葉鍵聖戦 5nd Period
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0001某一書き手
NGNG葉鍵キャラがオリジナル設定で大暴れしまくりな日記形式のリレー小説だゴルァ(゚д゚)
書き手も読み手もルール守ってマターリ逝こうぜゴルァ(゚д゚)
ついでdat逝きだけは防いで、マターリ逝こうぜゴルァ(゚д゚)
1 基本的にsageでお願い致します。
(ただし、dat逝きを防ぐためにageても構いません。目安はスレッド順位が300位以下になった時です)
2 どんな人間がどのキャラを書くのも構いませんが、それまでの伏線は重視する方向でお願い致します。
3 あまりに立て続けのカキコは自粛しましょう。
4 これはあくまでの2chのスレッドです。
当然書き手に否定的な意見等もあるかもしれませんが、いちいち反応せずに作品で結果を見せましょう。
5 他の書き手が納得出来ない展開はご遠慮下さい。
6 新規参入者は、過去ログを熟読して下さい。
7 1つの書き込みをした後には必ず2回ほど回して下さいますようお願い致します。
なお、連続で書き込む場合は、書き込みが終了した後に数回回して下さい。
8 書き込みの無い日はできればsageでメンテカキコをすることをお勧めします。
(dat逝きを防ぐためです)
では、貴方も葉鍵な聖戦の世界へ……
なお、過去ログ等は>>2-10にございます。
0002某一書き手
NGNG初代スレ:「邪悪な葉鍵キャラの日記」
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/973/973607248.html
二代目スレ:「葉鍵聖戦」
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/975/975572864.html
三代目スレ:「葉鍵聖戦 2nd Period」
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/982/982520510.html
四代目スレ:「葉鍵聖戦 3nd Period」
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/989/989180708.html
前スレ:「葉鍵聖戦 4nd Period」 (現在、閲覧不能です(2001.8.17現在)
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/996/996496655.html
過去ログ保管サイト
http://members.tripod.co.jp/bou_ichikakite/
0004名無しさんだよもん
NGNG0005坂上蝉丸@誰彼部隊・後編(1/7)
NGNG冷たい視線だった。虚ろではなくて確かに意思の宿った瞳だというのに。
そして、彼は獣の如く飛び上がっていた。
「――――!?」
速かった。いや速すぎた。俺が行動に移るよりも早く彼は岩切のもとに辿り着いていた。
「よう、どうだい気分は?」
首を締め付けながら彼は岩切に問い掛けていた。正気の沙汰ではない。
「止めるんだ!」
「――邪魔してるんじゃなねーよ!」
力強く腕を弾かれる。何としても彼を止めなければならない。
そう思った瞬間、彼の身体に変化が起こった。
「熱い……体が熱い……」
御堂と岩切の両人の戦いに俺以外のものが加わらなかった理由がそこにあった。
強化兵の血には強力な淫乱作用がある。耐性のないものはその影響を受けるのだった。
しかも、それはいくらひとりで慰めても意味がなく、他人の行為によるものでなければならない。
「ぐ、ぐわっーーーーー!」
血走った眼で彼は岩切のことを見ていた。
そう、岩切がどんなに悪ぶろうがやつは女でしかない。
いい女でもあろう。しかし、軍人として強姦に等しい行為を俺は許せるのか?
(俺のアナルを差し出すか?)
いや待て。なんか寒気が走った。軍人として――否! 人間としてやってはいけないだろう。
(な、ならば口でか?)
……頭がクラクラした。待て! 頼むから待ってくれ! まだ何か方法があるはずだ!
(手でするか……)
……妥当だろうか。前者の選択肢よりもマシのような気もするが……。
しかし、何故だろう……涙が止まりません、師匠!
だが、だが、これも人助け……岩切にだって、俺は義理もあれば恩もあるはずだ。
「くっ、仕方ない……いいだろう、その挑戦受けて立ってやる!」
これは、坂上蝉丸、生涯で最大の難関になるだろう。
「高子……これから、目を閉じてくれ、耳も塞いでくれ……頼む!」
そして、俺は堪えようない涙を流しながら、ことに及んだ。
――精神的に耐えようのない描写が入ります。暫くお待ちください――
0006石原麗子@誰彼部隊・後編(2/7)
NGNG辺りを見回すと瓦礫の庭に更なるガラクタが埋め尽くされている。
破壊された後……まあ、こんなものだろう。
「ガラクタか……」
そう。誰も否定することなど出来ない。ガラクタなのだそれは。
「……というとりも、ガラクタになったっていうほうが正しいかしら、ねえ?」
呟くのは誰かに向かって。私はそっと手を上げる。
気が抜けていたのは確かだった。例の爆破装置は半径300メートル以内でしか使えない。
だからといって、見落としていたのなら、気づかないわけがない。
「……何故なんですか?」
後ろから悲しそうなメイドロボの声が聞こえてくる。
応える言葉は、容易には見つけられなかった。
「さあ、どうしてかしら……?」
「――誤魔化さないでください!」
怒っているだけでなく、涙すら流している。要らない機能だと思ったが。
(必要なのかもね……)
そっと嘆息する。そして私は言った。
「で、どうするの?」
「……分かりません、でも、わたしの妹たちを直してくださいますよね?」
銃口が私の背中に突きつけられていた。
……まあ、仕方ないって言えば仕方ないのかも、ね。
「手間を掛ける? 新しく作った方が安いのよ」
「……わたしは石原先生のことを、もっと誠実だと思っていました」
「光栄ね……HMXシリーズが最高傑作、14型ミライ……通称マルチちゃん」
私は銃口も気にせず振り返っていた。
「でもホントはお手上げって程じゃないわ。マルチちゃんにはロボット三大原則がきちんと組み込まれているんだからね」
「…………」
「無意味だわ、そうやって脅しても」
私は懐から銀色の刃を取り出して、それに投げ付けた。
0007HMX−14型ミライ@誰彼部隊・後編(3/7)
NGNGわたしの心に芽生えたのは何でもない感情でした。
今まで人を憎く思ったことはありません。
でも、でも……わたしの妹たちが無残に散っていく有り様はなかったです。
あんまりです、こんなの……。
「石原先生、どうしてです?」
でも、先生は答えてくれなくて、わたしに向かって刃物を投げ付けてきました。
怖かったです、とても……。
だから、覚悟を決めるのは簡単でした。
(さようなら、浩之さん……)
セリオさんのもとに、妹達のところに、わたしは逝けるのですから。
……いんですよね、これで。
「ほら、どきなさい。まだ生き残りがいるわよ!」
わたしの後ろで爆発音。またも無残に散っていく儚い命。
狙いはわたしじゃなかったみたいなので、ゆっくりと後ろを振り向きました。
「…………」
パーツ……手や肩、足、顔、腹、すべて爛れて折れてまともではなく、それでも戦おうとする妹達。
人間に近く創造されたはずなのに、こんなにも……。
もはやロボットというカテゴリーからも、それは外れていて……。
でも、それでも、わたしは……。
「マルチ!」
石原先生の驚愕の声が聞こえた。わたしは両者の間に割って入った。
「止めてください。貴女たちはわたしの可愛い……」
でも声は繋がらなかった。信じてもいいと思った。妹たちに心を伝えたかった。
「あ……」
だけど無理だったみたい。
前からの銃弾。後ろからの刃斬。両方に貫かれる。
「ヤメテ……ヤメテ……イモウト……ワタシノ……カワイイ……」
メインメモリーが壊れたのか、もう思考は停止しようとしていました。
ただ、歩み寄る音……わたしと同じ顔の、妹たちが側に寄り添ってくれて……。
もしかしたら、わたしのこと分かるのかもしれない……。
だって、やっぱり私の可愛い妹ですから……。
お姉ちゃんって呼んでほしい。そうだったら嬉しい……。
だけど、すでに機能は完全に停止してしまって、視界は閉ざされていって……。
「敵機発見、これを排除します」
……ロボットは眠り続ける。大好きなご主人さまに出会える日を夢見て……。
0008坂上蝉丸@誰彼部隊・後編(4/7)
NGNG――しまったと思ったときには、すでに遅かった。
生命樹。またの名を仙命樹。永遠の樹とも云うらしいその力は何よりも蘇生に優れていた。
「ザマアミロー!」
御堂が勝ち誇ったように咆哮していた。たった一発の銃声だった。
全身が真っ赤になっても、肉が裂けようとも、死ぬことがない。
強化兵とは、そういう化け物であることを改めて俺は教えられることになった。
それとは逆に人間のなんとも脆いことか。頭を打ちぬかれて彼・佐藤少年はもう動くことはない。
「御堂! きさまー!」
怒りに狂ったのは霧島聖だった。形相すさまじく御堂に挑もうとするが。
「けけけっ。岩切に手出しする奴は生かしちゃおけねーんだよ!」
「…………!」
霧島聖はそれを聞かされ気勢を削がれた。俺もそうだった。
「御堂、お前……」
くっと息を呑んで霧島聖は佐藤少年の冥福にあたった。狂気であった顔をそっと閉ざしている。
せめて安らかな寝顔になれるように……。
病んでいる。何もかもが。この街は狂気で満ちているのだから。
「来いよ、蝉丸!」
御堂は荒々しい呼吸で俺を睨みつける。しかし半身が砕かれたその身で何をしようというのか。
強化兵であったも、もはや戦うことは不可能だろう。
「……岩切立てるか?」
俺は満身創痍の岩切に肩を貸してやろうとする。もう無意味だ。戦いなんて止めよう。
「……ふん」
しかし、岩切は俺の厚意を断ち切って自力で起き上がろうとしていた。
御堂の許によろよろと歩いていく。誰も止めようとはしない。霧島聖もそうだった。
「気づいてくれ、戦いの虚しさを……」
霧島聖が吐く。拳を強く握って赤く染まることも厭わずに。
だが、無常にも……悲劇は繰り返された。
0009坂上蝉丸@誰彼部隊・後編(5/7)
NGNG「なに……気にするな」
厭らしく御堂は口を吊り上げて、岩切の心臓を掴み出していた。
「…………?」
誰もが状況を把握できない中で御堂だけが、寒空に向かって高笑いを上げていた。
「馬鹿めが! 隙あらばこうしてやろうと思っていたんだよ」
「……御堂、何をやっているのか分かっているのか?」
俺は感情を抑えて激昂した。今も瞳に映ったものが信じられなくて。
「ああ、分かってるさ。足りねえーんだよ、血が! 仙命樹の血が足りねーんだよ!」
岩切の心臓を飲み込んで、奴の姿は異形のものへと変わっていった。
それは化け物だった。妖弧なんて生易しいくらいの妖怪変化だった。
御堂は本当に人間であることを止めてしまったのろう。
「けけけっ。力が湧いてくるぜ。もう完全体なんてケチなことは言わねーよ!」
目の前で崩れた肢体の鬼が笑っていた。
「手に入れたんだ。俺は最強の肉体を手に入れたんだ! 蝉丸――お前以上の完全体を!」
「……愚か。貴様はそんなことの為に岩切を……仲間だったんじゃないのか!」
ただ御堂は何も答えないで手を動かす。無論――俺を狙って。
「――させはしません!」
飛び出してきたのは高子だった。俺の前に障壁を作り出す。
弾かれるように、御堂の腕は俺に届くことはなかった。
「このアバズレが!」
怒り、小さき者に邪魔されたプライドの刺激だろう。
俺には分かる。御堂の放つ次の一撃は高子の力では遠く及ばない。
「てめーから先にぶち殺してやるぜ!」
悪寒が走った。とてつもなくそれは嫌な予感だった。
喉が詰まる。奴のプレシャーだろうか。
それを断ち切って俺はようやく口を開くことが出来た
0010坂上蝉丸@誰彼部隊・後編(6/7)
NGNGきついことうを言うようだが俺は叱責した。高子を戦いに巻き込まないためにだった。
……分かるのだ。奴から伝わってくる波動が。それはあまりにも強い。
「……蝉丸さんだけにしておけません!」
「――――!?」
御堂の巨大な手が高子を掠めていった。簡単に……あまりにも簡単に吹き飛ばされる。
目の前で、高子は俺を庇って、真っ赤に染まってしまった……。
死んだのか……? それとも生きて……。俺は何をしていたんだ……?
「脇役が邪魔しようとしてんじゃねー!」
虚ろだった。俺は感情をコントロール出来なかった。そのことが何よりも信じられない。
「……高子?」
視界の隅で眠る彼女はちょっとだけ微笑んで、それから目を閉じていった。
霧島聖も、その様子を見て絶叫を上げていた。
「ぐわーっ! 回流・鳳凰の舞!」
無我夢中で俺は奥義を繰り出していた。御堂を殺す為だけに感情が逆流していた。
「――もろいんだよ」
ピシン。音が聞こえた。何の音だったか知れない。煌いていたのは刃の銀色だった。
砕けていたのは刀身だった。俺は敗れたのか? だったら……。
「だったら、俺はようやく死ねるのか?」
長い年月だった。五十年。半世紀も俺たち強化兵は在りしままに生きていた。
だからこそ誰よりも死を望んでいたのかも知れない。
「ただ、いつからいきたいと俺は思うようになっていたんだ……」
月代も夕霧もそうだった。笑顔を俺に向けてくれていた。生きる意味を俺に与えてくれた。
石原麗子も、それに桑島高子も……。
「そうか、まだまだ俺は死ねないんだな……」
俺は渾身の力を振り絞って立ち上がっていた。刺し違えても御堂を連れて行く。
「……見事ですね、その想い」
だが、俺は動くことが出来なくなっていた。
「お前は一体……?」
金色の髪。手に持った槍。人形のように美しい少女。
「……名乗るほどのものではありません」
少女のあまりの気高さに俺はどういうことか金縛りにあっていた。
0011霧島聖@誰彼部隊・後編(7/7)
NGNG私はうめくように彼女の名前を紡ぎ出していた。
「貴方には生きる理由があるのでしょう? だったら生きる努力をしてください」
「……あなたは女神なのか?」
蝉丸君が上手いことを言う。私も金色に輝く彼女にそんな印象を抱いてしまっていた。
「……そんなわけないです。でも嬉しく思いますよ」
彼女は困ったように微笑んで、手に持った槍をくるっと回して刃先を御堂に向ける。
「なあ、お嬢ちゃん……そんなもんで、俺と遣り合うつもりかい?」
「……いいえ」
今度は人形のように彼女は御堂に向かって言い放っていた。
「そうかいそうかい、だったら――どけよ!」
「そういうわけにもいかないです」
御堂を挑発しているものだと私は思っていた。いや御堂自身だってそう考えていたに違いない。
しかしすべて的外れだったのだ。彼女の恐ろしさを私たちは思い知らされた。
「えーと、宣言が後になってしまいましたが、言っておくことにします」
本当は動くつもりはなかったんですけど、と小さく彼女は呟いていた。
「高野襲撃犯・御堂並びに岩切の両人、高野大僧正補佐役・里村茜の名においてこれを討ちます」
「ふん、だったら、やってみなよ!」
「…………?」
私がおかしい≠ニ感じたのは今が初めてだった。御堂は何を躊躇しているのだろう。
本来なら有無も言わせずに襲い掛かっているはずだった。
それをしないということは……。
「……鈍いです。もう終わっています」
「なにを……イッテんだ、オマエハよ……このオレに……」
御堂は……御堂だった異形は、自分の死を自覚することもないまま死んでいった。
そう、彼女が槍を回したときには、もう御堂は事切れていたのだ。
「……見ての通りです。女神なんてとんでもないですよ」
悲しそうに彼女は笑っている。
「それでは、また丘に戻ることにします。忠告ってほどでもないですが、物の怪の丘は危険です。来ない方がいいですよ」
彼女はそれだけを言い残すと、遠くの空に消えていった。
「約束は果たせなかったけど、北川君も、高野の皆も、今の私にはこれが精一杯なんです」
そして、ささやかな雨……。
0012誰彼部隊@
NGNG私は携帯を取り出して杜若きよみさんに連絡を取っていた。
高野襲撃事件の捜査本部の最高責任者が彼女だった。私も彼女の所属になっている。
もちろん『表向きは』ということだが。クローンの杜若が引き起こした事件とは言え彼女はかなり心を痛めている。
「御堂と岩切は残念なことになったわ。ええ、そうね。私の判断だと引きどきよ。ええ、分かっているわ」
そんな彼女だからこそ手を貸すこともしたが、北の街の騒動を治めるには私たちでは役者不足でしかない。
「じゃあ、そういうことで。月代と夕霧を拾って帰還するわ。怪我人の手当て? 分かっている、スフィーさんのとこね。了解」
一通り話し終えて私は聖たちのところに向かった。
みんな呆然としているわね。まあ、当然かしら……あまりにも事は大きくなりすぎた。
「石原先生、これからどうする気かね?」
聖が一番に声を掛けてくる。蝉丸の方は……重傷かしら。高子も……ね。
「引き上げるわよ。人知の越えた戦いに巻き込まれたくなかったらね」
「あなたは……いつもそうだな。そうやって人任せにする。あなたには事態を変える力があるのだぞ?」
「……厳しい意見ね。でも、それは買い被りよ。私の出来ることにも限度はあるわ」
「そうやって事を見守るのか? 千年前のように」
千年前か。この子ったら、どこまで私のこと調べたのかしらね。
まあ、いいけど。誤解だけは解かないと。
0013誰彼部隊エピローグ@誰も彼もが黄昏ゆく世界の中で
NGNG「……たくさん死んだのだぞ? それを……」
「ええ、だから、もう……これ以上は、でしょう? 帰りましょう。貴女を死なせたくはないわ」
聖は分かってくれるかしら。結構、本気で言ってるのよ。
私って……不器用なのよね、こう見えても。
「……あい、分かった」
「ありがとう。それじゃあ撤収するわ。蝉丸君も高子ちゃんのこと宜しくね。目的地はとりあえず病院よ」
「……私たちのアジトにか?」
「もちろんよ。これでも医療機関に私は所属してるのよ。怪我人を放って自分だけ帰れないわ」
「……感謝する、石原先生」
もう言葉は要らなかった。この戦いの先を私には見ることが出来ない。
だからこそ目に映ったものだけでも助けたい。
「私も変わったってことか……」
「……どこかだ?」
彼女が苦笑する。当然だろう、私だってそうなのだから。
「別に、何となく感傷に耽ってみただけよ」
この雪空の中で、戦いはどこまでも続いている。
そのことが、どうしてか悔しかった。
0014名無しさんで逝こう
NGNG0016名無しさんで逝こう
NGNG0017名無しさんで逝こう
NGNG0018名無しさんだよもん
NGNG0019名無しさんだよもん
NGNG0020柏木千鶴@想いの果てに(1/5)
NGNG気を解放する。爪の先まで伝わっていく鬼の血。赤い瞳は最強の象徴だった。
「月代さんと夕霧さんは二人のことお願いします」
「耕一も楓も今は戦える状態じゃないからな。あたしが頑張らないと」
誰彼の二人は頷く。梓は私の横に立つ。
「奴らの電波は僕が防ぎます」
「はい、お願いしますね」
大勢はこの上ないほど有利だった。負けるはずもない。
「こ、これは……」
「兄さん、もうダメよ。逃げましょうよ!」
怯える銀狼と歌姫。思い知るといい。
このまま逃がしたりはしない。ここまでやってくれた報いは絶対にさせてやります。
「梓! 行くわよ!」
「分かってるよ!」
私たちは妖弧のもとに駆けていった。
「来るか? 受けて立つ!」
「兄さん、そんなの無理よ……勝てっこないわ!」
「――唄え、緒方理奈!」
「だって、そんなことしたって――」
「いいから唄え! お前はトップクラスの歌手だ! 俺がそう育てたんだ!」
「兄さん……」
仕方なくという風に彼女は歌い始めた。
『愛という形ないもの捉われている♪』
『心臓が止まるような恋があること知ってる♪』
悲しい歌声だった。どんな時でも唄わなくてはならないのが歌手ということか。
「壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ」
チリチリチリチリと空気中に電波が走っていた。
(相殺されている?)
これで心配事は何もない。力の限りやるだけだった。
「緒方さん、あなたを殺します」
鬼の爪が迸った。しかし――
「きゃあー!」
月代さんと夕霧さん悲鳴が私を動揺させた。
0021柏木千鶴@想いの果てに(2/5)
NGNG「――どうして?」
私は意識を混濁させながらも振り返っていた。
「白い妖弧?」
彼女らに白い牙を向ける数百の白弧が周囲を取り巻いていた。
「ふん、所詮は鬼か。戦いの最中によそ見をするとは失望したぞ!」
線が走った。首筋に赤い線。流れ出る血。
「……あずさ?」
「へへっ。とろくせー姉貴をもつと苦労するぜ」
庇ったの私を? どうして、こんな一瞬のうちに……。
ああ、梓の生命の花が散っていくのが分かる。
「……まだ、こんなんじゃあ、終われねーけど……任せていいかな、初音や楓や耕一のこと……」
「……あずさ、あなた何を言ってるの?」
どうして……こんなにあっさりと、死んでしまうの?
私たち姉妹が何をしたって言うの?
「ふん、初音だと?」
緒方が喋り出す。興味ないことだったのに……聞かずにはいられなかった。
「やつは、もう死んでるよ。エルクゥというらしいな、まったく妖弧にたてつこうなんて」
「……なんですって?」
「何度でも言ってやるよ、初音は死んだ。保科智子にでもスフィーにも聞いてみるがいい。
初音を追い込んだのは、奴らなのだからな……」
「…………」
意識が砕けようとしていた。そして流れ来るもの……瘴気という名の狂気。
「もう喋ることは許しません」
静かに言い放つ。しかし愚かにも銀狼は口を動かした。
「仲間ごっこは面白かったかい?」
「このーーーーーーーーーっ!」
鬼の爪で奴をすべてを引き裂いてしまいたかった。
0022澤田真紀子@想いの果てに(3/5)
NGNG優位だと思った次の瞬間には、もう暗転しているものだった。
そう、勝ったと思ったが負けなのだろう。
「…………」
鬼がいた。私の目の前に角のない鬼がいた。
悪鬼羅刹とも相応しい。
「殺してやるー!」
鬼が吼えた。妖弧に向かって爪を伸ばしていた。
「きゃあ、もう来ないでよー!」
もし、彼女が本当に鬼であったのなら、その声には見向きもしなかっただろう。
月代と夕霧のためでなく、その側で眠る耕一と楓という血縁者の為であっても、彼女は理性を取り戻していた。
しかし、それが銀狼の餌食になった。
「隙だらけだな!」
銀狼の牙が彼女に向けられた。鮮血が走った。
祐介くんは、理奈の電波を止めることで精一杯だった。
動けるのは私だけだった。
「祐介君、貴方は妖弧の方をお願いするわ!」
仇だから。理奈は私の友人の仇だったからこれだけは譲れない。
「……分かりました」
頷いてくれる。感謝する。マシンガンの残弾を私は確認した。
理奈が不適に笑って、私に狙いを定めていた。
「また、あなた? 懲りないわね」
微笑を浮かべる……余裕のつもりだろうか、今はそれでもいいが。
私はマガジンを装填した、マシンガンを彼女に向かって思いの限り撃ち始めた。
「死んで頂戴!」
パララと乾いた音が断続的に鳴った。彼女は避けようともしなかった。
砕けていく肉片。弾に彼女の身体は削り取られていく。
「……やったの?」
でも彼女は半壊した身体で顔で私に微笑みかけていた。
「これで満足?」
血のこびり付いた手で私に触ろうとする。
「ひいっ」
頬を撫でられて私は思わず悲鳴をあげてしまった。
0023澤田真紀子@想いの果てに(4/5)
NGNG幻を見せられていたのだ。
「弥生は確かに扱いやすかったわ」
どろどろとした感情。私は怒りよりも恐怖に怯えていた。
「どうして死なないのよ!」
「さあ、どうしてだと思う」
理奈は何とも面白そうに笑って答えてくれた。
「貴女が弱いからよ」
真っ白になった。世界は白で統一された。
これが死ぬって事なのだろう。そう。私は弥生の仇も討てないまま死んでいくのだ。
「そうれじゃあ、貴女も彼女みたく死になさい」
手が勝手に動いていた。銃口が私自身に向けられる。
「じゃあねー、バイバイ」
意識が混沌に沈んでいこうとした時、何かが私の耳に聞こえてきた。
それは……弥生の声であり、彼女の想いであり、よくあの子が自慢していた歌声でもあった。
『今でも覚えているあの日見た雪の白さ♪』
『初めて触れた唇の温もりも忘れない♪』
森川由綺の歌声は私の病んだ心を溶かしてくれる。
切ないメロディが流れている。弥生の生涯を懸けた歌姫の声だった。
「そんな……だって、由綺はもう死んだって……」
突然のことに彼女は、戸惑い苦しんで、私は正気を取り戻して、銃口を突きつけた。
「……森川さんがあなたを待っているわ」
銃声が鳴り響いた。世界は元あるとおりに還っていった。
彼女の意識だけを残して……。
0024緒方英二@想いの果てに(5/5)
NGNGどういうことかまた森川由綺の歌声が響き出していた。
「なぜ、こう何度もこのような事態が訪れる……」
「……分かりませんよ。あなた方には」
鬼がいた。そう鬼だった。それなのに……悲しみに満ちた声だった。
「森川さん、彼女の想いは……優しさなんです、人間の」
身体が引き裂かれた。鬼の爪。俺の牙よりも鋭く煌いている。
「羨ましいですね、人間って……いいですよ」
「がっ……」
胃の中のものが喉を通って外へと吐き出されていく。
なぜだ……今まで、俺は優位を保っていたのだぞ。
それがどうして、こうも容易く……。
「理奈! 唄うんだ!」
「…………」
「どうしたんだ? 森川由綺よりも俺はお前を選んだんだぞ!」
「…………」
「理奈、どうして……」
返ってくるのは沈黙だけだった。
俺は足を引き摺ってでも妹の側に近寄っていく。
「……なさい……ごめ……なさい……」
何かを理奈は呟いていた。一体何を……虚ろな眼で、涙を流して……。
俺は耳を澄まして、妹の声を聞こうとしたが――
「……なんだと?」
反乱? 白い妖弧どもが俺に牙を向けるだと?
「きさまら……俺が銀狼と知っての……」
言葉はそこまでだった。奴らは一斉に俺に喰らい付いてきた。
「……なぜ?」
その先に居たのは電波の少年だった。
「ああ、そうか……そういうことだったか……」
今なら理奈が何を言っていたのか分かるような気がする……。
「強くなったな少年……」
気の利かない生涯最後の言葉を残して俺は黄泉の旅路へと出かけた。
理奈をエスコートしてやるのも悪くはないと……。
0025名無しさんだよもん
NGNG0026名無しさんだよもん
NGNG0027名無しさんだよもん
NGNG0028名無しさんだよもん
NGNG0029名無しさんだよもん
NGNG0030名無しさんだよもん
NGNG0031スフィー@流れ出す時
NGNG俺は目の前の光景に、大きく溜め息をついた。
大地を埋め尽くす、白い妖狐の群れ。その全てが、地に伏している。
まるで、九尾を迎えるかのように、一人の女の前に、平伏していた。
「……まぁ、こんなもんね」
奴はこともなげにそう言うと、鬱陶しそうに長い髪をかきあげた。
「ううん、長い髪も良し悪しねぇ。やっぱボブのほうがいいかしらね」
「ったく、この力は、すでに人間業じゃねーよな」
俺はそう言うと、その女……長岡志保の横に立った。
作戦は、二段構えだったのだ。正面から攻めると見せかけて、裏口から緒方兄妹
が攻める。緒方兄妹に戦力を集中させておいて、白い妖狐の大群が、正面突破を
狙う。実際、俺や瑞穂や加奈子だけじゃあ、防ぎきれなかっただろう。
だが、その絶望的な戦況を、この女たった一人で引っくり返しやがった。
しかも、一人の死人も出さずに、だ。
それは、敵の……妖狐の軍団にも。長岡が一瞥するだけで、こいつらはまるで真琴
に出くわしたみてぇに、おとなしく言うことを聞きやがったのだ。
「……緒方兄妹の方は、助けられなかったわね……」
彼女は自嘲気味につぶやくと、首を振った。
「けど、完全に失われたわけじゃない……今なら間に合うかもしれない」
「……何の話だ?」
「失われた想いの事よ」
0032名無しさんだよもん
NGNG0033名無しさんだよもん
NGNG0034沢渡真琴@流れ出す時
NGNG歓喜、憎悪、怒り、悲しみ、絶望…その全てであり、どれでもない。
裏葉。我が娘よ、お前もまた、我が元から去って行くのだな。
(……祐一も、真琴を置いて、どこかにいっちゃうの…?)
皆、そうだった。私が愛したもの達は、誰もが私より先に逝ってしまう。
私は、少し長く生き過ぎたのかもしれない。
(春が来て……ずっと春だったらいいのに)
春。春は私も好きだ。自然の息吹が、大地に満ちる。
そう、お前を見つけたのも、ある春の日差しの優しい時だったな。
人に傷つけられ、母を殺され、お前は全てに憎しみを持って、樹の根元にうずくまっていた。
お前の名前は、裏葉。夏へ向け、蒼々と茂る葉の木陰で、ぬばたまの瞳で、私を睨み付けていた。
我がいとしい娘。血は繋がらなくとも、我らは間違いなく母娘であった。
だが、人に傷つけられしお前が、人を愛するようになるなど、誰が予想できただろう。
母として、それは喜ぶべき成長であるはずだった。
私は、柳也とかいう、人間を見た。裏葉に寄り添い、この私に刃を向ける。
「お母様……わたくしはやはり、神奈様と柳也様と一緒にいとうございます」
「……それが答えか、我が娘よ」
(こんな思いをするんだったら)
これほどまでに幸せそうな娘は、久しぶりに見た。涙をたたえながら、決意を込めた瞳で、
この私を見据える。心がざわめく。裏葉。母である私より、弱き人を選ぶのだな。
「はい。もう裏葉は子供ではありませんから」
子供……裏葉よ、お前はたとえどれほどの年月が経とうと、我が子である事に変わりはない。
だが、この母に牙を向く…その意味を判っているのか?
「……死ぬことになってもか?」
「はいっ!」
(愛など知らなければ良かった)
水瀬秋子よ。娘の為、その身を闇に堕した人の母よ。お前も、私と同じ苦悩を負っていたのか?
八尾比丘尼よ。娘に心を託し、消えていった翼持つものよ。お前も、私と同じ絶望を味わっていたのか?
