さらに翌日。
 家のチャイムが鳴った。
「人権侵害救済推進委員会の者です。あなた方家族は重大な人権侵害を犯した可能性があるため、調査に来ました。協力しない場合は5万円の罰金です」
 何のことか分からないが、役人の言うことだし、そもそも自分たちは悪いことなどしていない。
 だから調査してもらえば大丈夫だろうと、家へ上がらせた。
 彼らは土足で家に上がりこみ、重要と思われる書類を片っ端から持って行った。
 土地の権利書まで、「押収する」と言って。

 そして数日後。
 家族はみなで被告台に立たされていた。
 裁判官はいない。自分たちの弁護人もいない。いるのは見も知らぬ自称「被害者」が十数名と、人権侵害なんとかという、とても長い名前の委員会の人間だけ。
「私たちは何もしてません!」
 必死に言ったが、聞き入れてもらえなかった。何か言うたび十数名の自称「被害者」が、口々にあれをやったこれをやったと言うのだ。
 どれも身に覚えがないが、それを証明することが出来ない。裁判と違って、調べてくれる人も居ない。
 孤立無援のまま人権侵害の罪が確定し、反省の色なし――やっていないのだから当たり前だ――として、家族の氏名が公表された。

 家には「人権侵害反対!」という旗やのぼりをもった人が押しかけ、スピーカーでがなりたてた。
 朝起きると家の前には、よく分からない死骸やゴミが、山と積まれていた。
 近所は誰も口をきいてくれなくなり、買い物に行くと後ろ指を差された。
 子供はもっと悲惨で、学校で怪我をするほどいじめられる上、人権なんとか委員を恐れて先生も止めない。とうとう学校へやることも出来なくなった。
 引越しをとも思ったが、権利書まで持っていかれているため、どうすることも出来なかった。

 そして小さな記事が新聞に載った。
「鳥取県○○市××の△△さん方が全焼。△△さんと家族4名が死亡」
 一家心中したのだと近所は噂したが、放火という説もある。
 いずれにせよ真相は謎のまま、一家は消えた。