連弾まで含めたシューベルトのピアノ作品では、なんといっても幻想曲D940が
とびぬけて素晴らしいと思う。
古今東西あらゆる連弾曲の最高峰にして、シューベルトの全作品の中でも
「冬の旅」などと並び称されてよいほどの曲だ。
今話題の「さすらい人」は確かにエネルギッシュで面白いところはあるし彼なり
に様々な展開を試みてはいるけれど、あの幻想曲を耳にすると遥かに手前の曲に
思われてしまう。
この幻想曲は構成的には実は「さすらい人」の後をつぎリストのピアノソナタに
つながるものだけど、そういった斬新性よりなにより、冒頭の旋律のあまりに美しく
悲しいこと、そしてその後も主要主題のほとんどが短調であり、ともすれば
「冬の旅」のような陰鬱な印象に終わるかと思うと、そこを救うのがシューベルト
の動機処理、展開技法、そして対位法だと思う。あのシューベルトがなぜここまで
古典技法にこだわったのか。そしてそれに比して全く斬新な構成と転調。
このバランスの妙の上にひたすら悲しくも美しい旋律がこれでもかというぐらい
に紡ぎだされる。
これに比べるとやはり最晩年の3つのソナタは労作だし軽んじてはいけない作品
だとは思うけど、もう少し音が充実していてもいいんじゃないか、と思うところ
があるんだよなあ、個人的には。