憎しみ。嫉妬。怒り。どす黒いものが、内側から吹き出してくる。
「裏葉よ、掛かって来るがいい!」
0035沢渡真琴@流れ出す時
NGNGそうか。美汐、お前も、自分の居場所がないのか。
お前もこの男に居場所を奪われたのだな。なら憎むがいい。負に心委ねるがいい。
千年前の、この私のように。憎しみで力を振るうがいい。
お前とこの私は、よく似ている。さあ、私がその背を押してやろう。
「天野、神奈の依代よ! もうお前はよい――神奈を降ろせ!」
私は高らかに叫んでやった。美汐の顔色が変わる。
(私はどうでもいいのか? 本当に私は今まで弄ばれていただけなのか? )
そう考えているのだな。苦しみ、喘いでいるのが手に取るようにわかる。
これは、愛なのかもしれない。
ただの愛ではない。相手を傷付け、自分に振り向かせようとする、利己的な愛だ。
絶望するがいい。怒りに震えるがいい。私だけが、お前を理解してやれる。
「そんなに神奈の力を見たいのなら、見せてあげる……負に染まった神奈の力をね!」
天野の顔が絶望に染まるのを見て、私は歓喜の笑みを浮かべる。
負に染まった力が、天野を満たしていく。
私は笑っていた。ずっと、ずっと待ち焦がれていた者がいる。
その者が絶望し、苦しんでいる。それを見て、歓喜する私がいる。
それでいい。それこそが、私たちのあるべき関係なのだ。
笑いが止まらない。何故なら
……狐は、涙など流さないのだから。
0036名無しさんだよもん
NGNG0037名無しさんだよもん
NGNG0038河島はるか@流れ出す時
NGNG今の私が、そうだった。
光と闇の融合。そこに出現する“無”は、この世の全てを分解し、跡形もなく消し去るはず
だった。藤田さんから受け継いだ、プラスの次元修正能力。私の持つ、マイナスの次元修正能力。
その二つを合わせたこの技は、例え水瀬秋子といえど、防ぐ事など出来ない。
そのはずだった。
水瀬秋子は生きていた。ただし、その力のほとんどを使い果たし、地面にぐったりと裸身を横たえ、荒い息をつくだけだったが。
私もまた、その力の大半を消耗し、地面に転がっている。
「な……何故……?」
完璧だったはずが、何故倒せなかったのか。
「死んだら、だめだ」
今まで、ぐったりと倒れているだけだった秋子が、弾かれたように顔を上げた。
その視線の先は、私ではなく、そのさらに向こう。まるで幽霊でも目撃したかのような、呆然とした表情。
「死んだら、みんな悲しむ。秋子さん、あなただってわかっているのに」
私は、全身にはしる苦痛をこらえ、なんとか首だけでも捻じ曲げて、声の主を見た。
別に、普通の男の人だった。整った顔立ちだが、中性的な感じを受ける。
でもそれだけ。それだけのはずなのに……不思議と、心引かれる。
「ゆ……祐一さん………」
秋子の声に、私はようやく、彼が何者なのか気付いた。相沢祐一。藤田さんと対を成す、もう一人の次元修正能力者。
彼の足元には、力なく横たわる智子さんの姿があった。
そう。ようやく私は理解した。
次元修正能力をもって生み出した“無”……
それを中和できるのは、同じ次元修正能力を持った、藤田さんか、彼だけなのだ。
0039河島はるか@流れ出す時
NGNG「!?」
驚くほど穏やかな声で、彼は言の葉をつむいだ。ぎくり、と秋子が身体を振るわせる。
「届かない思いに託すよりも、今この瞬間の想いを大事にしてあげてください」
服は炭同然になり、ほとんど裸となっている智子さんを抱いて、相沢さんはこちらに歩み寄る。
「名雪も、間違いなくあなたの娘なんですから」
あの水瀬秋子が。言葉もなく、呆然と相沢さんを見上げていた。
「……祐一さん、あなた、一体………」
「もう一人の次元修正能力者の覚醒と共に、俺も目覚めた。氷の牢獄が溶けた時、藤田から、あなた達の事を頼まれた」
「た、頼まれたって、藤田さんは死んだはずじゃあ!?」
私は、驚きの声を上げる。
「次元修正能力を持つものは、自分が死を望まない限り、何度でも復活する。……いや、復活させられる、といった方が正しいかな。この歪んだ因果律を修正するべく、俺達は、無理やりに生かされているんだよ」
「………」
「そして、真に覚醒した時、俺は星の記憶をかいま見ることが出来た。秋子さん、あなたの過去も」
水瀬秋子が、ゆらり、と立ち上がった。全身から、焼け付くような気を放っている。
「知った風な……知った風な事を言わないで下さい、祐一さん」
その目が、静かな怒りをたたえている。
「この場は引きます。ですが、次は有りません」
それだけ言うと、彼女の身体は、私達の前から消え去った。
相沢祐一はそれを見送ると、動けない私の方に振り向いた。
0040河島はるか@流れ出す時
NGNG彼が歩み寄ってくるのを見て、私は唇を噛んだ。
「何故…何故邪魔したのですか!?」
「相打ちしたって、誰も喜ばない。それは君が一番よくわかっているはずだ。
生きているからこそ、出来る事もある」
「っ………」
何も言えなかった。それぐらい、彼の目は、優しさに満ちていた。
智子さんを私の隣に横たえると、彼は私の体に触れていく。
彼が触れた所から、力が流れ込み、見る間に傷が癒えていった。
「……これで、取り合えず大丈夫なはずだ。それじゃあ、俺はもう行くから」
「ど、どこに?」
思わず、素っ頓狂な声で、私は叫んだ。彼は小さく笑みを浮かべると、何も言わずに背を向け、去っていった。
「……死にぞこなってしもたな」
目を覚ましたらしい智子さんが、腕を目に押し当てたまま、小さくささやく。
その声には、秋子を逃してしまった悔しさだけではない、別のものも混じっていた。
「……生きているからこそ……か。すんません、お師匠さん……もうちょい、そっちに行くには、
時間がかかりそうや……」
「そうですね……」
私も、スフィーさんとの約束を思い出していた。
「…不本意ですけど…スフィーさん、約束は、守りましたよ」
ただ、風だけが私たちの間をすり抜けていく。
私と智子さんは、いつまでもそのままで、空を見上げていた。
0041名無しさんだよもん
NGNG0042名無しさんだよもん
NGNG0043名無しさんだよもん
NGNG0044名無しさんだよもん
NGNGmisioの、siをiを抜かして打ってしまうんだよもん
…こんな儂は逝って良しだよもん
0045スフィー@流れ出す時・終わりの始まり
NGNG千鶴、真紀子、月代と夕霧、祐介、瑞穂、加奈子。それに聖、蝉丸、後数人。
取り合えず俺の周りに集まっている面々を見回し、俺は溜め息をついた。
「けれど、梓は……」
千鶴は、暗い顔を隠す事が出来ないでいた。
「あたしがどうかしたって?」
ギョッとした顔で、千鶴と祐介たちが振り返る。そこには、身体中に包帯を巻いているものの、けろりとした顔の梓がいた。
「あ、梓…てっきり私は、死んだとばかり…」
「勝手に殺すな、千鶴姉。あたしがいなくなったら、耕一たちに、千鶴姉の料理を食わせなきゃいけなくなる」
「それは恐ろしいな」
俺は実感を込めて頷いた。一度、千鶴が炊き出しの手伝いをすると言い張り、不幸にも俺は奴の作ったスープを口にしてしまったのだ。
「でも、どうして……?あの白い妖狐に、食い殺されたんじゃあ…」
「あのあたりの妖狐は、全部こいつの支配下に入っていたからな」
俺が振り向く先に、長岡志保の姿を認め、何人かの間から、驚きの声が上がる。
たまたま、会議室に「食事の準備が出来ましたよー」と、理緒が顔を出す。
その目が、長岡と合った。
「………お、お化け」
くたっ、と倒れこんだ理緒を、加奈子が慌てて支えた。
「い、いつからそこに居たんですか!?」
「ずっと前からだけど」
長岡は肩をすくめると、その場に居た全員の視線を集めながら、口を開いた。
0046スフィー@流れ出す時・終わりの始まり2
NGNG「その前に、聞かせて欲しいんだけど」
話の腰を折られ、ちょっと嫌な顔をしつつ、長岡が振り向く。質問の主は、祐一だ。
「表の2千匹の妖狐を支配しているのは、あなたの力なんですか?」
「ん、そうだけど」
「一体、あなたに何が起きたんですか?例え僕の電波でも、あれほどの数の妖狐を精神支配するなんて出来ないのに」
祐一だけじゃない、全員が同じ疑問を持っているはずだ。
「星の記憶……そのネットワークを応用しただけ。あたしは別に、精神支配なんかしてないわよ」
「なるほど、星の記憶か……星の記憶!?」
あわてて、俺は長岡に詰め寄った。
「藤田とヤったお前は、何で星の記憶なんてものを操れるようになったんだ?」
「ヤったって……あのねぇ」
顔を紅くしながら、長岡はもごもごと口の中でつぶやく。
「あたしの力は、情報を操る力。この世のすべての情報は、星に刻み込まれる。
そしてその星の記憶こそ、永遠の根源であり、すべての源。あたしはそれに、少しだけ触れる力を手に入れたのよ。
でも、あたしの力なんて、ささやかなもんよ。元々、あたしはただの人間なんだし。
星の記憶にアクセスして、情報を覗いたり、そこに存在するノイズを、直接相手の脳に流し込んだりといった程度の使い方しか出来ないわ。
伏竜・椎名繭ほど自由度は無いし、折原や氷上みたいな使い方も出来ない。
まぁ、ようはあたし流の使い方しか出来ないってことだけどね」
「妖狐を支配した、あの技は?」
「だから、支配したわけじゃないってば」
長岡は、あっさりと首を振る。長く伸びた髪が、その動きに合わせてゆらゆらと揺れた。
「あの場にいた狐の脳に、間違った情報を流し込んだのよ。あたしは沢渡真琴、あんた達はあたしに従う事、って。
……例え妖狐といえど、絶対に見破れないわ。何故なら、彼らの中の、“沢渡真琴”の記憶を勝手に
あたしになぞらえて、見てくれるんだから。しゃべり方、気配、妖気、全てが『記憶の中の』真琴と一致する。
ま、あたりまえよね。だってモデルは、当人の中の真琴像なんだから」
「言うなれば、相手の脳みそに、直接ガセネタを吹き込んでるってワケか」
「ま、まあ、そうとも言うわね……」
長岡は引きつった笑みを浮かべた。
0047スフィー@流れ出す時・終わりの始まり3
NGNG「力の方はわかりました。けれど、星の記憶は、どう関わってくるのですか?」
「星……ね。星の記憶って、何だと思う?」
「翼人が届ける、世界の記録…」
「それから、“永遠”とも呼ばれる、無限にして瞬間なるものでもあるな」
千鶴の自信なさげな答えに、俺は補足する。
長岡は、意味深な笑みをを浮かべて、腕を組んだ。きっと奴は、人に話をするのが好きなのだろう。
「永遠とはどういうものか……伏竜の言葉を借りるなら、永遠は望んだ世界……在り得ない事象こそが望まれた世界。
翼人によって送り届けられる星の記憶は、永遠を形作る。
“永遠”の力とは星の記憶より生まれるものだし、星の記憶とは、生きるもの全ての記録。
で、なんで法力も翼人の血も引いてない、ただの人間のあたしが、星の記憶にアクセスできるのか。
…実は星の記憶は、すべての生き物と繋がってるからなのよ」
「すべての人間と……繋がっている!?」
「そう、えっと、ユングの……なんたら無意識」
「集合的無意識ですか?」
大学で心理学を学んでいるとかいう千鶴が、さっとフォローした。
「そうそれ。人間の精神はすべて、心の奥、無意識で繋がっているって理論。言うなれば、でっかい樹みたいなもんね。
葉っぱを人間とすると、すべての葉っぱは枝に繋がっている。そして、枝は幹に連なる。
その幹こそ……星の記憶と呼ばれるものなのよ。そう、あたし達は…いえ、あたし達だけじゃない、あらゆる生きとし生けるものは全部、巨木の先の、小さな葉っぱなのよ」
それは、想像を絶する話だった。
「別に、あたしがリーフ出身だから、こんな事いってるわけじゃないわよ」
次の台詞はよくわからなかったが。
0048スフィー@流れ出す時・終わりの始まり4
NGNG“永遠”をネットワークにみたてるってのは、そういう事。
そこには、距離も、時間も、人数も関係ない。なぜなら、永遠だから。
この星は、おっきな樹のように、見る事が出来る。全ての存在は、心でつながっている。
永遠は、それを望むもの全てに姿を見せる。これがあたしの結論ね。
あたしはヒロと交わる事で、集合的無意識を遡り、星の記憶を“観る”力と、
相手の脳に直接、情報…ガセネタを送り込む力を手に入れたってことよ」
長岡は、そう言って話を締めくくった。
まあ、俺や千鶴、それに聖はともかく、他の面々は半分も理解できていない顔だった。
特に梓なんか、怪我をしているとはいえ、頬杖をついてさっさと居眠りをこいている。
「ま、正直あたしも、この半分ぐらいは受け売りなんだけどね」
長岡はそう言って、頭を掻いた。その時。
どおおおおおおおおおおおおおおおおお・………
凄まじい衝撃が、俺達を揺さぶった。
「これは!?」
空が色紙を燃やすように、一面闇に覆われ、伸ばした手の先すら見えなくなる。
「こっ、これは……翼人の力……!?」
次の瞬間、窓から見えるものみの丘の上に、純白に輝くものが見えた。
それは天を貫き、丘と闇色の空を繋ぐ、巨大な光の柱だった。
「……神奈の力が……負に染まった!?」
長岡が、呆然とつぶやく。
闇の中、ただ一つ見えた光はしかし、恐ろしいほども禍禍しさを持って、俺達に一つの予感をさせた。
すなわち。
「……事態は、取り返しのつかない方向に、行こうとしている……」
聖の呟きは、俺たち全員の心情を表していた。
「……くっ!」
突然、長岡が走り出す。窓から飛び降り、凄まじいスピードでものみの丘へと向かっていく。
「ちぃ、お前等、俺達はさっさと退却するぞ!!」
俺は、慌てて内線を使い、怪我人の移動を急がせる。集まっていた面々も、素早く
各自の受け持ちに向かっていく。
とにかく今は、動けない奴らを、一刻も早く避難させる事だ。
「やれやれ……俺は本来、現実的で堅実な、骨董商人なんだがなぁ」
らしくない愚痴をつぶやきながら、俺は部屋を飛び出していた。
0049名無しさんだよもん
NGNG0050名無しさんだよもん
NGNG0051名無しさんだよもん
NGNG0052名無しさんだよもん
NGNG0053名無しさんだよもん
NGNG0054名無しさんだよもん
NGNG息を飲むのとはまた違う感触が喉元を通り過ぎていった。
がくがくと膝が震えていた。恐怖であって快楽であったそれは私を支配する。
破壊と破滅。負とはそういうものだった。
終わらせたい。早く速く。気が違ったように私は声もなく笑い出していた。
さあ、壊してやろう。何からだ? 何がいい?
何でもいい、壊してやろう。
そう。他愛ない。この力を持ってすれば何もかもが容易い。
――封魔、よくぞ今まで生きてこられたものです。
目を開いて周囲を見回す。
裏葉に柳也。それに九尾がいる。宿敵の沢渡真琴だ。
――いつからなの?
九尾は私からすべてを奪っていった。
憎い。憎い。とてつもなく怒りが湧き上がってくる。
――でも、それは。
ああ、今こそ積年の恨みを晴らせるのだ。
壊そう。真っ先に砕いてやろう。
そう、あの時、私からあの人を奪っていった彼女を、殺してしまおう。
永遠の年月。千年という年月。季節は流れていた。
――私の子供の項、あの子と出会った。
知っていたのに、知らなかった。
――考えたくない。もう何も思い出したくないのよ!
イメージ。脳裏に何かが浮かび上がってくる。
ぴしっ。ぴしっ。
音が鳴るたびに頭が砕けそうだった。
笑っている。笑顔。微笑みかけるその姿は……。
――思い出さなくていい!
でも、それは鮮明な記憶の映像だった。
『……美汐?」
呼びかけられるのは、あの子の……昔懐かしい声だった。
0056椎名繭 ― the 1000th summer (2/13)―
NGNG七瀬さんが指差した先には確かに彼女・長森瑞佳さんの姿があった。
「はい、みたいですね」
「……みたいですねって、あれ、瑞佳なのよ!」
私の反応のどこに不満な点があったのか、七瀬さんは口を尖がらせてしまう。
「そっか、留美ちゃんには話してなかったよね」
「……うん? なにが?」
「あれは長森さんであって、長森さんじゃないということですよ」
私は簡単に説明することにした。
妖弧の転生術。真琴の娘の裏葉という存在。長森さんは未だ目覚めていないこと。
「――と、いうわけですよ」
「はあ、またややこしことで……でも、あそこにいたらヤバくない?」
「戦いに巻き込まれて、というこですか? それなら心配要りませんよ」
「……え?」
「翼人$_奈も九尾$^琴も裏葉さんには手を出しません」
理屈としたら簡単だった。
神奈にとっても真琴にとっても裏葉さんは大切な存在なんだから。
「で、でもさ……」
「彼女だって長森さんの身体を借りているという自覚はあります。無茶なことはしないでしょう」
と、強く念を押すと七瀬さんは押し黙ってしまった。
今動くことは得策ではない。翼人と九尾の戦いは彼女達に決着をつけてもらいたかった。
「……やけに冷静ね、繭は。九尾なのよ、あそこにいるの」
「そうですけど、私が怖かったのは、どちらかというと邪術士の方ですから」
「まあ、あっちも相当きてるけど……でもさ――」
七瀬さんが何か言おうとしていたところで自体は一変していた。
「――来るよ!」
川名さんが難しい顔で言う。
負が辺りに満ちていた。ドス黒い雰囲気が周囲の生あるものを覆い尽くしていく。
「神奈降臨ですね」
天野さんの背中から純白の翼が伸びていた。
0057天野美汐 ― the 1000th summer (3/13)―
NGNG町中で行商人から高野で戦(いくさ)があったこと小耳に挟んだ。
都から遠く離れたこの北の地でも噂が飛んでくることは珍しいことだった。
「美汐、なにか良い物は見つかったか?」
「あ……はい、祐一さん」
町には婚儀で扱う装飾品を買いに来ていた。
私は手に持った鈴の髪飾りを祐一さんに「どうですか?」と促し贈って貰うことにした。
そう、誰のって言われると照れてしまうけど、私と祐一さんの結婚だったから。
あと一月ほどで、私たちは夫婦になる。
「じゃあ、暗くなる前に帰ろうか?」
山間の村までは大きな丘を越えていかなければならない。
急ぐことに越したことはなかった。
月の映える山道。祐一さんも耳に挟んだのか高野であった翼人と九尾の戦いのことで話が盛り上がる。
こんな田舎では、都会からのスキャンダルが何よりの土産だった。
丘の中央に差し掛かる。大きな満月が伺える。
緑の芝生。吹きぬける風の音。そこはいつもと変わらない小径のはずだった。
「――え?」
私は目を疑った。夜だというのにそこ≠セけ光に包まれていた。
祐一さんも呆然としている。私と同じく芝生の上で倒れている女の子に目を奪われてしまったのだろう。
あまりに非現実的な状況下であったけど、私は何故だかその子に向かって走り出していた。
「ひどい傷……」
女の子は怪我をしていた。身体のいたるところに赤い染みが出来ている。
見ている私が怖くなるくらいの傷痕が所々に見受けられた。
「あぅーっ」
女の子が苦しそうにうめき声をあげる。
「……見せてみろ」
私に代わって祐一さんが背負った行李を降ろして手当てをする。
「……ここじゃあ駄目だな」
でも、すぐに歯軋りを立てて、女の子のことを背負って歩き出した。
私たちの村に連れて行く、ということだろう。
「はい」
私は何の迷いもなく返事をしていた。
「あぅーっ……」
彼女のことがとても愛しく思えたから……。
「もう大丈夫よ……」
ただ……悲しみは、その先で私たちの訪れを待っていた。
0058天野美汐 ― the 1000th summer (4/13)―
NGNG汚れを知らない純白の翼を広げた彼女はまずひとり呟いていた。
「九尾よ、呪詛に苦しんだ日々……辛かったぞ」
気高い声音で誰に言うでもなく、九尾さえ歯牙に掛けた様子はそこにはない。
彼女は輝いていた。美しく黄金色に光り見るものを圧倒的な存在感で跪つかせうる存在だった。
肌はびろうど。瞳はめのう。涙は金剛石。やんごとなきその姿はまさしくあまつびと。
『……神々しい、そして……美しい』
私は素直にそう感じていた。彼女を前にしたのならよく分かる。私の存在なんて本当に裏≠セった。
何の因果か……九尾を討つ為だけに降ろした、この身に宿した翼人$_奈はあまりにも美しい。
「神奈……久しいな、その姿……千年前と変わらぬか……」
「九尾よ、お主は、今も……真琴と名乗っているらしいが……それも因縁であるよのう」
「……戯れよ。この鈴も、この姿さえもな……人化の術など容易いものよ」
風が巻き起こっていた。あでやかな翼が舞う度に強くなっていく。
もう風とは言えない嵐にまでなっていた。木々も大地も耐え切れずに悲鳴を上げている。
「神奈さま、お待ちしておりました」
裏葉……神奈の随身がうやうやしく礼をしようとする。
「おお、裏葉か……それに柳也どのもか、懐かしいのう……どうした、もっと近う寄れ」
「はい、神奈さま……」
突風が吹いた。物の怪の丘が嘆いているように。
……裏葉さんの肩を柳也さんが掴んでいた。その表情はとても険しかった。
「どうしたのですか、柳也さま? ああ、なるほど……感動の対面ですもの、柳也さまがお先に……え?」
柳也さんが強く手を引いて裏葉さんを引き寄せる。
「……柳也さま?」
「どうしたのじゃ柳也どのは? まさか照れておるわけでもあるまい……」
二人が笑っている。高野の伝承では三人はとても仲のいい……。
「――誰だ、貴様っ!」
柳也さんが吼えると裏葉さんは厳しい表情で言い咎めようとする、が――
0059天野美汐 ― the 1000th summer (5/13)―
NGNG「お、お母様まで……いったい何を仰っているのですか! まるで……」
振り返って神奈を伺った裏葉さんの眼が見開いていった。
私だって驚きを隠せなかった。まさか、これが……。
「ははっはははっははっはーーーーっ! 面白きかな面白きかな。よくぞ見抜いたのう、褒めて使わす」
紅い色。血のような霧が神奈を覆う。そして、ようやく私も気づいた。
負の化粧を施した翼人$_奈……その存在は決して善神などではなくなっていたことに……。
「――天之御劔よ、絶ちなさい!」
彼女の声音が変わった。そう、それはよく知っているわたし℃ゥ身の声だった。
全長五尺に達する長剣が空間ごと引き裂きながら九尾目掛けて迸っていく。
私の意志とは関係なく身体が動いていた。それは本当≠フ私がもたらした行為に違いない。
「神奈さま、一体どうして……?」
「……神奈? なに言ってんだか……違うわよ。私の名前は天野美汐って言うの――了承かな?」
負の感情だったのだろう。私の負は神奈の呪詛の念をも上回っていたのだ。
天野美汐は私のはずなのに彼女は誰よりもわたし≠している。
「……がっかりさせる気か?」
尻尾で攻を防いだ九尾は口の端をこれでもかと言うほど吊り上げていた。
九尾が次に力を解き放ったのは、すべてのしがらみを断つ御剣『断罪の尾』だった。
「……どうしてそんなこと知ってるの?」
彼女……もうひとりの美汐が呟く。誰に向かって言い放ったのかは分からない。
ただ、誰に聞かせるでもない声だったのは確かだった。
「……まあ、いいわ」
美汐は小さく印を組んで『呪われた言葉』を声高らかに読み上げた。
0060天野美汐 ― the 1000th summer (6/13)―
NGNG天は光。大地は気。海は命。育まれた記憶は我にあり。星の意思はここにあり――」
彼女に神の気が宿い始めた。紅い霧もまた大きくなっていった。
「――悲しみは生まれん。夢は終焉せし。ここに在りしは星の代行者なり――」
光と闇。どちらもそれは相容れない存在だったはずなのに、今は何よりも等しく輝いている。
神魔融合≠ニでも言うべきか。まさしく彼女は絶対の存在だった。
「射よ! 射よ! 天之御劔よ! 光の矢となりて悪しきものを撃ち砕く力となれ!」
彼女が指出した方向には九尾がいた。そこに幾千もの光が走った。
空間干渉なんてものじゃない。空間ごと喰らうように突き進んでいるのだ。
今まで苦戦していた『次元の尾』なんて話になりはしない。
「『魔水の尾』並びに『光月の尾』よ!」
九尾が六と七。『魔水の尾』は九尾独自の空間を創造する。『光月の尾』は唯一無二の光を生み出す。
二つを組み合わせると矛盾の原理たるマイナスとプラスと同じ効果だった。
神の矢は消滅する。無に還ったのだ。
「あら、結構やるじゃない……でもそれって疲れたりしない?」
人間が使えば無の代償は生命である。例え人知を超えた九尾であっても無は優しくない。
「我を誰だと思っている? 九尾である我は、世界の眷属のうち最強の変化であることを忘れたのか?」
「天使や悪魔……神さえも超越した存在だったわね。千年前の戦いで神奈はたったの五本で敗れたらしいけど……」
美しく彼女は微笑みかけた。優しさ……慈愛に彼女は満ちている。
「今の相手は私なのよ。神でもない天使でもない私=c…人間なのよ。分かったかしら?」
同時に凍れるような視線も彼女にはあった。
あまつのにさくうつくしいひかりとやみをとりもつてんにょ
天野美汐はすでに神をも超えて君臨しているのだ。
0061天野美汐 ― the 1000th summer (7/13)―
NGNG「……言ってくれるわね。まあ、いいけど。もう細かいことは気にならなくなってきたわ」
「余裕のつもりか? 何にしろ我も遊びすぎたようだ。本気を出してやろう!」
もちろん九尾の言葉は強がりではない。尾は始まりより後の方に力が偏っていく。
九尾が八の『無限の尾』は決定的な破壊をもたらす。連鎖して止まらない破滅を導き出すのだ。
そして九尾≠司る『真実の尾』は真琴の分身であり核でもある。
すべての尾を同時に扱うことになれば想像もつかないくらいの力が生まれるだろう。
「そう、じゃあ、私も本気で貴女を殺してあげる。決着は付けとかないとね」
胸がざわめいた。私の心がときめくように。九尾が憎いという感情だけは彼女と同じだったから。
沢渡真琴。憎い。殺したい。八つ裂きにしてやりたい。この手で……。
それなのに……どうして、こんなにも……胸が苦しいのだろう。
「お母さま、神奈さま……なぜに、このようなことに……」
「裏葉……」
泣き崩れて膝を付く裏葉さんに寄り添うよう柳也さんが優しく抱く。
「…………」
負が膨れ上がる。白かった翼は血で染まったように禍々しい朱色を帯びていく。
神の力と魔の力。正の力と負の力。私の心と彼女の心。
『美汐……』
『そうか……そうだったんだ、真琴……』
気づくこと。そう今ようやっと私は遥か過去を思い出すことが出来た。
「――星の想いに応えなさい! 神魔%V之御劔よ!」
「破滅の時は来たり――九龍$_々の黄昏よ!」
でも、遅かった。もう止められない。千年の戦いは終わらない。
私は……私は、無力だった……。
「真琴……」
だけど、もし叶うのなら……私はきっと、真琴と一緒に……いたかった。
「美汐……」
小さく誰かがわたし≠フ名前を呼んでくれた。
誰の声だったか、もう私には思い出すことが出来なかった。
0062椎名繭 ― the 1000th summer (8/13)―
NGNG「ねえ、神奈ってどうしちゃったのよ! どうして、こんなに負の力が溢れているのよ!」
「……二人とも落ち着いてください。見ての通りです」
視線は神奈を見つめたまま私は言った。確かに計算通りだとは言っても気後れしてしまう。
あまりに力が違いすぎる。九尾と翼人は最早神の領域≠セった。
「どうしてそんなに冷静でいられるの? 何なのあの負は? どうしてこうなっちゃうのよ!?」
「高野に潜伏していた妖弧である七瀬さんになら分かるはずですよ」
「そ、そんな言い方……!」
七瀬さんを落ち着かせようとわざと変な言い方する。視線がちょっと痛いけど我慢しないと。
……私も見た目よりは冷静ではないのだけど、言い訳はしたくなかった。
「元高野の大僧正・小坂由起子さんが封じていた天野さんの負が解放されました。
それにより元々九尾の呪詛により不安定だった翼人$_奈にも負の影響が出たものだと思います」
「なんで……負って何なのよ! なんで止められなかったのよ! いや、こんな結末なんて……絶対に嫌だからね!」
「七瀬さん、落ち着いて……落ち着いてください!」
「繭の馬鹿! 落ち着いてどうするの! あたしたち何にもできないんだよ。見ているしか出来ないんだよ!」
「七瀬さん……」
何よりも心が痛かった。七瀬さんの気持ち分かるから……どうしようもないくらい。
それでも私は心を乱さないように努めてしまった。誰よりも私こそ落ち着くべきだと思ったから。
「……二人とも」
川名さんが私たちの間に割って入ってにっこりと微笑んだ。
パチン! パチン! 連続で音が鳴った。頬が赤くなっていくのが分かる。
「留美ちゃん、こういう事態になることは分かっていたよね? 繭ちゃんを攻めるようなことは無意味だよ」
「……そう、そうよね……ごめん、繭……」
「いえ、いいんです。私こそ冷たい言い方をしてしまって申し訳ありませんでした」
私はぺこりと頭を下げる。七瀬さんはそんな私でも胸に抱いてくれる。
「じゃあ、次はわたしだね……繭ちゃん、お願いできる?」
「……あまり気は進みませんけど、七瀬さんよりはマシでしょうから――失礼します」
パチン。私は川名さんの意志通り頬を張った。
0063椎名繭 ― the 1000th summer (9/13)―
NGNG「……違います。乙女のけじめですよ」
七瀬さんの言葉を借りて言うと、二人ともくすっと笑ってくれた。
「繭ちゃん、よかったら話してくれない?」
「ええ、そうですね……私の口から言うのは憚れますが仕方ないのかもしれません」
「……うん? なんのこと?」
言葉を噤むことに大した意味はなかった。言いにくいのは確かだった。
でも、決意したのだから、私はまたも表面上だけは冷静さを装って話し出していた。
「負の正体……天野美汐と沢渡真琴の関係についてです」
「――それって!?」
「私がどうして知っているのかは聞かないでください。覗き見みたいで嫌なんですよ」
永遠の記憶。人類有史以来……いや、それより以前にも遡れる力だった……。
……まったく笑えない。私はあまり永遠が好きではないようだった。
「天野さんは九尾ではなく真琴と出会いました」
語って聞かせるのは千年前のこと。初めて天野と九尾が出会ったときのこと。
「九尾は狡猾ですよ。神奈と戦った傷を癒す為に人間に化けました」
「そこで出会ったのが美汐ちゃんってわけだね」
「はい、七瀬さんもあの戦いには、参加してましたよね?」
「うん、でも、動いたのは緒方もだったし、他のツインテールも……あれ?」
「……思い出せませんか? やはりですね……九尾と同様にあなた方も人化については興味なかったですから」
今でこそ人化は妖怪変化の主流であるが千年前は必ずしもそうではなかった。
「七瀬さんの記憶がないのは薄れているだけです。本能では覚えていますが赤子のようなものですよ」
「そういうものなの? なんか変な気分だなー」
「意思の力は自我を認識しないと始まりません。妖弧も別に初めから人間を恨んだりはしないということです」
九尾が傷を負って人間として転生を始めたことを知った妖弧は、まず人間の社会に入ることにした。
人化の概念も……少なくても妖弧にとっては、初めてそれを意識するようになる。
しかし人間の社会はあまりにも意識かつ無意識の世界でありすぎた。
馴染む為には自分らも変化していく心得が必要だったのだろう。
生まれたのは人間の感情だった。憎しみもあれば喜びもあったとの想像は難くない。
0064椎名繭 ― the 1000th summer (10/13)―
NGNG「……簡単ですよ。あまりにも単純で……嫌になるくらい傲慢ですよ」
「もう……もったいぶらないで、教えてよ」
私はゆっくりと息を吸い込んで、言葉と一緒に吐き出した。
「妖弧に伝わる転生の秘術、九尾復活の糧になる尤も都合のいい方法……分かりますか?」
二人とも首を振った。分からないのなら分からない方がいい。でも答えを求められているのなら敢えて語ることも必要だった。
「初めに天野さんと真琴の最初の出会いです。二人は殺されたんですよ、もちろん九尾にです……」
「え? どうしてなの……?」
七瀬さんが物語に関心を示す子供のように訊いてくる。
でも、これは子供に聞かすことが出来るほど楽しい物語ではなかった。
「二人は怪我をして連れ帰った女の子に真琴と名づけました」
祐一さんの初恋の女性の名前らしいです、とは言わないでおいた方がいいと感じたので黙っておく。
「元々祐一さんは侍だったんですよ。どういうわけか天野さんの村に迷い込んで居続けることになったんですけど……。
得てして閉鎖された村はよそ者を好みません。それでも天野さんと懇意の仲もあって何とか馴染んでいきました」
「……うんうん、そうでなくっちゃいけないよ」
川名さんは嬉しそうに頷いている。結末の分かっている物語のはずなのに……羨ましいと思う。
「でも、問題は真琴さんのほうでした。まったく得体も知れない彼女に、村の人は恐れてしまいました」
「……あれ、なんで?」
「尻尾ですよ。彼女には狐の耳と尻尾があったんです」
力が不安定では人化は完全には出来ない。神奈と戦って力尽きた彼女ではどうしようもなかった。
「そして、朝廷の人間が本格的に九尾探索を始めました。当然でしょう。力の弱った今こそが九尾を討てる好機だったんですから。
……北の町にもその達しは届きました。そして誰かが真琴のことを密告したんです。
それを知った祐一さんと天野さんは、村を出ようとしましたが……見つかってしまい、役人に捕まってしまいました」
「ひどいよ、そんなの」
「いつの時代も乙女の恋愛には生涯がつきものってことよね」
「……あの、続きを言っていいのでしょうか?」
「もちろんよ!」
訊いた私が馬鹿だったみたいです。
0065椎名繭 ― the 1000th summer (11/13)―
NGNG「わ! 乙女になんて事を――許せないわ!」
「激しく同意するよ!」
真琴は怯えていた。九尾の意思はどこにもなかった。彼女も純粋に疲れていたのだろう。
本当に可愛らしく真琴は祐一さんと天野さんに懐いていました。
でも、それが仇となってしまった。
「目覚めたんです。九尾ではない真琴の想いが力を解放させました」
話の変化に驚いたのか二人は言葉を無くす。
「九尾を匿った罪として祐一さんと天野さんが罰せられました。
もちろん極刑です。抵抗する間もなくまず祐一さんが処刑台に立たされました」
それからは説明する必要もないくらいのシナリオだった。
祐一さんの死を救いたかった真琴は力を願った。
天にもその思いが通じた。ただひとつ計算外だったのは見境なく力を使ったことだろう。
「三流の物語みたく結果はすべてを巻き込んでの破壊≠セったんです。
運悪く真琴に付いていた尾は『無限の尾』でした。破壊と殺戮だけの尻尾ですよ。
結局、町ごと滅びました。でも……本当の悲劇はここからだったんです」
「……終わらなかったの?」
「はい、それから真琴は転生しました。今を……自分の愛したものの死を信じたくはなかったんでしょう。
だから、二人の魂も転生させることにしました。いつか必ず巡り合えるように……」
「そ、それじゃあ、幸せになれるかもしれないってことね?」
七瀬さんの言葉を私は首を横に振って否定した。
「今の現状が答えですよ。九尾は目を付けたんです。真琴の放った力を見たんですよ。
真琴の力は九尾の想像以上に強力だった。そこで一計を案じたんです。
神奈に放った呪詛と同じ理屈です。自分の分身である真琴に『巡り会わせの計』を施しました」
「……うそ。そんな、まさか……」
「いえ、七瀬さんの考えてる通りですよ。九尾は彼女達が転生するたびに悲劇の結末になるよう仕向けました。
その憎悪が一番手っ取り早く力の回復に繋がると考えたんです。天野さんの負もそれが原因です」
愛するものに殺される悲劇を何十世代も繰り返してきたのだ。その負は尋常ではない。
「分かりましたか? 天野さんの負は千年という月日によって紡ぎ出されてきたんです」
0066椎名繭 ― the 1000th summer (12/13)―
NGNG川名さんが心配そうに声を掛けてきた。
「……これは違います。九尾は千年の歳月を経て完全復活しました。もう真琴に用はないんです。
ただ、天野さんが神奈を降ろしたのは九尾にとって計算外だったでしょう。
小坂由起子が負を封印したのもそこに理由があります。悲劇はこれで終わりにしようと……」
「でも、それは……今も続いているんだね」
「はい、結果はより最悪なものになってしまいました。無理矢理に抑えられていた負が解放されて、
天野美汐という存在は虚ろになりました。今は千年の怨念だけが彼女の意思でしょう」
言葉が途切れる。そう。この戦いに割ってはいることなんて誰にも出来はしない。
「もう話すことは話しました。以上です。質問はありますか?」
「…………」
二人とも言葉をなくしたように呆然としていた。七瀬さんは特にショックだったらしい。
悠久の友であった沢渡真琴の存在は、やはり彼女には大きかったのだ。
「あいざわゆういち」
「……え?」
「じゃあ、彼は……相沢祐一って存在はどうなったんの?」
川名さんが神妙に言ってくる。心の引っ掛かり。鋭いとしか言いようがない。
「……彼にも呪詛はかかっていました」
「過去形?」
「はい。水瀬秋子に匿われて彼は、彼女を叔母として暮らしていました。
真琴と出会い……そして、天野さんとも出会いました。でも……」
「でも……なにかな?」
「……彼はそれ以上に出会っていたんです。運命でしょうか、こういうのも……。
千年目にして、彼は解放されました。そう……月宮あゆ、彼女の力によって祐一さんは輪廻の輪から逃れられたんです」
「……あゆちゃん?」
「はい。彼女は特別ですよ。九尾や邪術士以上に特別な存在です」
「どれくらい?」
「そうですね……私にも分からないくらい、というのはどうでしょう?」
「……それは、手ごわいかもね」
ちょっとした誤魔化しだったけど川名さんは追求はしてこなかった。
それも、また優しさだった。
0067椎名繭 ― the 1000th summer (13/13)―
NGNG七瀬さんが元気よく頷いて、その場でジャンプしていた。
それを見て、さっきまでの機嫌が直ったと思って、私も一安心だったのだけど……。
「じゃあ、二人のこと止めてくるわね」
「……はい?」
言葉の意味が分からずに私は素っ頓狂な声を上げていた。
「止めるって……何をですか?」
「美汐と真琴のことよ。決まってるでしょう?」
事も無げに言う。私はすべての脳細胞を総動員して彼女の言葉を理解しようと努めてしまった。
結局、意味不明……という結論しか出てこない。
「何かの冗談ですか?」
「あのさ、繭……」
七瀬さんが真摯な瞳で私を見ていた。
いつもとは違って……いつもと同じ笑みの七瀬さんだった。
「さっきの話を聞いたら余計に止めたいってあたしは思っちゃった。それだけのことよ」
「あの……えと、えーと、だって……死にますよ、それ……」
馬鹿みたい。私は何を言ってるの?
「うん、そう思うわよ。さすがのあたしでもね。だけどさ、このまま指をくわえて見てたら、絶対に後悔しちゃう」
「だって……死ぬんですよ? 死んじゃうんですよ!? 七瀬さん、馬鹿ですか?」
「……ちょっと頭に来たわ」
怒ったように拳を握って、それから優しく笑って……。
「でも、繭が居るからあたしは無茶できる……なんて言ったら信じてくれる?」
「そ、そんな……私なんて……か、川名さんっ」
私は縋るような眼で黒髪の彼女を見た。
「これは止められそうにないね……言ってること分かるから」
「……え?」
川名さんまで七瀬さんと同じような表情をしていた。
「お付き合いさせてもらおうかな、わたしも」
……二人とも何を言ってるのだろう。
行ったら、巻き込まれて無駄死にするだけなのに、ね……。
0068椎名繭 ― the 1000th summer (13/13)―
NGNG0069名無しさんだよもん
NGNG0070名無しさんだよもん
NGNG0071名無しさんだよもん
NGNG0072名無しさんだよもん
NGNG0073椎名繭@結界戦術(1/3)
NGNG何としても二人を止めようと私は大声を張り上げていた。
「うん、馬鹿だよわたし」
「あたしも繭にはさんざん馬鹿だって言われたしね」
「あ、謝ります。謝罪します。七瀬さん、川名さん、行かないで……お願いだから行かないでください」
泣きじゃくっていた。私は子供だ……。涙が止まらない。
「……繭、泣かないで。あたしたちがこれからすることは無茶なことかもしれないけど……」
「繭ちゃんがいるから……無茶だって出来るし、後を任せることが出来るから……」
「あ、あああ、あ……ああ……」
喉が震えて言葉が出ない。言いたいのに……行かないで、って言いたいのに……。
「じゃあ、行ってきます」
「お土産は期待しないでよ」
服を掴んでいた指の先が空を切った。
「七瀬さん! 川名さん!」
……止められなかった。そして動けなかった。誰よりも私は頭で考えていたのだ。
怖かった。それだけだった。九尾と翼人の関係を知っていても私は何をしようとも思わなかった。
方法なんていくらでもあったはずなのに……。
川名さんや七瀬さん、みんなが危険を冒すくらいなら、見て見ぬ振りをしようと……。
「……どうして、そんなに自分勝手なんですか!」
それは誰に言った言葉だったのだろう。何かを履き違えてはいないだろうか?
