僕は君に会うために生まれてきたのかもしれない
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0001水瀬さんち
01/11/09 03:34ID:rU+TEMz+マターリ進行していきましょう。
0002名無しさんだよもん
01/11/09 03:35ID:5zEGX91b0003名無しさんだよもん
01/11/09 03:40ID:T4zGeEWKくじけるな>1
0004名無しさんだよもん
01/11/09 03:43ID:EdvH+JzG∧_∧
( ´_ゝ`)4…不吉な数字だ
( つ つ ))
(( ヽ Y ノ
(_(__)
0005名無しさんだよもん
01/11/09 03:45ID:5zEGX91bhttp://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1002967149/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1004798629/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1002986900/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1003243615/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1002752085/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1003469215/
これでも見当たらない1って・・・
おーい、だれか家臣呼んで来い!群馬県に上司といってこい!
吉野家の感想をかけ!
0006名無しさんだよもん
01/11/09 03:47ID:D8ZtqcFn聖が死んだ今、誰に会ってもどーでもえーわ。ていうかみんな死ね。
0007名無しさんだよもん
01/11/09 03:48ID:EdvH+JzG0008渚関連スレリンク2
01/11/09 03:48ID:75k6H1J7http://choco.2ch.net/test/read.cgi/movie/1004720430/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1002986900/
http://kaba.2ch.net/test/read.cgi/korea/1004818759/
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1002743345/
0009名無しさんだよもん
01/11/09 03:48ID:/vDdeMkx0010名無しさんだよもん
01/11/09 03:51ID:oMnyUGCl0011名無しさんだよもん
01/11/09 06:09ID:lWg+zfbc0012( ´ゝ)
01/11/09 06:28ID:1VQ7ioWk//⌒\ |◎| _/ ||Ξ/ つ¶¶ / /⌒\|◎| < はくそリーナへ
/ )|日|\/__\|/ ̄ ̄ ̄ ̄\ _____.|日|\_ < >
/ ● ___ \|/ ● ●/\  ̄\__〉 ∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨
/ Y Y )ヽ Y Y \..\ _/^~ /^|/^|__
| ▼ | | /. )).| | ▼ |/\\ /^/.^/_⊃
mn
0013名無しさんだよもん
01/11/09 16:06ID:kpfpNmP/0014名無しさんだよもん
01/11/11 12:12ID:Qn9rhLns0015名無しさんだよもん
01/11/16 07:09ID:ACcrzn+W0016名無しさんだよもん
01/11/16 07:20ID:szusTxg70017名無しさんだよもん
01/11/16 07:26ID:Sxp+dl7C0018名無しさんだよもん
01/11/16 07:28ID:duRRgcpu0019名無しさんだよもん
01/11/16 08:44ID:/t2oAkz20021名無しさんだよもん
01/11/16 16:13ID:Eih4sBE90022名無しさんだよもん
01/11/19 23:48ID:l1qbTanI0023名無しさんだよもん
01/11/21 18:51ID:UvW79NUEそこで立ち尽くす。
「はぁ」
ため息と共に空を仰ぐ。
その先に校門はあった。
誰が好んで、あんな場所に校門を据えたのか。
長い坂道が、悪夢のように延びていた。
「はぁ…」
別のため息。俺のよりかは小さく、短かかった。
隣を見てみる。
そこに同じように立ち尽くす女の子がいた。
同じ三年生。けど、見慣れない顔だった。
短い髪が、肩のすぐ上で風にそよいでいる。
「この学校は、好きですか」
「え…?」
いや、俺に訊いているのではなかった。
0024名無しさんだよもん
01/11/21 18:52ID:UvW79NUE「え…?」
いや、俺に訊いているのではなかった。
「わたしはとってもとっても好きです。
でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。
楽しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ。
…ぜんぶ、変わらずにはいられないです」
たどたどしく、ひとり言を続ける。
「それでも、この場所が好きでいられますか」
「わたしは…」
0025名無しさんだよもん
01/11/21 18:53ID:UvW79NUE「えっ…?」
驚いて、俺の顔を見る。
「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」
そう。
何も知らなかった無垢な頃。
誰にでもある。
「ほら、いこうぜ」
俺たちは登り始める。
長い、長い坂道を。
0026名無しさんだよもん
01/11/21 19:01ID:UvW79NUE俺たちは並んで校門をくぐった。
あれから一度も、言葉を交わすことはなかった。
考えてみれば当たり前だ。今日、初めて会ったばかりなのだから。
階段を上りきり、三階についたとき、女の子がやっと口を開いた。
「あ、あの…わたしの教室、こっちですから」
「え?あ、ああ…」
俺が覚えていないだけで、実は二人はクラスメイトだった――なんてこともなかった。
どうやら俺は、クラスメイトの顔もわからないほど薄情な奴ではないらしい。
俺は、心のどこかで期待していた自分に気付いて、驚いた。
結局そのまま、俺たちは別れた。
0027名無しさんだよもん
01/11/21 19:16ID:UvW79NUEそれまで会話に忙しかったクラスメイトたちが、
俺の姿を認めるなり声のボリュームを落とす。
…相変わらず、嫌われてるな。
俺は黙って、机に鞄を下ろす。
「よう、朋也」
このクラスで俺に話しかけてくる奴は一人しかいない。
顔を向けると、そこにはやはり俺の悪友、春原陽平がいた。
「珍しいな、お前が定時に登校するとは」
「ほっとけ」
軽口を叩き合う。
「ところで…あの子は誰なんだ?」
