それから、チェチェンには、独特の「血の報復の掟」があるんです。
チェチェンでは、子どもが生まれると、男の子だけですが、7代前までの名前を全部暗記させるんです。
それから、どこで生まれてどこで死んだということも全部暗記させるんです。
そして、もし祖先の7代までのうちに殺された人がいたら、誰に殺されたかも同時に暗記させるんです。
それで、殺した奴の7代前まで報復をしなければいけないのです。殺した方の家の男系7代に渡ってそれは続くんです。
そういう「血の報復の掟」があります。これは今でも厳しく守られています。
仇討ちの旅に出なければならないんです。そうじゃないと一族が許してくれない。

 一見すると、これは大変乱暴なように見えるんですが、実はコーカサス地域は、この掟があるから、安定していたんです。
チェチェン人というのは、どんなにカーッとしても、絶対に相手を殺さない。殺すと「血の報復の掟」が作用するからです。
7代に渡って逃げ回らなければならない。だから、これは殺し合いの抑止要因になると同時に、
万一そういったことが起きても、部族間の永続的な戦争にはならないんです。7代で終わりますから。

 ですから、チェチェンで戦っているロシア兵は覆面をしています。どうしてかというと、チェチェン人にとってはロシア軍一般が悪いということにならないで、
このロシア兵が殺った、だから、こいつに復讐してやる、ということになるんです。
殺されたチェチェン人の一族は、殺ったロシア人の一族を調べて必ず報復する。7代まで復讐する。そういうことになるからです。
ですからロシア兵は顔を特定されないように覆面をしているんです。



【『国家の崩壊』佐藤優、宮崎学(にんげん出版、2006年)】