そう。そうだ……結局は、こうなるって分かっていたのだから。
「まったく、尻拭いはいつだって私の役目なんですからっ!」
――決めた。私もちょっとだけ無茶をする。自分の生存確率を少しだけ下げる。
もう、そう思ったら駆け出していた。
「……ふん、七瀬……この裏切り者が! 何をしに来た!?」
「――妖弧か……九尾と一緒に滅殺してあげるよ!」
二つの力がぶつかり合う。
翼人と九尾の渾身の一撃が衝突しそうになった。
「――来たれ! 永遠よ!」
私は二人の間に入って『永遠の防御幕』を展開する。
正直、後は運任せだった。
0074椎名繭@結界戦術(2/3)
NGNG「耳元で怒鳴らないでください。鼓膜が破けてしまいます」
今こうしている瞬間も拮抗した巨大な力が私たちのすぐ側でぶつかりあっていた。
どうにか策を練らないと私達は本当に終わりを迎えてしまう。
「なんで……こうも計画性がないんです?」
二人のやろうとしていたことはあまりにも無謀だった。九尾と翼人の力の衝突を防ごうと自らが盾になったのだ。
互いの渾身の一撃は勝敗を決するものだった。そこにはどちらかが死ぬ結末が待っていただろう。
だからこそ助けたかったのだ。あまりにも二人らしい行動だったので笑えもしない。
「だって、突然だったし、その……」
指をもじもじと七瀬さんは押し黙ってしまう。
そんな仕草に私はホントに思ってしまう。みんなと同じ時を生きれてよかったと。
「はい。とりあえず今は一緒に防御壁を張ってください。私ひとりじゃあ結界がもちませんよ」
結界の色は青色だった。衝撃の迸る空間に私たちは居るのだ。
小さくしぼんでいく結界を何とか保たせないと中にいる私たちも潰れてしまう。
「解呪・盾<闇月>!」
川名さんが月の霊法を行使して闇の壁を作ってくれる。
これで少しは楽になる。
「あのさ、あたしってもう妖力ないんだけど……どうしたらいいのかな?」
「……馬鹿なこと言わないでください。何のために高野に何年も潜入してたんですか?」
「あ、そうか……」
七瀬さんが印を組んで防御壁を張ってくれた。
本当に今まで方術が使えるってことを認識していなかったらしい。
「……それにしても、どうしましょうか?」
さすがに九尾≠ニ翼人≠フ力。私の『永遠の障壁』も空間断絶には逆らえない。
結界は見る見るうちに小さくなっていく。もっとたくさんの力が必要だった。
「残・霊盾!」
唐突に扇が現れて大きく開いていった。
「我が血を糧に光れ――村雨よ!」
刃が光となりて結界に大いなる力を与えてくれていた。
「……わたくし達も助太刀いたします」
裏葉さんと柳也さんとがともに結界の安定を助けてくれる。
「やれやれ、皆さん馬鹿ばっかってとこですね」
苦笑。そして感謝を惜しみなく。
0075椎名繭@結界戦術(3/3)
NGNG溜息混じりに私は言った。ここまで来たら開き直ってしまう。
「本来なら、わたくし達が先に動くべきところだったのに……感謝いたします」
「あ、裏葉さん、お久し振りじゃない」
「ご無沙汰しております。七瀬さまもお変わりないよう嬉しゅう存じますよ」
二人が知り合いってことは当然だったけど、なんとなく珍しいものでも見ているかのような気分だった。
「……あっ! 見たことあると思ったら、このツインテールは俺の顎の骨を砕いていった奴だ!」
「は? 覚えてないわよ、そんなの」
「あらあら、柳也さまは意外と執念深いのですね」
「何を言う! あのせいで俺は三日三晩なにも喰えなくなったんだからな!」
「だからイチイチ覚えてないわよ、そんなこと!」
「……皆さん、懐かしいのは分かりますが、もっと結界に集中してください」
私はそっと窘める。さっきの言い合いのせいでちょっぴり結界が崩れてしまったのだ。
「……困ったね」
「とても困ったことになったんです」
川名さんの言葉に訂正をくわえておく。
このまま翼人と九尾が力を使い果たしてくれたらいいのだけど、あまり楽観的ではいられない。
先に私達が潰れてしまう確率の方が高いのだから。
「仕方ないですね……」
「さすが繭! 何か方法でもあるの?」
「はい、ひどく気は進みませんが……美味しい所取りって奴ですね」
観念して、私は口を大きく開いた。
「藤田さんとか言いましたっけ? 絶好の状況ですよ。出て来てくれませんか?」
負を回収する為に、あまり不確定要素を詰め込みたくはなかったけど、
状況がこんなん≠ネので仕方ないといえば、仕方なかった。
「……それで終わり?」
「はい、見ていたのは知っていますから、何とかなるでしょう」
「他力本願だよね」
「川名さんは楽観的ですね」
「わたくしも川名さまに同意見ですが?」
「気が合うね?」
「わたくしもそう思っておりました」
……言葉を失う。
「柳也さん、何か言うことは?」
「……苦労するな、互いに」
二人同時に溜息を付いてしまったのは内緒にしときましょう
0076名無しさんだよもん
NGNG0077名無しさんだよもん
NGNG0078名無しさんだよもん
NGNG0079名無しさんだよもん
NGNG0080名無しさんだよもん
NGNG0081名無しさんだよもん
NGNG0082名無しさんだよもん
NGNG0083杜若きよみ@ちょっとした看破(1/7)
NGNG予めバイブにしてあった携帯電話が着信を告げていたのです。
私は清水さんにはトイレに行くと偽って、席を外しました。当の彼女はそれに気づく
気配も無く、のんびりお汁粉をすすりながら、簡単に承知してくれました。
電話を掛けてきた相手は石原からでした。
内容は『誰彼』を彼の地から撤退させること。
そして――御堂の死により私のクローンが引き起こした『事件』の決着がついた事――。
ようやく肩の荷が下りた――そんな気がしました。
とにかく、処遇については石原に全てを任す事にして携帯電話を切り、清水さんの所
に戻りました。
清水さんは相変わらずお汁粉を啜っていました。
横にはすでに殻になったお椀が5杯も重ねられていました。
かつて『高野最強の法術士』と謳われた(ついでに今では中国の裏社会の大物ですが)
川名みさきさんの恐ろしい食欲は有名ですが、清水さんも彼女ほどではないとはいえ、
結構な食欲があると聞いたことがあります。
それはどうでもいいとして、私はさらに清水さんと話を続けることにしました。
どうしても彼女から聞き出したいことがあったのです――
そして席について、彼女から本題を聞き出そうとしたときでした。
「……そろそろクローンの振りをするのはやめにしない? 杜若」
清水さんはにやつきながら、今までとはうって変わった口調で話し掛けてきました。
0084杜若きよみ@ちょっとした看破(2/7)
NGNG手の込んだ芝居をするね」
清水さんは私が席に置き忘れていた手記をぱらぱらと捲りながら、時折私の顔をちらちら
と見つめてきます。
「いつ気づいたのですか?」
「言わんも何も、杜若がなつきの携帯に掛けて来た時からだよ。
今、なつきが持っている携帯電話は数週間前に吉井の名義で契約させたものをプノンペン
に送らせたやつだからね。クローンが知ってる連絡先も今は無きイリジウムのやつで、連絡
はまったく通じないはずだけど。
ついで、クローンが今現在も小菅に収監中だという事も確認済みだよ。
もっとも、何でこんな手の込んだことをやったのかはだいたい想像がつくけどね」
やっぱり清水さんに小手先のテクニックは通用しないようです。
政府の警察関係の人間である私が、唐突に元高野大僧正補佐役でありながら数多くの経済
犯罪に関わっている疑いの強い彼女の所に乗り込んでも警戒されて何も聞き出されないと
思ったから――あえて私は嘘を吐きました。
「嘘を吐いた事は謝ります。
今は貴女の事を調べようとする気はありません。これは信じてください」
「それはどうだか……。
でも今はそんなことでぐだぐだ言っても仕方が無いから、一応は信じておくよ」
何か引っかかるものの言い方ですが、今は気にしないことにします。
「とにかく、あんたがモノホンだと分かったら話は早い。即、本題に入るよ」
0085杜若きよみ@ちょっとした看破(3/7)
NGNGさせようと、日本軍の研究所が戦時中に強引に作り出したやつなんだよね。
この<枝伝>って術なんだけど、通称『反魂の術』っていわれている通り、死んだ人間の
魂をこの世に呼び戻して肉体に強制的に押し込める術なんだよね。
戦時中、特に敗戦の色が濃くなってきた1944年頃においては、軍は藁にもすがる思いでこ
の仙命樹の開発に力を入れたそうだよ。何度でも死んだ兵士を蘇らせる、言い換えるなら不
死身の兵士を作り上げるんだから、これに手を出さないわけにはいかなかったんだろうね。
ただし……」
「ただし?」
「……結局は仙命樹はまったくの未完成の状態だったってのが実状だったみたいだよ。
なのに軍は未完成のものを無理矢理完成させたことにしていたけど……」
「それってどういう事なんですか?」
「実際出来たものには欠陥が多数見られたという事を軍は隠していたのよ。例えば強化体は
頭をつぶされたら終わりっていうのがそうでしょ」
確かにそのとおりである。強化兵はその他にも太陽の光に弱いといった致命的な弱点も見
られたのである。
「でも、それが御堂が高野を襲撃しようとしたのとどういう関係があるのでしょうか?」
私は当然の質問をしました。これまで清水さんは仙命樹の話だけで、高野の襲撃事件の話
は一つもしていません。
「考えてみたら分かると思うんだけど……まあいいや。
ヒントを一つ言うなら、当時仙命樹は高野山の大本営で造られていたという事かな」
清水さんはここで食べかけのお汁粉に再び手を出し始めました。
考えてみればって……あっ。
「御堂は仙命樹を狙って高野山を襲撃したというのですか?」
0086杜若きよみ@ちょっとした看破(4/7)
NGNG戦時中は高野山の地下に大本営があったのはすでに話したよね。
御堂の奴は今現在も高野山の地下に大本営があると思い込んでいて、そのまま行ったと思
う。ところが戦時中ならともかく、襲撃した当時いたのは僧兵ばかり。
様相が戦時中とすっかり変わってしまったことにうろたえた御堂は僧兵を銃で脅したのだ
ろうね。その後は案の定僧兵が迎撃に走るが、御堂の性格からして即刻銃を乱射した――
そんな所かな」
清水さんはここで箸を置いて、さらに続けました。
「ところが肝心の大本営の跡地はなつきが厳重に封じておいたから、御堂は手出しが出来な
かったんだよ。それは地下に通じる階段に足跡が無かったことからも分かるよね。
あの数字錠は御堂の時代の頭では絶対といっていいほど解けない代物だからね」
だから、あの時「当時のまま頭が立ち腐っている」と彼女が呟いたのでしょう。
高野山の寺院を爆破したのもこれで頷けました。例の地下倉庫を突破することが出来ない
ことに業を煮やした御堂がこっそり持ち込んだ爆弾で爆破しょうとしたのでしょう。
もっとも、倉庫の内部の装甲を破ることはできませんでしたし、そもそもあの中には……
……何があったのでしょうか?
その答えは清水さんがすぐに話してくれました。
「あそこは食糧倉庫に使っていたんだよ」
私は思わず「はぁ?」ともらしてしまいました。
0087清水なつき@ちょっとした看破(5/7)
NGNGきよみさんも案の定、口をぽかんと開けていたよ。
でも仕方なかったんだよ。ああしないと防げなかったほどの『食糧難』だったんだから。
何せあの当時は『あの人』が隙あらばつまみ食いをしてから……。
それで大僧正も度々キレてたっけ。
まあ、それはともかくあの倉庫を改造する前にじっくり調べてみたけど仙命樹はおろか、
その研究資料もなかったよ。本当に何も無かった。
ついでに高野の資料庫にもそのテの文献は一つも無かった。恐らく戦争末期で軍が持ち
去ったのだろうね。
念のために、吉野の寺院にその資料が眠っていなかった確かめに今来ているんだけど、
やっぱり無かったよ。
その代わり、別の件に関するとんでもない資料は発掘することが出来たけど。
それはともかく『仙命樹』というブツが欠陥品になるのは当たり前だった。
というのも、その基となった<枝伝>自体がそもそも欠陥だらけだったから。
高野の秘伝とされてはいるけど、正直あれを使うには相当のリスクを背負うことになる。
良くて術者の急激な疲弊、最悪の場合はどうなるかなつきにも分からない。
そう――浩平お兄ちゃんもそのリスクを背負う羽目になった――
そう言っていいのかも知れない。
0088清水なつき@ちょっとした看破(6/7)
NGNG私は店を出るとすぐさま杜若に本題を切り出した。
「何をですか?」
「さっきの電話は恐らく石原から――そうだよね?」
「ええ、その通りです。ついでに内容を言っておきますと……」
杜若は彼に地で起こったことを全て話してくれた。
御堂らの反乱から里村の出現と御堂の最後、さらにはものみの丘から負の気が大量に放出
されたことまで――。
「んで結局、石原は『誰彼』を撤退させることを決定させたんだね」
「その通りです。後、スフィーさんらもじきに彼の地から身を引くみたいですが。
でも、このまま物の怪の丘を放置したままでいいのでしょうか。この影響が外界に及ぼさ
なければいいのですが……」
杜若は深刻そうな顔つきで北東の空――ちょうど彼の地がある方角――を見つめていた。
「石原の判断は妥当だろうね。なつきでも恐らくそうしたと思うよ。
今の九尾と神奈の争いに嘴を突っ込むのはあまりに危険すぎ、さらにはどうにもなるもの
でもないからね。まさに百害あって一理無しの状態だよ。
ただ、やるとするならそれはこの二者の争いの状況次第によるね。
とにかく、今は全員を避難させて、遠くから戦いを見守るしか術が無いよ」
「そうですか……」
杜若はさびしそうにそう呟いた。
0089清水なつき@ちょっとした看破(7/7)
NGNGそれと思しきブツはいくつか見つかった。後はじっくりと検証するだけ。
用が終わると、なつきと杜若は京都まで電車に乗った。
ただ、杜若は京都で警察関係者と落ち合い、高野襲撃事件の顛末に着いて報告をするとの
事で、京都駅で別れる形になった。
なつきは即座に東京に向かう新幹線に乗ると、すぐに牧村と吉井に連絡を取った。
牧村らはすでに北海道入りして、もうすぐ函館に着くとの事だった。
一方で吉井とは彼の地の状況を知らせてもらった後、彼女に彼の地から避難してくる者を
受け入れる準備をしておくように言っておいた。吉井がいるペンションは彼の地からかなり
離れている上に、危険区域にも入っていないのでまず大丈夫だろう。
また、怪我人は別の町の病院に収容させる準備もしておくように言っておいた。
今、彼の地ですべきことは一刻も早く、関係者を避難させること。
本当は藤田や相沢、さらには繭や澪らも避難させたいのだが、どうせ彼女らの事。
拒否するだろうね。
何せ、彼女らにとってはこの上ないチャンス……のはずなのだから……。
とにかく、今から吉野で入手した資料の検証をしなければいけないのだが、シートに身を
埋めるとともに急に眠気が襲ってきた。どうやら、今まで寝ていなかった分、疲れが相当た
まっていたのだろうね。
今は寝ようかな。用事はそれ以降にやることにしようかな……。
0090名無しさんだよもん
NGNG0091名無しさんだよもん
NGNG0092名無しさんだよもん
NGNG0093名無しさんだよもん
NGNG0094名無しさんだよもん
NGNG0095名無しさんだよもん
NGNGhttp://hakagi.net/check.html
0096名無しさんだよもん
NGNGhttp://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=997463572&ls=50
0097名無しさんだよもん
NGNG0098名無しさんだよもん
NGNG0100名無しさんだよもん
NGNG0101名無しさんだよもん
NGNG0102名無しさんだよもん
NGNG0103名無しさんだよもん
NGNG0104名無しさんだよもん
NGNG0105名無しさんだよもん
NGNG0106名無しさんだよもん
NGNG0107名無しさんだよもん
NGNG「どうしたの、真琴?」
「あぅー、未解決の事件が、たくさん残ってるよぅ」
「本当ですね」
「このままほったらかしになっちゃうの?」
「そんな酷なことはないでしょう。取り合えず、どんな事件が残っているの?」
「あぅ。
1 観鈴&晴子(街に向けて進行中)
2 千紗vs彩
3 折原浩平&氷上シュン(永遠の解釈と目的)
4 あゆ&名雪(天使の力と、祐一との関係)
5 水瀬秋子(娘と、その目的)
6 住人&美凪&みちる
7 水瀬秋子(影)
8 森川由綺(復活するのか?歌の正体は?)
9 はるか&智子
10里村茜
11相沢祐一(どこに行ったのか?)
これが、今の所、保留されてる話だよぅ」
「随分多いわね。私達も、頑張らなくてはいけませんね」
「うん!それじゃあ、話を進めるわよぅ」
0109名無しさんだよもん
NGNG0110七瀬留美@奇蹟を望むもの
NGNGそれは、誰が発した言葉だったのだろう。
次の瞬間、あたしは奇蹟を目の当たりにした。
空間が奇妙にねじれ、あれほど結界の上に圧し掛かっていた真琴と美汐の力が、
跡形もなく消え去っていた。
『……!!』
今まで全力で力を発揮していた反動で、あたしは前につんのめった。
もっとも、バランスを崩していたのはあたしだけじゃなくて、裏葉さんやみさきさんも同じだった。
唯一、ある程度予想していた繭だけは、僅かにたたらを踏んだだけだったが。
「……次元修正能力……奇蹟の体現者か」
真琴が、僅かに目を細め、囁いた。その視線は、美汐でも、あたしたちでもない、
新たに現れた人影に向けられていた。
「藤田…浩之か」
「ったく、本当、しょうがねーよな」
口癖なのだろう、彼は言葉以上に困ったそぶりも見せず、その場に立っていた。
少し斜に構えた目線。素直に、かっこいい、と思えてしまう顔立ち。
女の子なら、彼に好意を持たずにはいられない、そんなカリスマの持ち主だった。
「協力していただいて、ありがとうございます……藤田浩之さん」
「どういたしまして」
繭の言葉に、彼は、少しおどけたように肩をすくめて見せた。
0111七瀬留美@奇蹟を望むもの
NGNG正直、今の現象はあたしの理解を越えていた。
「簡単な事ですよ。彼は次元修正能力者。それはすなわち、次元の構成そのものに、
干渉できるという事です。言うなれば、奇蹟を起こす事を許された、救世主」
「きゅ、救世主!?」
こともなげに言った繭のセリフに、あたしは思わず聞き返していた。
「はい。2000年程前にも、次元修正能力者が、人々を導いたといわれています。
その名は、イエス、と呼ばれていますね」
「イ、イエスって……イエス・キリストぉぉぉぉっ!?」
素っ頓狂なあたしの叫びに、繭はくすりと笑っただけだった。
「共通点に気付きませんか、七瀬さん?
法力でも呪法でもなく、奇蹟を起こす。例え死んだとしても、土から甦る。
人を引き付けるカリスマと、乱れた世を修正するべく現れた者」
「た、確かに、キリストと似てるけど……じゃあ、浩之はキリストの生まれ変わりってこと…?」
「違うって。ただ、同じような力を持ってるだけだ。
それに、まだ救ってもないのに、救世主なんて呼ぶのも止めてくれ。馬鹿みてーだから」
浩之はそっけなく、あたしの言葉を否定した。けど、九尾と翼人の力を打ち消すなんて、
それこそ、奇蹟と呼ぶしかない。
力を打ち消されたにも関わらず、真琴は少しも驚いた様子も見せず、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「ふん。傍観者に徹していたと思えば、随分都合よくしゃしゃり出てくるものだな」
「まあな。こうみえても、フェミニストで通ってるんでね」
凄まじいプレッシャーを持つ、真琴と話していても、彼は少しも構えた様子も、
萎縮した様子も見せず、けろりとした顔をしていた。それだけで、充分尊敬に値すると思う。
いや……と、あたしは訂正した。
九尾真琴、翼人神奈の力を持つ美汐の間にいて、彼は平然としているのだ。
これには尊敬を通り越して、呆れるしかなかった。
0112名無しさんだよもん
NGNG0113七瀬留美@奇蹟を望むもの
NGNG翼人の力をたたえ、神奈をも食らいし“天野美汐”の声に、彼がした事は、ただ冷たい一瞥を与えただけだった。
美汐の目が、すっと細くなる。
「あら、随分と酷いわね。真琴とはお話できても、私とは出来ないって言うの?」
「俺は、亡者の泣き言には興味無いんでね」
「!!」
思わずあたし達は息を飲んだ。亡者?それってつまり……
「お前は、本当の“天野美汐”じゃない。千年の怨念が魂にこびりつき、その負に
よって生まれた、偽りの人格だ」
「随分と、面白い事を言うわね。でも、なんと言おうとも、私が天野美汐であることに変わりはない。
邪魔をするなら、あなたの方から殺すわよ?」
美汐のプレッシャーが、さらに増した。繭が、あたしの腕を引っ張る。
「同じ事は、二度は出来ませんよ。もう少し離れるべきです」
あたしは唇をかむが、ここで駄々をこねても仕方がない。大人しく、浩之のそばから離れた。
一方の真琴も腕を組んで、浩之と美汐の対決を見つめている。
身汐が大きく血の色の翼を広げた。ただそれだけで丘に衝撃が走り、空気が震える。
だが、浩之は何かするでもなく、じっと美汐の方に目をやるだけだ。
「思い出せ、美汐。お前と、真琴の事を。過去の亡霊なんかに、負けるんじゃない。
前世も、千年の呪いも関係ない。今、この時を生きているのは、他でもないお前なんだ」
「………うるさいっ!!」
美汐の叫びと共に、浩之に向かって光が走る。だが、彼は間一髪、それをかわした。
「私の目的は、九尾を滅ぼす事。千年の間、愛するものを奪われつづけた、
その苦しみと恨み、貴様にはわかるまい!」
もはや、美汐の目に浩之は映っていなかった。彼を飛び越え、真琴へと肉薄する。
「ちっ、やっぱり相沢祐一じゃなきゃあ、彼女を目覚めさせるのは無理か…」
初めて、浩之が顔をしかめた。二人から距離を置き、唇を噛む。
「真琴ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ふん、哀れな……この私が、その苦しみから救ってやろう」
再び、真琴と美汐が激突する。
0114名無しさんだよもん
NGNG0115名無しさんだよもん
NGNG0116椎名繭@疑問
NGNG例え、奇蹟を生み出す力を持っているとはいえ、彼はこの因果にほとんど絡んでいない。
もう一人の次元修正能力者……そして、美汐と真琴の因縁を持つ、相沢祐一さんの存在が
必要不可欠なのだ。
「……ずっと疑問に思ってた」
突然、七瀬さんがぽつりと言った。
「繭、美汐の負は、九尾がかけた呪いによるものだって、言ったよね」
「ええ……そうです」
質問の真意がわからず、私はあいまいに頷く。
「それって、やっぱりおかしいよ。美汐が負の力を増大させれば、必ず自分の敵に
なるのは、わかりきってたのに」
「それは……」
確かにそうだった。あの狡猾なる九尾が、わざわざ自分の身を危険に晒すだろうか?
自分の力を回復させる事。自分の敵を作る事。それは矛盾だった。
「……七瀬様の言う通りです。お母様は、何より人の情念の力を恐れていました。
水瀬秋子に誰よりも警戒し、同盟すら結んだ事からも、それは伺えます」
神妙に、裏葉さんがつぶやく。二人の言う通りだった。
「……まさか」
川名さんが、はっと顔を上げた。その顔は、驚愕に彩られている。
「美汐に輪廻転生の術をかけたのは、誰?」
「……真琴、だな」
「そして、美汐に絶望を味あわせるよう仕組んだのも、神奈に呪詛をかけたのも、奴…」
「………」
まるでジグソーパズルのように、あらゆる断片が、九尾=沢渡真琴に集まっていた。
「全てが、九尾の筋書き通りだったとしたら…?」
「………」
何かに取り付かれたように、川名さんが、言葉を紡いでいく、
「美汐の行動も!負の暴走も!神奈の降臨も!全部沢渡真琴の計画どおり!!
あいつの手のひらの上で、踊らされているに過ぎないとしたら……!」
「落ち着いて下さい、川名さん!!」
私は慌てて、暴走しかけていた川名さんを押し止めた。
だが、彼女を止めながらも、私も、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
0117名無しさんだよもん
NGNG0118名無しさんだよもん
NGNG0119名無しさんだよもん
NGNG0120名無しさんだよもん
NGNG0121長谷部彩@腐れワン公に連れられた先(後編)(1/13)
NGNG……久しぶりにマジになってこれか……しけてやがる……。
正直、相手の妖狐を見くびっていました。
一見、ドジで間抜けでいかに貧相に見えたこのツインテール……。
しかし、真の力は私の予想をはるかに上回るものでした。
でも……そうだからこそ楽しみがいもあるというものです。
「にゃあああああ!! ぶっころしてやるです!!」
そのツインテールは目を血走らせながら、私の方へと飛び掛かってきました。
でも、だいたい彼女の行動パターンは既に読めていましたので、避けるにしてもそんな
に難しい事ではありませんでした。案の定、彼女は近くの塀に飛び込む形になりました。
ただ、勢いは恐ろしくあったようで、木っ端微塵に崩れたブロック塀がそれを物語って
いました。
「にゃああああ!! 千紗、本当にキレたですぅ!!」
……って、既にキレてるんじゃねぇか……脳味噌はマジで空っぽじゃねぇのか……?
と思ったのはさておき、千紗は漸く本性を現したようです。
急に体が膨れ上がったかと思うと、着ていた服を破れていき、そこから金色の毛に覆わ
れた体がむき出しになりました。さらに背後から八本の巨大な尻尾が生えてくるなど、
その姿はどうみても、もとの人間の時の姿からは想像も出来ないような化け物に変化して
いました。
0122長谷部彩@腐れワン公に連れられた先(後編)(2/13)
NGNGものみの丘の方向からすさまじい光の筋が天に向かって放たれたのは。
な、何……何が起こったの……。
そこで光に見とれて呆然としてしまったのが失敗でした。
「にゃあああああああ!!」
到底この世のものとは思えぬ図太い雄叫びをあがりました。
途端、全身にとんでもない衝撃が走り、直後私の体は宙を舞っていました。
妖狐が強靭な腕で私の全身を壁に向かって投げつけたのでした。
体は壁に強く打ち付けられました。
胸の部分が特に激しく痛むので、触ってみると肋骨が折れているようなのが辛うじて分か
りました。後頭部も強く打ち付けてしまったようで、目の焦点がうまく合いません。
「ううっ……」
なんとか体を起こそうとしましたが、痛みのあまりうめき声をあげてしまいました。
どうやら足の骨までも折れてしまったようです。
0123長谷部彩@腐れワン公に連れられた先(後編)(3/13)
NGNG今からじっくりといたぶってやりますですぅ!!」
図太い男の様な声の割にこの口調なのはどうも……というのはさておき、千紗は私の両足
に手を掛けました。そして、両足を左右に強く引っ張ろうとしました。
「まずは、両足からもぎ取って二度と歩けなくなるようにしてやるですぅ!!」
千紗――いや目の前の巨大な狐の化け物は私の足を力いっぱい引っ張ります。下半身全体
にとてつもない痛みが走りました。
「ああああああ!!」
私はさらに悲鳴をあげてしまいました。
相手の思うが侭にいたぶられてしまっている私……。
そんな相手に何も手を出すことが出来ない私……。
私は思わず目をつぶりました。
……死ぬのでしょうか……。
そんな思いが頭をよぎったときでした。
ふと、私の足を引っ張る力がなくなりました。
0124長谷部彩@腐れワン公に連れられた先(後編)(4/13)
NGNG目を開けると、千紗がその場でじっと固まっていました。
先ほどまで浮かべていたサディスティックな笑みは無く、代わりに何が起こったのか理解
できなく呆然とした表情が浮かんでいました。
私も一体何が起こったのか……全く理解できませんでした。
「まったく、あんたにまで世話を焼くとは思わなかったよ」
いきなり背後から若い女の人の声がしました。
それは聞き覚えのある声で、私は思わず後ろを振り返りました。
金髪の髪を後ろで小さく纏めた、西洋系の美しい女の人がそこに立っていました。
ただ、髪や体の一部には火傷を負っていて、彼女自体も相当ダメージを受けているようで
したが。
「……メイフェアさん……一体どうしたのですか……」
「どうしたじゃないよ! あんたこそ、こんなとんでもない相手にタイマンを張ろうとした
のかい? あんたにしては本当に無謀だね」
その金髪の女の人――メイフェア・ピクチャーは仕方なさそうな顔つきで私をじっと見つ
めていました……。
0125メイフェア@腐れワン公に連れられた先(後編)(5/13)
NGNG相手にしていたのは巨大な妖狐。それも相当の魔力を持った奴だから、相当の苦戦は覚悟
しなくてはいけない。ましてや彩みたいな魔法を使えない人間が真正面から斬りかかっても
かないっこないのは目に見えている。
そして、妖狐が彩の両足を引き裂こうとしたから、あたしはとっさに硬直魔法をかけた。
こいつは相手の全身の筋肉を硬直させて動けなくする技だが、ずっとそれが保持されるわ
けではない。しかも私自身、ずっと前に訳の分からないおさげの眼鏡女に炎撃魔法をかまさ
れてしまって、体の一部を火傷させてしまったというありさまだ。
ルミラ様が魔界に帰ってしまわれてしまった今、あたしはここにいる理由もないので、
せめて傷がある程度回復してから、この街を脱出しようと思っていたのだった。
ところが、いざ街を出ようとしたら、白い妖狐どもが町じゅうを跋扈しているわ、丘の方
からはとてつもない邪気が放たれるわで、油断を許さない状況だった。
そして、白い狐どもが目の前から立ち去ったから、街を出ようとした途端にこれだ。
本当やっていられないって感じなのだが。
「とにかく、このままじゃやばいから撤収するよ!!」
「……で、でも……」
彩は不安げに目の前の硬直してしまった妖狐を見ていた。
「心配ないって。あたしが今魔法をかけて動けなくしたから。
でも、短時間しか束縛させられないからすぐにこの場から立ち去るよ」
あたしはすぐさま彩の体をおぶろうとした。
「……は、はい……」
彩は自分の状況が飲み込めたのか、あたしの背中に全身を預けてきた。
0126メイフェア@腐れワン公に連れられた先(後編)(6/13)
NGNG固まった妖狐が硬直した唇を懸命に動かそうとしている。もし、魔法が解けたら、こいつ
は今にもあたしらの所に突進してくるだろう。
あたしは彩を背負うと、そのまま何も言わずに妖狐に背を向けて一目散に走り出した。
腕の火傷が時々ひりひりと痛むがそんなことなぞ気にしていられない。
妖狐の姿が見えなくなったあたりで一休みすることにした。
彩をゆっくりと地面に下ろすと、あたしもその隣に腰をおろす。
ふと、空を見上げるとそこは相変わらずの雪空。
時たま、白い雪が空から舞ってくる。
すっかり寒くなっているし、一刻も早くどこか暖かい所に避難しなくちゃね……
そう思ったときだった。
近くのマンホールの蓋ががたがたと揺れた。
あたしは彩の体を抱きかかえると、じっとそのマンホールの蓋を見つめた。
「だ、誰!?」
あたしは体を震わせながら、そのマンホールの方に声をかける。
その声までもすっかり震えていたのが、あたし自身でも十分に感じられた。
がこん……という音とともにマンホールの蓋が乱暴に開けられた。
そしてそこから出てきたのは……。
0127リアン@腐れワン公に連れられた先(後編)(7/13)
NGNGマンホールの蓋を開けて外を覗くと、そこには彩がいた。
そして、彩を抱きかかえていたのはメイフェア……また懐かしい顔と遭遇したものだ。
メイフェアの奴はすっかり怯えきっていたのか、俺の姿を見るなり抗議の声をあげる。
やれやれ……。
俺は彩の奴が気になって、下水道を通って彩がいた所の近くに出て、彩と千紗が戦ってい
ると思しき場所を探してみたが、いたのは全身が固まって動けなくなった妖狐がいた。
見た目でも相当強力な妖狐で、さらに足元に散らばっていた服の残骸からそいつが千紗の
正体だと気づくのにさして時間はかからなかった。
だが、気になったのは千紗を硬直させた奴は一体誰かという事だった。
そいつは明らかに硬直魔法を使っている。だが、彩の奴は魔法は一切使えない。
ついでいうなら、周囲の壁に血の痕が生々しく付いていたが、肝心の彩の姿がない。
どうやら、魔法が使える奴が彩を逃がしたみたいだと思ったのだが、まさかそれがメイフェアだったとは……。
「おい、お前こそ大丈夫か? 確か智子の奴に大火傷を負わされたんじゃねぇのか?」
「あたしは何とか平気よ。まあ、あの時はあたし自体ルミラ様の事ばかりが気になってし
まって正気じゃなかったからね……そのために魔力はほとんど使っちゃったけどね」
メイフェアは苦々しく笑うと、彩の方に顔を向けた。
「それよりも彩を早く逃がしてよ……。彼女マジでやばいから」
「分かってるって。とにかくメイフェア、あんたは立てるだろ?」
「もちろん」
俺の言葉にメイフェアはゆっくりと近くの壁に手をつきながら立ち上がった。
そして、その場で蹲っている彩を抱き起こす。
「俺も手伝うぜ。とにかく下水道を伝って脱出するけど、いいか?」
「ああ、いいよ」
俺はメイフェアと二人がかりで彩に肩を貸してやった。
彩の奴は見た限り両足の骨を折ってやがる。しかも、胸のあたりもやばく、口からは一筋
の赤い血が垂れていた。
0128リアン@腐れワン公に連れられた先(後編)(8/13)
NGNG下ではメイフェアの奴が彩の体が底にたどり着くのを待っていた。
さすがに人一人の体をロープで慎重に下ろさなければいけなかったのは辛かったのだが、
いまさらケチは言っていられない。
すぐに彩の体は底にたどり着き、メイフェアがロープを解く。
俺はそれを見届けると、俺自身もマンホールの中に身を潜め、最後に千紗や妖狐どもの姿
が無いかを確認した上でマンホールの蓋をゆっくりと閉じて、内側から封印を施す。
「まさか地下から逃がすとは考えたねぇ」
「まぁな。じきに姉貴らもここを通って逃げる手はずになっている」
メイフェアにライターを持たせて、俺は彩を背負った。
そして、車やトラックを停めてある倉庫の方へと向かって歩いていく。
彩の奴はすっかり安心したのか、眠っていた。
「まったく無茶なことをするものだぜ、こいつはよ……」
「あんな強烈な奴に真正面から立ち向かうなんて彼女らしくないよ。
例えば、付近に地雷を仕掛けて自分は遠くからライフルで撃つのが彩のスタイルじゃな
かったっけ?」
俺たちは下水道を進みながら適当に会話を進めていた。
彩の所に向かっている途中で姉貴から連絡が入り、なんでも姉貴らも怪我人の避難が終
わったら、自分らも避難するという事だった。
ついで俺も彩を回収したら、とっととこの区域から脱出するように言われた。
そして、最終的にはユンナと吉井がいる例のペンションで落ち合う事にしたのだ。
0129リアン@腐れワン公に連れられた先(後編)(9/13)
NGNGまるですっかりイカレた奴の目をしていたぜ」
「そうなの? あたしが見たときはいつも見る目つきだったけど?」
メイフェアは不思議そうに彩の顔にライターを近づける。
彩はじっと目を閉じたまま眠っていた。
「しかし、お前と顔を合わすのって、2年振りだな」
「まったくだよ。確か初めての出会いって、あたしが入った絵を何も知らずに買って、あん
たがスフィーの店に持ち込んだ時だっけ」
「そうそう。魔力のある絵だとは何となく感じていたけど、まさかそこから人が出てくると
思わなかったぜ。しかも、パチンコにずっぱまりだなんて更に驚きだったぜ」
「そういえば、去年からルミラ様の下に戻ってからずっと打っていないね。この騒動が終
わったら久々に打ちたいな……」
「ただ、金を借りまくるのはやめにしろよな。ハマりすぎて姉貴やなつきや彩の奴からかな
りの金を借りていたこともあったけな」
「まあね。ただ、彩への借りはこれで返したようなものよね」
「おいおい、それはあまりに酷すぎるぜ。それこそ彩がマジでキレちまうだろ」
「ははは……」
俺たちはそのやり取りがおかしかったのか互いに笑いあった。下水道の中、相当の臭気が
漂っていたのだが、大きな口をあけることも特に気にならなかった。
0130リアン@腐れワン公に連れられた先(後編)(9/13)
NGNG「そうだぜ。本当は海外でのんびりしたかったんだけどよ、じいさんの秘蔵コレクションに
誘われて仕方なくな。
んで、メイフェアは確か主人に付き従って来たのだろう?」
「そうよ。セリカとかいう魔術を使う娘にご主人様が召還されたから、あたしも一緒にね。
ただ、その日は新宿で5軒のパチンコ屋が一斉に新台入替するってから、それにこっそり
行こうかとも迷ったのだけどね。でも、主人の命令は絶対だからね」
「それは確かに辛い所があるな」
リアンはそう言いながらクスクスと笑っていた。
「それからかな。ここに降り立ったとき、何か妙にハイになったんだよ。
とにかく、ご主人様に逆らうものは何でも殺すって。
今考えたら、その時ってあたし、狂っていたのかもしれないね……」
「その時のお前に遭遇しなくて本当に良かった……ぜ?」
今まで陽気に笑っていたリアンが急に深刻な顔つきになりだした。彩を抱えて前へ進みな
がらも何かを考え込んでいた。
「どうしたんだい? いきなり難しい顔してさ……」
「いや……ちょっと思い当たることがあってな。
なんと言うか……それに当てはまる奴があまりに多すぎるんだ」
「それって、どういうことなんだい?」
あたしはリアンの言おうとしていることがさっぱり分からなかった。
「確認するが……」
リアンは真剣なまなざしであたしを見つめてきた。
「メイフェア、あんたはこの地にきてハイになっちまった時……なぜそうなったか分かるか?」
0131メイフェア@腐れワン公に連れられた先(後編)(10/13)
NGNG「そうだぜ。本当は海外でのんびりしたかったんだけどよ、じいさんの秘蔵コレクションに
誘われて仕方なくな。
んで、メイフェアは確か主人に付き従って来たのだろう?」
「そうよ。セリカとかいう魔術を使う娘にご主人様が召還されたから、あたしも一緒にね。
ただ、その日は新宿で5軒のパチンコ屋が一斉に新台入替するってから、それにこっそり
行こうかとも迷ったのだけどね。でも、主人の命令は絶対だからね」
「それは確かに辛い所があるな」
リアンはそう言いながらクスクスと笑っていた。
「それからかな。ここに降り立ったとき、何か妙にハイになったんだよ。
とにかく、ご主人様に逆らうものは何でも殺すって。
今考えたら、その時ってあたし、狂っていたのかもしれないね……」
「その時のお前に遭遇しなくて本当に良かった……ぜ?」
今まで陽気に笑っていたリアンが急に深刻な顔つきになりだした。彩を抱えて前へ進みな
がらも何かを考え込んでいた。
「どうしたんだい? いきなり難しい顔してさ……」
「いや……ちょっと思い当たることがあってな。
なんと言うか……それに当てはまる奴があまりに多すぎるんだ」
「それって、どういうことなんだい?」
あたしはリアンの言おうとしていることがさっぱり分からなかった。
「確認するが……」
リアンは真剣なまなざしであたしを見つめてきた。
「メイフェア、あんたはこの地にきてハイになっちまった時……なぜそうなったか分かるか?」
0132メイフェア@腐れワン公に連れられた先(後編)(11/13)
NGNG主人の敵は皆殺せ、って感じで」
「やっぱり……」
「やっぱりって、どういうことなんだい!?」
あたしはリアンの考えている事がいまだに分からなかった。やや興奮気味になりながら、
あたしは彼女を問い詰めた。
「すまない。簡単に話すとこうだ。
俺がこの区域内で見た事や聞いた事の中でこんな事が共通して起こっているんだ。
『見境が無くなって、自分および大切なものを傷つけようとしている』ってことがな。
例えば、俺の下宿先の主で江藤結花って奴がいるんだが、そいつは自分を傷つけたツイン
テールを殺そうと、重症の体を引きずってまでそいつを殺そうとしたんだ。
これだけだったら、執念の話になっちまうのだが、問題はそうしようと思った動機だ。
なんでも『あの憎いツインテールを殺せ』と頭の中で声がしたというんだ」
ちょっとそれって……いわゆる『電波系』って奴?
