小説ではありませんが、特攻隊委員の遺書や関係者の手記を纏めた
神坂次郎「今日われ生きてあり」という本の中に、知覧から特攻出撃した
若い少尉の遺書が載っています。

その遺書の中、恋人に宛てた部分の最後に、「読みたい本」「観たいもの」
「聴きたいもの」「会いたい人」などが列記されていて、聴きたいものとして、
「シュトラウスのワルツ集」が挙げられています。

死に赴くときにシュトラウスのワルツ集とは、その軽やかさが、無我の境地に
相応しい気がする一方、あまりに素朴すぎる感もあります。
当時は今と違い、色々な曲を手軽に聴き知る手段がなかったので、
選択範囲が狭かったのか、あるいは、多くの音楽の中で、シュトラウスのワルツが
この上なく好きだったのか、あるいは、悲しむであろう身内や知人を気遣うために、
あえて屈折のない明るい曲を挙げ、自分の苦悩を隠そうとしたのか、そのあたりは
分かりませんが、この選曲には、何とも言えない哀しさ、切なさを感じました。