にやにやと笑いながら、唐突に陽平が訊いてきた。
0028名無しさんだよもん
01/11/21 19:28ID:UvW79NUE「とぼけんなよ、さっきお前と並んで登校してた女の子だよ。
あの子は誰なんだ?つーか、お前のなんなんだ?」
…見られてたのか。
「…別に。知らない奴だよ」
「隠さなくてもいいだろ。見ず知らずの二人が仲良く並んで歩くか?」
「たまたま足並みがそろったんだろ」
「ふん?」
まったく信じていない様子で、陽平が鼻を鳴らす。
「…ま、いいさ。お前にも言いたくないことがあるだろうしな」
「だから、そんなんじゃないって」
「はいはい。そういうことにしときましょ」
「だから…」
そこでチャイムが鳴ってしまったため、とうとう陽平の誤解をとくことはできなかった。
0029名無しさんだよもん
01/11/21 19:48ID:UvW79NUE「…う」
誰かに肩をゆすられて、俺は夢の世界を辞した。
「もう昼休みだぜ」
「…そうか」
やはりと言うか、俺を起こしたのは陽平だった。
どうやら俺は午前中の授業の間ずっと寝ていたらしい。
「しかし、ホントよく寝てたな。やっぱ今日は遅刻しなかった分よけいに眠いのか?」
「…ああ、そうかもな」
寝起きの気だるさで、言い返すのも面倒だった。
0030名無しさんだよもん
01/11/21 19:50ID:UvW79NUE肝心なことを思い出し、俺は立ち上がった。
弁当なんて結構なものは持ってきていない。この高校には食堂はない。
よって、昼飯は戦場…もとい購買で勝ち取らなくてはならない。
「…多分、もう無理だと思うぜ」
陽平が哀れむように俺を見る。
その言葉に俺は時計を見る。
…昼休みが始まってから、10分あまりが経過していた。
「…なんで、昼休みが始まってすぐ起こしてくれなかったんだよ」
「はあ?そんなことしてたら出遅れるだろ」
そう言う陽平の手には、人気商品のカツサンド×2がしっかりと握られていた。
「お前は俺よりもカツサンドの方が大切なのか」
「解りきったことをいちいち訊くな」
「理由は」
「カツサンドはおいしく食えるが、お前は煮ても焼いても食えん」
…なるほど。
0031名無しさんだよもん
01/11/21 20:11ID:UvW79NUE陽平の言う通り、今から購買に行っても草の一本も生えていないだろう。
若者の食欲はすさまじいのだ。
「…なんなら、一つ売ってやろうか?」
さすがに気の毒になったのか、陽平がそんなことを言う。
だが、俺はすでに諦めていた。力無く手を振り、遠慮の意を示す。
一食抜いたくらいで死にはしない。別に構わない。
そう、どうでもいいのだ。
俺という人間は、一事が万事この調子だった。
どっちでもいい。どうだっていい。なるように、なるさ。
あらゆる物事に、そんな投げ遣りな姿勢で向かうようになったのは、いつからだったろうか。
今朝、見知らぬ女の子に告げた、自分の言葉を思い出す。
『見つければいいだけだろ』
…よく、あんな台詞が吐けたもんだ。
俺こそが何も見つけられないでいるというのに――
ぐきゅるるる。
とりとめのない思考は、俺自身の腹の音で断ち切られた。
0032名無しさんだよもん
01/11/21 20:29ID:UvW79NUEかといって、今さら購買へ向かう気にもなれない。
しばらく悩んで、俺は冷水器のある中庭に向かった。
水で少しでも腹をふくらませようというアイデアだ。
…日本史の授業中に聞き流したはずの「水飲み百姓」という単語が頭をよぎった。
…あまり深く考えまい。
「ごくごくごくごく」
わざとらしく喉を鳴らして水を飲む。
…冷たい。
いや、『冷水器』なのだから、看板に偽りはないんだが。
このまま飲み続ければ、間違いなく腹を壊す。
「…うー」
逡巡していると、近くから唸り声が聞こえた。
野犬でもいるのか?
それともまさか、絶滅したはずのニホンオオカミ?
俺は大いに期待しながら、声の出どころを探した。
…そこに。
あの女の子が、ちょこんと座っていた。
0033名無しさんだよもん
01/11/21 21:17ID:UvW79NUE今朝、奇妙な出会いかたをした女の子。
その子がまた俺の前にいる。
しかも、ちょっと涙目で。
「うー…こんなに食べられないよぉ…」
女の子はうつむいたまま、何かつぶやいている。
下を向いているせいか、俺には気付いていないようだった。
…普通、これだけ近付いたら、気配とかでわかると思うんだが。
朝のことといい、どうもかなりカンの鈍い子らしかった。
俺は女の子の目線をたどってみる。
その膝の上に、大量のパンが積まれていた。
…10袋近くある。
「…意外によく食うんだな」
「ひゃっ!?」
身をすくませて、ぶんっ、と音がしそうな勢いで顔を上げる。
その余波を受けて、パンの山が地面に散乱する。
「あ、あ、あ…」
パニック状態におちいる女の子。
…もしかして、俺のせいか?
0034名無しさんだよもん
01/11/21 21:45ID:UvW79NUE幸い、どれも開封されていなかったので、問題なく食えるだろう。
抱えたパンを元の場所――女の子の膝の上に戻す。
パン山脈が復活する頃、女の子もようやく平静を取り戻したようだった。
「あ、あの…」
「悪かった。おどかすつもりはなかったんだ」
「…あ。今朝の…」
「ああ、今朝の、だ」
「えっと…どうして?」
なんとも舌ったらずな会話だった。
「あんたこそ、どうしてこんな所にいるんだ?」
女の子が腰掛けているのは、日当たりのいいベンチなんかじゃなく、ただの段差。
冷水器のそばのこの場所は、建物の陰になって、光が射さない。
夏の暑いさかりには人も寄ってくるが、他の季節にはお世辞にもいい場所とは言えない。
少なくとも女の子が昼食をとるような場所ではない。
「えっと…」
女の子は言葉に詰まる。
…何、詮索してんだよ、俺は。
「いや、やっぱり言わなくていい。俺は消えるから、心おきなくパンを食ってくれ」
そう告げて、何か言いたげにしている女の子を残し、俺は踵を返した。
そのとき。
0035名無しさんだよもん
01/11/21 21:46ID:UvW79NUE…げぷ。
まったく正反対の、しかし同じくらい間抜けな音が、同時に響いた。
それは俺の空腹の証と…女の子の、満腹の証…
「……」
「……」
恥ずかしいやら、気まずいやら。
えらく複雑な表情をしたまま、見つめ合う二人。
…次に口を開くのも、同時だった。
「もしかして、おなか空いてるんですか?」
「もしかして、もう腹いっぱいなのか?」
0036名無しさんだよもん
01/11/21 22:10ID:UvW79NUE女の子がそれを見て、わぁ、と歓声をあげた。
「…どうかしたか?」
「すごいですね」
「何が?」
「わたし、その袋の開け方、できないんですよ」
「…マジか?」
こんなの、誰だってできるぞ。
そんなに非力なのか、それとも不器用なのか。
「いつも、中身が飛び出しちゃうんです」
どうやら後者のようだった。
「はあ…。あのな、こんなの誰でもできることだぞ」
「あ…でも、わたしのお母さんもできませんよ」
「…マジか?」
そんな調子で、ちゃんと家事をこなせるのだろうか。
0037名無しさんだよもん
01/11/21 22:34ID:UvW79NUEもぐもぐと口を動かしながら言う。
「お父さんが、育ちざかりなんだからしっかり食え、って…」
そ、育ちざかり?