って、それをいうならあたしもあてはまっちゃうか……っておい!!(笑)
あたしは思わず反論しようとしたが、リアンはそれを封じるかの様にさらに話を続ける。
「さらに、俺の知人が今、一人の人工妖狐を預かっているんだが、そいつも似たような現象
が起きたみたいだっていうんだ。
そいつには彼氏がいるんだが、その彼氏が彼女を助けにきた時に襲い掛かって、その彼氏
に瀕死の重傷を負わせたっていうんだな。後で聞いたら、そいつも『沢渡様の僕である貴様
が、その男ごときを殺せなくてどうする』と、頭の中で誰かが囁く声がしたっていうんだ。
一人ならともかく、ここに挙げた奴以外にも似たような現象に陥った奴が多数いるって話
なんだ。こいつはちょっとおかしいと思ってね」
リアンはずっと難しい顔のまま、ゆっくりと彩を抱えなおすと、前へと進み始める。
そして言った。
「その声こそが負の気なんじゃねぇかなと俺は思うんだ」
0133メイフェア@腐れワン公に連れられた先(後編)(12/13)
NGNG「んで、その時になつきの奴がちょっと前に似たような事を言ってたのを思い出したんだ。
『彼の地において負の気は伝染しやすいから、自我には十分気をつけろ』ってな。
最初、負の気っていったら何のことやらさっぱり分からなかったんだが、思えば周りが見
えなくなっちまって、自分なんかを傷つけちまう方向に進まされてしまうことを指していた
んじゃねぇかと思うんだ。
まるで、この地に漂う『怨念』に取り憑かれたみたいにな。
とにかく、今は相当ヤバい状態にあるのは確かだ」
リアンはこちらを振り返らすに話しつづける。
「なんでやばいんだい?」
「さっき見ただろ? 丘の方から強烈な邪気が放たれるのをな」
それは恐らく、先ほどものみの丘から一筋の光が天に放たれた事を指しているのだろう。
そして、直後にとてつもない邪気が放たれていったのを。
「恐らくあれは、美汐の奴の負の気が開放されたから生じたんだろう。ついで、神奈の負の
気も加わったんだろうな。
とにかく、大量の負の気がこの地に充満しちまうのも、もはや時間の問題だぜ。
パンピーはもちろん、俺らみたいに力のある奴もかなりやばくなる。
だから、最終的に姉貴も避難しようって気になったのさ。んで、俺たちは先に脱出してお
けっていわれたんでな」
あたしはこれ以上何も言う気になれなかった。
ただ、とにかくぐずぐずしていたら危ないということだけは分かった。
そのためか、下水道を進む足の速さは自然と速くなっていた。
0134メイフェア@腐れワン公に連れられた先(後編)(13/13)
NGNGリアンはその近くにある梯子を登るように指示をした。
あたしは言われるままにその梯子を登って、上にあるマンホールの蓋を押し開けた。
そこは倉庫の中らしかった。
中には大型のトラック2台とセダンタイプの白い乗用車が一台止まっていた。
リアンは彩を抱えてマンホールから出てくると、その乗用車に近づき、後部座席に彩を寝
かせて、あたしに助手席に乗るように促した。
あたしはそのまま助手席にすわり、リアンも運転席に座ってエンジンを掛ける。
そして、リアンはゆっくりと車を動かした。
車を倉庫の外へ出した後で、一旦降りて倉庫のシャッターを閉めてから、再度車に乗り込んだ。そしてあたしらの乗った車はそのまま倉庫を後にした。
しばらく走っていると、今まで空を覆っていた雪雲が無くなり、代わりに冬とは思えないまぶしい夏の日差しが車内を照らすようになった。
リアンが言うには、彼の地の『危険地帯』から脱出できたという。ついで、今は本当は夏で、例の区域だけが冬のままになって取り残されていると話してくれた。
でも、いきなりそんなトンデモない話をされても簡単に理解できないってば。
「まあ、深く考えるのは後にして、これでも吸うか?」
リアンは考え込んでいるあたしを見て、懐から煙草のソフトパックを取り出した。
クールのFKだった。銘柄は何であろうと煙草ならなんでもいいのだが。
「気が利くね。最近、煙草も吸ってなかったから。いただくよ」
あたしは差し出されたパックから煙草を1本取り出して口にくわえ、火をつけた。
久々の煙草の味に、あたしは漸く一息つくことが出来た。
車はゆっくりと彼の地からどんどん離れて、目的地へと向かっていった――。
0135名無しさんだよもん
NGNG0136名無しさんだよもん
NGNG0140名無しさんだよもん
NGNG0141名無しさんだよもん
NGNG0142名無しさんだよもん
NGNG0144名無しさんだよもん
NGNG0145名無しさんだよもん
NGNG0147名無しさんだよもん
NGNG0148名無しさんだよもん
NGNG0149名無しさんだよもん
NGNG0150名無しさんだよもん
NGNG0151名無しさんだよもん
NGNG0152名無しさんだよもん
NGNGなつきやスフィーがガラ悪いのがなんかツボだyo!
0153水瀬秋子@空間幻想(1/3)
NGNG彼女の声が聞こえた。私は瞑目したまま呪文を詠唱して式服を改めて身に着けていた。
「……大した演技でしたね」
「それ……嫌味かしら? 私の本職ではないのよ」
ここは丘の外れ……誰もこんな場所までは気に掛けていないような侘しい所だった。
「いえ、からかうつもりは無いです。ただ……良かったんですか?」
「彼女らの処遇に付いてはアレでいいんですよ。保科さんも河島さんも強かったですし……」
「そうですね。私と秋子さんとは違いますし……選択肢はいつだって、運任せですよ」
「……今日は随分と饒舌ね。なにか合ったの?」
「知っているんでしょう。美汐の負が解放されてしまいました」
辛そうに言う里村さんを見て、私は少しだけ言葉を失った。
九尾。翼人。あの二人の戦いの前に里村さんは何を想って立とうとするのか。
ただ、疑問も……そこには生まれていた。
「槍は鳴っていないようですが」
「……はい。この件に関しては槍は力を貸してはくれません」
「だったら、答えはそこにあると言うことよ」
「……私には分からないです」
俯くのは己の無力さからだろうか。里村茜のことは詳しく知らないのだけれど。
言うことに越したことはない。知ることに無意味もない。
「貴女は槍に願ったのでしょう? 大切な人たちを護りたいって。
なら、里村茜が護るべき人は別にある……とは考えられないかしら?」
「美汐よりも? 冗談が過ぎます……」
「そうかも知れないわ。でも『物の怪の槍』はすでに貴女自身なのよ。
否定は迷いを生む。まずは考えてみなさい。それからでも遅くはないわ――違う?」
「……秋子さんに言葉で勝てるわけないですね。もう少し見守ることにします。ただ……」
彼女が言い淀んこと自体は不思議ではない。やはり人は迷う生き物もなのだから。
私は待つことにした。
0154里村茜@空間幻想(2/3)
NGNG何にでも経緯というものがある。つまりは過程ということだろう。
原因と結果。その追求。私の疑問はそこにあった。
「秋子さんはどうして永遠≠望んでいたんですか?」
「……それが訊きたかったこと?」
「どうしてか、私の知りたい答えのヒントはそこにあるような気がします」
「……そう。でも答えは言えないわよ。もう出ているから」
「それって……?」
「あまりお喋りは好きではないのよ。言葉の端々を読み取ることも時には必要だわ」
「……明確には出来ない、そういうことですか?」
「それに気づいたなら、そういうことかも知れない、としか言いようがないわね」
秋子さんは面白おかしく言っている。でも本当のところで私は透かしを喰っていた。
気づくこと。KEYポイントはなぜかそれのような気がする。
「由起子のことは本当に残念だったわ。彼女とは友達になれたと思ったのに……」
「……大僧正さま?」
「ええ。彼女は気づいてくれたのよ。だからこそ手を組むことも厭わなかったわ。
でも……それ故に非業の最期だったのね……。本当の意味で彼女は戦友であり親友であったのよ」
「…………」
考えることはいくらでもあった。お喋りすることが好きではないといった彼女が意外に饒舌。
お喋り。単語だけを取り出せばそこには密告≠フ意味も生まれないか。
子供の頃、友達同士でだけの秘密の遊び場とかの。
「つまり……そういうことって、まさか……そんなの……」
思い至るところがあった。私にとってはあまりにも予想外の出来事だった。
(あの子はこれを知っていて今まで隠していた?――まさか!?)
私は必死になって頭を振っていた。でもそれなら槍が鳴らない理由の説明が付くのも確かだった。
絶望の意味を伴って。
0155里村茜@空間幻想(3/3)
NGNG星の育んできた生命の記憶は永遠に保存されていく。
でも、それは事象だけでしかない。
私の記憶が、もし星に還る時、今思っていることさえ残るのとはまた意味違うのだ。
胸に秘めておくことが必要だというのは、知られないために他ならない。
なんてことだろう。九尾も翼人の対決も永遠の意思≠フ前にはまさしく前座でしかなかった。
正気。瘴気。負の存在。気づくこと。永遠。記憶。星の意思。
「里村さん。ここからはオフレコよ。言葉にしては駄目なのよ。今の貴女なら分かるでしょう?」
「……はい」
私は頷くだけで精一杯だった。とんでもないことに気づいてしまったのだから。
それは今までの戦いをあっさり否定してしまうほどのことだった。
「でも、秋子さんは一体いつから?」
「……気づいたのは、私も最近になってからよ。私の意識がここ≠ノあることは少なかったから」
「だとしたら、もしかして……すでに手遅れなんですか?」
「……分からないわ。私にも先は見えない。ただ希望は由紀子の残してくれた意思だと思うわ」
「大僧正さまの意思?」
「ええ。彼女は何よりも貴方たちのことを気にかけていたわ。その為に終わらない夢≠終わらせたかった。
だけど気づくこと≠言葉にしたため早くから物語の礎にされてしまった」
「……それじゃあ?」
今の秋子さんの意志に光が在るのも大僧正さまのおかげだった。
それに私も同じくなんだろう。
「由紀子さん……」
私の胸は優しさに包まれていた。涙すら流してしまう。ずっと想っていてくれたのだ。
誰よりも温かい人。誰よりも強かった人。小坂由起子……。
「これは貴方たちにとって……仇討ちなのかも知れないわね」
私は槍を強く握っていた。今ある意思の表れだった。
「でも、泣くのは後にしなさい……由起子が笑っているわよ」
「はい」
返事は返す。強く返す。それは未来の為にだった。
0158名無しさんだよもん
NGNG0159名無しさんだよもん
NGNG0160名無しさんだよもん
NGNG0161名無しさんだよもん
NGNG0163名無しさんだよもん
NGNG0164長岡志保@街角の邂逅
NGNG幾度となく轟く衝撃波と、時折閃く翼人の光が、今だ戦いが続いている事を知らせている。
「ったく、ヒロもフェミニストだかなんだか知らないけど、もうちょっとこっちの事も
考えて行動してほしいわねぇ」
あいつの軽率な行動が、いつも厄介ごとを引き起こしているのだ。
しかも、それを自覚しながら治そうという気配がないのだから、性質が悪い。
「もう、ここを抜け出たら、ヤック一年分……ううん、高級フランス料理くらいの
迷惑はかけられてるわよね」
そう言って角を曲がったあたしは、さらなる厄介ごとに直面した。
「……ショッピング荷物もち+服5着追加……」
目の前に居たのは、八つの尾をもつ、金色の妖狐だった。
その腕が前触れもなく振り下ろされるのを、慌てて避ける。
「にゃああああ!! 千紗、キレまくりですぅぅ!!
あの生意気くそ女と、絵みたいな女ぁぁぁ皆殺しですぅ!!!」
「ちょっとぉ、あたしは無関係じゃないのよ!!」
野太い、獣の絶叫にあたしは抗議したものの、はなから聞き入れる正気は持ち合わせていない様だった。
直立した狐のような化け物は、あたしめがけて襲い掛かってくる。
あたしは瞬時に、星の記憶にアクセスする。
そこは、永遠。永遠の記録。全ての命あるものが連なる、大いなる巨木の幹。
生命の樹。宇宙樹。ユグドラシル。カバラの木。呼び方なんて、どうでもいい。
そこには、地上で起きた、ありとあらゆる情報が蓄積されているのだ。
海外では、アカシック・レコードとか呼ばれている事もあるらしい。
あたしは、彼女におきた全ての情報を流し読みし、あらかた事情を掴む。
永遠へのアクセスは、時間を必要としない。全ては、時の外で行われるから。
実際に、コンマ1秒もかかっていないだろう。
あたしは目の前の、千紗とか言うツインテールのなれの果てに目をやった。
「……負に飲み込まれた者の末路、か……」
あたしの呟きは、千紗の咆哮によって遮られた。
0165長岡志保@街角の邂逅
NGNG……そう、彼女には見えたことだろう。何故なら、彼女の脳に、その情報を送りつけたのだから。
爪で切り裂く感触。千切れるあたしの身体。その全ては、千紗にとって、紛れもない『現実』
なのである。そして、どれだけ力を持っていようと、あたしの“ガセネタ”には逆らえない。
唯一、永遠に干渉する力を持つものを除いて、だが。
「……しばらくお休みなさい。次に目覚めた時には、その身を苛む負の衝動は、消え去ってるから」
あたしは再び、永遠に向けて心を解き放つ。
さっきのような、限定されたチャンネルの開放ではない。
無限の情報を受けるべく、あたしという小さな器をいっぱいに掲げ、星にアクセスする。
46億年。それが、この星の存在した年月だった。
その間に蓄えられた記憶は、あたしたちのようなちっぽけな存在から見れば、無限とも
思えるような大きさを持っている。この情報の海を扱えるのは、ごく一部の、永遠を
扱うもの達のみ。そしてこの海を渡っていけるのは、翼持つ一族だけなのだ。
小さな、あたしという穴めがけ、46億年の情報が、なだれ込んでくる。
そのほとんどが、意味のない情報だ。
(木の葉が揺れた雨が降る足音がした水が流れる暗い狭い広い歩く死体が腐る)
(嬉しい怒り悲しみ憤り憎悪絶望喜び感謝愛する希望望み欲望諦め決意つらい)
乱雑なる情報の塊。記憶のノイズが、集まってくる。
こんなものを受け入れられるのは、あたし以外には居ないだろう。
あたしの脳裏を、学校の中で、くだらない話やゴシップを追い掛け回していた頃の
記憶が掠める。そう、断片ですらない情報の波に耐性のある、あたしのみが使える業。
「………圧縮崩壊」
どぉぉおん、と豪快な音を立てて、千紗の身体が、アスファルトの上に倒れこんだ。
極限まで圧縮したノイズの塊を、永遠を通して、彼女の脳に送り込んだのだ。
46億年の時に耐えられるのは、翼人か、妖狐以外には存在しえない。
見る間に、力に満ちた、膨れ上がった狐の身体が、小さな女の子の姿へと変わる。
だが、その寝顔は安らかだった。
0166長岡志保@街角の邂逅
NGNGこのまま置いておけば、どうなるか知れたもんじゃない。何より今は一月七日で時が止まっているのだ。
「ちょっと、そこの人!!見てないで、手伝いなさいよ」
あたしは、ポストの影で傍観している人影に向けて、声を放っていた。
「相沢祐一!!いるんでしょ!」
「……手伝うのはいいけど、何をしろって?」
しぶしぶ出てきた相沢祐一のコートを、あたしは無理やり引っ手繰った。
「どわっ、寒い!?」
「素っ裸の女の子より、服着てるだけましだと思いなさい!!」
なんだかこいつと話してると、ヒロに対して話しているような錯覚に陥ってしまう。
二人の次元修正能力者。その本質は、あたしが思ってるより、近しいのかもしれない。
あたしは祐一からガメたコートで千紗をくるむと、その辺のバイクに乗せた。
「……運転できるのか?」
「なんであたしが運転しなきゃいけないの?動くのはこいつ自身よ」
そう言って、あたしはバイクに情報を収束させる。
無機物に情報を押し付け、物理的に動かさせるのは骨が折れるのだが、ここは我慢するしかない。
やがてバイクは音高くうなりを上げると、気絶した千紗を乗せたまま、病院へと走っていった。
後は、他力本願だが、スフィーに任せよう。一応、助けた貸しはあるはずだし。
「……バイクにまでガセネタを信じ込ませるとは……すげーな。運転手がいないのに」
「あー疲れた。それよりあんた、水瀬秋子はどうしたのよ?」
「ああ……秋子さんは、里村と密会中」
「………あのねー、あたしがそんな事聞きたいと思ってるの?」
これだから、女心のわからない奴は困る。あたしは、もう一人、とびきり女心のわからない奴を心に
思い浮かべながら、口を尖らせる。
「あの時は、ああするしかなかったんだよ。秋子さんもわかっててくれたみたいで、俺の話に乗ってくれたけど。
ただ、名雪の事を考えて欲しいのは、本音なんだけどな」
「あ、そう。好きな男から、自分の事を好きでもないのに助けられるのって、
女にとってどれだけ残酷な事か、わかってる?」
「……」
わかっていなかったらしい。あたしは大きく溜め息をついた。天然無自覚親切男。この世で最大の、女の敵だ。
0167長岡志保@街角の邂逅
NGNG「水瀬秋子が考えてるのは、九尾・翼人以上の大きなもの……アレについてでしょ?
その事に気付いてるのは、この街の中では、秋子と、里村、あんたと、ヒロ、あたし、そして九尾ね。
もっとも、永遠のネットじゃ、ガードが固い相手じゃあ、事象を読むのが精一杯だから、まだ知ってる人も
いるかも知れないけど。まぁ、今はあたし達は、そんな余裕ないしね。
秋子はそれのために動いてるみたいだけど、はっきり言ってあたしは、あんたほどあの女を信用できないわ。
ヒロはそれ以前に、九尾と美汐につきっきりだし、あたしも行かなきゃいけない。
九尾なんか、知っててほったらかし。ていうか、あいつにとっては、美汐との決着が全てみたいだから。
何かたくらんでるみたいな気配はあるけど、かなり本気でどうでもいいみたい。
あたしだって、今は目先の事で精一杯よ。というわけで、順序良く解決していきましょ」
「……どういうことだ?」
「だからぁ、あんたも来なさい。丘の上は今、大変な事になってんのよ!」
あたしはそれ以上、祐一に皆まで言わせなかった。
無理やり腕を引っつかむと、再び走り出す。後ろで何か文句が聞こえてくるが、あたしは黙殺する。
わかってるわよ、事態が逼迫してるぐらい。
でも、神ならぬあたし達には、目の前の事を解決するだけで、精一杯でしょ?
それすらもできない事だってあるのに。
やるしかないのよ。あたしはただ、ヒロと生き残る事だけが望みよ。
“それ”が迫ろうと迫るまいと、今はやれる事だけをやるしかない。それが、人間ってもんなのよ。
情報を観る力なんて、便利でもなんでもない。
押し迫る悲劇を知っていながら、避けられない、そんな絶望を味あわせてくれる。
でも、希望はないわけじゃない。
…ヒロ、あんたなら、この悲劇のシナリオを、覆す事ができるわよね?
あたしは、あんたの事信じてるから。
0168名無しさんだよもん
NGNG0169名無しさんだよもん
NGNG0170名無しさんだよもん
NGNG0171名無しさんだよもん
NGNG0172名無しさんだよもん
NGNG0173名無しさんだよもん
NGNG0174名無しさんだよもん
NGNG0175名無しさんだよもん
NGNG0176名無しさんだよもん
NGNG0177名無しさんだよもん
NGNG0178名無しさんだよもん
NGNG0179名無しさんだよもん
NGNGつうわけでdat逝き回避age
0180川名みさき@ルナティックパンドラ・前編(1/9)
NGNGわたしの命の灯火が尽きるまでの詳細な残り時間がそれだった。
術を行使するたびに生命という蝋燭は短くなっていく。
……焦っていた。先を急ぎすぎていたのだろう。
「川名さん……」
繭ちゃんが悲しそうな瞳でわたしを見ていた。
「私のこと見えてますか?」
「……うん、ごめん。ここまで来て焦っちゃってたみたい」
「いいえ。私もそうですよ。手に届くところに希望があります。焦って当然ですね」
当惑の表情だった彼女が笑顔を浮かべる。不器用な笑顔だった。
笑うことに慣れてないもののつくるそれ≠セったろう。
「繭ちゃん……」
だからこそわたしは愛しいと思った。
この子にもう涙みたくな表情は絶対にさせないと誓う。
「わたしは大丈夫だよ」
わたしも繭ちゃんに微笑みかける。
「心配させてごめんね」
「……そんなことないですよ」
繭ちゃんはそう言って呼吸を二三度して落ち付かせてから、またいつも通りの顔になった。
凛々しく、尊く。
「……気配は未だ遠くにあるみたいです」
鷹を思わせるように眼は鋭く。年に似合わない様相をしてみせる。
周囲を伺って視線は素早く二人の超越者に動いていった。
「七瀬さん、それに川名さん、もう先ほどのようなことはしないでくださいよ」
こちらも見ないで繭ちゃんは告げる。わたしも留美ちゃんも頷くしか出来ない。
今の彼女に意見するつもりもなかった。
だって繭ちゃんは本当にわたし達のことを想って言ってくれてるのが分かるから。
0181川名みさき@ルナティックパンドラ・前編(2/9)
NGNG伏龍≠フ名に相応しい気高さで彼女が言う。
「人の情念……九尾が危惧していたのはそれですね、裏葉さん?」
「はい。人の想いは何より強く、千年前の戦いでお母様が遅れを取ったのも想いの力だと仰っていました」
「……それについては、その通りでしょう。しかし、九尾を見て分かる通りです。
復活するのは何のためでしょう? ひとつは妖弧の王国。まあ、それもありでしょうが違います」
「あたしもそれに興味はなかったわ」
繭ちゃんの言葉に頷いて留美ちゃんが手をパタパタさせていた。
「これは主に緒方兄妹の思惑です。ふたつめに高野への復讐が上げられます」
この意見には皆々頷いていた。
「しかし復讐する高野はもはや存在がありません。昔ほどの勢力がないというのも原因はあるでしょう。
つまり九尾が個人的に敵対心を抱いていたのは翼人$_奈でしかありません」
「……と言いますと?」
裏葉ちゃんが訊いてくるのを繭ちゃんは得意げな顔で答えようとする。
自信の根拠を示す演出効果だった。
――自分が理解していることを語るには何にしても大げさな説得力が要ります。見た目が子供なら尚更ですよ。
そういう表情を作ってるときの彼女はまさしく軍師であった。
「決着をつけるということです。九尾が敗れた……相打ちであったとしても九尾の誇りは揺らぎます。
どうしたらそれを誇り払い出来るのか? 答えは、九本の尾をもってなお勝敗の分からない死合に勝利すること」
「……九尾は負の力で復活と好敵手のふたつの事柄を同時に着手していた、ってこと?」
「七瀬さんの言う通りです。呪詛で染まると予測された神奈の器には、天野さん以上の素材は望めません」
脱力してしまう。なんて途方もない計画だったのだろう。
(ただ……)
何なのだろう。この胸の中にある霧のようなものは?
