その日俺は、いつものように渚を迎えに来ていた。
「おはようっす」
 ぞんざいな挨拶をしながら店内に入った。香ばしい焼きたてのパンの匂いに、つい鼻がヒクヒクと蠢く。
「あら、おはよう、朋也くん。…今日はどうしたの?」
 レジの中から、いつも通りのほんわかとした笑顔で答えてくれたのは早苗さん。
 渚の母親…のはずだが、どう見ても20代にしか見えない。いや、下手すると10代かも…。
「…ねえねえ、朋也くん?」
 まさか血が繋がってない母娘とか…いや、そんなことはない。顔立ちといい性格といいそっくりだし…。
「…もしもーし、聞いてるのかなーっ?」
 いや、実は二人は姉妹だとか…ううっ、これはありうるかも…。
「えいっ!!」
 物思いに耽っていた俺の身体に、不意に暖かい感触が密着した。
 この柔らかい感触は、もしや…。
「もーっ、朋也くんってば。返事くらいしなきゃダメでしょ」
「…って早苗さん、いつの間に…」
 いつの間にかレジから出てきた早苗さんが、背伸びをするようにして俺の耳元を覗き込んでいた。
 俺の身体にしがみつくような体勢のため、俺の肩から二の腕にかけてが、そのふくよかな胸に密着するような格好だ。
 しかし、渚は見事なまでにぺったんこなのに、これは意外と豊かな…って、何を考えてるんだっ、俺。
「…とりあえず離れてくれませんか、早苗さん」
 イーストのものと早苗さん本来のものが混じり合ったような甘い香りにクラクラしつつ、何とか平静な声を作って言う。
「うーん、ちょっと冷えちゃってたところなの。朋也くんの身体って暖かいから、もすこしこうしてちゃダメ?」
 体重を預けかけながら、邪気のない表情で問い掛けてくる早苗さん。
「もちろんですとも、早苗さんっ。それに、もっと暖かい場所もありますよ…」
 と言いつつ俺は、ズボンを下ろし…などといったことができるわけもなく、心残りに思いつつも冷たく告げる俺。
「ダメです。ほら、さっさと離れて離れて」
「もうっ、朋也くんのけちんぼ」
 ぷうと膨れた表情を作りながらも、俺の身体を離れる早苗さん。ううっ、勿体無い事をしたかな…。