朝、どうしても出掛けなければならない用事があって、
通勤ラッシュの満員電車にやむを得ず乗ることになった。
 ――ひでえ。
 一体この街のどこから集まってきたのかと思わせるくらい、
無数の互いに無関心な男女が身を寄せ合い、縮こまっている。
 あんまり息苦しいので、上を見上げて大きく息を吸った。
 その拍子に、その電車の中に見慣れた顔を発見する。
「……由綺じゃないか」
 帽子を被ることすらせずに、ドアの側で窓に映る景色を呆と
眺めている、森川由綺がいた。
 少しはアイドルだって自覚を持って欲しいような。
 ――ま、そんな自覚を持った由綺ってのもなんか違うけどさ。
 俺はちょっともがいて動きながら、由綺の背後に近寄る。
 ――ちょっと驚かせてやろう。
 そう思って。
 俺は由綺の背中を指でつんつんと撫でた。
「――!」
 由綺がびくんと反応する。だが、なぜか由綺はこちらを振り向こうとしない。
「?」
 仕方ないので、背中をつんつんともう一度叩いてみる。
 そのたびに由綺の身体は跳ねるのに、なぜかこちらを向こうとしない。
 それどころか、由綺の身体が目に見えて震えだした。
 ――あ、もしかして。
 由綺、俺のこと痴漢か何かだと思っているんだろうか。
 窓から反射する顔を見れば、俺だと分かりそうだけど、由綺は顔を伏せて
羞恥に耐えている。
 さて、どうしようかな、と。

1.いぢめる
2.可哀想だから声をかける。