>>782
雪のしんしんと降り積む夜にヴェデルニコフが弾いた
ハンマークラヴィーアの第3楽章を聴いてみたまえ。
そこにおいては、姿形の見えない雪が、尽きることなく舞い降りるばかりの
青い虚空に響く、神秘な鐘の音なのだ。
過去へのノスタルジアと、未来への憧憬とが、冬の冷たい闇の中で共鳴し、
聴き手をいずこか知れぬ桃源郷へと導いていくのだ。
いや、桃源郷ではないかもしれない。少年時代に老婆から伝え聞いた、
冥王の支配する光のない異郷かも知れない。
そうだとすれば、われわれは、ヴェデルニコフの調べに導かれているうちに
かすかな足音すら立てず、その影すら見えない、神秘な葬列に加わり、
2度と慣れ親しんだ暖炉のそばへは戻れなくなる運命にあるということなのか?