「もういい!」KOHTAは叫んだ。「もういいからじっとしてろ!今引き上げてやる!」
KOHTAは左手が使えない為柵を掴む事が出来ないので、体を捻り、右膝を体の下に引き付けて背筋に力が入るような姿勢をとった。体は
悲鳴をあげていたが、それでも諦める訳にいかなかった。
このミュージシャンだけでも助けなければ。もう人が死ぬのはたくさんだった。
KOHTAは善徳の手首を握った右手に力を込めた。しかし――
「だめ、だめや、あかん。」善徳の顔が左右に振られた。「俺のせいで、みんな死んでしまった。みんな、死んで――」
善徳の右手がKOHTAの手をもぎ離すように動いた。せっかくしっかり掴んでいた手が緩み、KOHTAは焦って更に力を込めようとしたのだが
あろうことか首から伝いおりた血が、その手の中でずるっとすべった。
KOHTAの腕から、掛かっていた重さがふっと消失した。自分を見上げる杉本善徳の顔が遠ざかり――
ばたん、と音がして眼下の建物の上、仰向けに善徳が倒れこんだ。その大の字に伸びた体の首が、変な方向に曲がっている。頭の右上辺り
からは、赤いしぶきが葉の形の様に伸びていた。
「あ――――」
KOHTAは右腕をベランダに投げ出したまま、しばらくそれを見つめていた。