オレは、はやる気持ちを押さえながらマニュアルをめくった。
 どうやら自宅のパソコンで起動は可能なようだ。
 DVDをローディングし、気忙しくキーボードをたたく。
 マルチにプラグインされたコードから、解凍されたデータが流れ込んでゆく。
 記憶が。思い出が。そしてオレのことが。
 やがてファイルの転送が終了したとき、マルチの瞳が静かに輝き始めた・・。
「……」
「マルチ…」
「……」
「マルチ!」
「あ…浩之さん…なんでここにいるんですかあ?」
「覚えてるんだ…オレのこと覚えてるんだな」
 マルチはしばらく、オレの顔を見つめていた。
 が、急になにかを思い出したかのように、瞳を潤ませる。
「浩之さん……わたし…もう会えないんだと…」
「……」
「ずいぶんごつごつしちゃいましたね」
「…ひどいこと言うな、マルチは」
「けど私、浩之さんのことが…ずっと…ずっと…」
 オレは飛び込んできたマルチを、この手の中に受け止めた。
 マルチはあの時のまま、オレの腕の中にいた。
 凍りついた時間が、ゆるゆると溶け出してゆく。
 まばゆく、光あふれるこの場所で、オレはマルチを抱き締める。
 そんなオレの脳裏をマルチの言葉がよぎる。
 …忘れないで。
 わたしのこと、忘れないで。
 忘れるはずないよ、マルチ。
 たったひとりのマルチはいま、ここにいる・・。