「あと、どれくらい…って」
「あとどれくらい、動いていられるんだ」
「……」
浩之は気付いていた。知っていたのだ。知っていて、知らない振りをしていただけなのだ。マルチの今まで押さえてきた涙の堰が、一気に切って落とされた。
「浩之さん…わたし…」
「マルチ、何も言うな」
浩之はマルチの顔を胸に抱いた。
「…来栖川の研究所から連絡があったんだ。脱走したんだってな」
「……」
「最後まで、よろしく頼むと言われた」
「あうっ…あうっ…」
マルチは浩之の胸で、嗚咽を漏らしながら泣いた。
一人だと思っていたのは自分だけで、実は皆がマルチのそばにいたのである。マルチはその事実を知ると、どうしようもなく皆に申し訳ない気になるのだった。
「わたし、わたし…」
「何も言うな」
浩之はマルチの髪をゆっくりとなでる。
「最後ぐらい、がんばりやをやめていいんだ」
「あうっ…あうっ…」
マルチの涙は、止まることなく流れつづけた。