>借りをきれいに返さないで死んでしまうのは駄目な人です。
>そんな人は天国へ行けません。 ― 良い子の年鑑

これは、セリーヌが「虫けらどもをひねりつぶせ」(片山正樹訳)で冒頭に
引用している句です。代表作である「夜の果てへの旅」に少し目を通し
ても、セリーヌに作品を書かせた最大の動機は、「借りを返す」ことで
あったことがすぐに理解できるでしょう。でも、セリーヌは、自分が
誰にどのように借りがあるのか見誤ってしまった、というより、
「ユダヤ主義」という煙幕にうまく相手の思惑どおりに誘導されて、
その罠にかけられてしまった。その結果、セリーヌは「反ユダヤ主義の
作家」というレッテルを貼らることになり、きちんと相手に借りを返す
ことができないままこの世を去ることになったのです。同じ手口は、
今日でも全くそのまま変わらずに使われています。負債を返済する
のにも、哲学を疎かにすると容易に罠に嵌められてしまうのです。