個人の力量を試す目的で、各地に造られた”試練の塔”。
その塔を制覇したとき出逢った者たちは、近しい実力を保有していることを互いに確信できる
ために、良き道連れになるという。その一方で実際に塔を登りきる人間はほとんどなく、また
頂上で出合う確立はさらに低いことから、それは迷信でしかないとも言われている。

しかし、今まさに塔を支配するために扉を開けようとしている彼女は、そうした噂を気にして
などいない。ただ単に、都会の雑踏を逃れることができる、あの高い塔の屋上から独り遠くを
見たならば、どんなに気分が良いだろうかと-----それだけを目的に、数々の苦行を突破して
いたのだ。

階段を登りつめ、足を止める。
両開きの巨大な扉を前に一息ついて、肩からさげた丸盾を改めて握りなおす。
(ここまで来て、コケとぉないしなぁ……)
智子は温存していた魔法の物品、”透思の眼鏡”を発動させる。
微妙に色付いている気もするが、濃い色は-----少なくとも赤は-----存在しない。
(敵対意思なし。……これでアガリやな)
一通り調べたあと、扉に手をかけ、両手で一気に押し開ける。
左右に割れた扉と入れ替わりに、左から右に向けて流れる、朱墨に染まったような鱗雲が視界
いっぱいに飛び込んできた。

智子は矢狭間まで駆け寄ると、微風におさげを揺らしつつ、目を細めて遠くを眺める。
「うん…ばり気分ええわ……」
そのとき孤独に浸る彼女の背後から、気配のないまま声だけが聞こえてきた。
「-----夕焼け、きれい?」
「保科ちゃんだね。……知ってるよ」
驚きを隠さず、智子は振り返る。女が、ふたり居た。
二本の曲刀を背負った黒い長髪の剣士と、夕陽に染まりきった短髪の魔法使い。
「あんたら……なにもんや?」
そう尋ねた智子の姿は、ふたりの目に映っていないように思えた。