バックハウスのこと:石井宏

解説:1970年のロンドンレコード解説より(一部省略)。ちなみに省略部分で氏はバックハウスを持ち上げる
    ために?シュナーベルをだしに使い、テクニックはよれよれで、「神秘家」でハッタリめいた「教祖」
    だったとこき下ろし「今日のわれわれなら彼の催眠術にはかからないであろう」と断じる。
    今日のわれわれにも一種の催眠術的な効果をもたらす崇高な名文を、当時のバックハウス受容の
    一端を伝える貴重な資料としてうpした。

バックハウスが死んでしまった時、これでドイツの最後の演奏家が死んでしまった、と私は書いた。まさに
巨星墜ちて、暗闇が残された感じであった。
この人の道は、二重の意味でベートーヴェンの道であった。一つは一生ベートーヴェンばかり弾いていたという
意味で。もう一つは晩年になるほど高い境地に上がっていったという意味において。コルトーやケンプの老残の
ステージはわれわれの目を覆わしめたが、バックハウスは80歳にしていささかの衰えもみせず、その指は堅固な
テクニックを誇っている。しかも、その演奏の美しさは晩年にいたるほど冴え、最後には神秘的な美に包まれる
ようにさえなった。