(……あ)
思い出した。ムシャクシャというか、胸の痛む出来事。
自分の気持ちにちっとも気づいてくれない、ほんとに優しい男の子。
グローブの中の理緒の拳に、だんだんと力が込められる。
思えば思うほど、その気持ちは際限なく増幅し。
「すぅぅ……」
右手を振りかぶり、息を吸って、瞳の向こうのサンドバックに、あの男の子の顔を浮かべて。
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ずべしゃあああっ!

「せ、先輩っ、大丈夫ですかっ!?」
「あたたたた………あはは、大丈夫、うん、大丈夫」
サンドバックの音は、結局境内に響くことはなく。
静かに吊り下がるサンドバックを見つめて、理緒はちょっとばかり苦笑いを浮かべて。

(てへへ……やっぱり藤田くんはたたけないね)