とりあえず>>59の続き。


 南は自分の教室に向かって、廊下を駆けていた。窓からは西日が差し込み、廊下を南もろとも赤く
染め上げている。
 本来ならばもう家に着いている時間だが、掃除当番で化学実験室を担当していたら、
科学教師に実験器具の入れ替えを手伝わされていたのだ。人のいい南は断ることなどできなかった。
(もうこんな時間か……別に急ぐ必要はないんだけど)
 だが帰りが遅くなるとなんとなく損した気分になる。だから彼は鞄のある教室へ急いでいた。

 教室へ駆け込むと、誰もいないと思っていたそこには1つの人影があった。
「どうしたんですか? こんな時間に」
 その人影――朝は彼に挨拶を返し、昼は弁当を分けてくれたクラスメート、里村茜はそう言った。
「掃除してたら遅くなった」
 とだけ言い返すと、南の脳裏に一つの考えが閃いた。どうせ家に帰るのなら――。
「なぁ……ちょうどいいから一緒に帰らないか?」
「嫌です」
 ……うん、まっとうな反応だろうな。南は自虐的な思考をしたが、茜の言葉には続きがあった。
「……と言うか、無理です」
「なんでだ?」
 思わず聞き返す。
「私は日直ですから……」
 ああ……そうか。だからこんな時間まで残っていたのか。
「じゃあ雑用は俺がやっておくから、そっちは日誌を書いていてよ」
 そう言って黒板消しを手に取り、それを叩いて綺麗にするため窓際へ向かう。
「……いいんですか?」
 南はそれに答えず、背を向けたまま右手を軽く挙げて応じた。