幼い時から何千回も同じ夢を見てきた。
 時には青い月光の中である男性と見つめ合っている夢。
 時には炎の中で瀕死の男性を見下ろしている夢。
 山小屋でその男性を見守る夢。
 蘇生したその男性に犯されている夢。
 愛されている夢。
 二人の姉に致命傷を負わされる夢。
 そして・・・私の愛した男性の腕の中に抱えられ、永い眠りにつく夢。
 幼い頃は、恋愛という概念自体解らなかったので、その夢を単なるイメージの連続もしくは
総体としてしか捉える事が出来なかった。
 だが、何度も何度も夢を見つづけるうちに、そして歳を重ねるうちに、お互いに恋に落ちた
二人の悲劇なんだろうと理解できるようにはなった。
 物心つくまではあたかも自分が映画の観客になったような感じで、客観的にその夢を
見ていられたのだが、まさか私自身が夢の主人公であるとは思いもよらなかった。
 そう。あの時までは。
 例の夢を見て胸が締め付けられるような耐え難き切なさを感じ始めるようになったのは、
10年以上も前にお義父さんの実の息子・・・耕一さん・・・が柏木家に遊びに来た日の夜から。

 だが、その夜を迎えた日に『もう一つの出来事』が起こった。
 毎夜見る夢の意味を私に知らしめた出来事。
 その日の昼、耕一さんと私、梓姉さんと初音とで近くの川の水門まで魚釣りに出かけた。
 そして、水に落ちた梓姉さんのスニーカーを取る為、水門の下にある滝壷の深みに入った
耕一さんが『鬼』として覚醒したのだ。
 耕一さんはまだ幼少だったからか、その時外見上の変化は見受けられなかった。
 だが、口から覗く犬歯、不自然に伸びた爪、肥大化した四肢は、子供心にも『恐怖』を
感じた。
 だが、その一方では心の奥底である懐かしさをも感じていたのも事実だった。
『また・・・会えたのですね。次郎衛門』
 私たち3人の前で仁王立ちになった『鬼』
 私は、腰が抜けて立つことが出来ず、ぶるぶる震える梓姉さんと初音の前に立った。