>>46より

目覚めた彼女を迎えたのは非常灯の薄明かりと、沈黙。
彼女がまず思考したのは、自分は一体何故この場所にいるかだった。
そしてそもそも、自分は誰なのだろうか。
記憶が混乱しているのかもしれない。
もしくは…自分はまだ夢を見ているのではないか。
―夢を見ていた?
漠然とした曖昧な記憶が錯綜する。
思い出す、ということが出来ない。
記憶領域の混乱も思考力の低下も自分がまだスリープモードにあるのだとすれば納得できる。
しかし知覚系は確かに周囲の状況がリアルであることを告げている。
もっとも、知覚系に外部から仮想空間の情報が入力されている可能性もあるが。
周囲に端末は無く、彼女が目覚めたポッドは既に沈黙しており、引き出せる情報は無かった。

目覚めた場所は、地下室だったらしい。
仰々しい鋼鉄製の扉を二つ抜けると階段があり、しばらく登ると1階に出た。
建物の地上部分は惨憺たる有様だった。
相当に長い間放置されていたのだろう。それらは例外なく塵と埃にまみれており、さらに建物の3/4が焼け焦げた様になっていた。
無事な部屋も内部は荒れ放題で人為的な破壊の跡が見えた。
無事な部分から予想すると、企業か大学の研究施設といったところだろうか。
自分以外に活動しているものの気配は無かった。

建物の外も似たような状況で、アスファルトの路面はひび割れて雑草が生い茂り、ほかの建築物にも人の気配は感じられない。
全ては例外無く長い年月にさらされたように傷み、劣化していた。
ゆっくりと歩みを進めるうちにも、記憶の検索を行う。
先ほど自分が目覚めた建造物も確実に該当する記憶が存在する。
そして今歩いているこの道も然り。
彼女はいつか見た風景を頼りに、その棄てられたような都市を進んで行った。
まるで何かに導かれるように。