>>109
つづき

(引用)
さて、Wittenに代表される弦の理論家は、理論物理学に限らず数学に対しても
少なからぬ影響を与えてきた.彼らの研究のいくつかは数学者に大きな衝撃を与
え、それらを理解しあるいは証明しようとする努力によって数学に長足の進歩を
もたらしたのである.その例としては結び目や_ 次元多様体の量子不変量、曲面
上のベクトル束のモジュライ空間の幾何やVerlinde公式、4次元多様体のSerberg
Witten不変量やインスタントンの数え上げに関するNekrasov予想などがあり、
枚挙にいとまがない.
弦理論は失敗した現象論として生まれたが、やがて最も高貴な力である重力
と、人類の自然に対する最も基本的な理解である量子論を調和させ、この世界
にはたらく全ての力と元素を奥の奥で統べている究極の理論であるという宗教
に成長した.しかし、近年の数学に対する弦理論のインパクトを考えると、む
しろ弦理論は物理学ではなく数学を統一しようとしている様にすら見える.実
際、これまでにも既に弦理論はRiemann面のモジュライ空間とモンスター群論、
KdV方程式、Donaldson理論といった似ても似つかないものを結び付けてきた.
また、KontsevichによるPoisson多様体の変形量子化に代表される一連の仕事は、
Riemann面のモジュライ空間が全ての結合代数の変形をも背後から支配している
ことを示しているように見える.そこで、ここでは(多少の無理は承知で)次の
ようなスローガンを唱えてみたい:
・弦理論とは、Riemann面のモジュライ空間が全数学を闇から支配している
と信じる宗教である.
この背後にある仕組みを理解することが、数学の立場から弦理論を研究する者に
求められていることではないだろうか.
(引用おわり)