それである日、思いきってヴィヴァルディのイ短調コンチェルトの楽譜を買い、
先生にお願いした。
「あの、じつは、日本では、子どもがヴァイオリンを習いますと、このへんの
段階まできたとき、この曲をやるんですけど・・・」
 ローラン先生(註)はちょっと驚いた顔で、その楽譜と私とにかわるがわる目をやり、
「アントニオ・ヴィヴァルディ! ほほう。わかってますか、フラウ・コヤス。
この曲はね、見かけはやさしい。がほんとうは、非常にむずかしいものなんですよ。」
(中略)
翌週からこの曲を見てもらったが、とにかくフミは、最初のアウフタクトのところ
から、「それはまちがいだ!」となおされ、
(中略)
はじめのうち、音程のくるいを執拗になおされ、これにはフミもなんとかこたえて
いけたが、絶望的なまでに先生が「ダメ!」を発したのはリズムだった。正確な
リズム感覚こそヴィヴァルディの真髄だ、と。

註) ローラン先生は、ミュンヘン音楽大学ヴァイオリン科の教授。ヴァイオリン指導の
   名手として当時知られていた。

子安美知子(1981) 『魂の発見−シュタイナー学校の芸術教育』、音楽之友社。
pp. 207-209。