舌打ちしながら分厚い雲を見上げる。
ただでさえ底冷えのする二月だというのに、空からは盛大に雨粒が落ちていた。
身を切るような雨――氷雨、という奴だ。
小脇に抱えた傘だけが、今の気分を救っていた。

雨のカーテンで視界が煙る。
足下のアスファルトに現れては消える、ささやかな波紋を見ながら歩く。
と、低めに向けられた僕の目に、道端にかがみ込んでいる人影が映った。
着ている制服から同じ学校の生徒であることが解る。豊かな黒髪が後ろで束ねられていた。
女生徒は一向に立ち上がろうとしない。体の具合でも悪いのだろうか?

「君、どうしたん…」
声に振り返った顔を見て、僕は絶句した。
意志の強いまなざし。一文字に結ばれた唇。全体に漂う、無愛想な雰囲気。
誰あろう、川澄舞その人だった。

川澄舞と僕との関係は、あまり良好とは言い難い。
しばしば問題を起こす彼女を、僕の所属する生徒会は厳しくマークしていた。
そしてあの舞踏会の事件。
あの事件をきっかけにして、彼女を退学まで追い込んだのも僕なら、彼女を復学させたのも僕。
復学の交換条件として、彼女の親友・倉田佐祐理を生徒会に呼び戻したのも僕だった。
そんな僕に対して、彼女は「佐祐理を悲しませたら許さないから!!」と啖呵を切ったりもしている。
要するに、犬猿の仲と言って差し支えない。
…もっとも、僕に限って言えば、今ではそれほど彼女を敵視してはいないのだが。

「…何?」
僕を見上げながら、二文字で問い返す。
「…いや、どうしてそんな格好をしているのかと思ってね」
彼女はもの言わず視線を戻す。
無視されたのかと思ったが、その視線を追ってみると状況が理解できた。