繭ちゃんは嘘はつかない。
――軍師は信用されるのが最初の仕事です。
繭ちゃんは日常生活において他愛ない嘘も付かなければ冗談も口に出すことは少ない。
だったら、この違和感は別の何かに反応しているのだろうか。
繭ちゃんは舞台に立つ者のように必死に自分を伏龍≠演じていた。
0182川名みさき@ルナティックパンドラ・前編(3/9)
NGNGわたし達にはもう見ていることしか本当に出来なかった。
「……状況は切迫しています」
繭ちゃんが口を開く。視線は見渡すように誰かを探していた。
「……藤田さん、天野さんを追い詰めた責任は取ってもらいますよ」
「は? 俺がかよ?」
「女の子の心はデリケートなんですよ。何を勘違いしていたかは知りませんが、過去の亡霊なんて言い方はあんまりです。
天野さんに説き伏せるべきなのは、過去を過去として受け止めること。そして認めることでしょう?」
「あ、なんだ……つまりどういうことだ?」
「……貴女は女の敵ですか? 天野さんは正≠熈負≠煌ワめて天野さんです。どちらか一方ではありません」
繭ちゃんが言いたいことはわたしには分かった。
雪ちゃんと同じだったんだ。正しいことが見つからずに復讐だけしか見えなくなっている。
大切なものを見ない振りをして自分を誤魔化しているだけ。
「……ま、協力はするから非難めいた事は止めてくれ。女からそんな眼で見られるだけで俺は嫌なんだ」
「お、おんな?」
繭ちゃんが目を見開く。藤田くんはさらに繭ちゃんを怒らせたようだ。
(理由は押して知るべしとしか言いようがないよ)
眉をきりっとさせて繭ちゃんは宣言する。
「藤田さんは今から衝突する二人の気を限界まで押さえ込んでください」
「――ンなこと無理だろ!」
「聞く耳もちません。次に柳也さんに裏葉さんは九尾を。七瀬さんと川名さんは神奈にそれぞれ防御結界を張ってください」
「あたしと裏葉さんの役目って逆の方がよくない?」
「七瀬さん。私は常にベストオーダーを選択しています」
「……それもそうか」
あっさり留美ちゃんは引いた。わたしだって分かってる。
そもそも疑問はあっても口出しできるような戦術を組む彼女ではなかったから。
「今は皆さんの迅速な対処を期待しています。七瀬さん、失言は後ほど謝罪いたします」
「別にいいって」
七瀬さんはそうウインクする。何だかんだ言って二人は仲良しさん。
「私は……私に出来ることをします。さあ、散開してください」
皆が一様に頷いて、散っていった。
0183椎名繭@ルナティックパンドラ・前編(4/9)
NGNG「……分かっていませんね、本当に」
「また説教かよ?」
聞く耳もたないで言ってやります。
「彼は間に合いません。第一にそれ。第二に美汐さんに真琴さんの想いには彼の仲裁は逆効果です。
優しさは好きな人だけにしか惨酷です。第三に……これは私の我侭です。以上――何か質問は?」
「いや。それならそうと先に言ってくれよ」
途端ににやける彼に心底、私は溜息を付きたくなった。
「なにがです?」
「あんたのやりたいようにやるってことだろ? それなら協力は惜しまない。女は泣かせない主義でね」
「……言っておきますけど、私は……まだ子供ですよ」
「うんにゃ。老若関係なくさ。フェミニストってそういうもんだろう?」
「そういうのは気障って言うんですよ。語彙を増やすことをお薦めしますよ」
嫌味を言ったつもりだったが、彼は「ヒュー」と口笛を吹いた。
「あんた……いい女だな、見くびってたよ」
「……はい?」
「十年後が楽しみってことさ。じゃあ行ってくるわ、お姫さまのためによ」
言葉通り彼も配置につく。私は思わず呟いてしまった。
「……女ったらし」
別にこれは嫌味のつもりはなかった。でもとうとう溜息は付いてしまったが。
「そうとう苦労しそうですね……長岡さんって人は」
同姓として素直にそう思う。
「……まあ、いいです。私も準備に取り掛かることにしましょうか」
そっと息を落ち着かせる。胸に手を当てる。
小さな箱を手に持って、九尾と翼人のちょうど真ん中辺りに私は陣取った。
「……パンドラの箱よ」
伏龍£ナ名繭の名に於いて箱を封印から解放する手続きを執る。
チャンスは一度。失敗は死≠意味する。
「後は皆さん次第です。頼みましたよ」
月が映える昼とも夜ともつかない空を見上げて、私はその瞬間を待つことにした。
0184天野美汐@ルナティックパンドラ・前編(5/9)
NGNG不愉快だった。とてつもなく心を揺さぶられてしまう。
もう何もかも関係ない。
「――滅!」
私は残ったすべての気を使うつもりだった。
標的は九尾だけではない。眼に映る奴らすべてを皆殺しにしてやろう。
「破邪・神魔・光陣・闇月・雷鳴・刹那・瞬滅・天聖・負霊・開眼・精霊・脱魂――」
全長五尺に達する長剣に次々と私の唱えた言葉が刻まれていく。
文字は言霊。意味は現世に導かれる。
「――殺!」
始まりの言葉と終わりの言葉を繋げて術は完成した。
剣は――すでに剣とも呼べないそれ≠ヘ禍々しく神々しく私の想いの中にある。
『やめて……』
言葉を発するのはどこからか。いや関係などない。
私は私であった。天野美汐は私でしかない。
「消えろー!」
そうだ。もう消えてほしい。私の心からなくなってほしい。
「もう心を蝕ばないでよ!」
負が私を満たしている。こんなものが私であるわけがない。
こんなものすべて吐き出してやる。
『美汐はどうしたいの?』
求めているのは私がずっと私であることだった。
こんな気持ち悪いのは御免だった。
『わたし、分かったよ』
「黙れ!」
『わたしもわたしでありたかった』
「黙れと言っている!」
『負は嫌だったからわたしは貴女に押し付けた』
「違う。私の意志だ。黙れ!」
『だって貴女も本当は真琴のことを――』
「――黙れー!」
何か大切なものを振り切って私は九尾目掛けて光を放っていた。
しかし、そこにいたのは……少女だった。
「天野さん、負は己の弱さであったことを認めてください」
――そこから光が溢れた。
0185沢渡真琴@ルナティックパンドラ・前編(6/9)
NGNG迷いは去っていた。千年前の戦いを今こそ終わらせよう。
「天野美汐よ。神奈よ。消滅せよ!」
力あることは罪ではない。力を統べることを放棄することが罪なのだ。
所詮は人間と妖弧。分かり合えるはずもない。
「なぜ今まで気づかなかったのか」
九尾は長であった。妖弧の中の妖弧であった。私もそれに誇りを持っていた。
(裏葉よ。そんな中でお前だけは私の特別だった)
人を愛した愚かな妖弧よ。それでも私はお前を愛していた。詰まらぬ感情だったかも知れぬ。
神奈に柳也。お前は勾かされただけなのだ。
こやつらを血祭りに上げたならお前は私の許に戻って来てくれる。
そう思っていた。
「所詮は……人間だというのに……」
いつの間に復讐であったか。私自身の復讐なのか。いやお前を奪われた嫉妬だったのか。
答えはもう見つからぬ。止めることも出来ようない。
「真琴よ……」
内なる私に言葉を掛ける。
「幸せだったか? 人間と居て幸せだったのか?」
答えは聞くだけ野暮なのだろう。優しい気持ちが胸に流れ込んでくる。
「道を誤ったのか。笑えんな……」
すべての眷属たちは我が復活の礎になってきた。
その報いに答えなければならない。
「九尾よ」
呼びかけると一斉に九本の尾がざわめいた。
「――いくぞ!」
我も所詮は母親であったのか。
裏葉よ。認めることとは何とも恐ろしい。
今思えば大いなる意思の名のもとに我は動かされてきたのかも知れない。
「しかし、遅すぎたのだ――許せ!」
九尾が飛んでいく。裏葉と真琴が愛したものを滅殺しようとして。
「――結末はまだ決まっていません!」
どこからか声か。これは誰の声だったのだろうか。
光が目の前に広がっていく。
0186椎名繭@ルナティックパンドラ・前編(7/9)
NGNG紅い光が疾ってくる。力のひとつが私に絶望を運んでくる。
藤田さんの抑制力に限りなく力が抑えられているのに苦笑を漏らすことも出来ない力の輝きがあった。
圧倒的だった。しかもひとつだけではない。もうひとつの巨大な気もすぐにやってくるのだ。
「――結末はまだ決まっていません!」
パズルを埋めるために必要なピースの欠片は完全ではなかった。
後は私の度量に掛かっている。
(本当はもっと楽しようと思っていたんですけどね)
裏葉さんと柳也さんの結界術に神奈は護られている。
九尾は七瀬さんと川名さんに護られている。
(ここまでお膳立てしてくれたのだから、私だってやるしかありません)
気合を入れる。非力ながら気を蓄える。
勇気という力を精一杯に。この戦術に関する成功率は――
(って、くだらないことは考えないでおきましょう)
本当はすっごく怖いんですけど、川名さんや七瀬さんに胸を張れるよう頑張りたいですから。
それが弱い私に出来る唯一のことだったし、誇りでもあったから。
(自分だけ安全地帯なんて出来ませんよ)
私は言葉を発した。
「――パンドラの箱よ」
小さなオルゴールサイズの箱を手に乗せて呼びかける。
「――古の契約に応えたまえ。神々の力はここにあり。負の力はここにあり――」
パンドラの箱が開いていく。
「――封印せよ。神の箱よ。悪しき力を絶ちたまえ――」
箱から光が迸っていく。
赤い霧。闇の力。負の対象であるものすべてを飲み込んでいく。
凄まじいプレシャーだった。
負の情念が私の脳に入り込んでくる。
悲しい。辛い。怖い。許せない。憎しみ。苦悩。嫉妬。憎悪。絶望――
本来なら弱った相手だけを限定に私は箱を開けてきた。
そうしないと箱も耐えられないし、何より私の精神さえ犯されてしまう。
「負けないから――」
川名さん。七瀬さん。長森さん。里村さん。
「澪……」
彼女らが支えてくれる限り私は絶対に負けられないのだから。
0187里村茜@ルナティックパンドラ・前編(8/9)
NGNG私たちは物の怪の丘の頂上部を見上げていた。
「負ですか。こんなものが……」
「恐ろしいくらいですね。こんなものがこの世に存在するなんて」
淡々と口にする。
「まさか美汐が……」
私は最悪の状況を思い浮かべてしまい居ても立ってもいられなくなった。
「行きます……」
「今からですか? 無謀ですよ」
「……分かっています。でも、このままというわけには行きません」
「そうですか。貴女には『物の怪の槍』がありますし……きっと槍が護ってくれますよ」
「はい、それでは……」
その時点で行こうと思えば行けたはずだった。
だけど、秋子さんの表情を見ると、私は訊かずにいられなかった。
「……私の顔に何かついてますか?」
「凶難の相……」
まさか冗談で言った科白に返事が返ってくるとは思わなかった。
「凶難の相が出て二十日は経っています。が、この地においてはそれは変わりません」
普通なら三十六日で卦は変わるのだが、それはないということだった。
「……どういう災いが私を待っているんですか?」
「私にもそこまでは分かりません。ただ演劇に関すること。身内には気をつけてください」
「……身内に?」
寒気が走るのは何故だろう。
「演劇とは芝居を意味しています。もしくはそれに近いもの。用心に越したことはありません」
「……死相は出てたりするんですか?」
「凶難の相が貴女に影響するのなら、それは死相に繋がっていると思ってください」
「……分かりました」
秋子さんは真剣だったから私は頷くしか出来なかった。
「でも、私はまだ死にたくありません。他の人が死ぬのはもっと嫌です」
「……それでいいんですよ。丘の方へは後で駆けつけます」
名雪さんのことが心配なのだろう。母が子を思う気持ちはいつだって変わらない。
「互いに気をつけましょう」
でも、もう私は気づいてしまっていた。
秋子さんが言う結末を。
「まさか……あの子がなんて……」
槍が鳴っている。
0188七瀬留美@ルナティックパンドラ・前編(9/9)
NGNGあたしは二つの影に割って入る彼女を見て悲鳴じみた声を上げていた。
気が狂いそうになる。あの子はまた危険なことを誰にも知られないよう自ら買って出ていた。
「留美ちゃん! もう遅いよ!」
巨大な竜巻が三人の居た場所を取り巻いていた。
それは夕焼けのように紅い。
「なんでよ。どうしてあたし達を信用してくれないのよ!」
「留美ちゃん……」
「みさきさんは悔しくないの? 繭ばっかりどうして危険なことをしなくちゃならないのよ!」
「……留美ちゃん、それがわたし達の求めていた道だったんだよ」
「……え?」
あたし達があのとき勝手に出て行ったから。
そういうこと? 繭が危険なことになっているのは。
「繭ちゃんはすべてを覚悟して行ったんなら、わたし達はそれを信用しようよ」
「……みさきさん」
霧が晴れていく。今まであった負の力が嘘のように消えていく。
三人の居た場所の竜巻も徐々に弱まっていく。
「やれやれ。疲れた」
いつの間にかすぐ隣で浩之の奴がうつ伏せになって寝転がっていた。
「さすがにきつかったぜ」
そう言葉を残してすやすやと眠りに入っていった。
「……ということは?」
あたしは繭の居たところに目をやった。
そこには二つの倒れた影がある。
「真琴と美汐……じゃあ、繭は――」
「はい、何とか私の勝ちですよ」
椎名繭はよろよろと疲れたような足取りでこちらに歩いてくる。
「Vサインしときます。ピース」
あたしとみさきさんは繭のところに。柳也と裏葉さんは美汐と真琴のところへと。
みんなはそれぞれの大切な人の許に駆け出していった。
「そうだ。戦いはもう終わったんだ!」
あたしは嬉しくて仕方なかった。だって幸せだったから気づかなかった。
でも違ったのだ。運命はどこまでも惨酷だった。
本当は……本当の本当は……最後に残っていたのは絶望≠セったから。
あたしは、そのことにまだ気づいていなかった。
0189名無しさんだよもん
NGNG0190名無しさんだよもん
NGNG0191名無しさんだよもん
NGNG0192名無しさんだよもん
NGNG0193名無しさんだよもん
NGNG0194名無しさんだよもん
NGNG0195名無しさんだよもん
NGNG0196名無しさんだよもん
NGNG0197名無しさんだよもん
NGNG0198名無しさんだよもん
NGNG0199スフィー@絶望を前にした束の間の平穏
NGNG動けねぇ奴らの移送も一段落着き、俺は外の様子を見に出ていた。
その向こうから、原付がのたのたと走ってきやがる。
器用にも、布で包んだ何かを荷台に乗せ、誰もハンドルを握る事無しに、正確に俺の所に走って来やがった。
「んむ、伊万里焼でも入ってりゃ、美味しいんだが…」
「そんな訳あるかよ、ぼけ姉」
後ろから小生意気な口を叩くリアンを尻目に、俺は原付に近づいた。
「そうだ、中身を賭けるか。伊万里だったら、50万円。久谷だったら、スタジオ往きだ」
「わけわかんねぇそ」
洒落の通じねぇ妹だ。魔法を使った反動で、今は俺のほうが背が低い。リアンは煙草をふーっとふかすと
俺を馬鹿にするように見下ろした。いちいち癇に障る。
「ちっ、わかってるよ、こいつがお宝どころか、とんでもねぇ厄介者だってぐらい」
「そうだな。ただの厄介だったら、10点。小さいのなら、20点。でかかったら、30点でボーナスチャンスだ」
ちぃ、リアンめ、おめーも洒落をわかってんじゃねーかよ。俺は腹立ちまぎれに、コートをひっくり返した。
どす、と落ちたものを見て、俺たちは同時に呟いた。
「「スタジオ往きだ」」
ツインテール・塚本千紗だった。
「にゃ〜、むにゃむにゃ、もう食べられないですぅ」
しかもべたな寝言付だった。
「……何でこいつが……って、何か書いてあるぞ」
よく見ると、素っ裸の千紗の腹の所に、マジックで何か書かれていた。寝てる奴とはいえ、とんでもない事をしやがる。
「…負の影響が抜けて妖力も並に戻ったから、そっちで預かっといて…志保ちゃんより。
ってナメとんのかあのアマァァァ!!!」
吼えるリアン。まぁ、こいつは直接戦ってたんだから、無理ね−が。
「雛山に連絡しとけ。避難民追加一丁ってな」
「っておい姉貴!?」
「ちゃんと妖力も俺が封印しとく。今ここで殺すわけにもいかんだろ」
「………くそ、仕方ねぇな」
ぶつくさ言いながら、リアンは病院の中にとって帰る。
「しかし……悩みなんかなさそうな面して寝やがって」
くそ、俺ともあろうものが、今は平和に暮らしてきたあの頃が懐かしいぜ。
0200名無しさんだよもん
NGNG0201名無しさんだよもん
NGNG0202名無しさんだよもん
NGNG0203氷上シュン@ルナティックパンドラ・中編(1/10)
NGNG始まりは、どこからだったのかさえ思い出せないくらい、それは巧妙かつ狡猾だった。
永遠を迎え入れることが彼に出来るかどうか僕には分からない。
しかし、信じることこそ力なら、その想いを全うする為に死ぬことも辞さない覚悟なのだろう。
……分かる気はする。間違っているかどうかなんて関係ないのだから。
たくさんの選択肢の中で導き出された答えが、今ここにある。
さあ、享楽劇の始まりだ。
終わりを求めることは無意味だって知らしめよう。
始まりが希望だと思うものを嘲笑おう。
真実は痛みを伴うものだってことを思い知らせよう。
彼の希望は、彼女にとっての絶望だった。
僕はあくまで傍観者だ。滅びの時が来るまでただ待とう。
聖戦が始まる。終わりに向かって。
もう誰にも止められない最期の時に向かって。
0204川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(2/10)
NGNG何が起こるのだろうと誰もが注目していた。
繭ちゃんに皆の視線が集まっている。
「……永かった。悠久の年月は今このときのためだけに存在しました」
そう本当に永かった。わたし達の今までの戦いはこの瞬間を迎えるためにあったから。
パンドラの箱。負の回収。残るはずの希望。永遠。折原浩平。
「さあ、儀式の始まりです」
繭ちゃんが振り返ってわたし達を見る。
ごくっと息を呑む瞬間だった。
「初めに今までの物語で残った疑問を片付けていきましょうか」
なんとも言えない底の知れない笑みを浮かべて繭ちゃんは唇を滑らせた。
「そちらの方が皆さんにとっても分かり易いと思います」
誰も言葉を発しない。繭ちゃんはその沈黙を肯定だと受け取った。
「まずひとつめです。<TIPE−1>観鈴やセリオ、マルチに見られる翼人搭載型の開発はどうして存在していたか。
前者は人をベースに、後者は機会をベースにしていました。これは開発機関の特色でしょう。
高野と来栖川であり、軍部はその両方を試していました」
「でも、そのどちらも失敗に終わっているよね?」
「はい。これに付いては何でもありません。ただ言いたかったのは、私が高野を訪れたのは、
どうしても上手くいかなかったその研究の引き継ぎを依頼されたからです。
……まあ、あんなことがあって研究は中断されたみたいですけど。
私は高野に行く理由が欲しかっただけで、あまり執着はしていませんでしたし……」
「だったら……」
繭ちゃんは一体なにを言おうとしているのだろう。
「そうですね、話が遠回りし過ぎですか」
皆からの視線を受け取って、繭ちゃんは苦笑した。
0205川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(3/10)
NGNGパンドラの箱で負を回収した後の魂なら、彼女も病状を悪化することなく受け入れられます」
「病状って?」
「観鈴の研究成果を見せて頂きましたけど、彼女……幼い頃は方術を扱えたようですね。
それが年を取るにつれて術の効力が薄くなる。
単純ですよ、晴子さんに預けられてからは、人との邂逅……優しさに触れました。
彼女の力の源が孤独なんて……ひどすぎますよね」
「……それでは神奈さまはご無事なのですね」
よほど心配だったのか裏葉ちゃんが慌てたように言う。
でも、繭ちゃんは困ったように首を傾げながら頬に指先を当てていた。
「裏葉さんが言う無事というのはどういうことですか?」
「そ、それは……神奈さまの魂が救われたか、ということですけど……」
「……良かったです。神奈さんはやっと千年という歳月から解放されたんですよ。
眠る子を起こすことはしないでおきましょう。後は観鈴さんと共に幸せな道を歩んで貰いたいですから。
今だから言えますけど、神奈さんの掛かっていた呪詛って嫉妬の情念が大半だったんですよ」
「……あ、わたくしとしたことが……なんと気の利かないことを」
「まあ、済んだことですし、気になさらないでください。じゃないと柳也さんが気の毒ですから」
「……なぜに俺が気の毒なんだ?」
「柳也さまが益体なし、ということです」
「顔を真っ赤にさせて裏葉は何を言ってんだ?」
「――知りません!」
わたしも何のことかよく分からないけど、益体なしって言っておくよ……と付け足したかったけど、
どうしてか、ひとりの男性にとどめを刺すような気がしたので、止めておいた。
0206川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(4/10)
NGNGこれは裏葉さんや柳也さんにも多大に関係のあることですから、しっかり聞いてくださいね」
わたし達が頷く中で留美ちゃんだけが目をきょとんとさせていた。
どうやら話についてこれてないみたい。繭ちゃんは気づかない振りをして話を進めていた。
「妖弧の転生術ですよ。緒方らはこれを巧みに操って死んだけど死んでいないという状況を世界に刷り込みました。
何度でも使えるような裏技ではないですけど……まあ、細かいこと言いませんが、あのときだけ限定の技だと思ってください。
私が問題にしたいことは次のことなんですよ」
指を弾く動作を交えながら繭ちゃんは続けた。
「転生には器が必要です。特に世代を越えた転生にはそれなりの器が必要とされます」
繭ちゃんは弄んでいた指でそっと髪を撫でた。
「そうですね、裏葉さん?」
「はい、繭さまの仰るとおりです」
「長森、宮田はもちろん、遠野、国埼、川澄、河島、相沢も同じ血族ですね?」
裏葉ちゃんはそっと頷いて同意を示す。
「……どういうことなの?」
留美ちゃんが訊くのを繭ちゃんは軽く答えていた。
「子孫ですよ。柳也さんと裏葉さんの血筋が現在まで為してきた家族ということです。
かなり血は薄くなっていますけど、器という意味では打って付けですね」
なるほど。遠い親戚同志だったのか。
「で、繭ちゃんはそれで何が言おうとしているの?」
「確認ですよ。これから話すことのための前知識だと思ってください。
それでは三つ目です。あの永遠での出来事を順を追って話していきましょうか」
わたしと留美ちゃんは身構えてしまった。当然かも知れない。
やっとあの現象の真実を知ることができるんだから。
0207川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(5/10)
NGNG「……見てたから」
留美ちゃんに続いてわたしも神妙に頷いた。あの光景は二度と忘れないと思う。
「浩平さんが消えたのは分かります。彼は永遠の盟約を交わしましたから。
永遠の少女に連れて行かれました。途中まで、ということですが」
「ど、どういうことよ! 折原は本当の永遠にいるんじゃなかったの?」
「はい。私の言葉に偽りはありません」
「だったら――」
「物事には順序というものが在ります。七瀬さんなら分かってくれますよね?」
「いいわ。繭はそうやって人の反応を見て楽しんでいたらいいのよ」
ちょっと留美ちゃん拗ねちゃった見たいかな。
繭ちゃんは失敗ですか、と詰まらなそうにしていた。
「じらすのも悪いような気がして来たので本題に入りましょう。七瀬さんも訊いてくださいますか?」
「……馬鹿」
「はい。では行きましょう。長森が裏葉さんの血筋だということが分かれば答えは意外に簡単なものです。
長森さんは転生術をあのときに使っていたんですよ。巧妙? そうではありません。
彼女の無意識化で力は使われていました」
「……つまり、瑞佳は消えたんじゃなくて、転生したってこと?」
「さあ、どうなんでしょう?」
留美ちゃんの問いにくすっと繭ちゃんは微笑んだ。
「繭、アンタって子はどうしてあたしにだけそういう態度を取るかなー」
留美ちゃんはニコニコ笑顔のままで繭ちゃんとアイアンクローごっこで遊ぶのことにしたようだった。
……触らぬ神に祟りなし。ごめんね、繭ちゃん。
0208川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(6/10)
NGNG「あのねー自業自得って言葉知ってる?」
繭ちゃんはにっこりと頷いて留美ちゃんに微笑みかけた。
「寸進尺退、相互扶助、温厚篤実、天空海闊、安心立命の意味って分かります?
まあ、七瀬さんに言われるくらいですから私も浅学非才だったんでしょう。
相即不離の関係ですし、仕方ないってことでいいですけどね」
「…………え?」
見事に留美ちゃんを絶句させる。わたしも言葉の半分の意味も分からなかった。
「そうなんですか。繭さまは意外と恥ずかしがり屋さんなのですね」
「……茶化さないでください」
でも一部では意味が通じているらしい。さすがは裏葉ちゃん。
「さて、気を取り直していきましょうか。私も別に言葉遊びをするつもりはないですよ。
言葉通りの意味合いなんです。長森さんがどこにいるのか裏葉さんに会うまで確信できなかっただけですから」
「……そうは申されましても、わたくしにも瑞佳さまの居場所は計り兼ねますが?」
「はい。どうやら思惑は私の予想を遥かに越えたところにあったようです。
……ということで七瀬さんも納得してくれますか?」
「あたしが訊いたときは知らなかったってこと?」
「はい、そういうことです」
「そうならそうと言いなさいよ。へんな勘繰りいれちゃったじゃない」
「確信できなかったことを憶測だけで話すことは好きじゃなったんですよ」
「……でも、今は分かる、そういうことでいいのかな、繭ちゃん?」
「うん、まあ……そんなところです」
何かを誤魔化すように曖昧に繭ちゃんは言葉する。
「ここまで来た以上は、一蓮托生だよ。包み隠さずでお願いするよ」
「……いえ、元よりそのつもりですよ」
繭ちゃんは目を伏せて言う。
今度はわたし達が心の準備をする番だった。
0209川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(7/10)
NGNG「……どうして?」
すべてを話してくれると言った繭ちゃんが辛そうに俯いた。
「彼女のプライベートに触れることだからです。長森さんに直に会うまでは言いたくないんです」
長森瑞佳。この計画における最重要人物だと繭ちゃんは言った。
永遠の少女みずか≠ニ同じ名前を持つ彼女のことを皆はどう思っているのだろう。
「繭がそう言うんならあたしは別にいいわよ」
即答と言ってもいいくらい留美ちゃんが言葉した。
「七瀬さん、ありがとうございます」
「いいってことよ。元々難しいことはよく分からないから」
そっか。わたしは何を不安に思っていたんだろう。
留美ちゃんが誰より繭ちゃんのこと分かってる。
「……わたしも同意だよ」
ちょっと出遅れてしまったことに僅かな後悔をしながら言う。
繭ちゃんが笑ってくれる。
「わたくしは元より皆さんの意見に賛成なんですよ」
「俺はそこらへんは部外者だからな」
繭ちゃんは皆に向かってゆっくりと会釈した。
「皆さんの心は嬉しいです。長森さんのことは任せてください。絶対に連れて来ますから」
「うん、瑞佳のことお願いするわよ」
晴れた空の中で雲が流れていく。負で覆われていた空は今はとても眩しい。
まだ冬の風だったけど、わたしの心は春空だった。
0210川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(8/10)
NGNG「それって瘴気が街を覆っていたこと?」
「はい。考えても見てください。いつから戦いは始まっていたのか?
どうして戦いしか考えられなかったか? 天野さんはどうして真琴をあのときまで討たなかったか?」
わたしは草原に目を落とした。真琴ちゃんと美汐ちゃんは気持ちよさそうに眠っている。
「あの邪術士$瀬秋子さえ逆らえなかった要因がそこにあります」
繭ちゃんは断言した。なぜか悪寒が走ってしまう。
「電波や音波? そんな生易しいものではありません。生まれたときから植え付けられていたものですよ。
人には欲望があります。生きる上で業が生まれます。何かを犠牲にしないと人は生きてはいけません。
そう生きとし生けるものすべてがそう≠ネのですから」
「繭ちゃんそれは……」
「それは生きている奴の存在を否定することだぞ」
いつの間にやら藤田君が起き上がって繭ちゃんを窘めていた。
「分かっています。が、利用するに当ってこれ以上のものは望めません。人の弱みに付け込むんですよ
母親として九尾と邪術士は取り込まれて、ゴッドハンドと翼人も愛するもののために道を失ってしまいました。
誰だってそうです。この街に訪れた人たちは初めから瘴気に当てられて良いように操られていたんです。
邪悪な意思、人を洗脳することに長けたものの手によって……」
「……な、何を言ってるの、繭? それってどういうことか、どんな意味を持つか分かって言ってるの?」
「七瀬さん、認めることも時には必要です。今の局面で冗談なんて……それこそ信じられないでしょう?」
「俺の意思も別にあったってことか?」
「次元修正能力者ですか? それこそ思う壺なんですよ。キリスト? 救世主? あの人が残したものは
いったい何だったんでしょうね? でも二千年前のあの人を例に取るなら貴方も決して枠外ではありません」
藤田くんが「やれやれ」と頭を掻いていた。
「そうです。人を望んで先導するに長けたのは宗教ということです。こういう発言はあまりしたくはないですが、
一例だと思ってください。高野だって仏教の流れを汲んでいますから、傾向としては避けようのない事実なんですよ」
0211川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(9/10)
NGNG彼女は何と戦っているのだろう。
わたしはもう悲痛な笑顔を浮かべる彼女を見ていられなかたった。
「初めは気づくことでした。何か変じゃないかって思うことが始まりでした」
繭ちゃんは淡々と話す。瞳に色が見えない。
「高野の存在は何でしょう? どうして仙命樹や対妖兵器を開発してたんでしょう?
今、思うと……すべてに疑問が湧いてきて仕方ないです。夢でも見ていたんでしょうか?
不可視の力……魔法に方術、どうしてこんなものが存在していたのか?」
「……いったいどうしちゃったの?」
留美ちゃんが呟く。心ここになしという感じで繭ちゃんは喋り続けていたから。
「『FARGO』という宗教……いえ、結社がありました。『異界への旅』だとも訳せる名をもった結社です。
また『気が触れる』とも訳せるのが何とも……可笑しいですね、こんなの」
「……『FARGO』は滅んだんじゃないの?」
「この街は大きなMINMESだったのかも知れませんね……」
繭ちゃんは語る。語り続けた。わたしはもう何も言えなくなっていた。
「でも、これは実験ではなく実践でした。FARGO自体が大きな実験施設だったんだから当然ですよね。
……それに、滅んだ、ですか? 違いますよ、あれには用が無くなっただけです。
『MOON』は残っていたんですよ。ほら、空を見てください」
月があった。大きな月だった。
「まさか……大き過ぎる……」
誰かが呟く。もしかしたらわたしだったのかも知れないし、他の誰かだったのかも知れない。
……でも、どちらにしろ、それは大きすぎた。地球を飲み込もうとしているように。
「『スペシャルフォース』というのは地球にアクセスする力の総称ですよ。
人が炎を手に出してるわけではありません。星の記憶に炎をという事象を書き込んでいるだけなんです。
それが魔術も呼ばれる力で現出されているだけなんですよ」
「……繭ちゃん、貴方はいったい」
「もう、永遠は近くなりすぎました。引き戻すことは出来ません。死人の歌が聞こえるのはその前触れですよ」
悲しみの声が聞こえる世界。『永遠は記憶』の世界。つまり永遠とは……。
0212川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(10/10)
NGNG誰も彼もが統一性の無い動きをする。動かされてきた? 誰に? もちろん――」
繭ちゃんは手を上げた。
そこには大きな満月が優しい光を放っていた。
「月です」
悲鳴さえ上げられない。
「では、最後の問題です。私はどうしてこんなことを喋っているのか?」
「ちょっと、繭……なに言ってんの?」
留美ちゃんが繭ちゃんに触れようと焦ったように手を出すが弾かれた。
青い色の結界が張られてある。見たことあるこれは――
「『永遠の防御幕』ですよ。計算通りです。ここには時空間に干渉できる能力者はいません」
「繭ったらいい加減にしなさいよ。いつもの癖だろうけど、今回は過ぎるわよ」
留美ちゃんはぐいっと藤田くんの襟元を引き寄せた。
「ほら、次元能力者なんでしょう? あれ、破っちゃってよ!」
でも彼はお手上げのポーズをして見せた。
「……無理だって。繭の言う通りだよ。俺は力を使い果たしちまってる。九尾や翼人ももういない。
やられたよ……ここまで巧妙になってるとはね、後はあいつの到着を待つしかないと思うぜ?」
「なによ! この役立たず!」
「……おいおい、随分な言われようだな」
そんな二人の遣り取りを見て繭ちゃんはくすっと笑っていた。
「残念でした。もう問題の答えを言うことにします。時間稼ぎだったんですよ」
答えを明かすということは、すでに準備は出来たということだろう。
「お待たせしました。この舞台の最終演目のヒロインの登場です」
森の陰から出てくるのは少女だった。
紅い髪のツインテール。人間ではない神に近い気をそれはもっていた。
「言いましたよね? 私が高野に行った理由を?
紹介します。M・I・T・I・R・U――みちる、私の最高傑作です」
そう言って彼女はパンドラの箱を開けた。
0213川名みさき@ルナティックパンドラ・中編(10/10)
NGNG「ゴッドハンド、翼人と美汐の負、それに九尾、すべては私の計画通りですよ」
赤い渦が空まで届く。黒い霧が辺りを覆い尽くしていく。
先ほどまでとは比べ物にならない負の力が一瞬にしてこの街を――世界を覆った。
「もう一度、紹介しますね。翼神獣『みちる』です」
『紅い翼』に『闇の翼』に『白い翼』が二対ずつ広がって12枚の翼が広がっている。
それに加えて九本の尻尾までがみちるにはあった。
「彼が求めていた野望は破壊でした。パンドラの箱に最後に残っていたのは終焉ですよ」
「……ありゃあ、人間じゃあ勝てんわ」
藤田くんさえ絶望の瞳をしている。切り抜けるすべは無かった。そして繭ちゃんは今でも笑っている。
「川名さん、前に言っていた裏切りものって……」
いつもと変わらない……いや、それ以上の笑みを浮かべているのが悲しかった。
「――言わないで!」
「あれ、私のことなんですよ」
わたしの絶叫も彼女の耳には届かなかったようだ。
「繭……嘘よ、そんなの……」
留美ちゃんがふらふらとした足取りで彼女に近寄っていく。
そこには結界が張ってる。触れたならただでは済まないような結界だった。
でも、わたしのそんな心配は杞憂だったように、彼女は言った。
「みちる、まずはあの人を殺ってください」
翼神獣≠ンちるは動き出す。そこに――結界に刺さるように何かが通り過ぎていった。
永遠の結界は物理力では破壊できない。でも、それはこの上ない力でみちるに突き刺さっていた。
「――これは、物の怪の槍!」
柳也さんが叫んだ。そこには金色の光を放つ彼女が立っていた。
「里村さん……」
「繭さん……悪戯はそこまでです」
天はどちらを選ぶのだろう。みちるは大して痛そうにしないでそれを引き抜いていた。
こんな化け物に勝つことが出来るのか?
「後編に続くよ!」
わたしはすっかり解説屋さん。ちょっと寂しいよ……。
0214名無しさんだよもん
NGNG0215名無しさんだよもん
NGNG0216名無しさんだよもん
NGNG0217名無しさんだよもん
NGNG0218名無しさんだよもん
NGNG0219名無しさんだよもん
NGNG×俺はそこらへんは部外者だからな
○俺もそこらへんは部外者だからな
>>210
×そう生きとし生けるものすべてがそう≠ネのですから
○生きとしいけるものすべてがそう≠ネのですから
>>211
×星の記憶に炎をという事象を
○星の記憶に炎という事象を
>>213
×12枚の翼
○6枚の翼
>>213
×わたしはすっかり解説屋さん
○わたしはすっかり解説のお姉さん
0220名無しさんだよもん
NGNG0221名無しさんだよもん
NGNG0222名無しさんだよもん
NGNG0223名無しさんだよもん
NGNG0224名無しさんだよもん
NGNG0225名無しさんだよもん
NGNG0226名無しさんだよもん
NGNG0227名無しさんだよもん
NGNG0228名無しさんだよもん
NGNG「長森さんのことについては今は言えません」
「でも長森さんのことについては今は言えません」
もう本当に逝きたいだよもん。
出来ることなら言い回しとか誤字脱字をすべて改訂した奴をはりたいだよもん。
0229名無しさんだよもん
NGNG0230名無しさんだよもん
01/08/26 22:26ID:87epXTbAでもその前にageるだよもん。
0231長岡志保@幸せを掴む為の努力
01/08/26 23:29ID:Ad/mNHbg椎名繭。その真意を。
彼女は何故、偽りを演じたのか。
彼女は何故、月に従うのか。
あたしの力は、情報を観る力。丘に向けて走る今この瞬間にも、丘の様子は克明に脳裏に描かれる。
ついに、彼女が動いた。そしてそれは、あたしが観た、絶望の未来への道行きが現れた事も意味していた。
せめて最後は、幸せな記憶を。そう呟いたのは、誰だったのだろう。
あたしの力は、人の心までは知る事はできない。だから、考えるしかなかった。
彼女の真意を。
そもそも、パンドラの箱とは、一体何なのだろう。
負を収める力を持つ箱である事はわかっていた。だが、何故パンドラの箱なのだろう。
神話は、こう伝えている。
この世の全ての罪悪と不幸は、一つの箱に収まっていた。
怒り。苦しみ。妬み。恐怖。そういった負の感情。
災害。病。飢餓。殺人。そういった負の現象。
地上に住む人々は、負に苦しめられる事もなく、幸せに生きていたという。
だが、それをパンドラと言う愚かな女が、開けてしまった。
その為に、あらゆる不幸は世界中に飛び散り、人は様々な苦しみを背負うことになる。
だが、全てではなかった。ただ一つ、箱の奥底には、“希望”が残されていた。
何故。
何故この世の不幸を収めた箱の中に、希望が入っていたのか?
箱を開けるまで、希望は人々の中にはなかったのか?
……そうかもしれない。
苦しみもない。怒りも、悲しみも、絶望もない。
そんな世界で、希望は必要ないのだ。何故なら、苦しみから逃れる為に、“希望”は必要なものなのだから。
全てにおいて幸福なら、“希望”にどれほどの価値がある?これほど満ち足りているというのに。
0232長岡志保@幸せを掴む為の努力
01/08/26 23:37ID:87epXTbA苦しみも、悲しみも、絶望もない世界。それが永遠。誰もが望んだ世界。
最も遠くて、最も近い。パンドラの箱が開く前は、世界は永遠に満ちていたのだろうか?
あるいは、とあたしはなおも思考の海に浸る。
そこに入っていたのは、やはり“希望”などではなく、罪悪の一つだったのだ。
たまたま、それが“希望”と対になる罪悪だったから、人は希望を失わずにすんだ。
では“希望”と対になる罪悪とは何か?
“絶望”ではない。絶望は、あくまで“それ”が現れ、“希望”が失われた事による結果に過ぎない。
“それ”とは……“未来予知”だとあたしは知っている。
少なくとも、あたしにとっての“それ”は、未来を知ってしまうことだ。決して覆る事のない、絶望に満ちた未来を。
決して間違う事のない、未来を知ってしまうこと。
それこそが、どのような“希望”をも失わせる、最大の罪悪。
もし人が、完全なる“未来予知”を手に入れたなら、どうなるだろう。
まるで、見たり、聞いたり、触ったりといった、五感と同じ位置に、未来を知る力があったなら、この世はどうなってしまうのだろう?
答えは簡単だ。10年。それだけあれば、人類は滅びるだろう。
明日死ぬとわかってしまったとき、どれだけの人が正気を保っていられる?
明日不幸が襲い掛かってくるとわかったとき、どれだけの人が抵抗せずにいられる?
そしてそれが不可能だと知ったとき、人は、絶望する。
あたしは笑わずにはいられない。それはつまり、あたしの事だ。
絶望の未来を観てしまったのは、あたしなのだから。
希望とは、未来を知りえないからこそ、産まれるものなのだ。
パンドラの箱の中には、美汐と真琴、その二人の負が納められていた。
この世の罪悪全てとは言わないまでも、あらゆる不幸の源が入っているのは間違いない。
椎名繭。とんだパンドラだわ。でもね、全てがあなたの思い通りにはならない。
何故なら、パンドラは、不幸をばら撒く愚かな裏切りの女は、もう一人いるのだから。
0233長岡志保@幸せを掴む為の努力
01/08/26 23:52ID:Ad/mNHbgあたしは全てを知っている。
だから、あたしには希望はないのか。いいえ、そうじゃない。
あたしには希望がある。ヒロ。藤田浩之。
あたしにはあんたがいる。
あんたなら、あたしが観てしまった絶望を、覆せる。
血の海にのたうち、内臓を撒き散らされて、ヒロが死ぬビジョン。
それに手を伸ばし、けれど手が触れる前に、あたしが引き裂かれるビジョン。
そこには血の海が広がる。誰もが死ぬ。この街は血に染まる。
沢渡真琴。天野美汐。水瀬秋子。七瀬留美。川名みさき。全てが血に染まる。
けど。
あたしは知っている。
星は、この地球は、別の結末を望んでいる事を。
せめて、最後だけは、幸せな結末を。
幾千、幾億の記憶の連なり。重ねられた不幸。
けれど、それもここで終わる。終わらせてみせる。何故なら、誰もが望んではいないから。
あたしの観た未来なんか、消し飛ばしてくれる力。力が欲しい。
水瀬秋子、あんたの望む未来は、こんなんじゃないでしょう?その為に、自らの影を分け、そこに“真実”をこめた。
沢渡真琴、狡猾なる妖狐、あんたは知っていたはずね?この結末を。見せてよ、全ての不幸を飲み込む、あんたの最後の策略を。
天野美汐、目覚めなさいよ、いいかげんに。負も、愛も、全てはあんたと共にあるんだから。
……椎名繭。負を収めし箱を持った、パンドラの女。
でも、同じ役者は、二人同時には存在できない。
箱の奥底に収められた、“希望”という名の罪悪を手にしてしまった、このあたしが、あんたの好きにはさせない。
何故なら。
あたしもまた、パンドラの役を割り振られた、愚かな女の一人なのだから。
あたしは小さく笑った。
知ってる?椎名繭?あたしも、持ってるのよ。パンドラの箱を。全く別の、罪悪の源を。
0234水瀬秋子@幸せを掴む為の努力
01/08/27 00:12ID:a5Q83Xz2私の影。私が邪術士となった、あの日、あの時に切り捨てた、もう一人の私。
「始まってしまったわね……」
「ええ、そうね」
『影』は、悲しげな視線を丘に向ける。椎名繭、里村茜、長岡志保、沢渡真琴、天野美汐。
どれほどの、『業』を背負った者たちが、集まっているのだろう。
「同じね……あの時と」
彼女が言っている時のことは、すぐに見当がついた。
私の……私達の娘が、月に帰っていってしまったときのことだろう。
月。月は狂気の象徴。月の光は、人を狂気の狭間へといざなう。
そう、この私の心にも。
「言っておくけれど、私は、私のやり方を貫き通します」
私は、『影』に向けて、決然と言い放った。その瞬間、彼女は目を伏せた。
「わかっています。ですが、時が来れば……」
私は何も言わなかった。ただ、彼女から目をそらす。『影』が動いた。
「もう行きます。いつまでも、こうしてはいられませんから」
「ええ、お互いに」
それが、互いの半身への、別れの言葉だった。
0235名無しさんだよもん
01/08/27 00:13ID:a5Q83Xz20236名無しさんだよもん
01/08/27 00:14ID:a5Q83Xz20237名無しさんだよもん
01/08/27 00:16ID:a5Q83Xz20238名無しさんだよもん
01/08/27 00:17ID:a5Q83Xz20239名無しさんだよもん
01/08/27 00:19ID:a5Q83Xz20240名無しさんだよもん
01/08/27 00:20ID:a5Q83Xz20241氷上シュン@最後通告(1/5)
01/08/27 05:28ID:hpBpjetIだが、それは鳴るはずも無い。
なぜなら、誰もその電話につなげる為の番号を知らないから。
そして、僕はそれをとることも無い。
なぜなら、それが鳴ることは無いから。
さらに、僕自身何も話すことが無いから。
だが――電話がいきなり鳴ったのだ。
鳴るはずの無い電話が。
掛けてくる人間は、3人思い当たった。
"浩平君の妹"と、"兄を追い求めている女の子"と、"永遠を求める女の子"――
――僕は受話器を取った。
聞こえてきたのは――2番目の女の子の声だった――。
0242氷上シュン@最後通告(2/5)
01/08/27 05:30ID:hpBpjetI「君こそ退屈してるんじゃないか」
「まあね。もっとも今の時点だけど」
「今の時点か。まあいいや。それで何を話したいのかい?」
「単刀直入に言うよ。
あんたはあくまで傍観に徹するつもりかい?」
「分かっているじゃないか。僕が下手に関与する理由なんて無いからね」
「本当に悠長だね。それには何かしらの根拠でもあるのかい?
