――数日後。

「あれ? 教科書忘れたかも……」
 移動教室に着き話に花を咲かせている最中に吉井が急に立ちあがった。
「なんで忘れるかなぁ?」
「なぁに吉井〜、教科書忘れたの〜? 取っておいでよ〜」
「うん、ちょっと教室に戻ってくる」
「よっすぃ、早くしないと先生五月蝿いよ〜」
「解ってるってば……もぅ、よっすぃって呼ばないで!」
 わざわざ振り返って一言置いて行く。律儀なことです。
 そうそう、急いで急いで。
 早くしないと間に合わないよー。
 ほどなくして先生がやって来た。
 一番前の岡田の席から移動して、出席番号で割り当てられた席に戻る。
 わたし達の机の席がまだ一つ男子の分が空いていた。
 同じ机の保科さんが号令をかける。
 なんの変哲も無い号令の後、保科さんがポツリと洩らす。
「藤田君は遅刻か……吉井さんはご愁傷様やな」
「えへへ」
「なんやの、気持ち悪い」
 わたしの含み笑いに保科さんが苦笑する。
 それは嫌悪では無い笑み。
「なんでもないよー」
「なんでも無いんやったら、そんな笑い方はせえへんよ」
「あのねー……」
 頑張ってね、吉井。
 命短し恋せよ乙女、だよ。