野球場に着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。母がもらったのは 
招待券ではなく優待券だった。チケット売り場で一人1000円ずつ払ってチケットを買わ 
なければいけないと言われ、帰りの電車賃くらいしか持っていなかった俺たちは、外の 
ベンチで弁当を食べて帰った。電車の中で無言の母に「楽しかったよ」と言ったら、 
母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。 

俺は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、一生懸命に勉強した。 
新聞奨学生として大学まで進み、いっぱしの社会人になった。結婚もして、母に孫を見せて 
やることもできた。 

そんな母が去年の暮れに亡くなった。死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したように 
「野球、ごめんね」と言った。俺は「楽しかったよ」と言おうとしたが、最後まで声にならなかった