『折原浩平を無事に自分のものにする』算段でも考えついたとでも言うのかい?」
「まあね。でも残念ながら『浩平君を独り占めにしよう』とは思っていないよ。
傍観者としてこの『聖戦』の行方を見ていきたいだけさ。
浩平君の望んだ『最期の時』に向かってね」
「浩平さんが望んだことか……」
その時からしばしその相手は口を噤んだままになったが、やがて話し出す。
「とにかく彼の地はどんな状態になっているのかな。
良ければ実況してくれないかな」
「お安いご用さ」
僕は彼の地で起こっていることを全て電話の向こうの相手にぶちまけた。
0243氷上シュン@最後通告(2/5)
01/08/27 05:31ID:hpBpjetIしかもなかなか熱い事をしてくれるじゃないの」
「それで君はどうするつもりなんだい?」
「一応、彼の地の近くまで向かっている所なんだけどね
もっとも到着は今日の深夜になるけど」
「君は僕と一緒に観察者を気取っているつもりだったんだけど、やめたんだね。
もっとも、君の性格からして今回の『聖戦』に対してはじっとしていられないと
思っていたが、本当にその通りだったね」
「口数がちょい多いんじゃない?
あまりうるさいと今度はこの間みたいなのではすまないよ?」
「ははは。暴力は反対だよ」
「本当に癇に障るものの言い方だけはやめなよ」
「それは余計なお世話ってものさ。ついで、僕の今の行動についてもね」
「まあ、そうかもしれないね。
ただ……後者については余計なお世話とは到底いえないけど」
「どういうことだい?」
「あんたにも身の危険が迫っているって事だよ。嘲っているどころじゃやないよ。
今からいう事は耳の穴をかっぽじって聞いた方がいいよ」
「ほう、どういうことなんだい? 言ってみなよ」
「”今すぐにも永遠から立ち去って、現世に戻れ”
それだけのことだよ。理由は”永遠”を自在に操るあんたなら、ちょい考えたら
簡単に分かると思うけど」
「なるほど……」
僕はそこで少し考えた。そして話しつづける。
0244名無しさんだよもん
NGNG0245名無しさんだよもん
01/09/10 01:10ID:C.zRK6qY0246名無しさんだよもん
01/09/11 00:17ID:oa5n/Jbw0247名無しさんだよもん
01/09/12 17:25ID:e2TcK.Hc0248名無しさんだよもん
01/09/12 23:22ID:XICNkGPYそれなら、折れが次の話に行くけど、それでいい?
それとも、ファイナルスレの話をコピーする方が先か?
意見求む。また来るよ。
0249氷上シュン@最後通告(4/6)
01/09/12 23:55ID:L68qYUAg「忠告なんて生易しいものじゃないよ。最後通告と思いなよ」
「いきなり最後通告か。本当に厳しいね、なつき君は」
「それでどうするの?」
「今急かされても困るよ。今後の自分自身のことは自分で決まるのだから」
「そうだね。これ以上突っ込んでも仕方がないね……ただ……」
「ただ……なんだい?」
「彼の地だけど……繭の奴の思い通りに物事がうまくいくとはどうも思えないの
だけどね」
「ほほう、"君も"そう思っていたのかい」
「"あんたも"思っているとは……本当だとしたら相当の性悪だね」
「ひどい言い様じゃないか。君には『オマエモナー』という名言を贈りたいよ」
「ありがとう。
それはどうでもいいとして……繭の奴の策略が成功するにしろそうでないにしろ、
あんたにとって相当割の悪いことになることだけは確実だよ。
最悪の場合……あいつはマジで"消滅"してしまうかもね」
「確かにね。それは僕はあまり望みたくないね。
分かった。僕自身の身の振りについては慎重に考えることにするよ」
この言葉は嘘ではなく、もちろん本心からだった。
0250清水なつき@最後通告(5/6)
01/09/12 23:57ID:L68qYUAg彼女の安全を一番確実に守れるのはあんたなのだからね」
「おっと、それは君じゃないのか。昔は、僕なんてみさおちゃんの面倒を見せるの
は危なっかしいって言ってたじゃないか」
「今はそんなことは言ってられないよ。
それに、なつきは既に”永遠”から離れているから。”力”をあんた同様に使え
るといっても、現世からじゃとんでもない余計に消費しちゃうのよ」
「分かったよ。最後に、そっちの日付はどうなっているんだい?」
「6月2日午前7時35分だよ。それがどうかしたのかい?」
「やっぱりね」
「やっぱりって……なんなのかな?」
相手は一呼吸置いてから言った。
「機嫌の悪そうな声の調子だったからね。眠たくて仕方がないってのはあたっていたね」
「うるさいよ。
とにかく、せいぜい無事でいることね。じゃあ」
ここでなつきは電話を切った。
0251清水なつき@最後通告(5/6)
01/09/12 23:59ID:L68qYUAgただ、そんな奴でも今回ばかりは万が一の事があったら、より深刻になること
だけではすまない。”永遠”が暴走するどころの騒ぎではないだろう。
あと、繭についてだが……今の所は何も手出しが出来ない。
そう……”みちる”を開放させたばかりの今の時点では。
だが、彼女……いや、"あいつ"にも一言だけ言っておこう。
――『厨房はどうあがいても厨房だ』と――
いずれ――それがいつになるかは分からないが――その事を思い知らされる時が
絶対に来るだろうね。
まあ、それはどうでもいいとして一応、スフィーには連絡を取っておこうと思う。
やれやれと思いながら、新幹線のデッキの公衆電話の受話器を上げ、スフィーの携帯の
番号を押す。
しかし――やっぱり睡眠はしっかりとっていなければいけないのかと思うんだよね。
仙台のホテルで仮眠を取った後に始発の新幹線で盛岡に向かっているんだけど……眠い。
0252清水なつき@最後通告(5/6)
01/09/13 00:03ID:qmOHruiYスマヌ。遅れてしまったです。
0253名無しさんだよもん
01/09/13 00:04ID:qmOHruiYぐあっ。クッキーが残ってました。
0254名無しさんだよもん
01/09/13 00:06ID:qmOHruiY0255名無しさんだよもん
01/09/13 00:09ID:qmOHruiY本当に申し訳ないです。
0256名無しさんだよもん
01/09/13 00:10ID:qmOHruiY0257名無しさんだよもん
01/09/13 00:13ID:qmOHruiY5行目 自分できまる → 自分で決める
0258名無しさんだよもん
01/09/13 00:18ID:qmOHruiY7行目 とんでもない余計に → とんでもなく余計に
0259名無しさんだよもん
01/09/13 00:19ID:qmOHruiY0260名無しさんだよもん
01/09/13 00:20ID:qmOHruiY0261名無しさんだよもん
01/09/13 00:23ID:qmOHruiY0262名無しさんだよもん
01/09/13 19:23ID:CCHk95cg0264神尾晴子@かの地へ
01/09/14 00:07ID:fSYzHgzY新幹線から乗り換え、いくつかの電車を経由し、ようやくウチらはここに来ていた。
「……ここが?」
南は不安そうにあたりを見回す。
「いや、違う。あの街まで、直接電車は通ってへん。なつきの言うには、迎えが来てるってことやったけど……」
少し自信なさそうに、ウチは呟いた。日差しは暖かく、今この瞬間にも、世界が滅びに向かっているとは、到底思えなかった。
駅の外まで出ても、道行く人達は、ごく平凡な日常を謳歌していた。
「……本当に、迎えは来るの?」
「来たみたいだぞ」
敬介が指差す方向から、すごいスピードでミニバンが走ってきて、ウチらの前に止まった。
この陽気にも関わらず、タイヤにチェーンがかけられていた。ききっ、と耳障りな音が響く。
運転席から、男みたいに短く髪を刈った女が、顔を突き出した。
値踏みするように、順繰りにウチらを見ていく。
「…あんたたちか?神尾晴子、神尾観鈴、牧村南、橘敬介……」
「そうや。そう言うあんたは、なつきの連絡で来た、助っ人さんか?」
いぶかしげに問うウチに、彼女は大きく頷いた。
「ああ。まぁ、綾香が逝っちまったんだったら、わたしが行く意味はあまりないのだけれど。
それでも一応、葵と綾香の弔いくらいは、してやりたいからね」
独り言のように呟くと、彼女ははきはきと後ろを指し示した。仕草も行動も男っぽいが、さっぱりとしていて好感が持てる。
「…そうそう、わたしの名前は、坂下好恵。以後よろしく」
彼女が差し出した手は、ごつごつしていたが、確かな温もりを持っていた。
0265神尾晴子@かの地へ
01/09/14 00:14ID:fSYzHgzY「うわっ、安全運転で頼むよ」
「すまない。けど、自体は思った以上に切羽詰ってるみたいだから」
正面をしっかり見据え、彼女は落ち着いた声で話す。いくつもの車の間をすり抜け、しばらくしてから、脇道に入っていった。しばらく、誰も口をきかへん。
そこでウチは、今までずっと聞きたいと思っていたことを口にした。
「……神奈と九尾はどないしたんや?」
「……さあ。わたしは部外者だから、詳しい事はよく知らないわ」
そっけなく、けれど、少しすまなそうに彼女は言う。
「取り合えずわたし達は、一度病院に寄り、それから丘を目指す」
「病院ですか?」
いぶかしげに、南が聞き返す。
「そこを拠点として、スフィーとリアンが活動し、怪我人や民間人を避難させてるらしい。
あ、スフィーとリアンってのは、なつきとも縁のある魔法使いだ。
徹底合理主義者で、わたし達に協力してくれるはずだと、なつきが言っていた」
「……観鈴?どないしたんや、気分でも悪いんか?」
今までずっと静かだった観鈴だが、ここに来て、急に顔色が、真っ青になっていた。
「が、がお……」
「なんや、車酔いか?」
「ううん、そうじゃなくて……すごく冷たくて、空っぽの器が……」
「あれを見ろっ!!」
聞き帰そうとしたウチの声を遮って、敬介が叫んだ。
「!!!」
ぞっとした。正直、これほど怖いと思った事はなかった。
街が、すっぽり巨大な瘴気に覆われていた。周囲の街に被害こそ出ていないものの、半球状のドームの上からは、にじみ出て行く瘴気が、空を覆っている。
「入るわよ」
そっけない一言。聞き返す間もなく、次の瞬間、ウチらの乗る車は、猛吹雪の中に飛び込んでいた。
0266名無しさんだよもん
01/09/14 00:39ID:issb7sAY0267名無しさんだよもん
01/09/14 00:40ID:issb7sAY0268名無しさんだよもん
01/09/16 01:07ID:KYG7j9Ko0269名無しさんだよもん
01/09/16 23:08ID:7ZmBXazwところでコピペだよもんが、訂正版も張った方がいいだよもんか?
0270名無しさんだよもん
01/09/17 12:40ID:G5ymXIDQ0271川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:50ID:G5ymXIDQ「それって瘴気が街を覆っていたこと?」
「はい。考えても見てください。いつから戦いは始まっていたのか?
どうして戦いしか考えられなかったか? 天野さんはどうして真琴をあのときまで討たなかったか?」
わたしは草原に目を落とした。真琴ちゃんと美汐ちゃんは気持ちよさそうに眠っている。
「あの邪術士$瀬秋子さえ逆らえなかった要因がそこにあります」
繭ちゃんは断言した。わたしの背中に冷たいものが疾る。
「電波や音波? そんな生易しいものではありません。生まれたときから植え付けられていたものですよ。
人には欲望があります。生きる上で業≠ェ生まれます。何かを犠牲にしないと人は生きてはいけません。
生きとし生けるものすべてがそう≠ネのですから、無理ないことでしょうが……」
「繭ちゃんそれは……」
「――それは、今生きている奴の存在を、すべて否定することだぞ」
いつの間にやら藤田君が起き上がって繭ちゃんを窘めていた。
わたしはぐっと息を呑み込んでいた。
「分かっています――が、利用するに当ってこれ以上のものは望めません。人の弱みに付け込むんですよ
母親として九尾と邪術士は取り込まれて、ゴッドハンドと翼人も愛するもののために道を見失ってしまいました。
誰だってそうです。この街に訪れた人たちは、初めから瘴気に当てられて良いように操られていたんです。
邪悪な意思、人を洗脳することに長けたものの手によって……」
0272川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:51ID:G5ymXIDQ「七瀬さん、認めることも時には必要です」
繭ちゃんは何かを諦めたように言葉を零した。
「今の局面で冗談なんて……それこそ信じられないでしょう?」
「……俺の意思も別にあったってことか?」
「次元修正能力者ですか? それこそ思う壺なんですよ。キリスト? 救世主? あの人が残したものは
いったい何だったんでしょうね? でも二千年前のあの人を例に取るなら、貴方も決して枠外ではありません」
藤田くんが「やれやれ」と頭を掻いた。
「そうです。人を望んで先導するに長けたのは宗教ということです。こういう発言はあまりしたくはないですが、
一例だと思ってください。高野だって仏教の流れを汲んでいますから、傾向としては避けようのない事実なんですよ」
「……繭ちゃん」
彼女は何と戦っているのだろう。
わたしはもう悲痛な笑顔を浮かべる彼女を見ていられなかたった。
0273川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:52ID:G5ymXIDQ繭ちゃんは淡々と話していた。
「高野の存在とは何でしょう? どうして仙命樹や対妖兵器を開発してたんでしょう?
今、思うと……すべてに疑問が湧いてきて仕方ないです。夢でも見ていたんでしょうか?
不可視の力……魔法に方術、どうしてこんなものが存在していたのですか?」
「……繭ったら、どうしちゃったの?」
留美ちゃんが呟く。心ここになしという感じで繭ちゃんは喋り続けていたから。
「『FARGO』という宗教……いえ、結社がありました。『異界への旅』だとも訳せる名をもった結社です。
また『気が触れる』とも訳せるのが何とも……可笑しいですね、こんなの」
虚ろだったのだろうか。そこにいる少女は何を言いたいのだろう。
瞳に色がない。わたしには分からない。心を視ることはしたくなかったから。
「……FARGOは滅んだんじゃないの?」
ただ、問い掛けてみた。答えは……返らなかった。
「この街は大きなMINMESだったのかも知れませんね……」
繭ちゃんは語る。語り続けた。わたしにはもう何も言えなくなっていた。
「でも、これは実験ではなく実践でした。FARGO自体が大きな実験施設だったんだから当然ですよね。
……それに、滅んだ、ですか? 違いますよ、あれには用が無くなっただけです。
『MOON.』は残っていたんですよ。ほら、空を見てください」
繭ちゃんが空を指し示した。わたしたちもつられて空を見上げる。
頭上には月があった。大きな満月だった。
「まさか……大き過ぎる……」
誰かが呟く。もしかしたら、わたしだったのかも知れないし、他の誰かだったのかも知れない。
……でも、どちらにしろ、それは大きすぎた。地球を飲み込もうとしているように。
0274川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:53ID:G5ymXIDQ人が炎という現象を手に出してるわけではありません。星の記憶に炎をという事象を書き込んでいるだけなんです。
それが魔術とも呼ばれる力で現出されているだけなんですよ」
「……繭ちゃん、貴方はいったい」
「もう、永遠は近くなりすぎました。引き戻すことは出来ません。死人の歌が聞こえるのはその前触れですよ」
悲しみの声が聞こえる世界。永遠は記憶の世界。つまり永遠とは時空間を満たして……。
「……伏線は張ってきたつもりです。気づいてください。初めから異常な瘴気にこの街は侵されてきたことを。
妖弧の問題児、立川郁美にしたって……本当に、彼女はそう≠セったのでしょうか?
ゴッドハンドの美坂栞だって、望んで姉を生贄に捧げたのでしょうか? 柏木初音はどうでしょう?
狂気に狂った復讐者、深山雪見、負に侵され自分を見失った天野美汐、翼人$_奈だって例外ではありません。
もっと、たくさんの人達だって瘴気≠ノよって正気≠ナはいられなかったんじゃないですか?
誰も彼もが統一性の無い動きをする。動かされてきた? 誰に? もちろん――」
繭ちゃんはゆっくりとした動作でもう一度、手を上げた。
そこにあったのは血のように朱い巨大な満月だった。
「月です!」
――悲鳴さえ上げられない。
0275川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:53ID:G5ymXIDQ天変地異の前触れ? 世界の終わりでもよさそうだ。
負の象徴の赤≠ヘやはり不吉。何が起こるのかさえ分かり得ない。
ただ、『MOON.』はどこまでも限りなく赤い月光をもって、わたしたちを照らし出していた。
「……では、最後の問題です。私はどうしてこんなことを喋っているのか?」
「ちょっと、繭……なに言ってんの?」
留美ちゃんが焦ったように言う。上擦った声だった。
もちろん、わたしだって――いや、他の皆だって思わなかったわけではないだろう。
どうして繭ちゃんは、こんなにも楽しそうに笑っているのだろう?
答えを訊くことは躊躇われた。だって皆だって薄々気づいているだろうから。
裏切り者ですか?
繭ちゃんと話していたときのことが鮮明に思い出される。
霧の掛かっていた未来の光景が今は、こんなにもはっきりと瞼の裏に映っている。
(なんで、こんなときに……)
最悪の結末を予期してしまいわたしは子犬のように震えていた。
「人の話くらい少しは聞きなさいよ!」
留美ちゃんが乱暴に彼女の肩を掴もうとするが、無駄だった。
青い色した結界が彼女の周りに張られてある。見たことのあるそれは――
「永遠の防御幕ですよ。計算通りですね。ここには時空間に干渉できる能力者はいません」
「もう繭ったらいい加減にしなさいよ! いつもの癖だろうけど、今回は過ぎるわ!」
留美ちゃんはぐいっと藤田くんの襟元を引き寄せた。
「ほら、あんた次元能力者なんでしょう? あれ、破っちゃってよ!」
しかし、と――彼はお手上げのポーズをして見せた。
0276川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:55ID:G5ymXIDQやられたよ……ここまで巧妙になってるとはね、後はあいつの到着を待つしかないと思うぜ?」
「なによ! この役立たず!」
「……おいおい、随分な言われようだな」
繭ちゃんは笑っていた。天使のように悪魔のように囁く。
「――残念でした。もう時間切れです。問題の答えを言うことにしますね」
誰もがぎょっとして彼女の言動に注目する。わたしは逆に耳を塞いでしまった。
結末が見えていたから。彼女が言おうとしていることを知っていたから。
「単なる時間稼ぎだったんですよ」
答えを明かす。もう時間稼ぎする必要は無くなっているから。
「お待たせしました。この舞台――『雪の街』において、ラストヒロインの登場です」
森の陰からひとりの女の子が出てきた。
紅い髪のツインテール。人間ではない神に近い気をそれ≠ヘもっていた。
「言いましたよね? 私が高野に行った理由を?
紹介しましょう。M・I・C・H・I・R・U――みちる、私の最高傑作です」
言って、彼女はパンドラの箱を開けた。
0277川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:57ID:G5ymXIDQ憎悪。罪悪。狂気。悲哀。殺意。災厄。恐怖。飢餓。不安。絶望――人の世に治まりきらなかった負≠フ根源がそこにあった。
恨み。憎しみ。悲しみ。妬み。怒り。誰だって抱いたことのある当たり前の感情でしかなかった。
「ゴッドハンド、翼人と美汐の負、それに九尾、すべては私の計画通りでした」
赤い渦が空まで届く。黒い霧が辺りを覆い尽くしていく。
先ほどまでとは比べ物にならない負の力が一瞬にしてこの街を覆ってしまった。
そして、流れ出た災い≠ヘひとりの女の子に許に収束していく。
「――さて。もう一度、紹介しますね。翼神獣≠ンちるです」
紅い翼≠ノ闇の翼≠ノ白い翼≠ェ二対ずつ広がって12枚の翼が広がっている。
それに加えて九本の尻尾までがみちるにはあった。
「彼が求めていた野望(ゆめ)は破滅でした。パンドラの箱に最後に残っていたのは終焉ですよ」
「……ありゃあ、人間じゃあ勝てんわ」
藤田くんさえ絶望の瞳をしている。
切り抜ける術は無かった。そして繭ちゃんは今でも笑っている。
「川名さん、前に言っていた裏切りものって……」
何を言おうとしているのか、わたしには分かっていた。
――だとして何が出来るというのか。わたしには彼女を止めることは出来ないだろう。
絶望しかそこには残っていない。ただ、わたしは絶叫していた。
「――言わないで!」
「……あれ、私のことなんですよ」
何かが壊れたみたいに耳の中が反響していた。
こんな現実を見せ付けられても、わたしは信じたくないのかも知れない。
……そんなのは、愚かなだけだった。
「繭……嘘よ、そんなの……」
留美ちゃんがふらふらとした足取りで彼女に近寄っていく。
すぐそこには結界が張られてある。触れたならただでは済まないような結界だった。
しかし――
0278川名みさき@ちょっとした訂正版
01/09/17 13:58ID:G5ymXIDQ繭ちゃんは冷静に告げる。翼神獣≠ンちるは動き出す。
もう『勝つ』とか『負ける』とかの次元じゃない。
わたしは絶望≠オてしまっている。立ち向かおうとも思えなかった。
「……留美ちゃん」
目の前で留美ちゃんが殺されようとしていた。
(やめて……)
方術を練るつもりが霧散してしまう。ショックのあまり心が集中できない。
「もうやだよ! こんな世界を見るために、わたしの眼が治ったわけじゃないよ!」
絶望に光の矢が射られていた。
結界に刺さるように何か≠ェ通り過ぎていった。
永遠の結界は物理力では破壊できない。
しかし、それはこの上ない力でみちるに突き刺さっていた。
留美ちゃんを助けるために……。
「――これは、物の怪の槍!」
柳也さんが叫んだ。わたしは呆然とその光景を見ているだけだった。
「里村さん……」
「繭さん……悪戯はそこまでです」
天はどちらを選ぶのだろう。里村茜と椎名繭。どちらも引けは取っていなかった。
みちるは大して痛そうにしないで槍を引き抜いてしまう。
こんな化け物に勝つことが出来るのか?
「後編に続くよ!」
わたしはすっかり解説のお姉さん。
「ちょっと寂しいよ……」
――続く。
0279名無しさんだよもん
01/09/17 13:59ID:G5ymXIDQ0280名無しさんだよもん
01/09/17 14:00ID:G5ymXIDQ0281幕間@座談会
01/09/17 14:03ID:G5ymXIDQ「留美ちゃんはドラマとか見たことない?」
「もちろんあるわよ」
「CM明けに、ちょっと前からリピートするテレビ番組のセオリーなんだって」
「ああ、そうなんだ。あたしはてっきり駄目作者が自分の誤字脱字があまりに、
目に余るものだったから、こっそり書き直してるのかと思った」
「……どこかで誰かが業を煮やしてるのが見えるよ」
「別にいいんじゃない?」
「みゅー♪」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁああああああ――!」
「駄目だよ、繭ちゃん。留美ちゃんの髪の毛を引っ張ったりしたら」
「みゅ?」
「もうすぐCM明けるそうです」
「あ、茜ちゃん、丁度いいところに。留美ちゃんの舞台用かつら取って」
「……これでいいですか?」
「うん。これで可愛いショートだよ。繭ちゃんに引っ張られなくて済むね」
「ありがとう、みさきさん」
「……繭さん、これを早く食してください」
「性格反転茸だね」
「……説明科白ありがとうございます」
「みゅー。苦い……」
「……では、そろそろ舞台のほうに」
「はーい。後もうちょっとでゴールだね」
「この先どうなることやら」
「……張り切って行きましょう」
「瑞佳ちゃん、出番が無いって寂しがってたよ?」
「まあ、瑞佳の役柄も、随分奇抜だからしょうがないんじゃない?」
「……留美さん、それ以上はNGです」
「――あ、いけない。ここから先は本編ということで」
「……では。幕を上げます」
0282名無しさんだよもん
01/09/17 14:04ID:G5ymXIDQ0283名無しさんだよもん
01/09/17 14:19ID:G5ymXIDQ0284里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:21ID:G5ymXIDQ「別に褒めてもらおうなんて思っていませんよ?」
私の言葉を彼女は冷静に返した。迷いなんてものは初めから無かったのかも知れない。
「今ならまだ引き返せますよ?」
それでも私は言う。繭は皆にとっても私にとっても大切な人だったから。
信じたくない何て言わない。ただ希望に縋りたい。
「……面白い、冗談ですね」
彼女は呆れたように言葉を吐き出していた。
「……残念です」
答えは決まっていたのだろう。逡巡する様子も見られなかった。
「――来なさい!」
私の声に呼応して『物の怪の槍』が返って来る。
「……物の怪の槍ですか?」
眉をぴくりと動かしてちょっとだけ考え込むように顎に手をやっていた。
「無理……ではなく、無謀ですよ。通用しません」
「……やってみないと分かりません」
「計算しました。不可能ですよ」
「この世に絶対は無い、とは貴女の弁ですよ?」
「ウサギがライオンに勝てるというのなら、不可能という言葉は取り消してもいいです」
「――勝てます!」
即答すると彼女は肩を竦めてみせた。
0285里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:22ID:G5ymXIDQ「ち、ちょっと茜、どうして貴女……繭に矛先なんて向けてるのよ?」
気勢が削がれてしまう問いだった。
「……彼女は裏切りました」
「そんなの……」
留美さんが何か言おうとするのを私は次の言葉で押し切った。
「私たち……ではありません。世界を裏切ったんです」
槍をみちるに突き出す。
「あれは絶望≠サのものですよ。永遠の解釈とは自由です。有り得ない事象こそが永遠の本質なのですから」
「えーと……つまり、どういうことなの?」
「繭さんにとって永遠とは終焉だった。求めたなら永遠はそれに答えるでしょう」
永遠は望まれた通りの世界を形成しようとする。
彼女は今もっとも永遠に近い存在だった。世界は彼女の思いのまま紡がれてしまう。
「ただ……私たちがそれを阻止します」
本当の永遠なんて無かった。
求めてしまった人が永遠を形創ってしまうから。
0286里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:23ID:G5ymXIDQ本当に詰まらなそうに彼女は髪を掻き上げていた。
仕草に意味はない。挑発でもない。彼女の自信はそんなことで揺らいだりはしない。
「留美さん、繭さんの凶行を止めたいというなら、私たちに力を貸してください」
私は彼女を無視して留美さんに話し掛けていた。
「で、でも……仲間同士なんだよ、それが……」
「七瀬さんのそういうところが気に喰わなかったので早く死んで欲しかったんですよ」
彼女が横槍を入れると留美さんは辛そうに唇を噛んでいた。
留美さんは現実を受け止めている。が、認めたくは無いのだろう。
「ほら、瘴気で狂うんだったら、繭もきっと、そうなっているだけなんじゃない? ね?」
誰に言うのか。誰に向かっているのか留美さんは必死に喋り出す。
「きっと、そうよ。そうに決まってるわ。あ、もしかしたら、繭のことだからこれも策略だとか?」
「留美ちゃん……」
見ていられないのかみさきさんは留美さんから顔を背けていた。
「……あれ? どうしてみんな黙ってるの? そうだよ、きっと。そうに決まってるって」
「……どこから、そういう根拠がわいてくるんですか?」
冷たい声を投げ付けたのは彼女に他ならない。ぴたりと留美さんの動きが止まった。
「言っておきますが、私は正気です……いえ、この計画を実行したのは何時からだったか知らないわけでもないでしょう?」
決定的だった。留美ちゃんは自らを抱き締めるように地面に膝をつけていた。
0287里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:25ID:G5ymXIDQ留美さんは『どうして』を幾度となく言葉して、そして、涙を零していた。
「……七瀬さん」
彼女は親友だった人の名を呼んで、
「……ご苦労様でした。皆さんもそうですよ。私のためにここまでお膳立てしてくれて礼を言います」
おもしろおかしく苦笑していた。
「繭さん、そこまで……貴女は何を求めているんです?」
「決まっているでしょう。永遠ですよ。この際だから言っておきましょうか」
含み笑いを浮かべて、彼女は言った。
「邪術士に近寄らなかったのは邪眼で心を読まれないためですよ。心眼もまたしかりです。
川名さんの性格からいって友達の心を読むことはしないでしょうから……感謝していますよ。
清水さんに付いては言うこともないですね。彼女も狡猾ですから、除者にしておかないと、
いつかはこのプランに疑問を持つでしょうし、そうだと、ここまでは来れませんでしたから」
「……言いたいことは、それだけですか?」
「いえ、まだまだ在りますよ。しかし、里村さんも暇みたいですから、みちると遊んで上げてください」
彼女の意に添って、みちるは動き出していた。
0288里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:25ID:G5ymXIDQ刹那よりも瞬間にみちるは私の前までやって来ていた。
みちるが腕を振り上げる。単なる拳の一振りだったが否応も無いほど強烈だった。
躱すことは出来た。ただ突き抜けた衝撃が一線して街を貫いた。
地割れをも起こしている。あの衝撃波だけで世界を壊すことは不可能ではなかった。
「みちるには九尾の才能があるんです。彼女こそ沢渡真琴の後継者ですよ。
それに付け加えて翼人搭載型ユニットでもあります。天野さんのDNAもあって負を力に変換するのも容易です。
そう、負の根源であったゴッドハンドの力さえも、彼女は持っているんですよ」
「……翼人ユニットの開発は成功してたということですか?」
繭さんに悪態でも付かないとやっていられなかった。
「<TAPE−1>観鈴の容量を100としたなら<HMX−14>ミライは10です」
「……で、みちるの容量はどれくらいなんです?」
「<INFINITY>無限ですよ」
「……それも、永遠の力ということですか?」
「私としては<ETERNAL>という単語は『永遠』には相応しくないんですけどね」
心の中で舌打ちしてしまう。
「清水さんは、邪術士や九尾、翼人、それにゴッドハンドのいずれかが消滅すると世界のバランスに、
著しい損傷が出るみたいなことを言っていましたが、これで文句は出ないだろうと思います」
「……馬鹿馬鹿しいです」
話してる間にもみちるの凄まじい攻撃に私の身は晒されていた。
しかし、みちるは力があっても、動き方は単調だった。まだ私にも戦えないわけではない。
0289里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:26ID:G5ymXIDQなかなか難しいところだったんですけど……まあ、どっちにしろ正気を取り戻したみたいですし、
本当に今更って感じですかね? 里村さんはどう思います?」
「……後悔しますよ?」
私の言葉に彼女はにっこりと微笑んでいた。
「みちるは、まだ生まれたての赤ん坊と同じです。戦い方を知らないんでしょうね」
槍に呼びかける。力。もっと強い力を私にください。
「九頭龍閃!」
刃先が陽炎のようにぶれていた。ゆらめく。槍が九つの龍のように打ち出されていた。
頭。左手。右手。左足。右足。胸。腹。首。心臓――
「――やめて!」
どこからかの叫び声に私の腕は迷いを覚えてしまった。
最後に心臓を貫こうとした刃先が止まって、また動き出そうとしたときに、みちるが手を出していた。
「――――!?」
あのみちるの細い腕が私のお腹を突き出ていた。
0290里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:28ID:G5ymXIDQ視界が暗闇に覆われようとしていた。
どこかで見える。かすかに瞳に映るのは遠野美凪さんだった。
瞳から流れる雫で一杯に濡れた表情だった。
(ああ、そういうことでしたか……)
どうしてか私は自分の動きが止まったことに納得してしまった。
あそこで止めなかったら、みちるを殺れたかもしれない。
でも、そうしたなら、自分も狂気の虜になっていたのだろう。
今、私までMOONに侵されるわけにはいかない。
(傷は浅くは無いですね……)
どこかで冷静に打算していた。次の行動を計算高く考える。
腹部に受けた衝撃は生易しいものではなかった。
(……槍の力で回復は見込めますが、時間はどれくらい掛かるんでしょう……)
物の怪の槍は攻守に優れた法具だった。自動的に回復はなされる。
少年の意志によって戦わされ続けるのだ。
槍の伝承者としての役目を終えるまで繰り返される。
(問題は、それまでどうしのぐか、ですか……)
この期をみちるは見逃さないだろう。私には防ぐ手立てもない。
(秋子さんが来てくれたなら……)
物語というのは、そんなにも都合よく出来てはいない。
(好機とは……待つことなんでしょう……)
そこまで思考して私の意識は遠くになっていった。
瞼は閉じられた。
0291里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:29ID:G5ymXIDQ獣が慟哭していた。
「大丈夫です。もう大丈夫ですから……」
人も涙していた。
「もう、何も怖いものなんて、ないですから……」
「みちるは、美凪と一緒に居たいよ……」
獣と人のシルエットが重なり、抱き締めあった。
「……みちるは、私の大切な……親友ですから……妹ですから……」
「……訂正しておきます。彼女の名前は翼神獣≠ンちるです」
「繭さん……」
引き離す言葉は惨酷だった。
「みちるは、彼を裏切るつもりなんですか?」
「……そうじゃない。だけど――」
「……選びなさい。決断しなさい。貴女には力があります」
「みちるに、そんなことさせません!」
強い意思の篭もった声が少女を貫いていった。
0292里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 14:29ID:G5ymXIDQ「嫌です! もう絶対にみちるから離れないって決めたんです!」
「私も……彼のために、希望を見せるために……みちるは、必要なんです」
「繭ちゃん、それって……」
盲目の才女≠セった人の困惑した声が流れていた。
「……そう、何か勘違いがあるようですね。私は貴方達を裏切りました。そのことに偽りはありません。
でも、しかしです……彼を裏切ったつもりはありません。彼に希望を見せたかったから……」
裏切りをした者の声が弱々しく響いた。
「私にとって月の意志はどうでもいいことなんです。MOONを利用させてはもらいましたが、
本質的には違うんですよ。みちるの開発は共同でした。私と……彼とのです」
「だったら、みちるっていう存在は……どうだっていうんだ?」
次元能力者の声は強い響きを持って木霊した。
「希望ですよ。私は彼のために何かを惜しむつもりは無いんです。たとえ彼が破滅を望んだとしても」
「じゃあ、あいつって……折原って……」
元ツインテールの震えた声に私も悲しくなってしまった。
0293里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:14ID:G5ymXIDQ「勝手です。みちるを巻き添えにしないでください!」
「……みちるは彼の所有物なんですよ。私にとっても大切な兵器です」
「最低です!」
「甘んじてその言葉を受け入れましょう」
「パンドラの箱も、負の回収も、折原のことも、全部嘘だったの……?」
「偽りは言いません。ただ歯車が狂ってしまっただけなんです。どこからなんて言いません。
恨んでください存分に。長森さんのことは……いえ、言っても仕方ないでしょう」
少女は瞑目して、ただ告げていた。
「……みちる、貴女は彼の所有物です。動きなさい。滅亡に向かって」
「ぐぅ……」
「――させません! みちるは私の大切な人なんです」
「……忠告しておきます。みちるには触れない方がいいですよ。彼女は負≠サのものなんですから」
みちるに触れていた女性の手が焼け爛れたように赤く腫れ上がっていた。
「あっ……」
「みちるは、すでにみちるではない、ということですよ。分かっていただけましたか?」
「――いやです。離しません!」
彼女の身体は焼け爛れて腐って落ちていく。
0294里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:15ID:G5ymXIDQ人形遣いの男性が止めに入るが彼女は依然として離そうとはしなかった。
「ずっと一緒です」
彼女は笑っていた。そのことがみちるにとっては悔しかった。後悔――
「……彼女の声で眠っていたみちるの意識が漏れたのは計算外でした。分かっていますね、みちる?
