さて、お師匠さんをご自宅にお送りして、ついでに滋さんの事も知立の自宅まで送る。
熱田神宮から知立までは30分位。滋さんが助手席に座っている姿も見慣れた光景になりつつある。

お師匠さんへの挨拶を無事に終えた事で、2人の間にはホッした空気が流れていた。

お師匠さんとのお話の中で、俺の知らない滋さんの姿が見えてきた。
@かなり少女漫画が好きで、休みの日には漫画やビデオを見て一日過ごしている事が多いということ。
Aお師匠さんと滋さんは遠戚関係であること。(滋さんのおばあさんとお師匠さんのお母さんが姉妹)
B車の運転は破滅的に下手であること。

Bはともかく、@とAは少し気になる。
「滋さん、どんな漫画読んでるの?」と聞いたところ
「知らないと思うけど、のだめとかハチクロとか○○○(聞き取れず)の小林君とか・・・。」
「のだめとはちみつとクローバーは知ってる。」
「四十てるのに少女漫画読んでるなんて変でしょ・・・。」と少し拗ねている。
「うちの本棚もへうげものを中心に漫画だらけでしょ。同じ同じ。」
「・・・・・・。」

すこし黙っていたら、滋さんが急にこんな事を言い出した。
「昔、茶道を始める前にね、ちょっといい加減な感じの人とつきあっていたの・・・。」
「うん、それで。」
「それで、たまたまその人と街を歩いてる時に、先生(お師匠さん)に会ったの。その時は何も言われ
 なかったんだけど、その後会った時に、あんなつまらない人と付き合っていると、あなたもつまらない
 人間になるわよって言われたの。」
「・・・・・・。」
「正しい振る舞いの出来ない人間には、同じような人しか寄ってこないって。思いっきり全否定よ。」
「・・・・・・。」
「その時は意味が判らなくて反発したけど、後になって判ったの。その人、今で言うストーカーみたいな
 人で、最初は優しかったけど、だんだんと暴力ふるったり、私の貯金とか勝手に使ったりしたの。」
「・・・・・・。」
「別れたんだけど、暫くして私が勤める幼稚園に来て復縁迫ったりされて、結局、幼稚園居づらくなって
 辞める事になったんだ。」
「そうなんだ。大変だったね。」
「そいつ、私の部屋に押しかけて来たりしたから、怖くて。結局、先生に相談して、一ヶ月くらい先生の
 自宅に居候させてもらったの。」
「・・・・・・。」
「で、先生の立ち居振る舞いとか、お弟子さんへの接し方とか見てるうちに、こんな人になりたいって
 思い始めて、茶道に入門しようと考えたの。」
「それが茶道に入門した動機なんだ。」
「そう。でお師匠様に入門したいって言われたら喜んでくれて。最初は違う社中に行くように言われたの。
 で基礎をしっかり学んで、2年後にお師匠様の弟子になったの。」
「そうしたら、10年間は脇目もふらずに精進しなさいって言われて、内弟子扱いでいろいろなお稽古場
 に連れて行って貰えて、本当に10年間茶道漬けだったんだよ。」
「お疲れさまでした。」
「だから、私にとっては、お師匠様は親戚のおばさんじゃなくて、あくまでも師匠なのよ。」
「なるほど、よく理解できました。」