そこにはきっと、素晴らしい景観があるに違いなかった。
 なぜって今はもうすっかり闇に閉ざされているけれど、昼間は皆が集まって
やいのやいの騒いでいたのを憶えているから。
 その時はあんなに良い天気だったというのに、今は一面の雲で月明かりさえ
無い。加えて周囲が煌々としているから、かえってそこの暗さが際だって
いるような気がする。
 後ろ手に扉を閉めて、彼女はゆっくりと歩き出す。
 実のところ彼女は少々近視気味である。さすがに親友の藍原瑞穂ほどではないが、
手探りで椅子の位置を探り出すために、昼間の記憶さえ引っ張り出してくるほどには
近眼なのだ。
……そういえば、あの人がコンタクトを薦めていたっけ。
 そんなことを考えながらようやく椅子を探り当てて、太田香奈子はゆっくりと
腰を下ろした。