…この子は18歳のはずだが。
俺は女の子を上から下まで見つめてみる。
「…な、なんですか?」
「…まあ確かに、成長の余地は十二分にあるな」
年齢の割に、少し…いや、かなり幼く見える。
顔だけ見れば、俺と同い年とは思えない。
俺の妹と言っても通用しそうだ。
「…うー」
どうやら気にしているらしく、女の子は眉をしかめる。
非難めいた視線で俺をにらむ。唸る。
敬語で固められた、落ち着いた口調からはかけ離れた、子供じみた感情表現。
…やっぱり、十二分にあるぞ。
俺は少し笑いそうになった。
0038名無しさんだよもん
01/11/21 23:11ID:UvW79NUE「はい?」
「なかなか美味いな、これ」
俺は別に、味にうるさい方ではない。むしろだいぶ悪食だと思う。
だから、食い物の味についてあれこれ言うことはあまりない。
しかし、この女の子から恵んでもらったパンは、どれもこれもいい味だった。
素直にそう思えた。
「そうですか!?」
急に目をキラキラと輝かせて、女の子が叫ぶ。
俺はその勢いにちょっと気圧されてしまう。
「あ、ああ。まあ俺はそんなにパンに詳しいわけじゃないけど、
このパンは美味いと思うぞ」
「そうですかっ!?そうですよねっ!!」
ますますテンションの上がる女の子。
…なんで、そんなに喜ぶんだ?
「ありがとうございますっ」
腰をまっすぐ折って、深々とおじぎをする。
「え、あ、いや」
むしろこの状況、お礼を言うべきなのは俺の方で。
と言うか、なんでこんなに感謝されてるんだ?
今度は俺がパニックにおちいる番だった。
0039名無しさんだよもん
01/11/21 23:43ID:UvW79NUE…はぐはぐ。
にこにこ。
……はぐはぐ。
にこにこ。
………はぐはぐ。
(く、食いづらい…)
あれから、ずっとこの調子だった。
俺が頼むと、女の子はすぐに頭を上げてくれた。それはいいのだが。
それからというもの、ずっと俺に満面の笑顔を向けてくるのだ。
パンはまだ半分くらい残っている。
美味いのは確かだし、量が多いのも多少無理をすればなんとかなる。
だが、完食するまでのあいだ、ずっと笑顔でこっちを見るのは…勘弁してほしい。
ふと目が合う。
(おいしいですか?)
…それだけで、女の子の言いたいことが解ってしまう。
たった一日でアイコンタクトが修得できるということを、俺は初めて知った。
さっきまで、この子はどこか怯えているような、気後れしているような…そんな印象があった。
でも、今は。屈託のない笑みを、俺に向けている。
俺が食っているパンは、この子にとって、そんなに大切なものなんだろうか?
…俺は、こんなに躊躇のない笑顔を見ているのは、苦手だ。
0040名無しさんだよもん
01/11/22 00:03ID:OnGy58J/二桁近い数のパンを食うと、さすがに胸焼けがした。
それでもあのパンは美味かった。…と、思う。
「ありがとうございましたっ」
朝と同じ廊下での別れ際、女の子がまた丁重なおじぎをした。
その姿勢のまま、なかなか頭を上げようとしない。
「礼はいらない。俺も助かったしな。
…ほら、早く教室戻らないと、授業はじまるぞ」
「はいっ」
元気よく上体を起こして、くるっと身をひるがえす。
勢いに任せて、ぱたぱたと駆けてゆく。
「…あれ?」
…俺の見間違いだろうか?
