雪の降る日に、ふたりではしゃいで遊ぶ。
 彼女の顔に雪玉があたって、きょとんとした表情になる。
 それから彼女は笑って、僕に雪を投げ返す。

――それはもちろん。僕がもう、手に入れようの無い思い出だ。

 冷たい鉄の扉を押し開けて、雪の積もった屋上に出る。
「雪はね。あっちからこっちに電波を届けてくれるんだよ」
 手摺りにもたれて背中を見せたままの、彼女が言う。
「水は電波を吸い込むんだけど、雨だとそのまま流れていっちゃうから。雪は、積もるでしょ?」
「ああ、だからだね」
「うん」
 自分が知るはずのない思い出も、それも多分彼女が僕にくれたものなのだろう。
「長瀬ちゃん」
「?」
 彼女のいたずらっぽい微笑みのあとに、視界が白く弾けた。
 雪玉をぶつけられたのだということは、肌に伝う冷たさで理解した。
「わたしの勝ちだね」
 楽しそうな声が、耳に残る。
 雪を払って目を開けると、そこにはもう、彼女はいなかった。視界を転々と埋めるのは、
降り注ぐ雪ばかり。
 そのことを別に僕は、不思議には思わなかった。病院にいる彼女が、ここにいるわけは
ない。当然のことだ。
 たださっきの雪が冷たくて、僕は片手で頬を拭った。
 彼女がいた手摺りの傍に立ち、下を眺める。
 玄関からはひきりなしに生徒たちが吐き出されてゆく。
 今日は終業式。そしてクリスマスだ。
 僕にとっては、ただそんな名前があるだけの日。
 だけどときおり仲良さげに並んでゆく二人連れは、ホワイトクリスマスを喜ぶだろうか。
 瑠璃子さんの雪は、だけど僕にも、そんな彼らにも、平等に優しく降り注ぐのだろう。