【こういうの】創作文章発表【なくね?】
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0037Tear's':1
2008/09/04(木) 19:59:03ID:PRjENPPA〜懐古〜
ある夏の日だった。
たくさんの人で賑わう公園。その一角に、ファーストフードの露店が出ている。それは特に珍しい光景ではなく、多くの人が足を止め、思い思いの物を買っては笑顔でその場を後にする。
そこから少し離れた場所に、一人の少女がいた。少女はなにをするわけでもなく、じっとベンチに座っている。その視線は、随分前から露店に注がれたままだ。
やがて少女が立ち上った。おもむろに露店の前へ歩み寄り、しかしすぐに注文するわけではなく、しばらくそこに並んでいるものを見つめていた。
「……ソフトクリーム」
囁くような声。少女は売り子に硬貨を手渡し、代わりにバニラのソフトクリームを受け取った。
少女はその場でおずおずと舌を出し、ソフトクリームのてっぺんを舐める。
「…………」
なにかを考え込むように、少女は一度動きを止めた。自分が舐めたソフトクリームを凝視し、再び舌を出す。一度目よりも慣れた様子で、ゆっくりと味わうように白い山を舐めとる。
「あの……どうかしましたか?」
少女の様子をじっと見ていた売り子が、恐る恐る口を開いた。
「……甘い」
そう呟いた少女の目から、涙が溢れていた。止めどなく零れ落ちる涙を気にも留めずに、少女はソフトクリームを口にしている。売り子はどうしていいか分からずに、ただおろおろと少女のことを見つめていた。
ソフトクリームを口にしながら、彼女はいつか交わした会話を思い出していた。
《自由になったら、お前はなにをしたいんだ?》
『そうねえ……。とりあえず、夏になったらソフトクリームが食べたいかな』
《ソフトクリーム?》
『そ。こんな形のコーンに乗ってて、冷たくて甘くて、美味しいの。一度だけ食べたことあるんだ』
《ほぉ》
『いつか……本当に自由になったら、一緒に食べよ』
《……そうだな、興味はある》
『うん、じゃあ約束。絶対気に入ると思うよ。女の子だからね』
それは、本当にささやかな会話だった。まだ少女が平和な日常に憧れていた頃、少女が『その存在』と共にあった頃の、夢の話。その頃は、こんな時間が訪れることをまるで予想していなかった。少女も、少女に宿った『その存在』も。
(約束したのに……)
涙を零しながら、彼女は独りでソフトクリームを食べる。
そして、もうこの世にいない、約束を交わした者との時間を彼女は思い出していた。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています