泣き声が聞こえた。
遠くから。夢の淵の外側から。
慌てて跳ね起き、音のする方角へ耳を澄ませる。
水の流れる音と、女の子の泣き声が1階から聞えた。
私は慌ててベッドから飛び出した。
夫を起こす暇など無かった。
駆け下りるように階段を下り、音のする方へ足を向ける。
その音は洗面所の奥、つまりトイレから聞えた。
「繭っ」
叫びつつ、ドアを開ける。
そこにはひざを抱え、嗚咽を漏らす繭がいた。
その様を見るなり、事情を察することが出来た。
「・・ひ・・・ぐ・・・うぁ・・・」
ひざを抱え、泣き続ける繭をしっかりと抱きしめる。
痛くないように、きつすぎないように、でもしっかりと。
「・・・また・・・あの夢、いや、あの頃を思い出したのね・・・
かわいそうに・・・」
泣き止まない娘の髪を撫でながら、私は呟いた。
あの人は、夫の前妻はいつまで繭を、私の娘を苦しめるのだろう?
怒りが、込み上げる。苛立ちが募る。
でも、もうあの人はいない。だから、この怒りも行き先が無い。
その怒りを、娘への愛へ変える。怒りの分だけ、いや、それ以上に
娘を、繭を愛してあげたい。
「・・・ほら、もう大丈夫よ。おかあさんがいるからね?」
そっと、耳打ちをするように、出来るだけ優しい声でそう告げる。
繭が安心できるように。いつか、苦しみから逃れられるように。
「ひ・・・ぐっ・・・うぁ・・・あああぁ・・・・うわぁああああ
ああんっ!!!」
不意に繭が私に飛びつき、さっき以上に泣き声を上げた。
私はそれを受け止め、さらにきつく抱きしめる。