>>58の続き

 苦し紛れに、横目でちらりと茜の様子をうかがう。
 茜は芝生の上に行儀よく正座をして、膝の上には小さい弁当箱。その中身は、実に食欲がそそられる
ものだった。
「美味しそうだな、それ。手作りか?」
 無意識のうちに、ついそう言っていた。偽ざる本心の言葉である。
「はい……。美味しそうに見えますか?」
 茜の表情に喜びの色が浮かんだ。少なくとも南にはそう見えた。自分の料理を誉められて
悪い気はしないのだろう。
「ああ、見える見える」
「……それでは、少しどうですか?」
「? いいのか?」
「はい。私にはちょっと多いですから……」
 棚からぼた餅、計らずも転がり込んできた千載一遇の好機である。茜の手料理が食べられる。
南はそのようなチャンスを逃すことはしなかった。
「それじゃあ……これをいただきます」
 と、鶏そぼろのご飯を選択する。一口分だけ手に乗せてもらい、口に運んだ。
「……うん、美味い。すごく美味い」
「本当ですか?」
「嘘なんかつかないさ、すごく美味いよ。もっと食べたいぐらいだ」
「それは嫌です。私の分がなくなってしまいます」
 茜も微かに微笑みを見せた。
「それもそうだな」
 そう言って南も笑う。その口の中には茜の鶏そぼろご飯、その味の余韻がいつまでも残っていた。
 ある晴れた日の昼の出来事である。


もしかしたらまだ続くかも(藁