本当は、わたしなんか居なくなっているはずなのに。
本当は、誰にも関わることなく、楽になっているはずなのに。
「ね、元の世界に戻ろ」
あんたは誰?ねえ、答えてよ。
「わたしは、生き神よ」
生き神に会ってしまった事で、わたしの計画はおかしくなってしまった。

とかく、不思議な光景だ。わたしはわたし自身を見下ろすという実に奇妙な体験をしているのだから。
わたしは自宅の狭い風呂場の中に立っている。風呂場の小さな窓からは、茜色の空が見える。
目の前にはわたしより1,2歳年下と思われる少女、彼女は『生き神』だと名乗る。
さらにその横では、力なく横たわったわたしの抜け殻。まるで人形のように動かないわたしの身体は、
自分自身のものなのに心なしか薄ら寒く見え、現実味を全く感じさせない。
そんなわたしの抜け殻は水を湛えた風呂桶にうな垂れ、右腕は冷たい水の中、左手には心を持たない剃刀。
半分浸った長い髪は、水の中で海草のようにくねらせながら踊っている。
ゆらゆらと風呂桶の水は赤く染まる。早い話が、わたしはわたしの体から半分抜け出し、
生きるか死ぬかのはざまに立っている。と、生き神が申すのだ。
「そう、今なら元通りになるよ。ね」
うるさい。生き神なんかにわたしの気持ちが分かるもんか。