日本人頑張れ!

昭和20年、湘南中学の1年生だった氏は、帰路の途中、米軍機
の標的にされた。背後から迫ってくる爆音に振り向くと、敵機が超
低空で突っ込んでくる。本能的に麦畑の中に伏せると、敵機の機銃
掃射が前方の芋畑に猛然と土煙をあげた。その機体にはなにやら極
彩色の漫画が描かれていた。
恰好の獲物を取り逃がしたいまいましさを機体にあふれさせ
敵機は急旋回していったが、再び襲われる恐怖で私たちは三百
メートルほど先の松林に駆け込むため一斉に走った。
林まであと五十メートルほどのあたりでまた爆音がしたが、
今度は芋畑だったので隠れようがない。それでも、わずかばか
りの浅い畝に身を伏せた。掃射の銃弾を予期してひたすら身を
縮めたが、不思議に銃声がなく爆音だけが過ぎていった。助か
った、と頭を上げたときに見えたのは、先刻とは違うカーキ色
の胴体と翼に日の丸を描いたわれわれの戦闘機でした。
あの瞬間のふるいつきたくなる愛着と渇仰は先刻とはまさに
対照的だった。あのすがりつきたいような激しい感動は多分一
生忘れまいと思う。それは命を賭けて凌ぎあう戦争の不条理さ
不本意さを越えたところで、自分が抜き差しならぬかたちで日
本という国に属しているのだということを悟らされた瞬間だっ
た。