米国系企業に転職したときの話し。

 転職した矢先に、上司や先輩社員数人といっしょに米国本社に出張した。
夜になりディナーに行こうということになった。地方の都市だが、ハリウッドスターもその都市に
きたときは必ず寄るという豪華なレストランがあり、そこに連れて行ってもらった。
 ゆったりと流れる大きな川沿いにあるそのレストランに入ると、窓際のテーブルに案内される。
対岸にあるダウンタウンの夜景が川面にうつり、それが大きな窓からみえる。
 素敵な夜景をながめながら会話もはずむ。かに料理もカリフォルニアワインも美味しい。
31歳で年収800万円、みんなとても親切だし、転職して本当によかったなと思った。

 ゆったりと時間がすぎ、会計となった時に先輩達が一斉に上司の顔をみた。上司はまかせておけ
という顔をしながら会社の経費ですべての食事代を支払った。一人当たり約100ドル。
食べた酒と料理をすべて吐き出したくなった。

 翌日、本社の会議室でミーティングをひらいた。議題は競合他社とのシェア戦略について。
転職する前、俺はその競合他社の製品を販売していたので、その会議に出席しているだれよりも
製品を比較できる立場にあった。上司もそれを見越して出張に同行させていたのだと思っていたから、
出張前に資料をそろえて準備を整えていた。
 しかし、出席者はそろって他社製品をけなし、自社製品を褒めることに終始した。本社の副社長は
満足そうにうなずきながらそれを聞いている。副社長の顔色をうかがう出席者達も満足そうだ。
 俺はそのときはじめて、自分のおかれている立場に気づいた。

 東京に戻ってからもそれは変わらなかった。根拠もなく競合他社をけなし、自社製品を褒め称える。
客を馬鹿にし、販売を担当してくれている代理店を見下す。社内接待はもちろん自分の飲食代すら
経費として処理する。すべてが嫌になった。

 二年足らずで退職する時、先輩が送別会を開いてくれた。部長とほとんどの部員が出席してくれた。
その気遣いがうれしかった。俺はこの人たちのことを少し勘違いしていたのかもしれない。
 送別会も終わり、席を立とうとしたとき部長がみんなにこう言った。
「ここは会社の経費で落とすから、みんな心配しないで。」