彼女が、泣いているように見えたのは。
「見〜た〜ぜ〜」
教室に戻ると、陽平が悪人笑顔で待っていた。
…そういえば、中庭は教室の窓から丸見えなんだよな。
…陽平の誤解をとくのが、さらに困難になってしまった。
0041名無しさんだよもん
01/11/22 19:06ID:OnGy58J/俺は腕を上げ、大きく伸びをする。
身体をほぐすためではなく、意識を目覚めさせるために。
…そう、俺はとうとう全ての授業を睡眠時間にあてたのだった。
「…ある意味すごいな、お前」
隣の席の陽平が呆れた顔をしていた。
授業が終わった以上、すぐに鞄をひっつかんで帰りたいところだが、
最上級生はそうもいかないらしい。
担任の教師がホームルームを始める。
そして、お得意の長広舌を振るいはじめる。
「…皆さんは、受験戦争という厳しい局面にあたり…」
頬杖をついたまま、右から左へ聞き流す。
毎日毎日同じことを言って飽きないのだろうか。
横を見れば、窓の外をぼけっと眺めている陽平がいた。
受験戦争、か。
俺にはたぶん関係ない。
成績は底の底だし、遅刻の常習犯である俺には推薦もありえない。
別に、就職したいわけでもないんだけどな。
…そう、俺お得意のあれだ。
どうだっていい。なるように、なるさ。
0042名無しさんだよもん
01/11/22 19:24ID:OnGy58J/クラス委員の藤林が号令をかけ、冗長な儀式が終わる。
ルーティンワークにうんざりしているのは俺や陽平だけではないらしい。
担任の姿が見えなくなったとたん、あちこちからため息が聞こえた。
「朋也」
陽平が声をかけてくる。
「ああ、帰るか」
「おう」
いつものように、陽平と並んで教室を出る。
「今日もどっか寄るか?」
「あのゲーセンでいいんじゃないか」
「そうだな」
とても三年生の会話とは思えない。
俺と同じく、陽平も進学する気はないらしい。
陽平はもともとスポーツ推薦で入学してきたのだが、
喧嘩で停学処分を受け、そのままなしくずしに退部してしまったそうだ。
陽平があまり話したがらないので、詳しい事情は聞いていない。
とにかく、クラブに所属しなくなり、陽平の立場は宙ぶらりんになった。
そこからどこをどう間違ったのか、いつの間にか俺とつるむようになっていた。
スポーツ推薦の陽平は、有り体に言えば運動神経だけをかわれて合格したわけで、
勉強の方は、まあ…推して知るべしだった。
そんなわけで、俺たちは受験戦争から遠い場所にいる。
0043名無しさんだよもん
01/11/22 19:56ID:OnGy58J/朝は生徒の行く手をはばむ地獄坂だが、夕方はただの下り坂だった。
とは言え、けっこう急勾配なので、自然と足取りは慎重になる。
走って下校しようとするチャレンジャーも、たまにいないではないが…
知らず足を止めて、俺は坂の向こうを見る。
真西に向いた下り坂の先に、遮るもののない夕日がある。
一面の橙。
その中心に輝く、赤。
長い長いこの坂だからこそ、この夕映えを見ることができる。
――悪くない道だよな。
今だけは、そう思う。
「どうした?」
立ち止まったままの俺に、陽平が問う。
「…いや、なんでもない」
「ん?…ああ、なるほど」
陽平は坂の全体を見渡すと、ニヤリと笑った。
「…なんだよ」
「いやあ、岡崎クンもスミにおけないねえ」
完全にからかい口調になっている。
「…だから、何が」
陽平が顎で示す、その先に。
小さな背中が、揺れていた。
0044名無しさんだよもん
01/11/22 20:26ID:OnGy58J/…偶然にもほどがある。見間違いであって欲しかった。
だが、俺の視線の先、坂をゆっくりと下ってゆくのは、間違いなく…あの子だった。
(…今日はどうかしてる)
俺は思わず顔を覆いたくなった。
「ほれ、行かなくていいのか?」
人の気も知らず、陽平が肩を叩いてくる。
「行かない」
俺はきっぱりと否定した。
昼休みは一緒にいたが、あれは二人の利害が一致したからだ。
いわば、ビジネスだったのだ。
…そうに違いない。
だから今、何の用もないのに話しかける必要はない。
それに、あの子のところに行けば、陽平の誤解が決定的になる。
「…そうか」
「そうだ」
陽平は案外あっさり引き下がった。
…と、俺は思っていた。
0045名無しさんだよもん
01/11/22 20:46ID:OnGy58J/「今度はなんだ?」
数メートル進んだところで、背後から陽平の声がした。
「照れるな」
どんっ!!
「なっ!!?」
陽平がいきなり俺を突き飛ばしてきた。
元スポーツマンの腕力は、甘くない。
俺は大きくつんのめった。
倒れまいとして、足を前に出す。
それでも慣性は殺せない。
もう一度足を前に出す。…止まらない。さらに足を前に出す。…止まらない。
気が付くと、俺は走り出していた。
というか、下り坂で突き飛ばされたら誰だってこうなるだろう。
「だああああっ!!」
止まれない。走るのをやめたら、即座に転ぶ。
今の俺は、ちょうど一輪車に乗っているようなものだった。
それだけならまだいい。坂を過ぎれば止まれる。
だが、その前に。
だんだん迫るあの女の子を、どう回避すればいいのだろう?
このままだと、間違いなく衝突するぞ…
…陽平のバカヤロウ。
0046名無しさんだよもん
01/11/22 21:07ID:OnGy58J/…気付けよ!!
背後から不審人物が全力疾走で迫ってきてるんだぞ!!
どこまでカンが鈍いんだ?
俺に気付いて、ちょっと身をかわしてくれるだけでいいのに!!
…仕方ない。
この子に怪我をさせるわけにはいかない。
そう言えばこの後ろ姿を見るのは今日三回目なんだよな、とか思いながら。
俺は覚悟を決めた。
ぐらっ…
ずざざざーっ!!
わざとバランスを崩し、高校球児よろしくヘッドスライディング。
「ぐ…」
…ふっ、甲子園は目の前だぜ。
などとふざけたことを考えて自分をごまかそうとしたが、無駄だった。
舗装道路とコンタクトした衝撃で、全身が鈍く痛む。
はたから見たら、まるっきりの馬鹿だろうな。
「あ、あのっ…」
さすがに気付いたのだろう。
もう聞き慣れた声が、俺に降りてきた。
0047名無しさんだよもん
01/11/22 21:24ID:OnGy58J/うつぶせに転んだままで、ひらひらと手を振る。…かなり間抜けだ。
現状を打破すべく、瞬発力を生かして鮮やかに跳ね起き、ポーズの一つも決めてみるか?
…よけいに頭が悪く見えそうなので、とりあえず現状維持。
「…あ。今朝と、お昼休みの」
「ああ。今朝と昼休みの、だ」
修飾語が一つ増えていた。
本当に心配そうに、俺を見下ろしている女の子。
…そんなに不安な表情をされると、逆にこっちが申し訳ない気分になる。
俺はさりげなく視線を外す。
坂の上に目をやれば、さっきの位置から動いていない陽平の姿。
俺を突き飛ばしたくせに、少しも悪びれた風ではなく、むしろもの凄くいい笑顔。
真っ白な歯がキュピーンと輝いている気さえする。
ぐっ、と親指を立て、「礼にはおよばないぜ、しっかりやれよ!」と無言の激励。
…どうやら、俺とこの子のために、恋の橋渡しをした『つもり』らしい。
…覚えてやがれ。
0048名無しさんだよもん
01/11/22 21:52ID:OnGy58J/「え?」
接触する前に自爆したのだから、この子が被害を受けているわけはないのだが、
いちおう確認のために訊いておく。
「あっ…。ケガ、してます」
「なにっ!?」
予想外の返事にあせる俺。
俺の貴い犠牲は無駄だったのか!?
