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安倍前首相に復権の兆し 再々登板に渦巻く警戒と熱視線
国会議員の事務所が並ぶ東京・永田町の議員会館。ひときわ人の出入りが激しいのが自民党の安倍晋三前首相の部屋だ。
党内で賛否が割れる選択的夫婦別姓の議論が再スタートした4月上旬には、高市早苗元総務相や山谷えり子元拉致担当相ら、制度導入に慎重な議員が訪問。別の日には、安倍氏に近い下村博文政調会長、衛藤晟一前沖縄北方相らの姿もあった。面会した一人が言った。
「安倍さんはもう完全復活だ」
持病の潰瘍(かいよう)性大腸炎の悪化を理由に首相を辞したのが昨年9月中旬。徐々に政治活動を再開してきた安倍氏は、今春に入ってその動きを活発化させている。
この間、自民党の保守系議員でつくるグループや原発新増設の議員連盟の顧問に就任したほか、党の憲法改正推進本部の最高顧問も引き受けた。
4月22日夜には、東京都内で夕刊フジ主催の憲法イベントにパネリストとして参加。自身の病状について「レミケードという免疫抑制剤があるのですが、これが大変よく効いて、あと2回くらい点滴をすれば治療も終わる」などと冗舌に語ってみせた。
憲法改正に話が及ぶと、「そもそも立憲民主党の枝野(幸男)さんは、安倍晋三が総理の間は議論しないと。私はもう総理じゃないんですから、議論しろよという思いですね」と挑発的な言い回しで会場を沸かせた。
憲法記念日の5月3日には、首相退陣後初めて生放送番組に出演。菅義偉首相を支持する姿勢を鮮明にして政界に波紋を広げた。
「総裁選は去年やったばかりで、また総裁を代えるのか。自民党員なら常識をもって考えるべきで、菅総理が継続して職を続けるべきだ」
「その前に(衆院)選挙があれば、国民が菅総理を選んでいる。そのあと、党内で代えるのか。それはおかしいと思う」
一連の発言は、菅氏にとって渡りに船だった。
菅政権はいま、新型コロナウイルスの対応で与党内からも不興を買い、内閣支持率も下落傾向にある。おりしも、4月下旬にあった菅政権下初の国政選挙で、「3戦全敗」の苦杯をなめたばかりでもあった。
菅氏は周辺に「ありがたいよね」と話し、菅氏に近い佐藤勉総務会長は記者会見で、「政局をやっている時期ではないという安倍氏のメッセージだったと理解している」と歓迎した。
ただ、安倍氏が菅政権を全面的に支持しているかと言えば、決してそうではない。
「菅さんはやる気がないよね」不満を漏らすことも
祖父に岸信介元首相をもつなど世襲議員である安倍氏と秋田の農家出身の「たたき上げ」の菅氏。2人の政治基盤は大きく異なる。自主憲法制定を唱え、親米タカ派色が強かった清和政策研究会(現・細田派)出身の安倍氏に対し、菅氏は今でこそ無派閥とはいえ、かつて所属していた平成研究会(現・竹下派)は経済重視で親中ハト派が多かった田中派の流れをくむ。公務を離れてプライベートで付き合う関係でもない。
一方で、2007年に一度は首相の座を投げ出した安倍氏に対し、自民党総裁への返り咲きを進言し続けたのが菅氏だった。安倍氏は12年に総裁に再び就いた後、「盟友」の麻生太郎副総理兼財務相にこう語ったという。
「仕事で信頼しているのは菅さんだ」
言葉通り、時に不仲説もささやかれながら、自らの最長政権で官房長官に菅氏を起用し続けた。7年8カ月の間、閣僚や党役員で一度も交代がなかったのは麻生氏と菅氏の2人だけだった。
しかし、「安倍政権の継承」を掲げた菅政権は、安倍氏がめざした敵のミサイル基地などを直接たたく敵基地攻撃についてあっさりと先送りを決定。コロナ対策でも温度差があり、安倍氏は会長を務める議連の会合で、「まだ財政支出の余地はある。しっかりと今、財政出動すべきだ」と注文をつけた。さらに、安倍氏の悲願である憲法改正についても、「菅さんはやる気がないよね」と不満を漏らすこともあったという。
それだけに、安倍氏の今回の「再選支持」発言を額面通りに受け止めている議員は多くない。党幹部の一人は「今後の派閥復帰を見据えて、最大派閥の数の力を見せる意味もあるのだろう」と警戒心を隠さない。
「留守電メッセージを残すだけでも」 熱さを増す周囲の視線
昨年の総裁選で菅氏支持を主導したのは、党内第4派閥の二階派を率いる二階俊博幹事長だ。菅政権では長く総裁派閥の座にあった細田派を差し置き、政権の主流派を担う。最大派閥でありながら脇に追いやられている細田派内には「次の人事では幹事長を取りにいくべきだ」との声もくすぶる。
安倍氏は首相辞任以降、「一議員として(政権を)全力で支えていくのが私の使命だ」と繰り返し、「一兵卒」に過ぎないことを強調する。安倍氏の本心は明らかでないが、周囲の視線は日ごとに熱さを増す。