温暖な大阪にも、冬はそれなりの厳しさでやって来る。
 空は寒さに張り詰め、 力を無くした太陽は灰色の雲に押し潰され、薄くぼやけた陽光を
届けることしかできない。
 暗く沈んだ空気を振り払うかのように、人は皆努めて精力的に働きまわる。
 天満橋に籍を置く株式会社ビジュアルアーツのビルの一角、ソフトハウスkeyの開発室も
その例に漏れず、冬の乏しい熱量を補って余りある活気で日々の業務をこなしているように見えた。

 PCの故障を防ぐために禁煙の徹底された開発室の空気は常に変わらぬ清潔さを保ち、かき乱す
騒音も全く無い。キーボードを叩く音だけが響き、無機質なリズムを刻む。滞りなく滑らかに
業務を進めているかに見える開発室の中、麻枝准は独り頭を抱え机に突っ伏していた。
「お約束のように仕事が進まん……どうして俺はいつもこうなんだ……」
 心の鼓動にも似た規則正しさで部屋に響くキーボードの打鍵音が、焦燥と苛立ちを増幅させる。
湧き出てこない言葉、飛び立てないイマジネーション。萎えた翼を懸命に羽ばたかせても、想像力
は空を舞ってはくれなかった。
「気分転換だ、ここは」
 今日何度目の気分転換だろうか、麻枝は席を立ち、大きく背伸びをした。開発室を見渡すと、皆
黙々と己の作業をこなしているように見える。普段はふざけた振る舞いが目立つが、いざという時
には実に頼りになる奴らだ。いつもふざけっ放しの自分を除いては。