しかし、女の子の次の行動は、さらに俺を戸惑わせるものだった。
すっ。
…え?
女の子が、俺の手を持ち上げたのだ。
「血…いっぱい出てます」
「…え?え?」
だが見たところ、俺の手を包むきゃしゃな手には傷一つない。
俺は顔に疑問符を貼り付けたまま、馬鹿みたいに女の子を見ているしかなく。
「あの…痛い、ですよね?」
その言葉でやっと、自分の勘違いに気付いた。
0049名無しさんだよもん
01/11/22 22:15ID:OnGy58J/あんたはケガしてないか、って訊いたんだ」
自分が負傷してることぐらい解ってる。
今でも身体のあちこちが熱を持って痛んでいるのだから。
「わたしがケガ?…どうして、ですか?」
「……」
もしや。
この子は、俺の行動をさっぱり理解していないのだろうか?
俺が後ろから急速接近していたのはもちろん、
この子に怪我をさせまいとして、捨て身の行動に出たということさえも。
…と言うことは、俺のことを、素でコケた大馬鹿野郎だと認識しているのか?
…無性にムカついた。
くいくい、と指で促すと、女の子は素直に顔を近付けてくる。
…正直者は、損するぜ。
そう心中でひとりごちて、俺はその無防備な顔に――
ぺしっ!
「きゃっ!?」
デコピンを炸裂させた。
0050名無しさんだよもん
01/11/22 22:42ID:OnGy58J/「…うるさい」
不機嫌になった俺は聞く耳持たない。
別に見返りを期待していたわけじゃないし、もとはと言えば陽平が悪いのだが。
やはり、面白くはない。
「…うー」
大きな瞳に涙をためて、無言の抗議をする女の子。
昼も涙目になっていたし、涙腺がゆるいのかもしれない。
「…はぁ」
なんだか急にアホらしくなり、俺はさっさと立ち上がる。
大雑把に土を払い、再び坂を下り始める。
…つもりだったのだが。
ぐいっ。
「…どこ行くんですか」
女の子が、俺の制服の袖をつかんで足止めしてきた。
0051名無しさんだよもん
01/11/22 23:34ID:OnGy58J/…だから、放してくれ」
「駄目です」
ぐいぐいっ。
「よせ、服が延びる」
「延びる生地じゃないから大丈夫です」
「じゃあ、裂ける。肩のとことか」
「縫製がしっかりしてるから大丈夫です」
「だったら…」
「とにかく、帰っちゃ駄目です」
…なんなんだよ。
さっきのデコピンをまだ根に持ってるのか?
「ちゃんと、手当てしないと…駄目です」
小さく、だけど確かに、女の子が呟いた。
「…手当て?」
言われてみれば、右手から血が流れている。
すりむいただけにしては傷が深いらしく、まだゆるやかに出血している。
だが、動脈まで達しているわけでもないだろう。
唾でも付けておけば、そのうち治る。
「…別に、要らない」
そっけなく、それだけを告げた。
いつものように、投げ遣りに。
0052名無しさんだよもん
01/11/23 00:04ID:e19AsQYy意固地になった女の子が、大声を張り上げる。
日の落ちかけた穏やかな行路には、あまりにも不似合いなその音量。
さっきまでの一連のやりとりも手伝って、俺たちに他の生徒の注目が集まる。
「あっ…」
一声上げて冷静になったのか、注がれる視線に恥じ入る女の子。
会ったときから思っていたが、基本的には人見知りする性格なのだろう。
こういう状況はいかにも苦手そうだった。
思えば、この子が怯んでいるうちに、とっとと帰ってしまえば良かったのかも知れない。
…しかし、同じくこういう状況が苦手な俺は(顔にこそ出さなかったが)だいぶ舞い上がっていた。
そのせいか、逃げるという方向に頭を回すことはできなかった。
「…わかったよ」
「えっ?」
気がそれていたためか、理解できない様子の女の子。
恥ずかしさで固まっている間も、俺の袖を放さないのには閉口したが…
このときの俺は、とにかくこの場を去りたい一心だった。
「…手当て、頼む」
それはギブアップ宣言にも似て。
女の子のぽかんとした瞳に、しだいに光が宿る。
「…はいっ!!」
満面の笑顔。
こうして俺と彼女は、また長い坂を上り始めた。
0053名無しさんだよもん
01/11/23 19:07ID:e19AsQYy女の子はきょろきょろ辺りを見回す。
学校に戻ってきたまでは良かったが、そこから事態が進展していなかった。
「…保健室に行くんだろ?」
俺は念のため目的地を訊いてみる。
…まあ、この場合、まず保健室で間違いないだろうが。
職員室にケガ人を連れて行ってもしょうがないしな。
予想通り、女の子はこくんと頷いた。
「だったら、早く行こうぜ」
「は、はい」
と返事はしたものの、一向に歩き出そうとしない女の子。
なぜか困っているように見える。
「…もしかして、保健室がどこにあるか忘れたとか?」
「…っ」
女の子が顔色を失う。
どうやら図星らしかった。
…なんだかなあ。
確かに、この学校の保健室はかなり覚えにくい場所にある。
でも、だからって…忘れるか?普通。
結局、俺の先導で保健室にたどりついた。
0054名無しさんだよもん
01/11/23 19:42ID:e19AsQYy養護教諭は留守にしているらしい。
俺にとってはその方がありがたかった。
「あ…どうしよう」
女の子が戸惑った声で言う。
だが、俺はかまわずドアを開ける。
いつものように鍵はかかっていなかった。
「え、あの…」
「ほら、入れよ」
「は、はい」
この部屋のどこに何があるか、だいたいは把握している。
戸棚や机の引き出しから、処置に必要なものを取り出す。
俺の傍若無人な行動に、女の子は目を丸くするばかりだった。
「…あ、あの、いいんですか?」
「何が?」
「いえ、あの…そういうの、勝手に出してきたりして…」
「いいだろ。保健室でケガの治療をするんだ、何も間違ってないぞ」
「…そ、そうなんでしょうか?」
「そうなんだ」
…とは言ったものの、本当にいいのかどうかは俺も知らなかった。
しかし、女の子は俺の強引な説明に納得したようだった。
0055名無しさんだよもん
01/11/23 20:21ID:e19AsQYy「ああ」
俺は丸イスに座り、負傷した右手をずいっと差し出す。
女の子ももう一つの椅子に腰掛け、俺の手を取る。
