控え室に、柔らかな旋律が流れていた。
アコースティックギターから奏でられるその音色は優しく、孤独だった。
音の紡ぎ手――氷上シュンは目を瞑り、ただメロディーに身を委ねている。
最後に弦を一撫でして、彼の独りきりの演奏会は終わった、ように見えた。
しかし次の瞬間、シュンに向けて誰かが拍手をした。
驚いたシュンが目を開ける。
そこには、彼のクラブメイト…折原浩平が立っていた。

「上手いもんだな。幽霊部員の俺とは、えらい違いだ」
「…折原…君?」
「何て曲だったかな…思い出せない。聞いたことはあるんだけどな」
「ショパンの『別れの曲』だよ。本当はギターの曲じゃないんだけどね」
「そうか」
「…僕の応援に来てくれたのかい?」

浩平は何も答えない。
が、シュンは人好きのする微笑を浮かべる。

「あはっ…幸せ者だよ、僕は」

…もうすぐ、僕はこの世界から消えてしまう。
だから僕は求めたんだ。
たった一つでもいい、確かな絆を。

そして僕の願いは、叶ったんだ。

「…ありがとう、頑張るよ。君の思いに応えるために」

――氷上シュン、入場。