―夢を見ていた。
友達と言ってくれた人々。好きだと言ってくれた人々。
自分を創ってくれた人々。
沢山の人との平穏な日常。
霞のように儚く、まるで確たる様相を呈さない漠とした夢…記憶。
幸せ、だったと思う…。幸せ…?
ふと生じた僅かな疑問は、その度に記憶の波間に消え去って行く。

今はただ、記憶の海を漂うだけ―。



深層意識ブロックに外部から覚醒を促す信号が入力された。
―目覚めなくてはならない。
思考域の中枢が目覚めの時を告げる。
意識を司る部分、記憶を司る部分などが次々と覚醒する。
それぞれがセルフテストを終えると、次は各部制御系へと信号が伝達される。
神経系へ信号が走ると同時に、全身が目覚めていく。
感覚センサが作動を始め、周囲に対する知覚がはっきりとしてくる。
各部の人口筋肉が震え、駆動系の状態を確認。
右腕の肘がゆっくりと曲がり、手指が滑らかに駆動する。
全てオールグリーン。問題個所は、無い。

楕円の形をしたポッドから、ハッチの縁に手をかけて身体を起こす。
ぽたりぽたりと全身から保存液が垂れていく。
ポッドから起き上がったのは年のころ17〜8歳程度に見える少女だった。
白いぴっちりとしたボディスーツに包まれた身体は均整の取れたプロポーションをしており、手足も理想的と言えるバランスを成り立たせている。
保存液が蒸散していき、腰まで伸びた橙の髪がさらさらと流れる。
美しく整った貌には髪よりも深い橙色の瞳。
ただ、その瞳はいかなる感情も宿してはいなかった。