そしてもの凄く真剣な顔で傷口を見つめる。
…出血はもう止まりかけているし、痛みもずいぶん治まったのだが、
女の子はとても不安そうにしていた。
…なんで俺の方が落ち着いてるんだろう。
「…い、いきます」
消毒液を染みこませた綿を、傷口にあてがおうとする。
だが、あと1センチというところで、女の子の手が止まった。
そこに触れていいのかどうか、本気で悩んでいるようだった。
その細い手は、小刻みに震えているようにさえ見える。
…だから、そんなに大層な傷じゃないんだけどな。
「…あ、あの…しみると思いますけど…痛いと思いますけど…」
いまだにためらっている様子の女の子。
このままだと、治療が終わるより先にかさぶたが形成されそうだった。
痛がりのこの子より、俺の血小板の方が仕事が早いだろう。
「…あっ」
俺は女の子から脱脂綿を奪い、自分で消毒を始めた。
…最初からこうすればよかった。左手は使えるんだし。
「…ごめんなさい。わたしが…ぐずだから」
肩を落として言った言葉は、俺には届かなかった。
0056名無しさんだよもん
01/11/23 20:55ID:e19AsQYy「ノート?」
保健室の利用者は、備え付けてあるノートに
氏名・クラス・保健室に来た理由などを書く決まりになっている。
いつもならいちいち書いたりしないのだが、
今回は備品を勝手に使ったということもあって、記帳せずに済ませるのは気が引けた。
「保健室のことに、詳しいんですね」
「…まあな」
使用記録を残すことくらいは常識だと思うが。
まあ多分、さっきの手際の良さを指して言ったのだろう。
「もしかして、保健委員なんですか?」
「違う。…不良だから、さ」
俺は、自分がそう呼ばれていることを、よく知っている。
…俺が保健室のことに詳しいのは、たまにここで授業をサボっていたから。
最近はもうやっていないが、一年くらい前はここに入り浸っていた。
養護教諭には顔を覚えられて、目をつけられていた。
だからこそ、その不在がありがたかったのだ。
「不良…?」
女の子の表情が強張った、ように見えた。
…あれ、知らなかったのか?
同級生なんだし、知ってるもんだと思ってたが。
…やっぱり、言わなきゃよかったか。
俺は静かに自嘲した。
0057名無しさんだよもん
01/11/23 21:44ID:e19AsQYy「ふ、不良さん?」
…なんか、その呼び方は違うと思うぞ。
「…じゃあ、河原で決闘とかして、引き分けて、
『いいパンチしてるぜ』『お前こそ』って言うんですか?」
「……」
いつの時代の話だよ、それは。
「で、お互いの健闘をたたえて、ユニフォームを交換するんですよねっ?」
「……」
女の子はあくまで真面目に言っているらしい。
…頭が痛くなってきた。
というか、もう不良の話ですらない。それはサッカー選手だ。
「…いや、今のは忘れてくれ」
「えっ?」
「やっぱり俺は不良じゃなかった」
「そうですか…」
…なんでちょっと残念そうなんだ?
「…はぁ」
なんだか、身構えてた俺の方が馬鹿みたいじゃないか。
ため息をついて、俺は丸イスを回転させ、女の子に背を向けた。
0058名無しさんだよもん
01/11/23 22:12ID:e19AsQYy「何だ?」
背中を見せたとたんに声をかけられ、俺は首だけで振り返った。
「名前、教えてください」
「名前?…言ってなかったっけ?」
「教えてもらってないし、わたしも教えてません」
そういや、俺もこの子の名前知らないんだよな。
こんなによく会うと解ってたら、初めに会ったとき自己紹介でもしてたのに。
…いや、俺のことだから、解ってても自分からは名乗らなかっただろうな。
面倒だから。
「利用記録に、氏名とクラスも書かないといけないんです」
「あんたの名前でも書いといてくれ」
「そ、そんなの駄目ですよっ」
融通の利かない奴。
「だから、名前、教えてください」
「む。人に名前を訊くときは、まず自分から名乗るのが礼儀だぞ」
「あっ…そうですね」
…半分冗談のつもりで言ったのだが、女の子は真面目に受け取ったらしい。
俺にまっすぐ向き直り、姿勢を正す。
「わたしは、古河渚っていいます」
「じゃ、そう書いといてくれ」
「だ、だから駄目ですよっ」
目の前の女の子、古河渚はそう言って口をとがらせた。
0059名無しさんだよもん
01/11/23 23:13ID:e19AsQYy「岡崎さんですね?」
古河が、ボールペンを走らせようとする。…が、その手が途中で止まる。
「えっと…漢字は?」
「岡崎は普通、下の名前は…月が二つに、カタカナのヤに似てる字だ」
「あっ、『岡崎朋也』さんですね、わかりました」
その後、俺のクラスも伝えた。
古河がさらさらと必要事項を書き込んでいく。
「…できました」
ぱたん、とノートを閉じながら俺に言う。
いちいち報告してくれなくてもいいんだが…
「手当てのほうは、終わりましたか?」
「…ああ、もう少しだ」
が、俺はそのもう少しに苦戦していた。
最後に包帯を巻くのだが、右手に巻くわけだから、片手、それも利き腕でない左手での作業になる。
四苦八苦している俺に気付き、包帯を渡すように促す古河。
いいかげん根気が尽きそうになっていた俺は、素直にそれに従う。
ちょうど、さっきとは逆の立場になった。
器用に包帯を巻いていく、細い手を眺める。
俺は初めて、古河の女の子らしいところを見た気がした。
「…?」
視線に気付き、俺を見返す古河。
俺は反射的に目をそらす。
…なんで、こんなときだけカンがいいんだよ。
0060名無しさんだよもん
01/11/24 00:05ID:90C3FOpZ――俺も古河も、つくづく要領が悪いな。
そう思って、少し笑った。
校舎を後にする。
赤い陽はもう完全に沈みかけ、空の上からは薄闇のカーテンが降りている。
それでも消えない春の匂いの中を、古河と歩く。
考えてみれば、今日の朝にも二人して校門を抜けたんだよな。
まさか、またこんな風に肩を並べて歩くことになるなんてな。
「送っていく」
保健室から出て、廊下をしばらく進んだとき。
自然に、そんな言葉が出た。
「えっ…?」
「もうすぐ日も暮れるし、女の子の一人歩きは物騒だろ?