もう一度、目を閉じなさい。眠りに入りなさい。さもないと……彼女の魂も貴女に喰われてしまいますよ?」
「みちる……私はいいの。だから、止めて、こんなことは、もう……」
「……決断しなさい」
翼を持った獣は慟哭した。天にまで届くほどの雄叫びだった。
ただ、獣は涙を流さない。
結局のところ、みちるの心は彼女の死に耐えられなかった。
みちるの意識は途絶えてしまった。
女性は動かなくなっていた。
誰も救われなかった。
0295里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:16ID:G5ymXIDQもう感情の欠片もない声を少女は出していた。
「たくさん死んだんですよ? 死ななくて済んだはずの命すらたくさんあります」
少女は続ける。とめるものも居なかった。
「みさおさんは病気で死にました。私の母もそうだったみたいです。別に感慨に耽っているわけではありません。
しかし、生きたり死んだり……便利ですよね、貴女達って。実際のところどうなんですか?
藤田さん、恋人が死んだんでしょう? それで別の女性と宜しくやっているなんて……正気のつもりですか?
……そうですね、そのことで責めることはしないでおきましょう。ただ……生きている、生きかえる。
次元能力者だから? 馬鹿げてますよね? 神は初めから優劣を決めて人間を創造されたんですか?
死ねない? そんなのは違います。ただ他の人たちの殺し方が下手なだけだったんですよ。
私なら上手く殺してあげますよ。出来ないことなんてないんですよ?
転生術とかも馬鹿げてます。世代を越えてなんて……次の世の子孫を信じてないんですか?
いつまで生きているつもりなんです? 死んだんですよ、一回死ねば普通は終わりなんですよ?
分かっていますか? 川名さんも親友の魂の欠片を使ってまで生き延びて、絶望してる。
これでは報われないとは思いませんか? 私達の命とは、ただ……それだけのものだとは思いませんか?
仙命樹とか使って生き残る方が、まだ人間らしさを持っているとは思いません?
……あがくことが人間の生き様です。尊い生命に……私は誇りを持っていましたが、もう駄目みたいです。
みさおさんのことで、彼がどれほど悲しい思いをしたか……本当に分からないわけじゃないでしょう?
どんなことをしたって、死んだものを生き返らすことなんて出来ないんです、真実は。
生き返るから殺したっていいというのは、どうなんです? 異常だとは思いませんか?
邪術士さえも……たった、ひとりの子供の命さえどうにも出来ませんでした……」
言いたいことをすべて言い切ったのか、少女は嘆息する。
「でも……だからこそ、永遠とか奇跡とか、夢に見てしまうんでしょうね……」
0296里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:17ID:G5ymXIDQ静寂に支配されていた。
今ここで言葉を発するのは野暮だと思えたのだろうか。
「……永遠は本当にありました」
悲しそうに告げる。
「真の永遠なんて考えるだけ無駄なんですよ。生命はいつか終わります。永遠なんてない。
……終わらせましょう。すべてを無に還しましょう。永遠はそこ≠ノ生まれます」
永遠に生き長らえることは出来ない。
でも、永遠に終わらすことはできるかも知れない。
「……彼の望んだこととは、そんな他愛もないことだったんです」
夢が終わる日。世界も終わる。絶望はいつか希望に変わる。悲しみは生まれない。
「……人の命なんて、どうこう出来るものではないんですから……」
話はそれで終わっていたのだろう。沈黙が続いていた。
少女はそっと目を伏せていた。黙祷だったのかも知れなかったが。
「そんな在りがちな展開なんて、あたしは許さないわよ!」
場違いとも思える大声で乱入してきたのは長岡さんと相沢さんだった。
0297里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:18ID:G5ymXIDQ少女は眉ひとつ動かさないし、もちろん会釈もしなかった。
「よーゆうしゃくしゃくって感じねー」
「……そうですか? 貴女ほどではないと思いますが?」
「あったりまえじゃない。ここにはヒロがいるんでしょう。それにあたしにだって切り札のひとつくらいはあるわ」
「これ以上の罪悪を世界に持ち込むなんて、貴女も正気では無くなってきているようですね?」
「……あ、知ってるんだ。別に志保ちゃんは構わないけど」
「ネットワークは誰の心にも繋がっているのでしょう? だったら、そういうことですよ」
ゆっくりと少女は言葉を紡いでいた。別に虚勢を張っているようには思えなかった。
「永遠の力……永遠にアクセスする力というのは、上位の管理者にとっては、拒否することも出来るんです」
「……何を言いたいわけ?」
「アクセス制限です。上位のものにとってはアクセス解析だって付けれます」
「あんたがそうだって言いたいわけ?」
「……違います。応用ですよ。逆に虚偽の情報だって流せるんです」
少女は語る。私はまだ動けない。
0298里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:18ID:G5ymXIDQ取り出した情報とは、本当に正しかったんでしょうか? どう思いますか、長岡さんは?
パンドラの箱の対になるものは、本当にあったんでしょうか? 偽りの情報に惑わされてはいませんか?
貴女は本当に長岡志保という人物なんでしょうか? そう思い込んでるだけじゃないですか?」
「あたしはあたしよ! ばっかじゃない! 決まってるじゃないのよ!」
「……まあ、私が設置したポイントではないので詳しくは知りませんけど……」
冷静に少女は受け答えしている。どこまでも冷たく。
「あまり永遠を多用しない方がいいですよ。これは警告です。理解してください」
ただ、少女は時折、苦しそうにしていた。
表情にそれは出なかった。
「ヒロ、あんたもちょっとはフォローしなさいよ!」
「…………」
しかし次元能力者は動かなかった。いや動けないのだろう。
「……彼は分かっているんですよ。少しでも動いたらみちるもまた行動を開始します」
「あ、そう……でもね、こっちにだって、まだ次元能力者が居るのよ」
彼女は相沢祐一を指差していた。
0299里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:34ID:G5ymXIDQ少女に迷いは見られない。私は早く動くようにならないといけなかった。
悪寒が走る。悪い予感を拭いきれなかった。
「月に魅せられる。MOONは人の心を狂わせてしまう。<狂月>ルナティック」
少女はなおも言い募っていた。虚ろな瞳が彼女に向けられる。
「貴女も月に犯されているんですよ。いつからなんて言いませんよ。彼と一緒に居るんですから」
「馬鹿にしないでくれる? あたしはあたしの意思でここまで来たのよ!」
「……この日をずっと待っていました」
もう少女の目には彼女の姿の欠片も映っていなかった。
見つめるのは、ただひとりの少年だった。
「貴方に希望を見せることが出来ましたか? 貴方の望んだ通り永遠を手に入れられましたか?」
呟く。うわ言。虚ろ。酔ったように少女は言う。
「月は人々を狂わせます。悲しい思い出に押しつぶされた月の記憶。担うものMOON」
誰に向かって少女は言葉を交わしていたのだろう。
少年の名前は相沢祐一。少女の想い人は折原浩平だった。
「ああ、見せてもらったよ」
しかし少年は少女に呼応していた。
「……はい」
嬉しそうに少女は会釈した。
0300里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:35ID:G5ymXIDQ少年は悠然と歩き出していた。声を掛けられた女性は絶句している。
「先輩は眼が見えるようになったんだ。嬉しいよ。
茜は物騒なものを持つようになったんだな。傘の方がいいぜ」
「…………」
誰もが言葉に出来ない驚きを持っていた。
彼は彼ではない。そのはずなのに無意識に彼を彼だと認識していた。
「……折原なの?」
留美さんが呆然と呟く。彼は答えた。
「ああ、そうだよ。詳しいことは繭に聞いてくれ」
彼の……浩平の言葉を受け取って、少女は口を開いた。
「長森さんの転生術。永遠に向かった魂の片割れ。相応しい転生の器。次元矯正能力をもった少年。
彼の魂はずっと眠り続けていました。相沢祐一という器の中で」
「長森の奴も余計なことしてくれたもんだけど、次元矯正能力を手に入れるのも悪くはない」
浩平はこちらに向かって笑いかけていた。
「じゃあ、あのときの続きといこうか。長森は居ないみたいだけど、きっとどうにでもなるよ」
視線をみちるに走らせる。
「世界の終わりだ。永遠をこの地に降臨させよう」
やっと私は理解した。
折原浩平。彼は誰よりも早く『MOON.』に侵されていたのだ。
0301里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:36ID:G5ymXIDQ何のために私たちはここまで来たのだろうかと思ってしまう。
みちると対峙したときの止めれるかどうか≠ヘ力的なものだったが今は違う。
精神的に彼を止めれるかどうかが不安だった。
世界の滅亡を彼は望んでいるから。どうしようもないと言えばそうなのだろう。
もし私が世界に絶望していたのなら彼を容易に受け入れてしまう。
しかし、今はどうなのだろうか。
護りたいものがあった。今まで培ってきた思い出もあった。
浩平との思い出も、もちろんあった。
繭さんは選んでいたのだろう。浩平と共に世界を終わらせることを望んでいた。
私には、どうしても彼の用意した選択肢は選れべない。
繭さんを見る。笑っている。とても幸せそうに彼の側に寄り添っている。
彼女が求めた永遠とはそれ≠セったのかも知れない。
浩平を裏切ることは出来なかったが、世界を裏切ることだって同じように出来ない。
彼が私を殺そうとした時、受け止めてしまうかも知れない。
いや間違いなく甘受するだろう。
どちらも選べないのなら第三の選択肢を選ぶしかなかった。
大切な人のために死ぬ――
どうやら私の答えは出てしまったみたいだ。
0302里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:38ID:G5ymXIDQ顔色を窺って見ると迷っているのがよく分かる。
そして、どちらも選べないでいる。
私と同じ答えになるのは時間の問題なのかも知れない。
槍が鳴っている。
あれは倒すべき敵だと訴えかけてきている。
私は槍を手放した。地面に転がる。
出来ようもない。彼を討つことなんて出来はしない。
それに世界も裏切れない。たくさんの幸せが生まれる場所だったから。
繭さんは選べた。私は羨ましいのかも知れない。
でも、と思ってしまう。
彼女にとって私たちはどういう存在だったのだろう。
私たちには選べないことを、彼女は初めから知っていた。
繭さんなら充分に有り得るが、そうじゃないような気もしてしまう。
多分だけど、彼女は私たちと居るときに、スズメの涙ほどの友情も感じていなかったのだろう。
名雪さんを助けたのも、あの時点で邪術士を敵に回したくは無かったのだろう。
美汐と真琴を救ったのも、それが尤も効率の良い負を回収できる方法だったのだろう。
私たちに笑って見せたのも、いつか訪れるこの時のための演技だったのだろう。
……なんて、悲しい。
彼女は初めから選んでいたのだ。こうなっても良かったのだ。
だけど、恨むことなんて、まさか出来もしない。
彼女は選べた、それだけだった。
私は覚悟を決めた。
――鬱だ死のう。
0303里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:38ID:G5ymXIDQ繭さんは不機嫌とも取れる様相で彼に進言していた。
「皆さんは、この崇高なる目的の達成に非協力的だと思っていたんですよ」
「この間の時は、協力してくれたのに……寂しいことだな」
「いえ、そのための翼神獣≠ンちるなんです。彼女らが居なくてもみちるがいますから」
「それに、繭もいるしな」
「……はい、嬉しいです」
照れたように頬を紅くさせて繭さんは眼を閉じた。
彼も頷いて彼女の唇に口付けを交わした。
静寂が流れる。耐えがたい様子だったのか留美さんは眼を背けていた。
「ただ、みちるは……あれだけでは、未完成なんだよ」
「……え?」
繭さんが目を丸くさせる。
こんな顔をする彼女を見るのは初めてのことだった。
「やはり、邪術士の負も必要だったんでしょうか? でも、あれは――」
「いや、そういうんじゃなくって……」
焦ったように声を高くさせる彼女に彼は頭を掻いていた。
良く知った浩平の仕草だった。
「あのままだと、みちるは力を持て余してしまうだけなんだ。茜との戦いで分かっただろう?」
「今は、そうですけど……みちるは戦えば戦うほど、強くなります」
「ああ、分かっているよ。でも、それだと……時間が掛かってしまうんだ」
浩平は彼女の頬に手をやって優しく擦っていた。
「繭は俺のために何でも出来るか?」
「はい、出来ます」
即答だった。彼女の瞳は彼にしか向いていない。
私たちを裏切ることも厭わない。
0304里村茜@ルナティックパンドラ・後編
01/09/17 15:39ID:G5ymXIDQ「……え?」
悲劇というのはどういうものだろう。
望んだことを叶えられるのは至福の喜びなのだと私は思っていた。
「繭さん……?」
みちるは彼の思うがままに動かすことが出来たのだ。
紅いツインテールのほっそりした腕が、彼女の心臓をわしづかみにしていた。
「みちるの完成に必要なのは邪術士の能力なんかじゃない。繭の知識と知能こそが相応しい」
ツインテールの封印が解かれた。みちるの長い髪が風になびいていた。
悲劇がどういうものかを私は初めて知った。
繭さんは笑っているのだ。彼のために命を差し出して、裏切られても、笑顔でいれてるのだ。
彼女は知らない。悲劇の中にいることを知らない。何よりそれが悲劇だった。
これも彼女が言うところの計算通りだとでも?
「……狂ってる」
誰かの呟く声が風にさらわれていった。
ただ、誰もが見ていた。そう、彼女が死に逝くところを見ていて止められなかった。
私たちの大切な人によって、椎名繭はその生涯を閉じた。
……殺されたのだ。
「――繭っ!」
留美さんの絶叫がものみの丘に響き渡った。
月の狂気は止まらない。
死者は還らない。
「…………」
――槍が鳴っている。
0305名無しさんだよもん
01/09/17 15:57ID:G5ymXIDQ0306名無しさんだよもん
01/09/17 15:58ID:G5ymXIDQ0307七瀬留美@諸相の悪夢
01/09/17 15:59ID:G5ymXIDQこらえきれない、といったふうに笑ったのは、栗色をした、長い髪の女だった。
「あっはっはっは、ばっかじゃないの!!」
「………」
繭の身体が、とさ、と信じられないくらい軽い音をたてて、地面に倒れ伏した。
「ほんっと、馬鹿の極致ね!!愛する人の為に、自分の命を投げ出す!?
あーあー、頭イイ人間って、これだから!」
「長岡さんっ!!!!」
悲鳴のように声を荒げたのは、みさきだった。
だが、それでも志保の笑いは止まらない。腹を押さえ、いつまでも笑いつづける。
「おい、志保っ………!?」
堪りかね、藤田が志保に歩み寄ろうとして、動きが止まった。
志保は、泣いていた。
「アはは……本当、馬鹿よね。椎名繭……知ってたくせに」
「………え?」
志保の瞳から流れ出した涙が、頬を濡らす。みさきも、藤田も、そして茜も、驚いたように志保を見た。
「薄々気付いてたのよ、この馬鹿は。みちるに何が足りないのか。それが、知識だってことが」
ゆっくりと、志保の瞳が、佇む“みちる”の方に向かう。
「そうでしょ……?『繭』」
みちるの瞳は、明らかに、今までの何の感情もない人形のそれでは、なくなっていた。
くすり、と笑みが浮かぶ。それは、いままで幾度となく繭が見せてきた、優しげなあの笑みだった。
0308七瀬留美@諸相の悪夢
01/09/17 16:00ID:G5ymXIDQ「ええ、そうです、七瀬さん」
“みちる”は、親しげに笑みを浮かべた。あたしは思わず、泣き笑いの表情になってしまう。
その姿が、一瞬で掻き消えた。
「あぶねぇっ!!」
あたしは、いきなり凄まじい力で、横に跳ね飛ばされる。そして、ほんの少し前まで、あたしの身体があった空間を、小さな手が貫いていた。
「外したか……」
「舐めんなよ、ボケ野郎……」
押し殺した声で、藤田は浩平を睨みつけた。あたしを突き飛ばした時に受けたのだろう、赤く滲む、わき腹を押さえていた。
「女を利用して、殺して……世界を消し去るだぁ?」
ぎりぎり、と食い縛った歯の奥から、きしるような音が響く。
「もう……もうだれも、あいつの…綾香の二の舞にはさせねぇっ…!!」
あたしは、そんな彼の顔を、呆然と見上げていた。さっきまでのふざけた所のない、驚くほど張り詰めた顔だった。
その横に、志保が寄り添い、身体を起こすのを手伝う。そこで初めて、彼は慌てたような顔になった。
「………あ、志保、えっとだな……」
「よく言ったわ、ヒロ。あんたが言わなきゃ、あたしが言ってたわよ」
にやり、と笑って、“みちる”の前に立ちはだかった。浩之も、ばつの悪そうな顔をしながら、その横に立つ。
「なんで……?何で立てるの?」
あたしはへたり込んだまま、二人を見上げるほかはなかった。
「勝てないわよ……九尾と、翼人と、負の力を秘めてるのよ……」
「そうですよ、長岡さん、藤田さん。あなた達も、抵抗しないで下さい」
藤田は、けっ、と舌打ちした。
0309七瀬留美@諸相の悪夢
01/09/17 16:02ID:G5ymXIDQ「物まね……!?」
「椎名繭の記憶と、知能……それを受け継いだ事で作り出した、擬似人格……ってとこです。
お気に召しませんでしたか?」
繭と同じしぐさ、同じしゃべり方で、“みちる”が嘲う。
「まぁいいです。結局、これで全てが終わります」
「ああ。これで、幕にしよう。全ての悲劇に終焉を。全ての絶望に終末を。そして…希望を」
過去の、あたしの記憶の中にある、折原浩平の、あの優しい笑みだった。
「先輩、もう何の心配も要らないよ。真の平和が訪れる」
川名みさき。折原浩平は、親しげに、彼女に語りかける。
「茜、辛かっただろう?もう背負う必要はない。苦しみから開放されるんだ」
里村茜。折原浩平は、愉しげに、彼女に語りかける。
「……留美、さあ、こっちに来るんだ。一緒にいこう。もう一度……」
七瀬留美……あたしに、折原浩平は、優しげに語り掛けてくる………
誰もが動けなかった。“みちる”が、大きく翼を広げた。
………終りにしよう。全てを。今、ここで。
0310藤田浩之@諸相の悪夢
01/09/17 16:03ID:G5ymXIDQいきなり響いたとんでもない絶叫に、『折原浩平』に魅入られていた3人は、はっと顔を上げた。
「何であんたのいいなりになって、死ななきゃいけないわけ?
あたしはねぇ、まだまだま〜だ、やりたい事だってたくさんあんのよ!!
世界的ジャーナリストになって、ヒロと一緒になって、赤いフェラーリ買って、長い残り人生、十分満喫したいのよ!!」
「………」
志保の、立て板に水、といったしゃべり口調に、折原浩平は、沈黙した。
俺は思わず、人の悪い笑みを浮かべてしまった。
「志保の言うとおりだ。俺らがここに居る限り、お前の好きなようにはさせねぇよ。
椎名繭、里村茜、七瀬留美、川名みさき………なるほど、これだけ深い絆と因縁を持った奴らを
勢ぞろいさせれば、全部お前の思い通りに行くかもしれなかったがな……」
「イレギュラー、か………」
独り言のように、折原は呟いた。そう、俺たちはイレギュラーだ。
他の奴らは、全て奴の“永遠の運命”という名の糸に絡み取られちまってる。
だが、俺たちだけは、あまりにも因縁が浅い。ほとんど無関係といっていい。
「だが、その為の“みちる”だ。君達だけで、どうやってみちると戦うつもりだ?」
“みちる”も、小さく微笑む。
「本当に、“もう一つのパンドラの箱”なんてものが、存在すると思ってるのですか?」
「ふふふ……わかってないわねぇ」
にやり、と志保はあの自慢げな、小憎らしい笑みを浮かべた。
0311藤田浩之@諸相の悪夢
01/09/17 16:26ID:G5ymXIDQ情報に関して言えば、このあたしの方が、百倍は慣れ親しんでるのよ。優秀な管理者が、優秀なアジテーターとは限らない。
…『志保ちゃん情報』よ。 教えてあげるわ。これがあたしの、“パンドラの箱”」
志保は、ゆっくりと腕を伸ばした。その手首に、糸のようなものが結びついている。
糸?いや違う、それは、髪の毛だ。紺色をした、絹糸を思わせる、透き通った糸。
「負を食らう“パンドラの箱”……それと対になるのは、“正を生み出す”ものよ」
志保の手首に結ばれた髪から、光をまとい、現れたのは……
「み………水瀬秋子!?」
「残念ながら、本体ではありませんが」
おっとりと、その女性は笑う。
最強の邪術士、水瀬秋子……それより分離した、彼女の影だった。
0312藤田浩之@諸相の悪夢
01/09/17 16:27ID:G5ymXIDQ「私は、ただの“引き金”です。そう、ひとかけらの希望を、世に解き放つ為の」
伝説は詠う。
パンドラの箱の底には、ひとかけらの希望が沈んでいた。
パンドラの女は、箱を開く事でこの世に罪悪を解き放ってしまう。だが、人類には、ひとかけらの希望が残されていた。
「そう。愚かなパンドラ……あたしが、その役を担ってあげる」
志保は、小さく笑みを浮かべた。
「気付かないかしら?この、ものみの丘を取り巻く、真琴の『結界』……いまだ、その効力を失ってない事に」
「!?」
ギョッと……明かに驚いたように、“みちる”が周囲を見回す。それとは対照的に、折原は、黙ったままだ。
「………やれやれ、まさか、ここまで周到に計画が練られていたとは。さすが、臥竜、といった所か」
「お、お母様!?」
負を吸い取られ、眠っていたはずの、沢渡真琴は、少しよろけながらも、しっかりと立ち上がった。
「何故……!?負は全て、パンドラの箱に吸い取られたはずなのに…」
繭の記憶を受け継ぐ“みちる”が、大きく目を見開いた。
「くくく……数千年を生きたこの私から、一本取った事は誉めてやる。だが、忘れたのか?
この私の、九本目の尾……それが、何であるか?」
「“真実の尾”……九尾の本質にして、真琴の分身………まさか」
立ち上がった沢渡真琴の腰の後ろから、九本の尾が、ゆらゆらと揺らめいていた。
0313藤田浩之@諸相の悪夢
01/09/17 16:28ID:G5ymXIDQ美汐より与えられた、人のぬくもり。それを、知ったのだ」
「皮肉なもんだな。美汐は負を、真琴は正を、それぞれ転生によって、積もらせていったのか」
苦く呟いた俺に反論するように、志保が声を上げる。
「多分、『真琴』の中には、相沢祐一との、触れ合った思い出が詰まってるはずよ。
そして……パンドラの箱は、“正”を吸い取るようにはできていない」
「そうだ。そして……『真琴』が、言っておる」
がくん、と九尾の首が倒れる。だが、すぐに顔を上げた時、そこには、高貴なる九尾の面影はなかった。
幼く、純粋で、一途に相手を思いやる気持ち。もう一人の沢渡真琴。
「あぅーっ、祐一、しっかりしなさいよぉ!!」
真琴の瞳から、涙がこぼれた。
「そんな自殺志願者に、のっとられてるんじゃないわよぉ!……また、また……」
握り締めた、小さな拳が震える。真琴は、身体中を使って、折原浩平に呼びかけた。
「私の所に、戻ってきてよ、祐一ぃーーーっ!!」
0314藤田浩之@諸相の悪夢
01/09/17 16:30ID:G5ymXIDQ覚醒した『真琴』も、相沢祐一を取り戻す為、浩平を睨みつけている。
「……浩平の素体に、相沢祐一を使ったのは、失敗だったわね」
志保は、油断なく二人に目を配りながら、口を開いた。
「もっとも、あたしも薄々知ってて連れて来たんだけどね。“鍵”は開くわ。絆の契りの元に、祈りは空に広がる。
ただ一つの願いを込めて。来るわよ、相沢祐一に連なる者達は。
あたし達は、戦ってやる。そして、絶対生き残ってやるわよ」
強い意志。それは、あたし達にとっては、あまりにも眩しかった。
「どうして……どうして、そんなに、前を向いて進めるの……?」
あたしの声は、掠れていた。
あたしには選べなかった。浩平を裏切る事も、世界を裏切る事も。
いや、彼女にとっては、浩平を裏切る、という意識はないのだろう。全然知らないのだから。
けど、志保、浩之が浩平の立場だったら、それでも、そんなに強くいられるの?
「もし、浩之が……」
「もし、ヒロがね」
あたしが言おうとした事を、志保は言葉を奪って続けた。
0315七瀬留美@諸相の悪夢
01/09/17 16:32ID:G5ymXIDQ「………」
「あたしは、生きていたい。この世界、いい事も悪い事も、正も負も、馬鹿馬鹿しい事とか、色々あるけど。
……でも、それでもあたしは、生きていたい。ヒロと一緒に。
ヒロが、綾香の事が好きでもいいのよ。あたしがヒロの事を好き、それが大事なの。
あの日常に、帰りたい。馬鹿やって、ふざけあって……あたしは、普通の人間だから。
七瀬留美、あんたはどう思ってるか知らないけど……これだけは教えておいてあげるわ」
志保は、いきなり浩之のお尻を思い切り蹴飛ばした。浩之が、いてぇっ、と跳び上がる。
「ふふん、綾香流よ。
好きな人の言う言葉を全て信じ、その通りに生きる。彼の言葉に従う。でもそれは、決して愛する事じゃない。
『愛とは、互いを思いあってこその愛。人を従わせる事は愛ではなく、人に従う事も愛ではない』
盲目に従う事は、ただの依存なのよ、留美。あたしはあたし。あたしは、あたしのしたいように生きる。
わかる?愛してるってのは、対等である所から始まるのよ。七瀬留美、あんた、こんな結末で、本当に納得できんの?」
こんな結末………納得……出来る訳ない!!
「じゃ、戦いなさい。裏切る?馬鹿な事言ってんじゃないわよ。あんたが戦うべき相手は、折原浩平じゃないわよ。
あんたが戦うべきなのは、“狂気”よ。
好きなんだったら、横っ面張り倒して、正気に返してやんなさい!それが愛ってもんよ!!
ついでにその隙に付け込んで、自分のものにしちゃいなさい!!」
「…お前も、綾香を失った俺の心に付け込んだしな」
「なんですってぇ〜!お互い様でしょうが!!綾香〜とか言って、あたしのバージン奪ったくせに!!」
こんな時にもかかわらず、口ゲンカをはじめる二人。あたしは、思わず笑ってしまった。
なんでだろう。あたしの事なんか、知らないくせに。浩平の事なんか、知らないくせに。好き勝手言ってるだけのクセに。
……何であたしは、こんなにやる気が、出てくるんだろう。
0317名無しさんだよもん
01/09/17 16:42ID:G5ymXIDQCGIの都合上、長文は無理そうなので『題ナンバー』は止めておきました。
0318名無しさんだよもん
01/09/17 16:46ID:G5ymXIDQ0319君が望む永遠@『HOPE1 水瀬名雪』
01/09/17 16:58ID:G5ymXIDQ水瀬名雪は母に抱かれる夢を見ていた。
優しいお母さん。邪術士とも言われた水瀬秋子だったが名雪の前ではひとりの母親だった。
「……大好きだよ」
看病に疲れていたのか彼女の眠りは深いものだった。
丘には雪が降っている。
穏やかに螺旋を描いて地上に降り注ぐ。
雪の街。
いつまでも続く冬という季節。
「はい……お母さんも、名雪のこと大好きですよ」
答えが返ってくる。
名雪の寝顔はとても穏やかなものになった。
「うん……」
水瀬秋子は立ち上がっていた。
最後に一度だけと名雪の寝顔に微笑んでから旅立つ。
名雪はそのことに気づかない。
どちらにしろ名雪では彼女を止めることは出来なかっただろう……。
生死を懸けた戦いに娘を連れて行く母親などいはしない。
「……大好きだよ」
水瀬名雪にとっての永遠は『家族』だった。
0320君が望む永遠@『HOPE2 保科智子』
01/09/17 17:00ID:G5ymXIDQ悔しかった。
苦しかった。
悲しかった。
もう誰も傷ついて欲しくなんて無かった。
「あのアホンダラどもだけに任せておけるかい!」
悪態をついて走っていく。
ただ、ひとりじゃない。
仲間がいる。
戦友ともいえる友がいる。
だから、頑張れる。
河島はるか。
「……分かってるよ」
相槌の声に智子はにっと笑っていた。
彼女らは駆けていく。
約束の草原、ものみの丘へと――
「さあ、行くで!」
保科智子にとっての永遠は『平穏』だった。
0321君が望む永遠@『HOPE3 スフィー』
01/09/17 17:04ID:G5ymXIDQスフィーは悪態をつかざるを得なかった。
本陣として引いた魔法円を絶望の面持ちで見つめている。
彼女も『物の怪の丘』での出来事は把握していた。
稀代の魔女<Xフィー・リム・アトワリア・クリエール。
彼女の名前が予想以上に強い意味を持っているのはご存知だろうか。
グエンディーナの姫君にして経済界の覇者でもある彼女は難しい選択を余儀なくされていた。
「……伸るか反るかの大博打かよ。ちくしょうっ!」
いや、元より選択の余地なんてなかったのだろう。
幸いにも……ではなく、不運にも能力者は揃っているのだから運命という他はなかった。
「避難は止めだ。みんな心して聞いてくれ!」
躊躇わずに言い切ったことを自分で褒めたいくらい口が滑らかだった。
弱みは見せない。誰にだってそうだった。
「今から邪法を執り行う!」
藤田浩之によって得た力を利用して街の隅々まで魔法陣は描かれている。
後は、ここにいる能力者をダシにして、邪法を行使する。
「お前らの命、俺に……預けてはくれねーか?」
スフィーにとっての永遠は『信条』だった。
0322君が望む永遠@『HOPE4 石原麗子』
01/09/17 17:07ID:G5ymXIDQ状況を知った。取るべき方法は今ここに存在している。
誰よりも先に彼女は、スフィーの苦しみを理解できた人物だった。
だが、終結とは待ち望んでいた瞬間でもあった。
星の傍観者であろうとした彼女にとって『すべての終わり』とは甘美な響きがあった。
――なのに、迷いが存在することが不思議だった。
別に滅びを甘受するわけではない。
ただ、自分の手を貸すことはルール違反になること間違いなかった。
(つまりは受け入れろってことかしら?)
また、彼女は溜息をついた。
(乗りかかった船……袖触れ合うもも他生の縁……便利な言葉かな……?)
彼女は微笑を浮かべた。
いや苦笑だろうか。それとも自嘲なのかも知れない。
「どうせ、皆も協力するつもりでしょう?」
石原麗子にとっての永遠は『終末』だった。
0323君が望む永遠@『HOPE5 氷上シュン』
01/09/17 17:14ID:gcw3pTZA椎名繭の行為については理解が出来ない。
折原浩平は永遠を手に入れたというのに陳腐なことしか見出せていない。
彼は知っていた。
永遠がどういうものであるかを知っていた。
――と、同時に間違っていた。
彼はひどく『永遠』のことを誤解していた。
「なるほど、そういうことか? 繭くん、そういうことだったのかい?」
彼は狂ったように笑った。
涙混じりの声で大きく嘆いていた。
「君の忠告――なるほど、そういう意味だったのか? つまり遅すぎたんだよ、それは――」
氷上シュンにとっての永遠は『仮初』だった。
0324君が望む永遠@『HOPE6 七瀬留美』
01/09/17 17:19ID:gcw3pTZA誰も彼もが何かを望んでこの街にたどり着いたのだ。
とても良くそのことは分かっていた。
彼女もその中の一人というのは紛れもない事実であったから。
求めていたのは何だったのだろう。
探していた答えとはどこにあったのだろう。
幸せな夢でも見ていたのだろうか?
現実はどこまで行っても現実でしかない。
思い描いた理想とは儚く散っていくだけの夢想に過ぎなかった。
折原浩平にもう一度会いたい。
初まりはそこからだった。答えもそこにあった。
「そっか……あたしは、きっと……」
七瀬留美にとっての永遠は『友情』だった。
0325君が望む永遠@『HOPE7 沢渡真琴』
01/09/17 17:23ID:gcw3pTZA負を吸い込まれたとしても妖弧は妖弧でしかないはずだった。
最強の妖弧である沢渡真琴はそれを知っている。
運命と言われるものがある。
人の行動を支配する大きな力を意味した言葉だ。
いつからだろう――
誰かの手の平で動くようになっていたのは?
踊ること自体に違和感はない。
望んでそうしていたのなら尚更だった。
生きとし生けるものはいつか星の大地に還る――
これは運命だろうか?
――否! 摂理である。
だとしたら運命と言うのは人の生きる道ではないか?
神奈と柳也に出会った裏葉の辿った道は運命なのかも知れない。
ただ……どこからどこまでが運命かは、どうやって生きてきたかに掛かっている。
「そうか……真琴と美汐が出会ったのも……」
九尾にとっての永遠は『真実』だった。
0326君が望む永遠@『HOPE8 天野美汐』
01/09/17 17:25ID:gcw3pTZA正と負の関係は容易いものではない。
――人は、思い出だけでは生きていくことは出来ない。
――人は、思い出がなくては生きてはいけない。
大切な記憶があるのなら、又、彼女も月の支配に逆らえなかった。
いつでも月はそこにあった。
どんな時にでも地球を見守るように存在していた。
神奈と意識を共有していた彼女は、誰よりもそれを知ることができた。
「嫉妬……してるの? 私みたいに……」
天野美汐にとっての永遠は『悲哀』だった。
0327君が望む永遠@『HOPE9 清水なつき』
01/09/17 18:37ID:gcw3pTZA今は丁度、函館上空を翔け抜けて行くところだった。
雲に、ちょっとした憂いが見えて苦笑を漏らす。
隣に座っているのは杜若きよみだった。
軍用機を手配してくれたのは彼女の力によるものだった。
これなら思ったより早く『物の怪の丘』に到着できるかも知れない。
こうして何かと都合をつけてくれるのも彼女なりの償いだったのだろう。
盛岡駅で彼女に連れ出された時は、さすがに面を食らったが。
今はただ早く折原浩平に会ってみたい。
それより先のことは、正直、まだ考えたくはなかった。
「ただ、ひょっとすると……」
思ったことに、彼女は自嘲した。
「まだ、いいよね……」
清水なつきにとっての永遠は『兄妹』だった。
0328君が望む永遠@『HOPE10 神尾観鈴』
01/09/17 18:38ID:gcw3pTZA猛吹雪で先が見えない。終わりなんてないように思えた。
この街は瘴気に満ちている。
この世のすべての災いの原点がここにある。
観鈴はそのことを敏感に感じていた。
――星の記憶を司るものとして――
「わたし、行かなくちゃ……」
途端、観鈴の背中から真っ白な翼が広がっていた。
鮮やかで見惚れるような神の翼だった。
――負の欠片もそこにはない。
「お母さん、ありがとう……」
旅立つ翼が交錯する。
残される者たちの想いも払えるように大きく羽ばたいていく。
「星の記憶に幸せを……そうだよね、神奈」
神尾観鈴にとっての永遠は『記憶』だった。
0329君が望む永遠@『HOPE11 藤田浩之』
01/09/17 18:40ID:gcw3pTZA誰であろう折原浩平に対して。
彼自身はごく平凡な高校生だったし身近にいる友人もそうだった。
こんなことになるなんて誰が考えられるだろうか?
