吉井は走っている。
吉井ユカリは走っている。
いつから走っているのか、なんで走っているのか。
そんなことはどうでもいい、走っているということが重要なのだ。
駆ける、駆ける、駆ける。
疾走、一心不乱の大疾走。
足がちぎれそうに軋み、肺が破れそうに痛み、目尻から涙がこぼれて。
それでも吉井は走っている。
「か、かっ……」
吉井が口を開く。酸素を確保するための呼吸だけで精一杯の中、声を絞り出す。
むせることもできない。そんな余裕は身体が許してはくれない。
吉井に出来ることは、自分に課せられた役割を果たすことだけだ。
「か……かけ……」
何度も言うが、吉井は走っている。
走っている中で言葉を紡ぐことは、途方もなく体力を使う。
まして吉井は全力疾走に近いスピードで、しかも長時間走っている。
これだけで、吉井の労力は推して知れようというものだ。
……そして。
そして、吉井の言葉が、周囲一杯に響きわたる。
「か……駆け込み投票は……控えめにっ……!」

吉井は転んだ。
それだけを言うために、駆け込みをたしなめるために。
全力で駆け、必死に走り、涙を流してそう叫んだのだ。
ありがとう吉井、僕らのアイドルよ。タコさんウインナーな髪型が似合う少女よ。
だから……。
「ほら吉井、泣かない泣かない。膝すりむいたからって泣いちゃだめよー」
「頑張ったよね吉井! 前半部分の人間ドラマはカットされたけど、これで人気出るよ!」
だから吉井、友達は選んだ方がいいと思うぞ。