「そういう理由で『お兄ちゃん』を習得しようと思いまして」
「だが、そう簡単に身に付くものなのか?」
「難しいです。でも、先生をお呼びしましたから、きっと大丈夫です」
「先生?」
栞に訊ねたその時、誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「あ、たぶん先生です。どうぞ、開いてますよ」
声に応え、ドアが開く。そこに立っていたのは……。
「始めまして、清……」
「何じゃおまえはあぁぁぁ」
「おぶっ」
反射的に眼鏡を外へ叩き出し、鍵をかける。
「まさか今のが先生なんてことはないだろうな」
首をぶるんぶるんと振って否定する栞。そうか、良かった。
「何なんでしょうか今の人。私もいたる絵顔で色々言われましたが、あんなのは初めて見ました」
「忘れるんだ何もかも。俺がついているから安心しろ」
「えぅ〜。祐一お兄ちゃん〜怖かったですー」
「大丈夫。大丈夫だから」
俺の腕の中で震える栞を強く抱きしめる。頭の中でリフレインする『お兄ちゃん』 やばい、癖になりそうだ。
カリカリとドアを引っかく音が響く部屋で、俺たちは、ただ抱き合っているしかなかった。

投げやりな気分で次回へ続く