーディングだ。演奏には一つもミスが
無いし、合奏も乱れが無くてアンサンブルも完璧だ。録音も非常にクリアーでどの楽器も明瞭に聞こ
えて素晴らしい」。しめた!これなら話が進むかなと思っていると、続けて曰く「だけどね、これは全く
売り物にはならない代物だ。問題外だよ。でも折角だからアメリカへ持って行って音響機器メーカー
の製品のデモ・レコードに使ってもらったらいい」。

つまり音響的には大変優れているけれど、音楽的価値はゼロだということです。いったい何が駄目だ
というのだ?世の中にはこれよりも欠陥が目立つレコードがたくさん出ているではないか。当時の私
はまるで見当がつきませんでした。そういえば日本のオーケストラの腕前は世界一流だと言われて
いても、カラヤンが日本のオーケストラを指揮したレコードを作ろうという話は全然出ませんでした。

出典:紙谷一衞「人を魅了する演奏」(角川学芸ブックス)pp.40-41