正午を過ぎた頃になると、あれだけ混雑していた詠美のスペースもようやく一息
つく余裕ができてきました。売り子達の表情にも少しずつ安堵の色が見えてきます。
 詠美も先程まで、和樹と一緒にこみパ会場を回っていました。とはいえ仲良く同人誌を
買いにいっていたわけではなく…重い新刊を和樹に持たせ、他の大手サークルへ
挨拶周りに行ってきたのです。
 今は自分のスペース内で、のんびりハンバーガーとコーラを楽しんでいます。
幾分落ち着いてきたとはいえ、それでもいまだに途絶えることのない客の列を眺め
ながらの昼食は詠美にとって格別のものなのです。サークルの外から声をかけられ、
会釈代わりに手を振るときの表情もニコニコご満悦です。
 それでも…その笑顔は長続きしないものでした。もぐ…とハンバーガーを頬張れば、
先程から繰り返している憂鬱な溜息が再び漏れてしまいます。
「…ちょっとイジワルしすぎたかな…。和樹、早く帰ってこないかな…」
 少しうつむき、詠美はそう独語しました。
 詠美にとって、こみパはどこよりも輝くことのできるハレの舞台なのです。
 そんな場で…しかも人が大勢いる場所で叱られてはいい気がしません。
 だから、足を怪我した和樹にも冷たく当たったり…重い荷物を持たせてサークル
周りに連れ出したり…そして今のように、指定したサークルの同人誌を買い付けに
行かせたのです。もちろん和樹は文句を言いましたが、腹いせを決め込んでいる詠美は
聞く耳を持とうとしませんでした。徹底的に駄々をこね、大人げないほどの暴言を
吐いてまでじょていのめーれーを押し通させたのです。