どこから可笑しくなったのかは分からない。
どうして自分が斯様な力を持っているのかも分かることない。
ただ、肌に感じる。
目の前にいるもの≠ヘ誰にとっても敵だった。
それは滅ぼす≠アとだけが救いだった。
綾香の仇もある意味そいつだろう。
元凶――
姦計で力尽きた今の身にどこまで出来るか分かりはしない、が――
「久し振りに、むかついたぜ……!」
藤田浩之にとっての永遠は『日常』だった。
0330君が望む永遠@『HOPE12 みちる』
01/09/17 18:42ID:gcw3pTZAマスターから命令はまだ下っていない。
椎名繭の頭脳が告げている。
力の使い方。
尾と負と翼を同時に扱えることも今は容易だった。
正を生み出すもの≠フ解析もすでに済んでいる。
九尾¢渡真琴が生きているのも理解不可能ではなかった。
人は正≠ニ負≠共存させている。
つまり負≠吸い込んでも正≠れば、また負≠ヘ生まれる。
逆もまた然り――
みちるの心が残っていたのもあえてのことだった。
理性で抑えるか、狂気で抑えるか、違いはそれだけだった。
アンバランスなのは、どちらも同じでしかない。
だが正≠オかなければ、何も生み出せない。
いつでも負≠ヘともにあるもの。
「……疑問が解決したのなら、恐れる必要なんて無いですよ?」
翼神獣にとっての永遠は『破壊』だった。
0331君が望む永遠@『HOPE13 川名みさき』
01/09/17 18:43ID:gcw3pTZA何も耳に入ってこない。
絶望だけはこの眼に映っているのに風の音さえ聞こえない。
「……浩平くん」
眼の見えなかった彼女には、彼の人を容姿として認識するのは不可能だった。
だが、心を満たしてくれる懐かしさは何なのだろうか。
答えは出ない。
つまり答えが無いことこそ、彼女にとっての答えだった。
「ごめんね、雪ちゃん……」
見つめる瞳はそこだけにしかない。
彼女はきつく眼を閉じた。
「……わたし、強くなれないよ」
川名みさきにとっての永遠は『世界』だった。
0332君が望む永遠@『HOPE14 里村茜』
01/09/17 18:58ID:gcw3pTZA彼女は選ぶことが出来きたようだった。
世界のために彼を止める。
狂気を断ち切る刃を彼女は持っていた。
迷うことはしない。
――そう、誰にだってさせない。
彼を止めることが出来なくても彼女は思っていた。
大切な人を傷つけてしまうのなら、せめて自分の手で果たそう――
決意の眼差しで彼を見やった。
「……貴方のこと忘れます。
名前も、顔も、声も、温もりも、思い出も……すべて忘れます」
涙が頬を伝っていく。
胸が張り裂けそうになりながら矛先を彼に向ける。
――繭さんには出来なくて、私なら出来ることを――
「さようなら、本当に……本当に、大好きだった人……」
里村茜にとっての永遠は『忘却』だった。
0333君が望む永遠@『HOPE15 水瀬秋子』
01/09/17 19:00ID:gcw3pTZA曰く付きの力だったが使用しない手もなかった。
利用できるものは何でも利用する。
悪いことではない。大切なものを護るためには躊躇いなどしない。
名雪。
あゆ。
二人の子供。
どちらも彼女の子供ではなかったが大切であることに違いは無かった。
自分よりも――
月の狂気はもうそこまで来ている。
終わらない夢≠今こそ――ただひとり友と呼べた人のためにも決着を付けよう。
捉われていた心は、今、ここにある。
「さあ、終わらせましょうか……未来は輝いています」
水瀬秋子にとっての永遠は『子供』だった。
0334君が望む永遠@『HOPE16 折原浩平』
01/09/17 19:05ID:gcw3pTZA刃向かおうとしている弱き者たちを見ていると憐憫さえ抱いてしまう。
終わらすことは救い。
悲しみは記憶もろとも崩壊してしまう。
相沢祐一の魂など必要ない。
沢渡真琴の呼びかけに小さくは応じよう。
正≠ェあれば負≠烽ワた存在する。
どちらか一方だけなんて有り得ることではない。
「狂気に侵されるものは望んでそうしていたんだよ」
誰だってある不満。傲慢。我侭。依存。勝手。嫉妬。罪悪。
「お前らだってそうだろう?」
猜疑心を煽ってやれば誰だってそうなる可能性を秘めている。
「世界はいつかは終わる。今、終わらせる。違いはなんだ?」
これ以上、星に悲しみを背負わせる必要はない。
「大人しく殺されろ……なんて言わねーよ。足掻いてみろ。それだけだ……」
終わらない夢≠ヘここに生まれる。永遠は降り立つ。
「――壊せ、みちる!」
折原浩平にとっての永遠は『終焉』だった。
0335君が望む永遠@『HOPE17 みずか』
01/09/17 19:10ID:gcw3pTZAもうすぐ訪れる人がいる。
ずっと鼓動がどきどきして留まらなかった。
長い間、待っていたから。
この世界に来てくれる人の訪れを少女は待ち遠しく感じていた。
世界は光に包まれていた。
あの人≠ェ喜んでくれるように一面のお花畑も用意した。
もうひとりじゃない。
この世界に還って来てくれる人を迎え入れよう。
「こんにちは」
少女に向かって彼女は微笑みかけていた。
優しい微笑だった。
「えーと、初めまして、かな……みずかさん」
「……ううん、ずっと待っていたから」
彼女の腕には『S−01』の刻印があった。
それは本当の意味≠ナここに訪れることのできた最初の人間である証だった。
少女は言う――
「お帰りなさい。永遠の世界へ」
永遠の少女≠ンずかにとっての永遠は『不変』ではなくなっていた。
0336君が望む永遠@『HOPE18 月宮あゆ』
01/09/17 19:19ID:gcw3pTZA初めに見えたものは薄汚れた白い天井だった。
ここは病院の一室。七年前から意識を失った少女が眠っていた部屋。
「ボクの部屋……」
思い出すのは辛い過去の記憶と一緒だった。
繰り返される夢の中を彷徨い続けていた少女。
明けることのない夜に怯えていた女の子。
来るはずもない人を望んでいた彼女。
「忘れてなかった……」
翼人でもない。天使でもない。人間でもない。
――そして、そのすべてであった。
星が終わりを迎えるときに星の記憶≠受け入れるための翼人≠ェ彼女だった。
月宮あゆの訪れは星の終わりを示している。
「悲しい記憶……」
……少女は泣いた。
誰に対してもイレギュラー≠ナあることに彼女は悲しんだ。
「祐一君……ボクは祐一君との約束を果たせそうにないよ」
月宮あゆにとっての永遠は『希望』だった。
……ボクのこと、忘れないでください。
0337名無しさんだよもん
01/09/17 19:24ID:gcw3pTZA0338名無しさんだよもん
01/09/17 19:27ID:gcw3pTZA0339名無しさんだよもん
01/09/17 19:31ID:gcw3pTZA0340名無しさんだよもん
01/09/17 19:34ID:gcw3pTZA0341名無しさんだよもん
01/09/17 19:37ID:gcw3pTZA0342名無しさんだよもん
01/09/17 19:59ID:gcw3pTZA0343名無しさんだよもん
01/09/18 03:56ID:N5lLBnjc0344名無しさんだよもん
01/09/19 01:00ID:e35Et/jQエロ作よりお知らせ
現在人材募集中です。
やる気のある方、ふるってご応募ください。
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=998749873&ls=10
0345九尾@千年の追憶
01/09/19 23:36ID:1v.75glsだからこそ、私はそこに希望を込めた。永い、永い年月をかけて。
いつか来る、絶望に彩られた世界を、覆す為に。
闇の中に、彼女は浮かんでいた。
膝を抱え、心細げにすすり泣いている。
「みしお……ゆういちぃ……」
頬から零れ落ちる涙が、闇の中に波紋を産み、ゆらゆらと揺れては、消える。
気高き獣でも、狂気の破壊者でもない。そこにいたのは、ただの子供だった。
「…何を泣いている?」
「……だれ?」
舌足らずな口調で呟き、彼女は顔を上げた。
涙に濡れた顔で、彼女は辺りを見回す。その前に、ぼんやりと人影が浮かび上がった。
自分とうりふたつの容姿を持った彼女は、だが膝を抱えて泣いている少女とは、まったく別の雰囲気を身に纏っていた。
すなわち、高貴。威厳。幼い少女にあるまじき深い知性と、数々の不幸を乗り越えてきたもののみが持ちうる、強い意志。
それは、自分であり、自分ではない。『真琴』が、私であり、私でないように。
彼女の腰からは、ゆらゆらと九本の尾が揺らめいていた。
『九尾』は再び問いかける。
「…何を泣いている?」
『真琴』は答える。
「みしおとゆういちが、居なくなっちゃった」
そうか、と『九尾』は短く頷いただけだった。初めて、その顔に悔恨の色を浮かべる。
『九尾』は、押し殺すように、呟く。
「…やはり、人化などするべきではなかったのか」
私の心は、はるか過去へと、記憶を遡っていく。
0346九尾@千年の追憶・2
01/09/19 23:39ID:1v.75glsまさか。
妖狐にとっては、人間は、最も興味の対象であった。
有史以来、狐は幾度と無く、人と交わり、人に化けてきた。
だがそこには、変化の数だけ、悲劇もまた生まれていたのだ。
「九尾様!!」
幼き妖狐が、九尾のもとに駆け寄ってくる。
「何故、人化の法を禁止なされたのですか!?」
幼きゆえに、恐れを知らない問いかけに、居並ぶ妖狐たちから、動揺の声が上がった。
九尾は、神。大地の化身にして、絶対の存在。その決定に異議を挟むことなど、あってはならなかった。
例え、それが九尾の娘であっても。
だが、九尾は穏やかに、血の繋がらない娘に問い掛けた。
「裏葉、何故私が、人との交わりを禁じるか、わかるか?
人の心は深い。人の心は鋭い。我らが人と交わる時、そこには必ず悲劇が生まれる。
我らは人より、優れた力を持っている。だが、人は自らより力あるものを恐れる。
人と交わろうと思ってはならぬ。人に変わる事は、悲劇を生む。
よいか、裏葉。人がどうなろうと、私はどうでも良い。だが、我らが眷属が傷付く事だけは、あってはならぬ。人に興味など持たぬ事だ」
だが、裏葉は、納得がいかない様だった。それでも、母の言う事、大人しくその場は引き下がった。
やがて、裏葉は類稀なる術の素質を示した。
当時の教育係であった、銀狐・英二も、舌を巻くほどだった。
同年代の狐が少なかった事もあって、裏葉はもう一人の教育係であった、留美にもよくなついた。それを、九尾はほほえましく眺めていた。
誰もが、裏葉を、九尾の後継者として見ていた。
そして、人への興味など、無くしてしまったと思っていた。
母である、九尾ですら、そう思いこんでいた。
あの日、裏葉が禁を破り、人化の法を用い、人里に下りた、と聞くまでは。
0347九尾@千年の追憶・2
01/09/19 23:57ID:1v.75gls私は、それをずっと“負”だと思っていた。
“負”の力。それは、貧弱な人間を、世界最強の化け物に仕立て上げる力であった。
誰もが騒然とした中、九尾は一言、「捨て置け」とだけ言った。
以前にも、同じような事が、幾度かあった。裏葉ではないが、森で傷付いた人を拾い、世話をしているうちに情がわき、やがて人と結ばれる妖狐は。
数が少なかったがゆえに、九尾は黙殺していた。例えその行く先が、正体がばれ、人に狩られるという、非業の最後を遂げたとしても。
誰かを愛するという感情は、妖狐にもある。だが、嫉妬や情愛と言った負の感情は、元々妖狐には乏しい。
それゆえに、人と交わり、その感情に妖狐が晒された時、大抵制御が利かなくなる。
そういった罪深い感情を、九尾は恐れていた。
人の負の力。
この世に並ぶもの無き力を誇る九尾の、たったひとつ、恐れるものだった。
九尾は、裏葉を溺愛していた。
だからこそ、今回の決定は、皆を驚かせた。
裏葉を人里に出すという事は、人の世の中に、“負”の中に放置する事を意味していた。
人の負とは、病原菌のようなもので、耐性の無い妖狐がその虜になれば、先に待っているのは、破滅のみ、という。
事実、九尾が唯一恐れるものとして、“負”はあまりにも有名であった。
そんな中に、愛娘である裏葉が出ていってしまった。なのに、何故連れ戻さないのか。
だが、九尾には、別の思惑があった。
負は、確かに恐ろしい。狐を狂わし、ただの人を、恐ろしい魔物に変える。
そして、人の世は負に満ちている。だが、裏葉なら。
裏葉なら、人の世の負を制御する術を見出し、己のものにするのではないか。
例えそれが出来なくとも、他の愚かな妖狐のように、負に飲みこまれる事は無いのではないか。
九尾は、そう考えていた。
それは、ある意味では正しく、ある意味では間違っていた。
0348九尾@千年の追憶・4
01/09/20 00:38ID:fk/mnIqUいつか、世界全てが、負に覆い尽くされる。そんな漠然とした予感が、私の胸の中にあったのだ。
その時、我ら妖狐が生き延びる術は、“負”を自らの力にするしかない。
そう考えての判断だった。
一度、九尾のもとに、人間が訪ねて来た事があった。
法衣に身を包み、外見は、優しげな修行僧といった所である。
だが、それは表向きの事。
「私は、水瀬秋子と申します」
人の世の、負、全てを飲みこんだかのような、凄まじい負を己のうちに秘めた、その女。
その時、九尾は確かに、水瀬秋子に恐怖していた。
純粋な力の総量で言えば、水瀬秋子はまだ、九尾には及ばなかった。
だが、それは今現在の話。未来において、必ずやこの女は、自分と並ぶ力を得ているだろう。
ただのひ弱な人間が、“負”によって、自分に等しい力を得る。その事実に、九尾は心底驚愕していた。
それだけではない。この九尾の居る森は、同時に数百からなる眷属が住み、外部からの、特に人間の存在には、神経質なほどに、目を光らせている。
にも関わらず、この女は、九尾の元にたどり着いたのだ。
殺戮の末にたどり着いたわけではない事は、その、清浄なる法衣に、シミ一つ付いてない事から明らかだった。だからこそ、九尾は驚いたのだ。
誰も殺さない。それがどれだけ困難な事か、九尾は知っていた。そして、それの意味する所も。
「九尾、あなたにお願いがあります」
「……なんだ、人の子よ。その人とも思えぬ力を持ちながら、その上何を望む」
はたして、九尾の問いに、秋子は笑った。
その威厳、放つ圧力の前では、例え上級妖狐であろうとも、萎縮せざるをえない。
にも関わらず、この女は、人の身でありながら、笑ったのだ。九尾の前で。
「あなたもわかっているはずです。どれほどの力をもってしても、不可能な事は存在すると。そして、力に上限などない事を。何より、あなたの方が、私よりも力が上のはずです」
目を細め、その事実ですら、この女の前では、駆け引きの道具でしかないようだった。
「私に教えてください。あなた達妖狐に伝わる“転生の法”」
それは、九尾の予測の範囲内ではあった。
0349九尾@千年の追憶・5
01/09/20 00:50ID:fk/mnIqU「ええ、もちろんです。その術こそ、私が求めているもののひとつなのですから」
妖狐の術の中でも、最秘奥とされる転生の法を、九尾は教えた。
この上級妖狐が無数に住まう森に、誰にも気付かれぬまま、密かに入りこんだ、その実力に敬意を表して。
何より、この女の行く末に、非常に興味をそそられたからだ。
とはいえ、教えたと言っても、秋子の前で、術の法陣と、構成を見せただけだ。
200年生きたツインテールでさえ、習得に10年かかるとされる転生の法を、秋子は一目見ただけで、自らのものにした。
そう言えば、以前、立川郁美がこの術を得るのに、たった半年しかかからなかったと、おおいばりしていた事を思いだし、九尾は内心苦笑した。
「ありがとうございます、九尾。いつか、あなたが困った時は、手助けいたしますよ」
「それはありがたいな」
神すら上回る力を持つ、九尾が困る時とは、一体どのような時なのだろうか。
しかも、その九尾を助けるとは、秋子も驚くべきスケールの大きさであった。
だが、その時はお互いに、それが不自然とは思わなかった。
秋子が姿を消してから、大慌てで、英二や留美が駆け寄ってきた。
なんでも、急に眠気が襲ってきたとかで、見張りの最中に眠ってしまった事を幾度となく謝罪していたが、九尾にはもはやなんの関心も無かった。
負。九尾の意思は間違いなく、人の心の持つ、その恐るべき力に魅せられていた。
水瀬秋子の持つ力は、紛れもなく“負”の力であった。脆弱な人間が、負を手に入れる事で、この九尾にすら匹敵する力を持つ。
その事実に、九尾は純粋に感心していた。そして同時に、負の力を己の物に出来ないか、そう考えていた。
だからこそ、己の娘に期待し、あわよくば、その秘密の断片でも自分のものに出来れば、と思ったのだ。
それは、なにも己の力を増やしたかったからではない。
九尾が望むものは、己の眷属の繁栄。“負”がその障害となるのか、礎となるのか、見極めねばならない。
九尾の脳裏に、あの水瀬秋子の存在があった事は、間違いようが無かった。
裏葉なら、人の中に溶け込み、人の力の秘密を探り出せるのではないか、と思ったのだ。
だが、九尾の思惑をよそに、事態は思わぬ方向に進む事となる。
0350九尾@千年の追憶・6
01/09/20 01:42ID:PgQ1tIlE決して出し惜しみではない。例え自分が負けても、九尾には全力を出せない理由があった。
それが、裏葉、引いては全ての自分の眷属の存在だった。
もし、九本全ての尾を開放すれば、神奈はおろか、この小さな島国全てを、海に沈める事も出来る。だが、それではだめなのだ。
それでは、何の為に戦っているのか、わからない。
何故、自分が神奈と戦う羽目になったのか、いまだに九尾にはよくわかっていなかった。
九尾は裏葉を愛していた。だが、それが他を憎む理由にはならない。
敵は殺す。味方は守る。そこに、感情の存在する余地はない。
だから、嫉妬を秘めた神奈の行動は、九尾には理解しがたいものだった。
認識し、予測する事はできる。だが、理解する事は、不可能だった。
柳也にしても、そうだった。何故、裏葉も神奈も、ただの人間にこだわるのかわからない。
邪魔ならば、殺せばいい。そこには、憎悪といった感情は存在しない。
妖狐と人間の思考は違う。人化を行わない妖狐の思考パターンは、より自然に近いものなのだ。
憎悪、嫉妬、情念。それこそが、当時の九尾にはない、“負”の源だったのだ。
初め、戦いは九尾の有利に進んでいた。
神奈は、確かにたぐい稀なる力を持っていたが、それを利用する術を、ほとんど知らなかった。
幼き日より、ほとんど宮廷の中ですごした神奈に、そのような知識があろう筈がなかった。
それは、比丘尼や、それ以前の、無限の記憶の中の翼人にも、同じ事が言えた。
その理由は、しごく簡単なものだ。
翼人は、強すぎた。そのあまりの力に、翼の一振りのみで、全ては事足りた。
歴代の翼人にしても、自らの力を封印する者はいても、それを戦いに生かそうと考えるものは、皆無だった。
だからこそ、拮抗する力の持ち主と、闘いの中で、ぎりぎりの駆け引きを行う、といった事が翼人には出来ない。
そもそも、翼人は、戦うために存在しているわけではない。本来翼人の力とは、防衛であり、導く為のものなのだ。
妖怪や物の怪の間に生きてきた九尾とは違い、翼人は、人と人の間を渡る者だ。
だからこそ、神とあがめられ、戦争に、時の権力者に、利用されてきた。
そしてその戦う相手とは、常に、弱い人間だったのだ。
0351名無しさんだよもん
01/09/20 01:46ID:BejdDuQMようやく見えてきた最後の瞬間に、すっかり期待甚大ですの。
0352九尾@千年の追憶・7
01/09/20 02:16ID:fk/mnIqU数千年前、古代中国で発生した時から、あらゆる人の戦を潜り抜け、強者達と死をとして戦い、その力を磨いてきた。
九尾の力は、戦うための力であり、滅ぼすための力だ。そして、守るための力でもある。
生きるために、自らの力を振るう九尾と、嫉妬という感情に振り回され、己を見失っている神奈。
その勝敗は、明らかなように見えた。
だが、事態は思わぬ方向に動く事になる。
九尾が、次第に圧倒され始めたのだ。神奈は驚くべき速度で戦いの知識を学び、遂には九尾を上回った。
それが、負の力によるものだと気付いた時には、すでに九尾は追い詰められていた。
もはや、九尾に残された手段は、他に無かった。
「……九星呪法陣……“神堕ろし”」
九尾の、最後の手段だった。すなわち、戦いの、未来への持ち越しであった。
今ここで決着をつける事はできない。なれば、お互いに未来に渡り、そこで決着をつける。
“神堕ろし”とは、互いを呪詛による鎖で結び、因果律の中で、再び巡り合わせるよう、魂にすら刻み込む、恐るべき呪いであった。
だが、正直、呪詛については、おまけ程度にしか考えてなかった。
そもそも、急場凌ぎの術は不完全で、どうにかこうにか神奈を封じれる、といった程度の力しか集まらなかったのだ。
だが、ここでも予想外の出来事が起きた。
呪詛が、思ったより遥かに強烈に神奈にまとわりついたのだ。
死者の呪いと、神奈自身の力が結び付き、すさまじい侵食によって、神奈をまがつ神へと変貌させていく。
(これもまた…負の力なのか!?)
九尾の胸中に、苦いものが走った。“負”により、神奈は自分を圧倒した。
だが今、その負によって、神奈は封印されようとしている。諸刃の刃、そんな言葉が、九尾の脳裏に浮かんだ。
それが、命取りだった。九尾は神奈の最後の一撃に貫かれ、重傷を負ったまま、人里に逃げるしかなかった。
神奈に、恨みは無かった。元々、そういった憎悪や情念は、九尾には乏しい感情だった。
そういった感情が希薄であったからこそ、“負”というものに、惹かれたのかもしれない。
その事実に、九尾はある一つの企みを思いつく。
もはや、迷っている時間は無かった。それは、イチかバチかの賭けであった。
0353名無しさんだよもん
01/09/20 02:45ID:PgQ1tIlE読み込みバカ遅くなってるので。
0354名無しさんだよもん
01/09/20 02:46ID:PgQ1tIlE0355名無しさんだよもん
01/09/20 02:47ID:PgQ1tIlE0356名無しさんだよもん
01/09/20 02:49ID:PgQ1tIlE0357名無しさんだよもん
01/09/20 02:50ID:PgQ1tIlE0358名無しさんだよもん
01/09/20 02:50ID:PgQ1tIlE0359九尾@千年の追憶・8
01/09/21 14:55ID:BkCJn9wc《総ての妖狐に命ず。これより、人化の法の禁を解く。そして、人里に下り、人の中に生きよ。強制はせぬ。望む者は森に残れ。
だが、我と思うものは、人となり、人の力を手に入れよ》
非情の力を手に入れ、九尾に匹敵する力を持つ、水瀬秋子。
九尾に敵対し、その力でもって自らを打ち負かした神奈。
その両方が、負をまとっているとわかった今、九尾ももはや、“負”と無関係ではいられなかった。僅かなりとも、負の正体を知り、己の力とする必要があった。
九尾は最後の思念を送ると、自ら、最後の尾を使い、もう一人の自分を生み出した。
それは分身であり、自分であり、同時に娘でもあった。
そしてまた、人の世の中に生きるべく、人の姿を取らせていた。
九尾のままの自分は、あまりにも消耗していたし、人の中で生きるには、『九尾』は少し眠っていた方がいいと考えたからだ。
自分のもう一人の娘『真琴』が、人の世で生き、自分はその内に眠りながら、回復を待つ。
それが九尾にできた、最良の方法だった。
だが、九尾は、最後の最後まで、この判断を後悔する事になる。
「みしお−――ーーーーーーーーーー!!!!!!!」
絶叫が、抉れた大地の中に、響き渡った。
美汐と、祐一。自分を助けてくれた、この二人を救おうと、『真琴』は力を使った。
それが、どのような結果を産むかも知らず、ただ純粋に願った。
“無限の尾”
この尾を、九尾とて、産まれて数千年、片手で足りるほどしか、使ったことが無かった。
制御が非常に困難だという事も確かだが、なにより、発動にすら、膨大な力を必要とする。
それが、力をほとんど失い、僅かな欠片から生み出したはずの『真琴』が発動させた事に、九尾は驚愕した。理論上、それは有り得ないはずだった。
例え、真に発動させた尾の、数百万分の一の規模とはいえ……いや、だからこそ、ここまで僅かな力しかないにも関わらず、この尾を使えるとは。
だが、九尾がその理由に気付くのに、時間は掛からなかった。
0360九尾@千年の追憶・9
01/09/21 15:16ID:BkCJn9wc(これが……人の力ではないのか?)
幼き分身は、人の温もりに触れ、人の間でほんの僅かに過ごしただけなのに、人の力を得ていたのだ。
感情の…心の…人間にしかない力を。
その名は………奇跡。正の力。
憎悪、怒り、嫉妬といった、負の感情から生まれる力とは逆に、遥かに純粋で、穢れない思いから生まれた力。
今まで九尾が知りえなかった、人間のもうひとつの力を、『真琴』は生み出していた。
だが、この奇跡は、決して幸せを産むものではなかった。
「みしお、ゆういち、みしお、ゆういちぃぃぃぃ………」
幼き『真琴』は、二人の死が信じられなかった。それゆえ、この、ぽっかりとあいた穴の底を、その手で掻き出しつづけた。
爪がはがれ、骨さえ見えてこようと、二人の名を呼びながら、血と泥にまみれた手で、土を引っ掻き続けた。
まるでその下に、二人が埋もれているとでも言うように。
ぼろぼろと涙をこぼし、泥と血に汚れながら、ただそれだけが、救いであるかのように。
無限の尾は、村とその周辺、直径数キロにわたって、ぽっかりとクレーターを穿っていた。
そこには、死体はおろか、人の住んでいた痕跡さえ残ってはいない。
例え『真琴』が、力尽きるまで、固い岩盤を掘り返したとしても、そこには何も存在しないのだ。
悲劇。そう片付けるには、あまりにもむごい結末だった。
誰が悪かったのか、それを決める権利は、九尾には無かった。
保身を計った村の者も、九尾を狩り出そうと動いた朝廷も、役人も、美汐も、祐一も、『真琴』も。
誰も悪くない。悪いのは、間違っていたのは、自分だ。
土を掻き出していた『真琴』の手が止まった。
0361九尾@千年の追憶・10
01/09/21 15:43ID:BkCJn9wcだが、その力がまだ弱かったが為に、彼らは、肉体の消滅のみですんでいた。魂も、幸いまだ原型をとどめている。今なら、まだ間に合う。
「………過ちは消えぬ」
ぽつり、と呟くその口調は、幼き少女のものではなかった。
そこに居たのは、『真琴』ではなく、九尾だった。
立ちあがった九尾の顔に、ぽつ、ぽつ、と空から雨粒が落ちて来る。
どっしりと曇った空から、やがて、無数の雨粒が降り注ぐのに、時間は掛からなかった。
滝のような雨の中で、九尾はただ、じっと立ちすくんでいた。
両手から、糸のように垂れ下がる鮮血は、確実に九尾の体力を奪っていった。
「………されど、やり直す事は出来る」
両目から溢れるものは、雨水か、涙か。
次の瞬間、九尾の腰から、輝く尾が現れた。
「………私は、そう信じる」
妖狐に伝わる、転生の法。それは、種を明かせば、決して転生などではなかった。
妖狐は、自然界の化身。だからこそ、“死”に対して、ある程度コントロールが出来る。
肉体を、術によって位相を変え、精神と同列の位置にまで昇華する。
さらに、精神と肉体のデータを『因果律=星の記憶』の中に保存し、魂の行く先に読み込ませ、再び同じ肉体、同じ精神を再構成させる。
こうして、魂、精神、肉体と、同じものを持った存在を、作り出せる。
だが、そこに記憶を持ち込むためには、魂のみで行動出来る力が必要だ。
何故なら、肉体と精神は、一度データに変換されるが、それにより、記憶が初期化されてしまうからだ。だから、人間では、記憶の無い、ただのそっくりさんにしかならない。
魂に記憶を書き込める妖狐だからこそ、成立する術なのだ。
「………だが、敢えて私は、その術を、美汐と祐一に使おう」
やり直すこと。死者を甦らせる事のできない、九尾のたった一つの選択だった。
だが同時に、九尾は気づいていた。
自分の魂には、不完全な形で、“神堕ろし”の呪詛が刻まれている。
それが意味するところを。
0362九尾@千年の追憶・11
01/09/21 16:06ID:BkCJn9wc神奈の魂を包む負は、確実にこの転生の法に影響を与えるだろう。
力を失い、弱りきった自分は、“無限の尾”の使用で、さらに消耗していた。
そして今、この転生の法によって、一時的に力は全てゼロになる。
そうなってしまえば、千年の因縁が揃うまで、復活はおろか、現世に影響を及ぼすことさえできなくなる。
因果律を『観る』力を持つ九尾には、それが何を意味するか、わかっていた。
絡まりあった因縁と負は、決して、彼らに幸福をもたらす事はない、という事が。
『真琴』が泣いている。
真っ暗闇の中で、止め処もなく涙をこぼしている。
「…何を泣いている?」
私は、すでに千年の間、数え切れないほど繰り返した問いを、『真琴』に向けて放った。
「また……殺しちゃったよぉ……どうして……どうして?」
私は、それに答えられなかった。代わりに、『真琴』の体を抱きしめる。
「忘れるがいい、わが娘よ。つらい記憶は、私が引き受ける。だから、今ひとたび、眠りにつくがいい」
繰り返される悲劇。私は、それをただ見ているしかなかった。
『真琴』が苦しみ、傷つき、最後に死に絶えるさまを、幾度となく見続けた。
そして『真琴』は、ここに還って来る。そして、ひざを抱えながら、泣き続けるのだ。
私は『真琴』の魂から、悲劇の記憶を引き出した。そして、それを己のうちに取り込む。
悲劇の記憶だけではない。そこには、『真琴』の“負”があった。
人の中で暮らすうちに、『真琴』もまた、人の心を持ち、それ故に、魂に“負”を刻み込んでいった。
私は、その“負”もまた、同じように吸収していく。
皮肉にもその事が、私の力を、飛躍的に回復させていった。
だが、それは私が望んだことでは、決してなかった。
いったい、どこの世に、娘が苦しみもがく様を、平気な顔で見ていられる母親がいるのだろう。
0363九尾@千年の追憶・12
01/09/21 16:31ID:BkCJn9wcそれは、放って置けば、瞬く間に『真琴』の魂を蝕み、“負”の海の中に沈めてしまう事だろう。
私はそれを防ぐために、『真琴』が転生を繰り返すたびに、その負を吸収し続けた。
辛い記憶から目をそむけ、幸せのみをその身に受けて欲しい。そう、願うがゆえに。
『真琴』の中には、数々の美汐と祐一との、幸せの記憶に満ちている。
そして、私に残されたのは、二人を殺す瞬間の、凄まじい絶望だった。
その絶望と負を糧に、私は急速に力を取り戻していく。
決して、私がそう仕組んだわけではなかった。だが、結果としてそうなった今となっては、どのような言い訳も虚しい。
これでは、椎名繭に笑われても仕方が無い。私は、自嘲気味に笑った。
やがて記憶を初期化された『真琴』は、再び輪廻の中に戻っていく。
そして、私に残されたのは、絶望だけだった。
やがて負は、確実に私を蝕んでいった。その魂を闇に染め、暗い、憎悪の海に沈める。
人を傷付け、殺す事に、私は悦びを感じるようになった。
人が死に、苦しみもがく様に、言い様も知れない快感を覚えた。
何時の頃からか、『真琴』の負を吸い上げ、絶望の記憶を受け継ぐことが、苦しみではなくなっていった。
むしろ、それは私にとって、歓喜をもたらすものだった。
“負”の悦びに身を浸し、とうとう私は、狂気にその魂をゆだねた。
憎悪。怒り。情念。欲望。
“負”が、これほどまでに心地よいとは、知らなかった。
私は嘲笑を抑えきれない。
他者の苦しみが、我が悦び。絶望が、我が快楽。死が、我が望み。
そして私は、千年の時を経て、甦った。
今、初めて私は自分の意志で、美汐を引き裂く事を望んだ。
千年の恨みを持って、神奈を嬲り殺すことを願った。
………過去の記憶。それを、私は“負”の奥底に封印して。
0364九尾@千年の追憶・13
01/09/21 16:48ID:BkCJn9wc真実こそが、私の望んだものだった。
そして今、私は全ての記憶を思い出した。
“負”の全てが“箱”に吸い込まれたことにより、ようやく全てを取り戻した。
「我が娘、『真琴』よ。今こそ、お前が目を覚ます時だ」
私は、轟然と、闇の中にうずくまる娘に向かって告げた。
『真琴』………まこと。
そこに真実をこめて、私はそう名付けた。
真実は、そこにある。
我が“真実の尾”より生まれし、愛しい娘よ。
我は、汝。汝は、我。全ては、そこより始まる。
「うん……ありがとう………お母さん」
『真琴』の笑みが、闇をかき消していく。私の世界に、光が満ちていく。
私の目から、熱いものが零れ落ちた。
「これほどの辛い運命を背負わせた私を……母と呼んでくれるか」
「うん。だって、お母さんは、お母さんだから」
止め処もなく、頬を涙が流れていく。狐は、涙を流さない。
涙を流すこと。
これでようやく、私も少しは人間に近付けたのだろうか?
水瀬秋子……私の娘も、素晴らしいものだろう?
こんな事を自慢できるのは、お前ぐらいしかいないのだからな。
(ええ……きっと、あなたの願いを叶えてくれますわ)
私の願い………?
私の、願いは…………
0365沢渡真琴@KANON
01/09/21 17:08ID:BkCJn9wc誇り高き九尾の娘は、小さな身体いっぱいに、力を込めていた。
「……許さない……か」
ぽつり、彼は呟く。
「許されなくても構わない。これが、俺の望んだものだからな」
『みちる』が動いた。忠実なる僕は、まっすぐに『真琴』に向かって飛んだ。
『みちる』の九本の尾が、大きくはためく。
「お母さんは……お母さんの願いは、たった一つだけだった!!」
どこからともなく、猫の鳴き声が聞こえる。丘に、一匹の猫が走り寄ってきた。
真琴の顔に、優しげな笑みが浮かび、小さくその名前を呼んだ。
「おいで……ピロ」
光が満ちる。永い、永い時を経て、今、九尾の願いを叶えんと、真琴はその力を解放する。
十本目の尾。
それは、九尾が持ち得なかった、存在しないはずの十本目の尾だった。
(幸福を)
(誰にも負けないくらい、幸福を手にしてくれ)
(我が娘よ。全ての不幸を覆し)
せめて最後は、幸せな記憶を。
幸せな記憶を。
いま、真琴の腰で輝く、十番目の尾。それこそ、九尾が望んだ、真の人間の力から、生まれた尾だった。
その名は………『真琴の尾』
幸せを掴む為の力。今、真琴の力は、九尾すら遥かに上回っていた。
0366名無しさんだよもん
01/09/21 17:11ID:BkCJn9wc0367名無しさんだよもん
01/09/21 17:18ID:BkCJn9wc0368名無しさんだよもん
01/09/21 17:39ID:BkCJn9wc0369名無しさんだよもん
01/09/21 17:53ID:BkCJn9wc0370名無しさんだよもん
01/09/21 23:23ID:H1PiIAYY0371名無しさんだよもん
01/09/21 23:24ID:H1PiIAYY0372名無しさんだよもん
01/09/21 23:25ID:H1PiIAYY0373名無しさんだよもん
01/09/21 23:27ID:H1PiIAYY0374名無しさんだよもん
01/09/21 23:31ID:H1PiIAYY0375名無しさんだよもん
01/09/21 23:33ID:H1PiIAYY■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています