ベームの新ウィーン学派の演奏というのは、予想通りというか、世紀末
的耽美主義とは無縁ですな。彼がやると、錯綜した声部の一つ一つが明確で、
それらが一体となる古典音楽のようにに聞こえることがあります。彼のシュトラウスの
延長のような響きですね。本来、作品が要求する響きとはちと違うのかもしれ
ませんが、ああいう精妙なアプローチは、スコアが複雑なだけに説得力があります。
だいたい、複雑なスコアになればなるほど、指揮者としての力の差が出てくるもの
で、たぶん、バーンスタインあたりは「ヴォツエック」をきちんと振れないんじゃ
ないかな。はるかにスコアが単純なマーラーでさえ、アンサンブルがめちゃくちゃだし。
まあ、よく思うのですが、ブルックナーやブラームスを指揮するのはオー
ケストラさえ曲を知っていれば誰でもできるでしょう。例えば宇野みたいにね。
しかし、ベルクのオペラを見事に指揮するのは、そんじょそこらの俄巨匠にはできま
せんな。そういった意味で、近年のベームの低評価というのは、彼が晩年、あまり考えず
に録音を濫発した反動もあると思いますが、それよりも大多数のリスナーの耳が、彼の
真骨頂である分野を理解するまでにいたっていない、ということではないですかね。