「お姉さん方も試合に出てるわけだし、とりあえず、俺が君のセコンドにつかせてもらう」
「あのぅ・・・」
「ん? 何かな?」
「おじさん、誰ですか?」
「俺が『おじさん』と呼ばれるような年齢に見えるか?」
 突如下がる周りの温度。
 眼鏡を掛け、理知的でクールな外見に由来するものではない。
 三つ上の姉と二つ上の姉が口ゲンカをする時の現象と全く同じだ。
 それ故に、初音にとっては恐怖よりも親近感を与えるものだった。
「じ・・・じゃあ、お兄さんは誰ですか?」
「柳川裕也。君の叔父に当たる」
「どっちにしろ『おじさん』じゃないですか」
「ぐむ・・・だ、だが、君には『お兄ちゃん』と呼んで欲しい」
「は・・・はい。柳川お兄さん」
「まあ・・・いい」
 柳川にとって、苗字よりもむしろ名前で、さん付けではなくちゃん付けで呼んで欲しいところだったが、これは仕方の無い事だろう。
 彼女の心の中に居るのは『耕一お兄ちゃん』だから。
 とはいうものの、年齢不相応に可愛い初音に、素直に「お兄さん」と呼ばれるのは柳川にとっても満更でもない様子だった。
『俺にも・・・こんな可愛い妹がいれば人生を踏み外さなくてすんだかもしれない・・・』
 自分を見上げる初音の瞳を目の当たりにし、ある種ヤバイ妄想が柳川の脳裏を掠める。
 が、そこは狩猟者。
 今までのほんの短い初音とのやりとりから先天的な弱点を嗅ぎ取っていた。
『この娘はあまりにも素直すぎる』
という弱点を。