俺、2年ちょっと前にカミさんがガンで死んだ。

カミさんがお腹が硬くなってる、なんだかおかしいって言って検査入院して、
数日後に俺だけ別に病院に呼ばれた。
肝臓に腫瘍があります、もうステージ4で、あと2ヶ月ぐらいですって言われた。
でも実際にはたった1ヶ月で死んだ。

最後のほう、痛み止めの薬を使い始めたけど、もうそれを肝臓で分解できないから、
痛くなくなるのと意識が朦朧として話せなくなるのとが同時だった。

そのうち高熱が出て、息が苦しそうになった。唇が乾いて切れ、血がにじんだ。
やっぱり痛々しかった。

俺、それを見てかわいそうになって、リップクリームを塗ってやった。
何度も、何度も塗った。そしたら――唇のヤツ、治ってやがんの。
身体全体は死んでいこうとしてるのにさ。

おかげで死に顔はとってもきれいだった。

そのときにさ、俺は人間もこうでなきゃいけないんだろうなって思ったんだ。
もうダメなのが分かってても、生きられる可能性がある限り、生きなきゃ
いけないんだろうなって。

唇の細胞にだってできることなら、ひとりの人間にだってできるんじゃない
だろうかって。

そんなことで、俺は今でも何とか生きている。