<<解説>>
 細胞が有糸分裂(体細胞分裂)によって増殖する際には、染色体を複製し、それを核分裂で正しく二分して
2つの細胞に分配する。しかし有性生殖を行う際には、細胞は減数分裂という特別な分裂様式をとる。
減数分裂では、染色体を複製したのち、半数体の配偶子を作るために2回の核分裂が連続して起こり、
染色体数が半減する。

 有糸分裂の進行、すなわち細胞周期の制御は1980年代後半から1990年代にかけて目覚ましい研究の
進展があり、その成果に対して2001年のノーベル医学生理学賞が与えられた。いっぽう有性生殖にとって
不可欠な減数分裂については、そのメカニズムが複雑なこと、高等動植物では生殖細胞という一部の
特殊な細胞しかそれを行う能力がないことなどの理由から理解が遅れてきた。

 我々のグループは減数分裂を行う最も単純な生物の一つである分裂酵母に着目し、有糸分裂で
増殖している細胞が減数分裂を開始する引き金となる分子機構を研究してきた。一般的に細胞が
分化する際には新しい遺伝子発現プログラムを立ち上げるために遺伝子の転写*2調節が大事な
役割を果たす。減数分裂も例外ではなく、分裂酵母では減数分裂に入ると有糸分裂時に比べて
数百にも上る遺伝子が新たに転写されたり、転写レベルが大きく上昇することが報告されている。
しかし、我々が以前に解明していた分裂酵母の減数分裂開始制御因子Mei2*3はRNA結合タンパク質
であり、直接転写調節とは関係しないと考えられてきた。Mei2はリン酸化によって機能が抑えられるが、
脱リン酸化型のMei2が細胞内に出現すると、細胞はそれまでの有糸分裂を止めて、減数分裂を開始
してしまう。Mei2はこのように絶対的な減数分裂誘導能力を持つが、いかにしてそのような強力な
能力が発揮されるのかはこれまで謎であった。

 今回我々は、減数分裂特異的に機能を発揮する主要な遺伝子のメッセンジャーRNAには特別な
目印(DSR*4)が付けられていて、それらが有糸分裂の際にいくらか細胞内で転写されたとしても、
監視・除去システムによって速やかに細胞から除かれてしまうことを発見した。
有糸分裂で増殖している際にもしこの監視・除去システムが働かないと、細胞内には不必要な
減数分裂のためのメッセンジャーRNAが蓄積してきて、正常な増殖を阻害してしまうことも分かった。
さらには、減数分裂を開始する際には不必要、あるいはかえって邪魔となるこの監視・除去システムの
働きをオフにするのが、Mei2の果たしている大事な機能の一つであることを証明した。

 以上から、次の様な結論が導かれた。

1. 真核細胞はどの細胞も有糸分裂で増えるための遺伝子に加えて減数分裂を行うための遺伝子を
 持っているが、後者の遺伝子が漏れ出て発現すると有糸分裂による細胞増殖に有害であるため、
 それらは厳密に発現が抑えられる必要がある。

2. そのためには減数分裂用の遺伝子を転写開始させないように制御する機構だけでは不十分と思われ、
 漏れ出てきたメッセンジャーRNAを転写直後に選択的に取り除くシステムが存在する。

3. 減数分裂を実行する際には、選択的除去システムで主要な働きをするMmi1*5の働きをMei2が抑え込む
 ことで、減数分裂用のメッセンジャーRNAを分解から守り、それらの機能発現を可能にしている。

 本研究には次のような新たな発見が含まれている。これまでその存在が想像もされていなかった、
有糸分裂期の細胞から選択的に除去することを指示する目印(DSR)が減数分裂のための
メッセンジャーRNA上に存在すること。DSRに直接結合して当該メッセンジャーRNAを分解システムに導く
Mmi1(新しいクラスのRNA結合タンパク質)を明らかにしたこと。さらに、減数分裂マスター制御因子Mei2は
Mmi1を捕捉して核内の一点に留め、Mmi1の働きを抑え込むことで減数分裂を可能にしていること。
これらは減数分裂の制御機構の理解に大きな進展をもたらした研究成果ということができる。
Mmi1は高等生物にも保存されたRNA結合タンパク質であるので、分裂酵母で今回明らかになったこの
制御機構が、生物界一般に広く保存されているか否かを今後検討していきたい。今回の発見は、
解析の難しい高等動植物の減数分裂制御機構の解明に対し、重要な切り口を提供すると考えられる。