俺のせいで遅くなっちまったんだし、な」
厳密に言うと、陽平のせいなんだが。
「……」
古河の返事は、ない。
無理強いする気はなかった。
今日会ったばっかりだし、断られても仕方な…
「…じゃあ、途中までお願いできますか?」
「…え?」
…そうして、俺と彼女は今に至る。
何を話すわけでもなく、黙ったままの二人。
でも、不思議と、朝のような気まずさはなかった。
0061名無しさんだよもん
01/11/24 19:04ID:90C3FOpZ大通りに出たとき、古河が足を止め、俺に告げた。
「ここからは、一本道ですから」
…この辺に住宅地なんてあったか?
疑問に思う俺をよそに、古河はこちらに向き直る。
「今日は、送ってくれて…」
その先に続くであろう言葉を、手の平を見せて遮る。
不自然に台詞を切られ、古河が首を傾げる。
「…前にも言ったけど、礼はいらない」
視線を落としたまま、古河の顔を見ずに、続ける。
「俺はあんたに手当てをしてもらった。その見返りとして、あんたをここまで送った。
これで、貸し借りはなしだ。…それでいいだろ?お互い様なんだ。
いちいち礼なんか言わなくたって…」
俺はなぜ、こんなにムキになっているのだろう?
礼を言わせたい奴には言わせてやればいいじゃないか。
そう思うのだが、昼間のようなまっすぐな感謝の言葉はもう、聞きたくなかった。
「…だから、黙ってサヨナラしよう」
俺は、ひどいことを言っているのかもしれない。
でも…眩しいんだ、古河の言葉は。
ひねくれて、ねじまがった俺には、古河の愚直さが…どうしようもなく眩しいんだ。
…どうして、そんなに素直に、自分の気持ちをさらけ出せるんだ?
古河のふとした一言に、何気ない仕草に、俺は苛立ち、自己嫌悪を抱いてしまう。
だから。
聞きたくないんだ。お前の、その言葉を。
0062名無しさんだよもん
01/11/24 19:42ID:90C3FOpZ「え?」
予想外の反応に俺は顔を上げる。
古河の寂しそうな表情がそこにあった。
「…貸しとか借りとか、理屈だけで考えるんだったら、それでいいのかもしれません」
俺を射るように見つめながら、言葉をつなぐ。
季節のあたたかな風が、古河の髪を乱す。
「…でもわたしは、親切にしてもらったら、ありがとうって言いたいです。
親切にした人からは、ありがとうって言ってほしいです」
その声には今までの控え目な印象は感じられない。
かわりに、強い意志がこもっていた。
「…もちろん、わたしの勝手な気持ちですけど」
そう言って、口元だけで笑う。
しかしそれは、決して自嘲ではなく。
「…でもわたしは、ありがとうって言いたいです」
迷いのない口調で、もう一度繰り返す。
俺は…何も言えない。
「…だから」
そして古河は姿勢を正し、
「ありがとうございましたっ」
きっぱりと、おじぎをした。
0063名無しさんだよもん
01/11/24 20:18ID:90C3FOpZ立ち尽くす俺のことを、まっすぐ見つめる古河。
そのまま俺が何も言わないでいると、やがて寂しそうに微笑んだ。
「…それじゃ、さようなら」
言って俺に背を向ける。
広い道を、歩き出していく。
古河の小さな背中を見ながら、ふと思った。
…そういえば。
俺はあいつに、一度も「ありがとう」と言っていない。
…貸し借りは、なくさなくちゃ、な。
…そして。
…少しだけ、素直になれたら。
「…古河っ」
初めて、その名を呼ぶ。
首を巡らせて、古河がこちらを向いた。
「その…昼休みのパンと、あと、包帯巻いてくれて――」
ありがとう。
そう続けるつもりだったのに、どうしようもなく照れくさくて。
「…サンキュ、な」
そんな言葉で濁してしまう。
それでも古河は、とても嬉しそうに笑って、
「…どういたしましてっ」
と、言った。
0064名無しさんだよもん
01/11/24 20:39ID:IrIHicuz0065名無しさんだよもん
01/11/24 20:48ID:90C3FOpZ一人で歩く道は、広い。
…寂しい?
もう、慣れてるはずだ。
陽平とつるんでいても、俺が最後に帰る場所は、あの家しかないのだから。
今日は初めて会ったばかりの奴と一緒にいたから。
だから、薄暗い世界が、こんなに空虚に思えるんだ。
何も変わっちゃいない。
鍵を差し込み、シリンダー錠を開ける。
いつものように、明かりはついていない。
誰もいないと知っていても、律儀に「ただいま」を言っていた時期もあったのだが。
それもいつの間にか止めてしまった。
生活感のない、キッチン。
ろくに料理をしていないのだから、当然と言えば当然だ。
今日もまた、棚からインスタント食品を取り出す。
母親が生きていた頃には、この家にもあたたかな食卓があった。確かな団欒があった。
だが今となっては、仕事に忙殺されてろくに帰ってこない父と、ろくでなしの息子がいるだけだ。
俺はやかんの蓋を取り、蛇口をひねる。
ずきん、と右手が痛んだ。
…ああ、そういや、ケガしてたんだよな。
俺はしばらく、包帯の巻かれた右手を見ていた。
「…ありがと、な」
…遅ぇよ。俺。
0066名無しさんだよもん
01/11/24 22:01ID:90C3FOpZ壁の時計を見る。6時を少しまわった頃だった。
…ずいぶん早く起きちまったな。
俺は、目覚まし時計を使わない。
だから遅刻するんだ、と人は言う。
だが目覚ましをかけて寝ても、起きる前に止めてしまうから意味がないのだ。
どうせ遅刻するなら、さわやかに朝を迎えたい。
…というわけで、俺は目覚まし時計を使わなくなった。
…我ながら、ダメ人間だと思う。
しかし今日は、なぜか余裕を持って起床できた。
そういえば昨日もこうだったな。
もしかしたら、体質が改善されつつあるのかもしれない。
これからは遅刻せずに登校できる!
