「でもっ!」

「おねぇ…ちゃん?」

 少年の細い呼びかけが、二人のやりとりに割り込む。
 一弥は、自分に背を向けたままの姉に、そっと呼びかける。
「僕だよ。一弥だよ。ねぇ、お願いだから、こっちを向いて。おねえちゃん」
 佐祐理の背のふるえが止まった。ゆっくり、ゆっくりと振り向く。
「…かず…や?」
「おねえちゃん…ずっと会いたかったよ」
 涙でぐちゃぐちゃになった顔。おねえちゃん、の声のたび、口を覆う佐祐理。
 でも目はまばたき一つしない。逝ってしまった弟の姿を余さず写し取ろうとするかのように、まっすぐ見つめ続ける。こぼれる、真珠の涙。
 二人の間を隔てていた堰が破れた。
「一弥…一弥、一弥ぁぁ!」
「おねえちゃああん!」
 二人は駆け寄り、抱きしめ合う。
「一弥、ごめんね、ごめんね、おねえちゃん、何も出来なかった、あなたを死なせてしまって、本当にごめんなさい」
「おねえちゃん、ぼく恨んでないよ。おねえちゃんが苦しんでるの、見ててつらかった。そんなに苦しまなくていいよ、楽にしていいよって言いたかった。だから、今日は、どうしても、来たかった。だって、このトーナメント世界でしか、お姉ちゃんに会えないと思ったから」
 佐祐理の声も、一也の声も乱れていた。
「一弥…!」
「おねえちゃん!」


「さ、二人きりにさせてやろう」
「うん…わかった」
 祐一に背を押され、頷く舞。
 名残惜しげに部屋の方を見つめていたが、ふぅとため息をつき、首を振った。
「佐祐理、これで良かったのかな」
「わからない…。でも、ありがとうは言いたい気分だな」