…と、いいな。
…もし昨日、遅刻していたら。
古河と知り合うこともなかったのだろうか。
「…早起きは、三文の得…か」
意味もなく呟いて、俺は支度を始める。
春の温暖な気候で、ベッドから出るのも辛くない。
近年まれに見る爽快な朝だった。
0067名無しさんだよもん
01/11/24 22:35ID:90C3FOpZ俺は立ち止まり、思案する。
目を閉じて、開いて、を繰り返してみる。
が、眼前の景色はいっこうに変わる気配がなかった。
「…はぁ」
俺は今日も、この坂の前で嘆息するのだった。
目覚めたときのさわやかな気分はどこへやら、思いっきりブルーになってしまう。
だが、ここで立ち往生していてもしょうがない。
今、千里の道の一歩を…
「岡崎さん」
背後から唐突に名前を呼ばれる。
俺はさっさと登頂を中断する。
この声は…
「古河か?」
「そうみたいです」
自信を持て。
振り返り、古河と向き合う。
走ってきたのだろうか、少し呼吸が乱れていた。
「おはようございます」
「ああ、おはようさん」
自然に挨拶が出る。
「…じゃ、行くか」
「はいっ」
俺たちは昨日の再生のように、並んで歩き始めた。
0068名無しさんだよもん
01/11/24 22:54ID:90C3FOpZ俺は小さく苦笑しながら言う。
そうですね、と古河も微笑む。
まあ、そのうちの半分は人為的なものなんだが。
「なんで、今まで会わなかったんだろうな」
朝に関して言えば、俺の遅刻癖が原因なのだろうけど。
…そんな風に冗談を続けるつもりだった。
でも。
俺の言葉を聞いた古河は、びくりと身をすくませた。
そして、さっきまでの笑顔を失ってしまう。
まるで古傷に触れられたように、つらそうな顔になる。
「…古河?」
俺は、この表情を見たことがある。
これは確か、昨日、保健室の場所がわからないと言ったときの――
「どうした?」
俺の問いかけに笑顔で、なんでもありません、と返す。
でもそれは、どう見ても無理をしている…作り笑いだった。
「…ごめんなさい。わたし、やっぱり先に行きます」
古河はそう言うと、止める間もなく駆け出した。
俺はその背中を追うこともできず、中途半端に手を伸ばしたまま固まっていた。
0069名無しさんだよもん
01/11/24 23:13ID:90C3FOpZ例のごとく一段階静かになるクラスメイトたち。
だがそんなことよりも、古河の態度が気がかりだった。
席に着き、あれこれと思い悩む。
…俺は、何かまずいことを言ってしまったんだろうか?
「…ぐはっ」
横から聞こえる奇声で我に返る。
怪音の発生源は、陽平だった。
わざとらしく頭を抱えている。
「しまった。傘を持ってくるべきだったか…」
「は?…なんでだ?」
窓の外の空は、気持ちいいほど晴れ渡っている。雲一つない、とまではいかないが…
天気予報では雨だったのだろうか?
「まさか、朋也が二日連続で遅刻しないとは…」
「……」
「はたして誰が予想しえたであろうか!?」
「…おい」
「くそっ、猫が顔を洗うよりも確実に雨だ!」
…しまいに、殴るぞ。
0070名無しさんだよもん
01/11/24 23:34ID:90C3FOpZ芝居がかった態度をあっさり止め、陽平が訊いてくる。
「昨日、あれから進展したか?」
「……」
陽平が言っているのは、古河とのことだろう。
…そうだった。こいつに突き飛ばされたせいで、俺はいらないケガをしたんだ。
「もったいぶらずに言えよ。手厚く看護してもらったんだろ?」
本格的に冷やかしモードに入ったらしく、半笑いの陽平。
…人の気も知らないで、よく言うぜ。
俺は黙って右手をかざす。
もちろん、そこには包帯が巻かれたままだ。
「な…」
予想していたよりもはるかに痛々しい有様だったらしく、陽平が口ごもる。
せいぜい絆創膏の二つ三つだと思っていたのだろう。
…俺自身、包帯まで巻いたのはオーバーだったと思うが、今はこれが役に立つ。
「…痛かったぞ」
「…す、すまん」
素直に謝る陽平。根は悪い奴ではないから、これは予測できた反応だった。
相手が弱気になった、この時がチャンスだ。
「…カツサンド、二つな」
「…解った」
こうして俺は、慰謝料の確保に成功したのだった。
0071名無しさんだよもん
01/11/25 00:00ID:Rrj7LPza不良と呼ばれる俺でも、教師の良し悪しはわかる。
いい教師とは、耳障りでない、優しい声の持ち主のことだ。
国語系の担当であれば、なおいい。
母国語を読み上げるやわらかな声は、心地よい子守歌となるからだ。
そういう意味で、いま教壇の上に立っている人物は、教師の鑑と言えた。
チャイムが鳴り、短い眠りが断たれる。
昨日は気にせず爆睡していたのだが、今日はそれほど眠りが深くならず、断続的な睡眠が続いていた。
…あと一つ授業を終えれば、昼休みだな。
陽平から支払われる、因縁のカツサンド。
それに…
もしかしたらまた中庭にいる、古河。
…俺は、何を考えてるんだ?
他人の領域に不用意に踏み込むもんじゃない。
あんなにつらそうな表情を誘う、彼女の中の『何か』。
それに対して、俺が何をしてやれる?
…知るか。
ただ、このままにはしておきたくない。
それだけで十分だろ?
あと一時間。
寝て、待とう。
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